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星空の下で。

アーレイの決断

 <<トロピカルアイランド・個室>>


 「素敵な部屋で、素敵な夜を過ごせそうですねアーレイ様♡」


 こちらにどうぞと支配人に案内され、南国を模したカラフルなラウンジに入るものの、照明がやたらと低く抑えられている。夜会を開くというより美麗なお姉様が持て成す甘美な空間といったところだろうか、もうこの時点で嫌な予感全開だ。


「何でわざわざ隣に来て密着するのかな〜」

「だって暫定恋人ですから〜」


 お互いの距離は触れるか触れないかの、友人以上恋人以下といった感じだ。既成事実を積み上げ、やっとここまで親密に慣れたのだから無粋な事は言わないでよと、可愛く口を尖らせてみせる。


「可愛らしくしてもダメ。ポコが見たら発狂するぞ」

「場所を教えていないし、モジュールを無効化したので、ここには来ませんよ(笑」


 中々の用意周到ぶりで、チャチャ入れフェアリーが現れ、両腕でばってんマークをすると画面の隅で大人しくなる。要するに王族権限で機能を一部無効化されたらしい。アーレイは無用になったモジュールを外しテーブルに置いた。


「さては姫様、協力を申し込んだな」


 ダイニングを離れる間際、ジャクリーヌとヒソヒソ話をしていたことを思いだし、となれば夜会は仕組まれたと考えるのが普通だ。ジッと見つめ答えを得ようとするが、琥珀色の液体を遠い目をして眺めるだけで、何も語ろうとはしない。


 今晩あたり決断して下さいね、もう私には残り時間がないのです。


 公の場に姿を見せない事で、一部の貴族が不満の声を上げ始め、帰国すればブラック企業顔負けの過酷な公務の日々が待ち受けている。それは多忙を極めるアーレイとて同じで、この先、のんびりと夜会を開く時間は当分ない。ラストチャンスと理解しているフローレンスは、少し寂しげな瞳を向けながらも、淡い期待を寄せていた。


「お楽しみ中すみません。オーナーからメッセージをお預かりしています」


 他愛のない話をしているとノック音が響き、支配人が申し訳なさそうな顔をして入ってくる。一枚の紙を差し出されたその瞬間、断りの文言が並んでいるだろうと考え、これもまた用意周到だなと思いつつメッセージを開く。


 <今宵はお二人だけで過ごして頂き、翌日には《《両》》《《国》》にとって最良(婚約)の答えを、お伺い出来ると信じております>


 一瞥した後、アーレイは短くため息をつくと、クシャクシャと丸めてゴミ箱に放り投げる。叱咤される事を覚悟の上で、何かしらのお願いをして来るとは思ってはいたが、政治的な意味を込めて来るとは想像すらしていなかった。


 確かに星団統一を目指すなら、これは避けられない問題なんだよな。


 星団統一を果たすなら強力な関係性構築の必要があり、フローレンスを娶ればジェフは忖度なしに全力でバックアップするし、星団連邦はそのまま付き従うことになる。あと敵国時代の要人が仲を取り持ったと、後々知ることになれば、カルネ国の立ち位置が飛躍的に良くなるのは間違いない。薄々感じていたことなのだが、姫様の時間切れがきっかけで一気に表面化してしまい、今宵決断しなくてはならないと嫌でも理解してしまう。


「出たよ、中々の策士ですねー」

「いえいえ、いつかは選ばなければならない道ですし」


 その言葉から細心の注意を払いながら、ジャクリーヌにお願いしたのが丸わかりだ。心から慕う気持ちが溢れ出ている表情を見ると、切なく感じてしまう。


「こらこら、密着しすぎてますよ姫様」

「いいの、これが一番落ち着くの、だからこのままで居させて」


 聞かずして内容を察したフローレンスはグラスをテーブルに置くと、二の腕あたりに双丘の柔らかい感触が、ハッキリとわかるほど密着してくる。アーレイの肩に頭を乗せ、見上げる目線はウルウルとした子犬のように可愛らしい。責められている今の心境は、中途半端に容認した事で彼女を苦しめているのではと考え、守りたい気持ちが湧き始め、姫様は揺れ動くその心境の変化を敏感に感じ取り、あと少しで最良の答えを出してくれると確信していた。


 うわヤバい、危うく引き込まれそうになったよ。


 決断する理由を思い悩みつつ、恋する乙女の澱みのない瞳を見つめていると、だんだんと吸い込まれそうになる。気がつけばピントが合わない程の近さまで、知らぬ間に詰まっていた。


 そのままキスしてくれたら良かったのに。


 一瞬、アーレイが目線を外したことで、チャンスタイムは終わりを迎え、フローレンスはゆっくりと距離を置く。目を瞑るタイミングをギリギリに逸らされたものの、腹を立てる事なく「一旦は引きますけど、次はありませんよ」と心の中で誓っていた。


「こうやって密着していると心が満たされますねぇ、我慢せずここで押し倒しても良いのですわよ」

「ちょっとちょっと、今日は一段と攻めていませんか?」

「そうですか、通常運転ですよ。ねぇ酔い覚ましに外に行きませんか」


 もう一度チャレンジしてもこの場では、先程の盛り上がりには至らないと判断したのだろう。酔いが回ったアーレイも気分を変えたくなり立ち上がる。だが姫様はその動きに合わせようとはしない。


「若輩者ですがエスコートさせて頂きます」


 王宮内で会う時すらエスコートをお願いされた事は一度もない。だが今宵はアーレイに向けて何かしらのメッセージを送りたいのか、ピンと背筋を伸ばし、凛とした表情に変化したフローレンスはゆっくりと右手を差しだした。


「ありがとう存じます」


 今宵は王族の女として扱って欲しいと感じたアーレイは困惑気味だ。逆にフローレンスはどんな結果になろうとも、受け留める覚悟を決め、心の内は落ち着き払っていた。


 ーー


 <<深夜のトロピカルビーチ>>


 夜空に大きく壮大な天の川が横断している周囲を、数え切れない星達が取り囲み、赤、白、青の星色を楽しみながら真夜中のビーチを歩く。もちろん何処かの島みたいに、怪物甲殻類が出没することは無いので安心だ。


「これは凄い、綺麗な星空と、幻想的な砂浜の組み合わせは神秘的」

「確かに昼間とは全然違うな」


 夜になると吸血系の虫達の活動が活発になり、対策で殺虫レーザーが活躍する。不定期に青い閃光が走り、無数の虫たちを焼き尽くしているものの、それは砂浜を神秘的に表現していた。


「絶景の中をふたりで歩くのは凄く久しぶりですね」

「悪いね、俺が頑なにデートに誘わないから」

「じゃあ今晩はデートですね。手を繋いでくれたら嬉しいな」


 甘えるような言動や仕草を見ても、決して彼女の気持ちに応えようとしなかったアーレイは「私を断ったとしても次が控えている」の言葉を思い出し、黙って手を重ねた。


 やん、アーレイさま嬉しい過ぎます。


 自分から取りに行かないと握って貰えないと思っていたが、間髪入れずにアーレイは優しく手を重ねてくる。まさかの展開にピクリと手が震えたフローレンスは、直ぐにギュッと握り返した。


「また一歩前進ですね!」


 応えてくれたことがよほど嬉しいのか、手を握ったまま前に回り込み、物凄くいい笑顔を振りまいている。そして寡黙を貫くアーレイの心中を察したのか、ピッタリと寄り添い腕を絡め、静かに、ゆっくりと、先に見える岬へと向かい歩き始めた。


 「俺は星団統一後の世界を、思い描けていなかった」


 砂浜を抜け、岬の先端までもう間も無くの距離に来ると、徐に立ち止まったアーレイは、ポツリと静かに思いを吐露した。フローレンスはその言葉の意味があまりにも重く、すぐに返答できずに、真剣な、それでいて嬉しそうな顔をしてジッと見つめ返してくる。


 「やっぱり私たちのことを、真剣に考えていてくれたのですね」

 「ああ、獣人の支配者が皆を見捨てるわけにはいかない」


 見捨てるわけにはいかないという言葉の裏には「統一後も残ってくれる」と「帰りたくても帰れない」の両方の側面がある。瞬時に理解したフローレンスは歓喜に沸くけど、直ぐさま暗い気持ちに覆い尽くされる。


 帰りたくても帰れない、それはとても寂しく、辛いこと。


 帰らなければ一緒に過ごせるけど、本来帰るべき場所には戻れない。そう思うと心の中に嬉しいと、寂しさが同居して、今までとは違う異質の苦しさが込み上げ、自然と表情が苦しくなり始めた。

 

 <ポツポツ>


 心地よい暖かさを切り裂くように、スッと冷たい風が通り抜け、先ほどまで光り輝いていた星々の数が減り始める。程なくするとポツリポツリと大粒の雨が降り始め、高台から海を望めば、真っ黒なカーテンが周囲を埋め尽くそうとしていた。


「これは一雨きますね。あそこの展望台で雨宿りをしましょう」

「ああ、そうしよう」


 降り出した雨が、先程までの重苦しい雰囲気を洗い流してくれる。手を引かれるフローレンスは何はともあれ、残る判断をしてれた事に対し、心の底から嬉しいが湧き上がり始めた。


「ひゃー、ギリギリ間に合いませんでしたね」


 途中雨が強くなり、展望台の手前にある東屋に一旦避難する事になってしまう。雨粒が滴る光る髪の毛を、耳に掛ける仕草がとても可愛いく見え、アーレイは吸い込まれるように手を伸ばす。


 <パッパパ>


「ひゃ!」


 どんよりとした雲が不気味な閃光を放ち、互いの顔が青白く写る。驚いたフローレンスは懐に飛び込んできた。その際、髪に触れたアーレイの指がパチンと弾かれ、それは大気中に大量のプラス電荷が溜まりスパークしたのだろう。


「行くぞ、ここは危険すぎる」

「は、はい」


 東屋には屋根はあるものの吹き込む雨であまり用を足していないし、開けた場所にあるので落雷を喰らう恐れがある。既に頭上でゴロゴロと重低音が響き始め、間も無く落ちてくるだろう。もし屋根に直撃したら濡れたままの服では危険だ。まだ少し怯えているフローレンスの手を握り、雨が降る中、展望台へと駆けていく。


「やっぱ施錠してるよな」


 展望台には避雷針が設置してあり東屋よりはマシだと思うが、安全を期するには室内に入らなければならない。雨が激しさを増し稲光りの回数も多くなり、刻一刻と状況が悪くなり始める。覚悟を決めたアーレイは姫様の手を握ったまま、木製の扉に向かって蹴りを決め、雪崩れ込むように展望台の中に入った。


 <ピカッ、シュルシュル、ドーン>


 中に入った途端、パッと稲妻が走り、先程までいた東屋の屋根がバラバラに吹き飛び、間髪入れずに轟音が部屋全体に轟く。あのまま止まっていたら感電死は免れなかっただろう。


「キャー、怖いよ怖いよ」


 タッチダウンした地点が近距離だったため、窓はビリビリと振動するし、これからが本番だと言わんばかりにピカピカと閃光が走る。少し間を置きドーンと盛大に落雷すると、怯えたフローレンスは私を守ってくださいと言わんばかりに抱きついて来た。


「レン、もうここは安全だから落ち着いて」

「うん、アーレイと一緒なら大丈夫」


 アクシデントの末ではあるけど、今は互いの腕が腰に周り、ごく自然な恋人同士に見える。それはアーレイが容認しつつあることの表れだ。とはいえ、今の状況は告白する雰囲気とは言い難いものの、チャンスであることには違いない。


「今晩の俺は君を守るナイトですね姫様」

「そうですよか弱い女の子なのですから、ナイト様はもっとギュッとしてくれるのが理想です(笑」


 心の距離が近くなった自覚があるフローレンスは、多分我儘を聞いて来れると思い、笑いながらリクエストを出す。アーレイは真剣な眼差しを向け、ゆっくりと力を込めて抱きしめた。


「レン、済まない待たせたね」

「えっ?うん?」


 抱きしめてくれたと喜んでいても、いつものように「今だけだ」「今日は特別だよ」とかの、残念な言葉を予想していた。しかし斜め上ゆく短くて破壊力抜群な一言に、意味を理解するよりも早く、フローレンスの鼓動がドクンと高鳴る。


 ごめん、やっぱり見捨てられない。


 自分の心に従い、娶らず統一を進める事は可能かもしれないが、獣人の支配者であるアーレイは早々に日本には帰れない。自ずとフローレンスの幸せを考えたら決断せずにはいられなかった。


 その言葉の意味は受け入れてくれると理解していいのよね、嗚呼嬉しいよ。


 落雷音が轟いても、怖がることなく意味を理解することに懸命なフローレンスは、稲光りで青白く光るアーレイを見つめ、次のリアクションを心待ちにしている。どれほどの時間が過ぎただろうか、互いに見つめ合い、互いの腰に周る腕は、答えを求め合うように背中へと場所を変え、陳腐な言葉より行動を欲していた。


「ッン、ンン」


 ごく自然に引き合うように距離がつまり、受け入れて貰えると思ったフローレンスは静かに目を瞑る。覚悟を決めたアーレイはゆっくりと優しく唇を重ねた。


「やっと、キスしてくれました」

「君のナイトになりたい。君と一緒なら明るい未来が描ける」

「ありがとう。ナイトではなくて私の王子様でいて」


 態々結婚して下さいの言葉を贈らなくてもフローレンスは満足して、今にも嬉泣きそうなほどに破顔している。求婚したアーレイは反対に、珍しく自信の無い表情を浮かべていた。


「この先、君に凄く負担を掛けるかも知れない」

「貴方は成すべき事をすればいいだけ。どのような結果になろうとも受け入れる覚悟は出来ております」


 覚悟を決めたフローレンスの目は真剣で、流石王族と言ったところだろう。その瞳は「確証が無いのなら、明るい未来を勝ち取りなさい」と語っているように見え、珍しく背中を押されていた。


「ありがとう、精一杯頑張るから期待しててよ」

「もちろんよ、だからもう一回キスして、大好きよアーレイ」


 先ほどより熱いキスを交わし終え、余韻に浸りながら窓の外を見れば、雨は止み、晴々とした満天の星空が広がり、それはふたりを祝福しているかのように輝いていた。


 ーー


 <<アイランドホテル・アーレイの部屋>>


「もう少し一緒にいたいなアーレイさま♡」

「いや流石に寝る時間でしょ、自分の部屋に戻ろうね」

「今からお父様に直電しますよ〜」

「もう恐妻権発動ですか、仕方ないなぁ。とりあえず服を乾かしてね」


 婚約成立(仮)に至り、超ご機嫌な状態のお姫様は、他人が見ても恥ずかしくなるぐらい、ベタベタと纏わりつきながらホテルへと戻り、興奮冷めやらぬが故に、まだ一緒に居たいと言い出し、アーレイの部屋に押しかけ今に至る。


「高速ランドリーとシャワー《《も》》借りますね〜(笑」

「こらこら」


 身を清めてくると言い出したフローレンスはアーレイの制止を振り切り、恥ずかしそうな表情をしてシャワールームへと消えてしまう。この流れなら致すのが前提だし、彼女もそれを望んでいる。悶々としながら断る理由を考え、姿を現すのを待つ。


「お先に頂きました(恥」


 ナイトガウン姿で出てくると想像していたが、入った時と同じ服を着て出てくる。それにしても急にトーンダウンして、さっきのテンションはどこにやらという感じで、唇を噛みしめ悔しさ半分、恥ずかしさ半分の微妙な面持ちをしていた。


「このまま、添い寝してくれますか」

「ま、まぁ、添い寝だけだったら考えなくもない」


 モジモジしながらベッドに潜り込んだと思ったら、赤ら顔で恨めしそうな表情をし始める。邪推するには何かしら致せない理由があるみたいだ。アーレイは何も言わず脇に座り、乾いたばかりのまだ生暖かい髪の毛に触れ、そのまま頬を愛でる。


「あのねアーレイ、斬えんだけど・・」

「言わなくてもいいよ、先にお休みしていいからね」

「うん、優しいね」


 急にしおらしくなったのはどうやら月の物が来たらしく、物理的というか、流石に致せないので悔しい思いが炸裂したのだろう。おやすみのキスをすると途端に表情が柔らかくなり、シャワールームに向かうアーレイの背中を優しい眼差しで見送っていた。


 <<翌朝・裏手の格納庫>>


 朝目覚めるとフローレンスの姿は無く、朝飯を済ませ格納庫に向かうと、何故かポコと一緒になって機内清掃をやっていた。


「おはよう、2人とも朝からありがとう」

「おはようございますアーレイ様」

「おはようナノ」


 懐柔するためなのかは分からないが、確実に言えるのは結婚しても、ポコはアーレイに付き従うので、余計な敵を作りたく無いという思いで動いたのだろう。細部まで気を配るその姿勢はすごく好感を持てる。


「準備万端のようだね。ありがとうポコ」

「うにゃ、すぐに飛べるナノ」


 褒めて欲しいという顔をしているので頭を撫でると、途端に破顔して千切れんばかりに尻尾を振り始めた。シャワーを浴び服を洗ったので、姫様の残り香に気が付かなかったようだ。取り敢えずジェフが正式に婚約発表するまでは隠し通すしかないが、それよりジャクリーヌが来てなんて報告するか、今はそのことで頭がいっぱいだったりする。


「おはようございますアーレイ様、フローレンス様(笑」

「ご機嫌ようジャクリーヌ様」

「おはようジャクリーヌ」


 程なくすると、艶々肌のジャクリーヌが姿を現し、昨晩ブラッドと楽しんだのがよく見て取れる。大人の対応ということでその話題には触れないが、さてどうしたもんやらと様子を見ていると、徐にニンマリと口角を上げた。


 ああ、報告済みなんだな。


 ニンマリとした顔を見れば、間違いなく先に昨晩の結果報告したのだろう。ポコに見えないように、小さくガッツポーズを決める姫様を見れば、聞かずして正解が分かってしまう。


「おはようございますアーレイさん(笑」

「おはようございますルワンダさん(汗」


 続くルワンダにも結果報告をしたらしく、ジャクリーヌ同様生暖かい目でアーレイを見ていた。口角を上げる2人を見て、凄く恥ずかしくなったのはいうまでも無いだろ。

宜しければ、デルタリア編の、ブクマ、評価お願いします。

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