疑惑。
ルドルフは疑惑を持たれますが。。。
<<ディスティア帝国・官庁街>>
ディスティア首都の一番大きな公園の近くに、王宮の様な豪華な作りの総統府が聳え立ち、その周囲を官公庁が取り囲んでいる。中でも一際目立つ超高層ビルが国防総省だ。総統直轄である諜報本部はその中にあり、日付が変わるまであと僅かしかない時間帯にも関わらず、追跡を専門とする部署の窓には煌々と明かりが灯っていた。
<<ディスティア諜報本部38F・情報局追跡部>>
「あーあ、今日は徹夜確定ですね〜」
徹夜だとボヤく女性技官が勤める追跡部は、情報局の中でもなくてはならない重要な存在だ。宇宙監視センターと戦艦の艦橋のいいとこ取りをしたような、近未来的なこのフロアーでの業務は、顔認証を駆使した人物の特定や追跡、スパイ衛星、ドローンを使った特殊作戦のバックアップ等を行う。
「この人数で追跡なんて罰ゲーだよな」
キーボードを叩きつつモニターに向き合う男性技官もボヤき始める。よく見れば軽く50人は収容出来るであろうこのフロアーには数えるほどの人しかいない。残業だからだと言えばそれまでだが、実はアーヴィン空爆調査に人員を取られ、極端に少なくなっていた。
<<とある責任者のデスク>>
「ルドルフの家族はまだ見つからないのか、ああもう早くしろ時間が無い」
<そう申されても、姿を消した後は全く追えてません>
ショッピングモール屋上で忽然と姿を消して11時間が経とうとしていたが、捜査範囲を広げたにも関わらず全く足取りが掴めていない。セオドールに報告する最終時刻が迫る中、追跡部を取り仕切る男性責任者は苛立ちを隠せず、モニターに映る部下に発破をかけていた。
「長女の足取りはどうだ、追えたのか、どうなっているんだ!」
責任者はルワンダとは別のジェシカを追っている班に進捗状況を聞くと、モニターと向き合う女性技官の曇る表情からして良い返信は貰えそうに無い・・。
<学校の休憩時間に突然姿が消え、同じく足取りが追えていません>
「何故忽然と消えるのだ。意味が分からない」
神隠しにあったみたいに足取りが全く追えず、皆の表情は険しくなる一方だ。それもその筈、諜報部に命令が下って程なくすると、動きを察知したデルタ諜報部が先回りをし、強制転送で郊外に連れ出し一芝居打って戦艦にご招待していたので、見つかる訳がなかった。
<監視カメラが阻害された状況を鑑みると、強制転送を使ったと推測されます>
ジェシカちゃんが通う学校は歴史ある超名門校なので、転送阻害や防犯カメラが無数に設置されセキュリティーは万全だ。正面切って連れ出すことは不可能だし監視の目が厳しい。だが現実には渡り廊下を歩く映像が一瞬妨害された瞬間、跡形も無く消えたことから、女性技官はルワンダと同様、強制転送で連れ出す以外に方法がないと結論づけていた。
「あの学校は転送阻害が効いている筈だ。そう簡単には飛ばせないぞ」
<だとしたら、内部協力者がいたとしか考えられません>
以前身元の洗い出しをアーレイに指示された諜報部は、緊急事態を視野に入れ協力者の清掃員を使い、教室と校庭を結ぶ渡り廊下にセキュリティホールがある事を数日かけて突き止めていた。なので裏をかき易々と連れ出す事ができたのだ。
「それが事実なら放っては置けない」
<協力者の炙り出しを今からは流石に無理と思います。この人員で行いますか>
協力者は受信機を持ち歩きながら掃除をしただけなので、特定するのは極めて困難だろう。任務を全うしようと努力するも目新しい成果もなく、殺伐とした雰囲気を脱出できないし、部下に判断を迫られ何かしら決断しなければならず、苦み走った顔をする。
「こうなったらルワンダ親子は諦めて、接触した人物を重点的に洗い出すしかないな」
親子の捜索を優先しろとの命令を遵守して、首都に設置されている監視カメラの解析に注力していたが埒が開かなくなり、ルワンダに接触したフローレンスの捜索にようやく切り替えようとしていた。
<その方が宜しいと思います。接触していた女性は消えるまで同行してましたし>
責任者は部下の進言もあり、ここにきて捜索の舵を切り直す。遅すぎるだろうと突っ込みを入れたくなるが、総統の下した命令は絶対なので、変更するにもそれ相応の理由が必要なのだ。ぶっちゃげ人員不足で手が回らなかったのがそもそもの原因だ。
<息子に飴玉を渡しているこの女性の足取りを追うのですね>
「ああそうだ身元を洗い出せば何か分かるかもしれんからな。とりあえず頼むわ」
<承知しました。早速検索してみます>
男性技官はAi に白いワンピースの女性を抽出しろと命令すると、あれよあれよという間に、似た様な格好の女性が大量に映し出されてしまう。
<<検索中の技官>>
「駄目だこりゃ、金髪とベールを加えないと無理だわ(汗」
とんでもない数のワンピース姿を見た男性技官と、責任者は思わず苦笑いしてしまう。画像を使わず安直に白いワンピースとAiに指示したのが原因だ。今まで顔認証だけで事足りていたので指示が甘くなっていたのだろう。
<どうだ、次は上手く行ったのか>
「ベールを纏っているので、金髪の女性としか分かりませんね」
次にフローレンスの身姿を指定すると先ほどとは違い、数箇所に限定された画像が表示される。しかしあのベールが邪魔をしてハッキリとした素顔を確認はできない。同じく確認している男性責任者は映像を見るなり、訝しげな表情をしていた。
<もっと鮮明な映像を探し出すんだ。この女は何かが変だ>
背中に物差しが入っているかのようにピンと背筋を伸ばし、頭を揺らさず滑るような歩き方、一般人とは明らかに違う品のある立ち姿や、身のこなしに違和感を感じたのだろう。しかし認識阻害膜は素顔を簡単には晒さない。
「Aiが拾いきれてない映像を探してみます」
<ああ頼むよ、何者か判明したら教えくれ>
少ない人員で懸命に解析作業に従事している状況なのだが、責任者の男は23時前にはセオドールに報告をしなければならない。冷静さを取り繕っているものの内心では相当焦っていた。
こんな事は初めてだ。せめて身元を割らないとまずいぞ。
全国民の顔は勿論、有りとあらゆる個人由来の情報を登録してあり、いつもなら顔認証を使うだけで足取りは簡単に追えていた。しかし今回は思うようにことが進まず時計を一瞥すると、苦虫を噛み潰した顔をしながら重い足取りで部屋を出る。
<<約1時間後・追跡部>>
「ハァ〜最悪だ。閣下に嫌味しか言われなかったわ」
報告のために総統府に向かった男性責任者は、憮然とした表情をして戻って来るなり長く深いため息をつく。忽然と消えた事について大した情報をセオドールに与える事ができず、ひたすら嫌味を言われてきたらしい。苦み走った表情を見た技官達は八つ当たりされるのではと目線を合わせずに俯き、ビクビクしていたのは言うまでも無いだろう。
「うーん突然現れたとしか説明できないよ、マジもう追えな〜い」
幸い責任者の顔を見ていなかった女性技官は、ショッピングモールへの侵入経路が解明できず愚痴を溢していた。トイレで着替えたと考え検索してもヒットしないし、ステルス化を予想して各種センサーを調べてみても何ら反応がなく、八方塞がりだ。
<あの女の身元は判明したのか、なぜこんなに手こずっている>
「そう申されても侵入経路が不明なので、追いきれないのが現状です」
あらゆる手を尽くし、街中も調べ上げても片鱗すら見つけられず、結論を言うなら屋上に突然現れたとしか言いようがない。それに出現場所が監視カメラの死角だったこともあり女性技官は混迷の極み状態だ。長年他国からの無断侵入を許した事が無く、それが仇となり対応が後手に回っていた。
「せめてベールが無ければ少しは追えると思うのですが、よく見えませんよね」
<ベールではなくて、それはもしかしたら認識阻害膜じゃないのか>
「言われてみればそうかも、早速検証してみます」
認識阻害膜は星団内でも一般には流通しない代物で、ディスティアでも極一部の軍関係者しか使えない。女性技官は一般人が使用しているとは思いもよらなかったらしいが、そもそもAi に頼り過ぎて想像力が欠如したのも原因だったりする。
「スペクトラムアナライザ起動、トリガレベルは認識阻害膜」
気を取り直した女性技官はAiに解析命令を下す。認識阻害の原理は光の周波数を撹乱させて見えづらくする技術だ。捕虜解放作戦で使われたのはミラー効果を付与された特別製なので、完全に姿を消すことも出来るが、今回フローレンスが使用したのは、周囲に不自然に思われない輪郭が残る効果が弱いタイプなので、映像を解析すれば特定されてしまう可能性は大いにある。
Ai「効果が薄い認識阻害使用の可能性98%」
「あら、ベールじゃなくてやっぱり阻害膜だったのか〜」
<全員にこのことを伝えるのだ。この女は只者じゃない、要注意人物に指定する>
認識阻害膜とくれば政府か軍関係者と思うのが定石なのだが、あれほどの貴賓溢れる立ち振る舞いは、ディスティアではそうそうお目にかかれない。そのことを理解している男性責任者は合点はいかないものの、アーヴィン王族を連想しつつレッドアラートを発令した。
<<数時間後・とある技官>>
「この子は凄い美人かも知れないな、まてよ何処で見た事があるぞ」
Aiが拾いきれていない映像を探していた男性技官は、エレベーター内の防犯カメラに映るフローレンスを見つけ、画像の鮮明化を行う。混み合い近距離だったため画素専有率が多く、思った以上に解析が進み、朧げながらに美貌が映し出された。そしてどこかで見た記憶を頼りに深く思考を巡らせていると・・。
「この女性はデルタの王女様じゃないのかな、とりあえずAiだ」
デルタ王族の中でも群を抜く美人だと、前々からディスティアでも噂されていて、もちろん男性技官は知っていた。それについ最近、暗殺指示書を見た際に大騒ぎになった記憶が新しいことから、フローレンスと直感で思いついたらしい。
Ai 「フローレンス第二王女との一致率69%」
市井に出回る画像と防犯カメラのキャプチャー映像をAi が比較合成すると、朧げなフローレンスの美顔が浮き彫りになる。この一致率だと本人と思っても間違いない。
「マジかよ、何でディスティアにいるんだよ」
認識阻害膜を利用している女性は要注意人物だと告げられていた技官は、重要過ぎる人物を見つけたと理解するや否や、背中にゾクゾクとした感覚が襲ってきた。そしていても立ってもいられず思わず席を立つ。
「こ、こ、これを、これを見てください」
「そんなに慌ててどうしたんだ。まぁ落ち着け!」
平凡なショッピングモールに現れた要注意人物が、デルタの王女様となれば誰だって慌てるし、平常心ではいられないだろう。混迷極める表情を見て只事ではないと感じた男性責任者は諌めつつ、指差す映像をじっくり見ることにした。
「呆れるくらいに美人だな。ところでこの令嬢は誰だ」
「えっ知らないのですか、デルタ第二王女フローレンスですよ」
「まさかこんな所にいる訳ないだろうよ寝惚けているのか、入管を通れば引っかかるだろ」
王族と予想をしたにはしたがデルタの王女が入った情報など無く、責任者はアーヴィン王族の誰かと思い込んでいたのだろう。Aiの検証結果を見せると、顎が抜ける勢いであんぐりと口を開けた。
「デルタが噛んでいるとなれば、いくら探しても見つからない訳ですね」
「ああ、もう諦めてもいいと思うよ」
気が付けばとっくに日を跨ぎ夜明けまで残り数時間だ。これ以上の捜索は無意味だと感じた男性責任者は中止命令を下し、仮眠室に行き休息を取れと指示を出す。
デルタが噛んでいたとなれば、朝イチの報告は何とかなりそうだ。
報告内容の目星が付いた管理官はホッと小さなため息を漏らしつつ、誰もいなくなったフロアーを見渡すと静かに部屋を後にした。
ーー
<<08:00・総統府セオドールの執務室>>
「昨晩と何も変わらなければ、辞表を出せ」
低血圧かなにかは知らんけど、朝一のセオドールは不機嫌な事が多く、今回ルドルフの家族を取り逃がしたので超ご立腹だ。男性責任者は挨拶する前に攻撃的な言動を喰らってしまう。
「セオドール閣下、信じられないのですが、フローレンス王女がこの件に関与している事を突き止めました」
「なん・だと」
足取りを追えなくても、実行犯を割り出しさえすれば咎められることはないと考え、男性責任者は言い終えると安堵の表情を見せる。反対にセオドールはあり得ない人物の出現に声が上擦り、目が点になってしまう。
「それでは我々が突き止めた成果をご覧ください」
「もう良い、それで今回の誘拐をどう見ている見解を述べよ」
解析した映像を見せながら自分らの成果を披露しようとするが、一瞥しただけで遮り見解を尋ねてくる。暗殺命令を出した手前、見せられてもムカつくだけだし、危険を犯してまでディスティアに潜入し、嘲笑うかのようにルドルフの家族を手際よく誘拐すれば当然の反応だ。
「そう申されましても、王女が密入国してまで実行犯になる意味がわかりません(汗」
「お前は本当に役立たずだな。アーレイが絡んでいると分からんのか」
追跡専門が故に責任者はルドルフとアーレイの関係など全く知らない。必然的に的外れな返答をしてしまうとセオドールは途端に苦み走った表情へと変わり、今の発言が失敗だと気がつき狼狽えてしまう。
「お言葉ですが我々は探すのが専門なので、背景に関しては本部にお問い合わせください(大汗」
「もう良い下がれ、捜索は続行だ」
期待する言葉が出ないのが癪に障ったのか、労いの一言も言わず下がらせる。顰めっ面で塩対応されたものの、首にならずに済んだ責任者は気が変わらないうちに、そそくさと執務室を後にした。
「大至急ルドルフを呼べ、それと奴の足取りについて報告させろ」
「か、畏まりました(汗」
行動を監視しているルドルフに話を聞くのが手っ取り早く、訝しげな表情から想像するとアーレイと結託していれば粛清する構えだ。悪い流れだと理解している執事は慌てて諜報部に連絡を入れた。
<おはようございます閣下、ルドルフは一晩中家族を探している動きをしていました>
「なんだと、奴は絡んでいないのか」
追跡部より逐一報告を受けていた本部は、間違いなくルドルフの件に関して問い合わせがあると予想していたのか、呼び出して数秒も経たずして長官の姿がモニターに映し出され、淡々と結果を述べる。
「確かに一晩中探し回っているな」
<家族の行方がわからないと問い合わせが入り、こちらも足取りを追えていないと教えると、そのまま探し回ったようです>
次に行動記録、通信記録が提示されるものの、不自然な点が全く見当たらず謎が深まるばかりだ。因みにアーレイとの通話は、中継局を介していないので当然記録に残ることは無い。
「意味がわからない、アーレイの奴は何をしたいのだ」
家族を誘拐してもデルタには何の利点も無い。そもそも人質として交渉の材料に使えば星団法違反として追求できるし、強かなアーレイがそんな愚策を実行する訳も無く、当然のようにセオドールは悩み始めた。
誘拐して誰が一番得するのだ。ああもうマジで意味がわからん!
敵国の将校が自軍であるルドルフの命を、態々セオドール本人から守る為に起こした誘拐だとは、想像すらできないのは当然だろう。アーレイが予想した通り混迷を極めていた。
<<数十分後・執務室>>
「おはようございます閣下、要件は私の家族の事でしょうか」
「近い、近いぞルドルフ、慌てるな」
呼び出されたルドルフは入室すると挨拶もそこそこ、冷静な彼としては珍しく血相を変え、セオドールに詰め寄り本題に切り込んできた。アーレイから「君は強面だから血相を変えて詰め寄れば身の潔白に繋がるよ」と言われ、素直に実践していただけなのだが効果は抜群だ。
「私の家族の消息をご存知なのでしょうか」
「災難だったな、アーレイの奴が王女を使い誘拐したんだ」
憔悴しきったルドルフの顔を見て冷静になったセオドールは声を荒げず、逆に労う姿勢を見せる。一晩中探し回り疲れ切った表情を見れば結託したとは到底思えないのだろう。
「アーレイがですか、奴が誘拐など信じられませんし、意味がわかりません」
悟られないよう信じられないような顔をして白々しく驚くより、知り合ったからこそ自分にはアーレイの考えがわかるという体で冷静に話をする。そうすれば真実味が湧くし、セオドールも相手のことがわかるからこそ出た言葉だと信じてくれるだろう。
「そうなのだよ真意が見えないのだよ。いま全力で探している。君は少し休みなさい」
赤鬼のように真っ赤な顔で眉間に皺をメッチャ寄せ、鋭い眼光で睨むルドルフは中々演技上手だ。まあこれもアーレイが「見破られないように眉間の皺を寄せ、威圧をかけるのが吉だ」とアドバイスしたお陰なんだけど、超強面に迫られたセオドールは流石に疑う気持ちが霧散したらしく、鎮めるために軽く肩を叩いていた。
「お心遣いに感謝致します。これにて失礼致します」
「今はゆっくり休め」
当初は疑われていたが、圧を掛けた白身の演技でなんとか切り抜ける事ができた。これは肝が据わったルドルフだからできたことだ。難しい顔をしつつセオドールに頭を下げると踵を返し扉へと向かう。
疑惑が来てるぞ、焦るな俺。
最後の最後に安堵すればそれが態度に現れる。背中に違和感を感じたルドルフは、些細な動きの変化にセオドールは注力していると考え、少しふらつきながら力無く扉を開け、静かに部屋を後にするのだった。
宜しければブクマ評価お願いします。スピンオフはじめました!宜しければそちらもどうぞ。




