機関士ブルク
問題児登場しますが。。。本文には殆ど出てこないキャラです。
訓練と性能試験を行うため、アダマン級戦艦2隻は先行してディスティア湾を出航する。ポンコツの烙印を押された戦艦を早く引き取ってもらいたいらしく、検疫や積荷の検査は一切無く静止軌道上まで辿り着いた。
<<静止軌道上のアダマン級・艦橋>>
「アーレイ司令の活躍のおかげで、最近のディスティアは予算編成に苦しんでいますよ」
キャプテンシートに深く腰掛け、キリッとした表情で話しかける艦長の名はワディムといい、左目を跨ぐような大きな傷がある狼族の彼は凄く強そうだ。
「まぁ金食い虫の旗艦を建造すればそうなるし、身代金が高額なお陰でおかげで楽に出国できたな」
入国したカルネの士官らは司令部に出向いた際、お偉いさんから「出国しないと金が入らないので早めにお願いする」と珍しく頭を下げられ、艦長は「すぐに発ちますので出国審査は済ませますが、検査等はどうしますか」と切り返すと「君たちを信頼しているので不要ですよ」と言質を頂いていた。
奴らは獣人を嫌っているし、なる早で金を手に入れたいから来る訳ないよ。
捕虜解放の資金集めに苦労しているディスティアは、現生が早く欲しくて仕方ないし、獣人だらけの戦艦にわざわざ出向くことはないだろう。例え来たとしてもベクスターにルワンダ親子を乗せ、ステルスモードで逃がせばいいと考えていた。
「ワディム艦長、後は帰るだけだな」
「アーレイ司令ここまで来ればもう安心でしょう。それにしても手際が良く御見逸れしました」
初顔合わせの時からワディムは平身低頭でアーレイを司令官様と呼び、その時はフローレンスがいたので、笑って「様はよしてくれ」と言うだけで済ませたが、顔を見て再度疑問が湧く。
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「なんだアーレイ、あやつは俺の存在を恐れ、緊張しているのだよ」
「まぁ薄々気がついていたけどな」
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深く考えているとブラッドが話しかけてきた。想像するにアーレイの実力を計る前から従順なのは、ジャクリーヌが「黒の精霊の一件は彼です」と耳打ちした上で「死にたくなければ、司令官待遇でよろ」とか、なんとか言われたのだろう。よく見るとキリッとしているのでは無く、緊張して身体を強張らせ微妙に汗をかいていた。
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「お前は支配者なのだから、もっと大きな態度で構わないのだぞ」
「俺には似合わんし、外様なのは変わらないから適当にやり過ごすよ」
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支配者と言われても全然ピンとこないし、元傭兵の癖で一兵卒位にしか思って無いので、あからさまに平伏されるとやり辛いのだ。気を取り直しアーレイは今後の話しをすることにした。
「世話をかけたね。恒星圏外での合流は予定通りでいいのかな」
「既にランデブー地点で待っているとのことです。クーンの技官と会えるのを楽しみにしています」
恒星圏外を出た後、カルネ船籍の探査艦と合流する。その際に第9艦隊の機関士を乗船させ、ジャンプコアの解析とユニットの不具合を調べさせるつもりだ。
「奴らは優秀だから勉強になると思うよ、任せて悪いが俺達は一足先にカルネに向かう」
乗り込む機関士は実力者を揃えているので、ジャンプ問題の解析は到着まで何とかなるだろう。だが作業と訓練を兼ねているので足が遅く、付き合っていられない。アーレイは監視の目が緩くなる支配地域外近くでベクスターに乗り、先にカルネに向かうつもりだ。
「アーレイ様は司令官なので、ご自由に行動してただいて結構です」
「ワディム艦長、星団統一に協力してくれて感謝する」
「勿体ないお言葉です。我ら親衛隊は支配者である貴方様に、誠心誠意尽くす所存です」
親衛隊とは、ジャクリーヌに忠誠を誓った子飼いの連中の事で、そんじょそこらの乗組員とは訳が違い完全に信頼を置ける強者共だ。とりま鎌をかけてみるとアーレイの事を支配者と呼び、黒の精霊の件を知らされたと分かる。
「近い将来この戦艦は切り札になるかもしれんから、鍛錬を怠るなよ」
「御意」
つい最近まで敵国だったカルネ共和国は、アーレイという新たなる支配者を得て星団側に完全に寝返っている。とはいえ反旗を翻すには族長の説得を含め、まだまだ準備が必要だ。その事を承知しているワディムは、キラリと鋭い眼光を放ちつつ頭を垂れた。
<<数分後・・>>
「アーレイ様、奥様とお子様をお連れしました」
「わーい宇宙だ!宇宙だ!」
「ジョアン騒いじゃ駄目と言ったでしょ」
安全が確保されるとフローレンスに連れられ、艦橋に上がったジョアンは窓外の漆黒の宇宙に心躍るのか、飛び跳ねて大騒ぎだ。お姉ちゃんのジェシカはそれほど興味がないのか、ルワンダのそばを離れようとはしない。
「奥様、これよりディスティアを離れます」
「覚悟はできていますので大丈夫ですが、当分戻って来れないのですよね」
任務を終えたフローレンスは直ぐにルワンダの元に赴き、旦那の無事を伝える。その後はジョアンやジェシカの学校についての説明や、クーンの生活様式などの説明を行い、移住しても大丈夫だと確信したのか、アーレイをみるその目には全く迷いがなかった。
「心配なさらずとも大丈夫ですわよ、王国も支援いたしますし、何よりアーレイ様を信じましょう(笑」
「そうですね。アーレイさんこれからお世話に成りますので、名前で呼んで頂けますか」
「承知しました(汗」
申し合わせたような口ぶりの2人はアーレイを温かな目線でみるし、ルワンダは名前で呼べという。身の上話をして裏で結託したとしか思えない。
レンは腹の探り合いは慣れてるし、聞き上手だからな・・。
相性が良いのか、はたまた先輩ママのアドバイスと言う名の「男の落とし方」を伝授されたのか、二人は更に親密になっていた。ルワンダはアーレイの事を散々聞き、横槍を入れたいので名前で呼べと言ったのだろう。
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「応援団結成!」
「五月蝿いわ!」
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これといって用事がなく画面の隅で小さくなっていたフェアリーは、好機と判断したのか突っ込みを入れてくる。ムカつく奴と思いつつも、あながち間違いでは無いので、アーレイは文句は言ってみたものの意気消沈してしまった。
「総員に告ぐ、これよりスイングバイ軌道に入る」
「おお、スゲェ」
艦長の号令が飛び、燃料節約のためのスイングバイ軌道に向けて加速し始め、重力制御をしているにも関わらず足元に向けたGを感じてしまう。ジョアンは初めての感覚に驚きつつ、宇宙ステーションや大型戦艦などが目の前を通り過ぎると、興奮を隠せないでいた。
「ランデブーポイントに向けエンジン出力全開」
数十分後、充分にスピードが乗った2隻のアダマン級は、一路恒星圏外に向け加速してゆく。
ーー
<<数時間後、恒星圏外・後部格納庫>>
ランデブー地点でクーンの機関士が乗り込むと、出迎えの人で溢れ返った格納庫の中は熱気で溢れ返り、時折罵声と打撲音が響くのは獣人同士の挨拶だろう。人垣を割って中に入ると、肩で息をしつつ親指を天高く突き上げるニコラがそこにいた。
「次の挑戦者がいないのなら、俺がここのトップだ!」
まとめ役として第9艦隊のトップを抜擢したので、カルネの船員も反抗する事は無いだろう。荒い呼吸のニコラはすでに一発打ちかましたらしく、傍には図体のデカい熊族の男が大の字になって伸びていた。
「頼んだぞニコラ、この調子でビシビシやってくれ」
「アーレイ司令、後はお任せください」
「マジかよ・・」
到着早々、力比べで存在感をアピールするニコラは褒められると、まんざらでも無い顔をする。アーレイは労いと彼との関係をはっきり見せるため、肩を叩きつつ拳をつき合わせると、周りで見ていたカルネの船員達の表情が引き攣り、誰が一番なのか改めて知ることになった。
「うわぁ話に聞いてはいたけど、めっちゃ脳筋なのね(笑」
「単純かつ明快、力が全ての奴らだからな。さて出立の準備でもするか」
あと十数時間もすれば、電波を全て吸収するブラックホール群に最接近する。嫌でも監視の目が緩くなるので、それを機にこの船から離脱するつもりだ。
<<数時間後・支配地域内>>
<アーレイ司令、至急ブリッジにお願いします>
早めの食事を終えた子供達の瞼が重くなり始め、大人の時間が始まろうとする頃、少し慌てたワディムから緊急連絡が入る。
「なんだか思い切りトラブル匂がするな」
「もう駄目ですよ、ルワンダさんが聞いたら不安になるでしょ」
子供の寝かしつけで席を外しているので、アーレイはいたずらっ子のようにニヤリと笑い、姫様的にはやっと2人きりになり「お酒でも頂きますか」と、言うか言わまいかのタイミングを図っていたので、ちょい不満顔だ。
「さてと、行きますか」
「そうですね、早く片付けましょう」
士官ダイニングは艦長室の隣にあり、扉を開ければ艦橋は直ぐそこだ。急ぐ必要はないアーレイはのんびりと席を立つ。
<<艦橋内>>
「アーレイ司令、第1所属の駆逐艦が単独で接近しています」
武装解除してあるアダマン級の目の役割は同行する観測艦が頼りだ。長距離3Dレーダーの情報がもたらされ、モニターにはポツンと艦影が示されている。同時に到着までの残り時間を表すカウントダウンが始まっていた。
「第1艦隊って本星防衛隊だろ、それが単独行動するなんて変じゃないか」
第1艦隊は本星防衛隊と相場が決まっているし、最近では自国の星団を出ると縁起が悪いとまで言われている。まあそれはアーレイがフロストを沈めたのが一番の原因なのだが、とにかく余程のことが無い限り遠出はしないので、異常事態と言わざる得ない
「本星を離れること自体が変ですし、呼びかけには全く応じません」
駆逐艦は交信可能距離まで接近しているにも関わらず、コンタクトして来ない。しかし真っ直ぐに向かって来るので何かしら用事があるのだろう。
「うーん、ディスティアのやり方にしては雑だな。君はどう見る?」
ジャンプできないのろまな戦艦をわざわざ後追いする意味はない。そうせずに追跡となれば何かしらの理由がある筈だ。とりあえず危機的状況では無いので、アーレイは姫様に意見を聞いてみた。
「状況から判断すると、押し掛け女房的みたいな感じですかね(笑」
「推しの強さなら、アピール全開のフローレンスの勝ちだな(笑」
嫌がらせするにも時間が経ち過ぎているし、軍の常識に囚われない姫様の考えはあながち間違いではないだろう。しかし表現が面白すぎてアーレイは思わず笑ってしまった。
「もう!」
「いてて、連絡が無いのが気がかりだ。戦闘体制に移行した方がいいな」
「WWW、承知しました。こちらは丸腰なので観測艦の兵器を起動させます(汗」
ブッと頬を膨らませるフローレンスに脇腹をつねられ、反りつつ艦長指示を出すが、アーレイに躊躇なく手出しする姫様を見てワディムは冷や汗をいていたよ。きっと恐妻になると思ったに違いない。
ーー
<<追跡中の駆逐艦・艦橋内>>
同刻、駆逐艦の艦橋内には不穏な空気が流れ、艦長を含め全ての乗組員は、固唾を飲んでモニターを眺めていた。
「ブルク機関長、いい加減にしてくれませんか、このままじゃ死刑になりますよ」
<何度言わせんじゃラルク艦長、俺はあの戦艦に行くんじゃー!>
必死の形相の男の名はグントラム・ヴァルテンブルグと言い、ブルクは略称だ。無精髭を生やした40前のオッサンの顔は四角く、ボサボサの赤焦茶の髪色と座り気味の目を伺えば、頑固者だと見て取れる。その彼は船のコントロールを奪い、ここまで追いかけて来たらしい。
「このままじゃ追いついてしまう。どうにかならないのか」
「艦長、諦めてコンタクトを取り、交渉した方が良いかと考えます」
彼らとて手を拱いていたわけでは無い。緊急事態マニュアルに沿って対応したが、ブルクの方が何枚も上で、全てのコントロールを奪われていた。要はそれだけ機関士としての腕が良いのだろう。だが面子を潰された艦長は如何ともし難い顔をしている。
「獣の奴らには絶対に頭を下げたくはない」
「心情は理解できますが、軽食しか積んでないので数日で詰みます」
待機が任務の予備隊は、調理室を稼働させずに軽食を持ち込むスタイルなので、このままカルネに向かえば、幽霊船に早変わりするのは間違いない。現状を言われた艦長は苦虫を噛み潰したような表情へと変わるものの、早急に決断するしかなく、ギリギリと歯軋りをしていたよ。
「仕方ない、強行突破の結果を待って判断するとしよう」
追い込まれた艦長は説得を諦め、機関室に立て篭もるブルクを強制排除する強行策に出た。
<<十数分後・・>>
<艦長、強力な磁場の影響で手出しできません。既に3人がハッチに磔になっています>
機関室に通ずるハッチを破壊しようとしたが、ブルクは扉に強力な磁場を発生させ、近づく者を悉く吸い寄せ無力化していた。3名もの人柱が出来たおかけで、強力なビームも爆薬も使えなくなり手詰まりになってしまう。
「こりゃ終わったな、仕方ないブルクにコンタクトを取ると伝えよ」
打つ手がなくなり諦めた艦長はブルクの要求を飲み、とりあえず短距離無線を使えるように頼むことになる。しかしカルネ側がこんな変わり者を引き取るとは思えないので、思わず頭を抱えてしまう・・。
ーー
<<数分後アダマン級・艦橋>>
「ラルク艦長、犯罪行為を平気で行う変わり者のなど、ご遠慮申し上げます」
<ワディム艦長、そこを何とかお願いできないだろうか、このままでは我々は餓死してまうのです(焦>
最初こそ和やかに挨拶から始まるが直ぐに理由を聞かれ、バツが悪そうな表情へと変わったラルクは、一時的とはいえ部下を助ける為に差別心をかなぐり捨て、掻い摘んで経緯を話す。助ける義理のないワディムは当然のように断りをいれ今に至る。
<これは面白すぎる。もしかしなくても逸材かも知れないわ>
<えぇぇ、軍紀無視する変人ですよ〜>
因みにモニターに映らないところでアーレイは腹を抱えて笑い、フローレンスは受け入れるのでは無いかと、ヤキモキしながら通話していたのは内緒です。
「私の判断では如何ともし難いので、本部に問い合わせしてみます」
<部下の命が掛かっていますので、何卒宜しくお願いします>
交渉しつつ、司令本部に救援要請をお願いすればいいじゃないかと思われるが、ブルクに「余計な事を喋ると生命維持装置を止める」と言われているし、既に酸素濃度を下げられ息苦しく、一言も漏らせない状況だったりする。それにステルス試験を行うため定時連絡は24時間後と、偽り出航したので本部は気にもかけないだろう。
頼むぞワディム艦長、ブルクを引き取ってくれ!
解決策の選択肢が無いラルクはなんとか話が繋がり、少しだけ胸を撫で下ろすが、後はもう祈る事しか出来ない。悲壮感が漂う表情のまま画面から消えてゆく。
「アーレイ様どうします。まさか乗せませんよね」
「話しをしないと判断できないな、と言うか面白すぎるだろ」
「アーレイ司令、引き取るおつもりですか、絶対トラブルメーカーですよ」
皆が反対するなかアーレイは、腕がたつ奴なら少々性格に問題があっても雇い入れたいと考えている。実はこれには訳があって、カルネ軍の装備の大半は旧式が占め、技術者のレベルが低く、最新技術を知る機関士を喉から手が出るほど欲しいのだ。
「この男と切磋琢磨させればレベルアップに貢献できる筈だ。というか第9の技術者に頼りっぱなしではダメだろ」
「なるほど、そこまで考えていたのですね」
「艦長、とりあえず話を聞こうじゃないか、決めるのはそれからだ」
「アーレイ司令、承知致しました」
初めは疑心暗鬼だったが、アーレイの考えを聞くと納得してくれたので、後はワディムを代理人にしてことを進めるだけだ。ラルクに連絡を取り、話し合いを行いたいと告げると、少し疲れた顔をするブルクが映し出された。
<私はあの戦艦をこよなく愛しています。なのでカルネ軍に転籍させて下さい>
「獣人しかいないが、君はやっていけるのか」
<私は差別主義者ではありませんし、実力が全てだと考えていますので、問題ありません>
挨拶もそこそこに、ブルクはカルネ軍に転籍してまでアダマン級に携わりたいと申し出てきた。余りの斜め上の理由にワディムは呆れ返り、船員達は苦笑い、姫様に至ってはジト目だ。
「それだけじゃ判断できない。君の忌憚のない意見を述べてくれ」
<感謝致しますワディム艦長>
大概の機関士は拘りが強いし、人種差別をしない実力主義の技術者は多い。とりあえずアーレイは彼の考えを自由に述べさせようと、OKのハンドサインをワディムに送った。
<<十数分後・・>>
「君の要求は理解したのでこれから精査に入る。本部は前向きに検討するとのことだ」
<期待していいのですか、良い返事をお待ちしています>
詳しく話しを聞くと「欠陥品呼ばわりされるのが耐えられない」「手塩に掛けたこの船は、ライン製の部品に変えれば直る」と戦艦愛を熱く語る。ワディムはアーレイの指示に従い、最後に「面談を行うので乗船許可を出す」と伝えたら、小躍りして喜んでいた。
「艦長権限で転籍を認めるが、国籍放棄が条件だ」
何となく丸く収まりそうな雰囲気になり、ラルクはすかさずブルクの処遇について宣言する。まあ何と言うか早く追い出したい心情が丸見えだが、彼とて必死なのだろう。微妙な空気が残るなか一旦通信を切った。
「アーレイ様アーレイ様、彼ってやっぱ変人ですよ〜」
「変人だからこそ期待が持てる。それに凄腕なのは間違いない」
「まあそうですけど、飼い慣らすのは大変そう」
話を聞く限りアダマン級を与えさえすれば、問題を起こすことはないだろう。だがスキップジャンプを装備したいアーレイは何がなんでも星団側に引き込まなければならず、難しい顔をして思案を始める。
「現在のブルクは独身、犯罪歴なし、技術評価はSA、駆逐艦への移動に伴い人事評価がA +からB − 変更され、少佐に降格しています」
引き抜くヒントになればと考えたワディムは、データベースにアクセスして素性を調べてくれる。アダマン級を降りるまでは主任機関士として活躍する上級士官と判明。しかし売却が決まり移動の際、問題を起こしたらしく降格処分を受けていた。
「奴の戦艦愛は本物で、身寄りが無いから強気なんだな。こりゃどうにかなるかもしれないな」
戦艦愛もさることながら、両親は既に他界して独身とくれば無敵の人に近く、一連の行動は頷ける。不安材料が少なくなったアーレイは覚悟を決め、ワディムに目線を移す。
「アーレイ司令、転送の準備は既に終わっています」
「ありがとうワディム。さて仕上げに入ろう」
気がつけば駆逐艦は直ぐそばまで来ていたので、ブルクの認識マーカーを確認できれば、一瞬でこちら側に来ることになる。ワディムはラルクに連絡を入れ、アーレイと姫様は会議室で奴を待つことにした。
<<数分後・会議室>>
「司令、ブルク機関長をお連れしました」
転送されたブルクは拘束こそされなかったが、屈強な警備兵に取り囲まれた状態で会議室まで連れてこられる。
「ワディム艦長ではないな、アイツは誰なんだ」
「・・・」
会議室にはひとりの若い人間族の男が椅子に座り背中を向けている。獣人の国でヒューマンが活躍していると、聞いた事がないブルクは当然のように疑問が湧き、警備兵に扮したニコラに尋ねてみた。当然ながら口を一文字に結び目線すら合わせようとしない。
「ようこそブルク君、ディスティアには一生戻れなくても良いと聞いたのだが」
初めから顔バレすればカオスな状況になるのは目に見えているので、アーレイは戸惑うブルクを無視して背中で語り、出方を試す。因みにモジュールにデルタ語翻訳と表示されるのを避け、携帯型の翻訳機を使いカルネ語を話していたりする。
「何故ヒューマンがここにいる、ワディム艦長と話がしたい」
「まぁ落ち着けよ、君の受け答え一つでこの先の未来が変わる。先ずは質問に答えろ」
言動からして、この男は艦長より格が高いと聞かずして分かり、受け答えを間違えれば駆逐艦に追い返される。そう考えると不安が込み上げ、つい押し黙ってしまう。
獣の国でなぜ人間が権力を持てるんだ。何かが絶対変だぞ。
当然のように顔を拝みたくなったブルクは一歩前に出ると、即座に警備兵に止められ「その行為は不敬に成ります」と言われ、言葉から目の前に座る若い男は、只者では無いと再認識する事になる。
「質問に答えたら名前と顔を教えてくれますか」
強気で交渉しても相手にされないと悟ったブルクは、下手に出て様子を見始めた。そもそも主導権はアーレイが持っているのでそうせざる得ない。
「この俺に絶対的忠誠を誓えば、アダマン級の管理は全て任せるぞ」
「本当なのか、それが叶うなら何度でも誓ってやる」
こだわりの強さと執着心を逆手に取り、煽る言葉を並べると早速食い付いてくる。後一押しと感じたアーレイはニヤリと口角を上げ、不適な笑みを浮かべていた。
「その言葉に嘘はないな。誓いを破りディスティアに加担すれば、死が待っている」
「既に覚悟は決めているし、ディスティアには未練は無い」
潔いというか、技術屋の彼にとって国籍など取るに足らない小さな事らしく、既に覚悟を決め言葉に迷いがない。アーレイは喉から手が出るほど欲しがる情報を餌にすれば、星団側に必ず寝返ると確信を得た。
「アレをスキップジャンプ出来るように改装すると言ったら、君はどうする」
「嘘だろ、アーレイが開発したあの技術に触れられのか、本当なのか」
技術者たるもの未知の技術に挑むのは当然だし、血眼になって追っているアーレイが開発したスキップジャンプを餌にすると、即座に食いつき鼻息が荒くなる。しかし名前が出たとはいえまだ正体は明かせない。
「先にデルタ王国の慣例に従い、忠誠を誓って貰わんと話にならないな」
「えっデルタ王国だと、何かの間違いだろ」
「それではフローレンス出番が来たぞ」
ここから一気に正体を明かし、ブルクを星団側に引き込むつもりだ。驚いている間に、タイミングを図っていたフローレンスは、宝飾された護身用の短剣を携え隣の部屋から現れると、静かにアーレイの側に立つ
「フ、フローレンス王女にアーレイだと、何故ここに信じられん」
クルリと椅子を回転させ素顔を晒したアーレイは席を立つと、フローレンスと共に近づいてくる。初めて間近で2人を見たブルクは信じられない表情を浮かべ、驚きのあまり膝から崩れ去り、既に跪くような姿勢になっていた。
「デルタ王国、第二王女フローレンス・オブ・ロセッティの名において、忠誠を誓う儀式を始めます。デルタ宇宙軍アーレイ・ウェブスター少佐の、軍門に下るグントラム・ヴァルテンブルグは、私の前に跪きなさい」
貴賓溢れる優雅な口調でスラスラと忠誠の儀式に必要な口上を読み上げ、鞘から取り出した短剣を静かに構える。儀式自体に法的拘束力は無く、寝返ったところで裏切り者と罵られるが、生命までは取られない。だがここまで大袈裟に誓いを立てるとなれば、拘りの強いブルクには効果覿面だ。裏切られることはまずないだろう。
「正念場だぞブルク、男の意地を見せてみろ」
「ああわかった。俺は忠誠を誓い俺の信念を突き通す」
アーレイに煽られたブルクは、星団連邦がカルネに関与していると分かっても、既に腹を括っているのか狼狽えることなく、真剣な表情で2人を見つめていた。
「貴方はいついかなる時もデルタのために働き、生涯をかけてアーレイ・ウェブスターに忠誠を誓いますか」
「私グントラム・ヴァルテンブルグはデルタ王国とアーレイ・ウェブスターに忠誠を誓い、尽力することをここに約束いたします」
常人なら理解不能に陥り混乱してもおかしくない状況なのだが、ブルクは瞬時に理解して、慌てる事なくフローレンスに前に頭を垂れた。そして右肩に短剣が添えられ儀式は完了となる。
「さあブルク今から俺の、いや星団統一のために一緒に働いてくれないか」
「俺のことをもう信用してくれるのですか、それに星団統一を本気でお考えなのでしょうか(汗」
忠誠を誓ったとはいえ、星団統一に向かって一緒に頑張れといきなり言われたら疑うのは当然の反応だろう。しかし織り込み済みのアーレイは信用の言葉を聞いてニヤリと口角を上げる。
「忠誠を誓った君に今度は俺が応える番だ。仲間になったのだから信用しなければ信頼を得られないだろ(笑」
「あはは器が違いすぎる。失礼、思わず笑ってしまいました」
先ほどまで高圧的というか強気な口調だったが仲間になった途端、凄くフレンドリーに話しかけ、上から目線では無く対等に扱うと読み取れた。 一連のやり取りを通してブルクはアーレイの懐の深さを知り、同時に信用に値する武人だと理解する事になる。とりあえずは監視対象にはなるが裏切る事はないので、次期主力戦艦は彼に全て任せても大丈夫だろう。
「ニコラ奴らを呼んできてくれないか、早速で悪いがブルク、第9の機関士と共にカルネの連中を鍛えてくれ」
「なんだと、もう乗り込んでいるのか早く会わせてくれないか」
鉄は熱いうちに打てと言わんばかりに、ブルクと第9の機関士は面通しを行う事になり、待機していたエリート達がぞろぞろと部屋に入って来る。
「アーレイ司令に敬礼!」
見た目がムキムキの脳筋野郎のクマ族、はたまた眼鏡をかけたガリ勉タイプのリス族など、10名の精鋭が一糸乱れぬ整列をすると、ニコラの掛け声と共にビシッと敬礼をする。
「新しい仲間が増えたぞ名前はブルク、見ての通り人間族だ。お前らと切磋琢磨してくれたら助かる」
「イエッサー!」
硬い挨拶は抜きなので早速歓談になり、とある機関士が開口一番「ディスティアの生体エネルギーは不純物が多く、出力にムラがあります」と言い放ち、一瞬空気が固まってしまうが「やはり星団側のエネルギーは自然由来なので、クリーンなのだな。詳しく話を聞きたい」と、技術や魂に火が付き、詳細は機関室で現物を交えることになり、挨拶もそこそこに立ち去っていった。
「どうなるかと思いましたけど、本当に仲間に引き入れてしまうとは呆れてしまいました(笑」
変わり者のブルクを引き込む作戦を聞いた時、一時はどうなるかと不安だったフローレンスは実際会って言葉を交わすと、単に拘りの強い職人気質と分かり一安心。アーレイの人の見る目はさすがだと再認識しつつ、うまく誘導する手際の良さに呆れていた。
「使える奴が敵でも味方になってくれるなら、誰でも大歓迎さ」
「敵でも大歓迎ですか、まぁそうでしょうね。うふふ」
「何か言いたそうだね」
「さあさあ夜の時間を楽しみましょ(笑」
次に誰を狙っているのか想像がついたフローレンスはしたり顔をしつつ酒瓶を取り出すと、笑みを溢しながらグラスを渡し誤魔化していたよ。
宜しければブクマ、評価、感想お願いします。




