言伝を伝えに。
ルドルフを守るためにアーレイ達は敵国で動き回る。
<<後部格納庫・ベクスター>>
「アーレイ様、ベクちゃん展開完了ナノ」
積んできたベクスターの展開と整備をポコに一任していたので、その確認と姫様の次の準備ために、アーレイは格納庫に出向いていた。
「ありがとうポコ、これで出発準備は済んだな」
絶対服従を誓っているポコは、お礼を言われると褒めて貰いたいらしく、尻尾をフリフリと振りつつ近づいてくる。アーレイは頭をクシャクシャと撫でると「ウニャ」と歓喜の声を上げた。
やっぱりポコは見た目と同じで、まだまだ子供だよな・・。
獣人のポコは1人でも生きる強さは持っているものの、両親を幼い頃に亡くした影響で精神年齢が上がらず、実年齢と見合っていなかったりする。とは言えアーレイに付き従うようになり、多少色気が出始め双丘は膨らみ始めているものの、見た目は中学生なのでアーレイは女として見ることはない。なのでポコの願いが成就する可能性は無比だろう。
「褒めると伸びるタイプナノ、もっと愛でていいナノ」
「まあなんだ、飼い主の責務だから褒めはするが、それ以上は無い」
「ガルゥ」
死線を共に潜り抜けた仲なので信頼関係は強固だけども、男女関係には遠く及ばないと思うアーレイが即答すると、犬歯を見せ不機嫌を露わにする。なので先程と同じように頭をクシャクシャと撫でると、ちょろいポコはまた尻尾を振り始めた。
「輸送の件はポコに全てを任せるからな」
「ほとぼりが冷めたら部屋を運ぶナノ、任せてナノ」
「くれぐれもバレないように慎重に運んでくれよ」
部屋というのはルドルフ宅の事で、艦隊勤務以外の士官は引越しが多く、その手間を省くため、専用の作業船を使い丸ごと引き抜けるユニット構造になっている。後発のアダマン級で数日過ごした後、ピンキーと共に官舎街に出向きクーンまで運ぶ任務を与えられていた。
「はいナノ、慎重に運ぶナノ任せてナノ」
流石にアダマン級には積めないしバレたら大変な事になるので、カルネ船籍の恒星間連絡船を使うことになる。しかし足が遅く日数がかかってしまうものの、任務を任されたポコはヤル気に満ちた目をしていた。
「タリラリラ〜♪調達はピンキーにお任せー」
「こら、こんなところで踊るな!」
輸送モードを解除されてご機嫌なピンキーはヘンテコ踊りを披露している。奴に与えられた任務は高性能GPUを駆使して作業船にハッキングを行い、小一時間ほど拝借する予定だ。
ピンキーをアサシンに仕立てられれば楽勝なのにな。
高性能なステルスドロイドに命令を下せば、セオドールの首を間違いなく狩ってくるだろう。だが星団法違反になり逆にデルタが追い込まれ、下手すれば消滅の危険性があるので実行は出来ない。アーレイは面倒な決まり事だと思考を巡らせながら作業に入った。
「さてピトー管にカバーを付けよう」
「ナノ!」
「ピンキーもお手伝いするナノ」
専属パイロットになりつつあるポコは、始動前点検やトラブルシューティングを独学で学び、通常整備はお手のものだ。アーレイと共にセンサー保護のカバーを取り付けていると、コツコツとヒールの音が段々と近づいてくる。
「奥様は子供達の元に戻り、言われた通りブローチをお借りしてきました」
「ご苦労さん、ベクスターに着替えを出してあるよ」
「ありがとう存じます」
今後の予定をルワンダに伝え終えたフローレンスは、次のミッションに向けて色々と準備しなければならず、借りてきた銀色の花を模したブローチをアーレイに渡すと、そそくさとベクスターに乗り込んだ。
<<ベクスター内>>
「同じ格好だとバレたら面倒ですからね」
認識阻害膜を使い素顔を隠蔽しても、ルワンダと共に防犯カメラに写っている。既に諜報部は白い服を手掛かりに足取りを追っているはずなので、その不審者がルドルフと接触すれば見過ごすことはない。下手すればスパイ容疑をかけられてしまう恐れがあるので、違う服に着替えなければならないのだ。
「男装系女子に化けるのがいいかな(笑」
清楚系とは正反対のダークなイメージのスーツに着替え、最後に真っ黒な帽子とステッキを取り出し小脇に抱え、颯爽とタラップを降りた。
<<数時間後・シャトル内>>
諜報部員<監視対象者は自宅に向け移動中です>
諜報局を監視していた影から連絡が入る。ルドルフが向かった諜報部は中心部にある本部ではなく、留置施設を併用した取調べ専門の部署で旧市街にあり、家路につく際に必ず通る場所で待つつもりだ。
「承知した。今回も支援ありがとう」
<陸橋中央でしたら安全に接触可能でしょう>
陸橋を態々指定したのは、単純に膨らんだ欄干の柱が監視カメラの死角になるためだ。普段とは毛色の違うセンシティブな任務なので、キッチリ仕事をこなしてくれたのだろう。
「それは助かる情報だ。重ねて礼を言う」
<お暇になりましたら、是非ともお話聞きたいですわ>
「承知した。機会があれば詳しく話すよ」
声質と内容からして白銀の髪色の彼女だ。しかし妙に声が上擦りアーレイとお知り合いになりたいのが丸わかりで、思わず嫌な汗が出てしまう。
お姫様が聞いてなくて良かったわ。
通信共有を解除したためフローレンスに聞かれなかったのが救いだ。知ればプッと頬を膨らませるのは間違いない。
「連絡が入ったぞ、さあ出発だ(汗」
借りてきたブローチに、とある装置を仕込んでいたアーレイはフローレンスに渡すと、悟られないよう澄ました顔をしたままコックピットに滑り込む。
「起動シーケンス開始」
「ナノナノ」
各種電源を入れ発進シーケンスを開始すると、キーンと独特の音が響き渡りエンジンが目覚める。フローティングモードのスイッチを入れると、数秒遅れてフワッと宙を浮く感覚に見舞われた。
「最後のお仕事ですねアーレイ様」
「奴に伝えたら、さっさとここから旅立とう。ポコ発進してくれ」
「はいナノ、登録機体だから今度は楽勝ナノ」
機体登録を済ませ、遊覧との偽りの申請を出しているので、制限エリアに入らない限り航空管制は何も言わない。先ほどより余裕があるポコは楽しそうに操縦桿を握り、格納庫を飛び出したシャトルは一路官舎街へと急ぐ。
<<数分後・官舎街上空>>
「それではアーレイ様、行ってまいります」
ダークブラックのスーツに白いシャツ、黒い帽子とステッキの組み合わせはスレンダーボディとの相性は抜群だ。髪をアップで纏めれば何とか歌劇団の男役に見える。白のワンピースとは正反対のこの身姿なら、同一人物と判断は出来ないだろう。
「ビーコンがあるからすぐに分かると思うよ。ブローチをうまく落としてくれよ」
「わかりました。必ず成功させるのでご褒美お願いね!」
「何を言っているのか分からないな〜」
チュッと唇を尖らせ直ぐさま口角を上げて、笑を溢す姫様のご褒美は想像しなくても分かる。惚けるに限ると判断したアーレイはコンソールを開き、転送装置を起動した。
「それでは成功を祈って下さいね」
「上手くいくよ、精霊の加護があらんことを」
先程まで元気よくアーレイに詰め寄っていたフローレンスは、数秒後には地上に降ろされ、数分後には作戦を実行する事になる。流石にプレッシャーを感じたのか緊張した表情へと変わり、ピンキーと共に光の粒子に変化して消えていった。
ーー
<<ディスティア諜報部・取調室>>
「ルドルフ早く白状しろ、お前がアーレイと通じているのはわかっている」
「通じてない証拠が無ければさっさと終わらせろ」
総統府を後にして諜報部に出向き、もうすでに数時間、取り調べ室に缶詰状態だ。時折怒号が響き渡り、階級がすごく離れているにも関わらず、ルドルフに高圧的な言いようをする諜報部員は、記憶を読み取り、嘘発見器にかけても何も証拠がなく、その言動からは焦りを感じ取れる。
「チッ、大体お前が暗殺しないからこうなるのだ」
「やれるなら既にやってるわ、お前が代わりに行けよ」
売り言葉に買い言葉ではないが、少しでも弱気を見せればマウントを取りに来るのが分かっているので、冷静なルドルフとて強気に出ていた。
仕方ない、尻尾を掴むまで監視するしか無いな。
いくら調べ上げてもアーレイとの密接な繋がりは認められず、デルタホテルのバーでの記憶は、酔っていたおかげで曖昧なため幸いにも検索にヒットしなかった。長時間の記憶遡行は脳に障害が残り、諜報部としてはもう打つ手がないのが現状で既に諦めが入り始めている。
「けっ!仕方ないもう帰っていいぞ」
「ふん、お前ら諜報部はどうして疑うことしか知らんのか」
「ふん、疑われることをするお前が悪いんだよ」
「ほんとに最低な連中だな、じゃあな」
不機嫌を体現するように、真っ赤な顔のルドルフは喧嘩別れ状態で立ち上がると、乱暴に扉を開け大股で廊下を歩き諜報部を後にした。
<<帰宅中のルドルフ>>
Ai <奥様とはオフライン継続中、11:46時以降、位置情報はショッピングモールでロスト>>
「ヤバい繋がらないぞ、連れて行かれたかもしれんな」
諜報部を後にした直後、ルワンダに連絡を入れたが繋がらず、慌ててモジュールのAiに位置情報を確認させたが、数時間前にショッピングモール屋上付近で途切れていた。
何か妙だな不都合しか感じない。とりあえず家に戻るしかないな・・。
総統府か諜報部本部に連れ去られたと仮定すると、ルドルフには何らかの連絡が入るのが普通だが、全く音沙汰がない。子供に持たせている電源を切れない防犯装置の反応も無く不安は募るばかりだ。
なるはやで帰ろう。
少しでも早く帰りたいルドルフは普段使わないエアータクシーに乗り込むと、腕を組み思考を巡らせ表情が段々と険しくなる。まあアーレイが連れ去ったことなどまだ知らないので当然だろう。
<<官舎街にほど近い陸橋>>
官舎街は高い塀に囲まれセキュリティは厳重で、登録していないシャトルは中には入れないし、徒歩かライトモビリティーで陸橋を渡る以外に選択肢は無い。エアータクシーを降りたルドルフは早足で家路を急ぐ。
「珍しいなこんな所で女性がひとりとは、それにしてもやけにスタイルが良いな」
治安が良い官舎街に近いとはいえ、スタイル抜群なうら若い女性1人が、無防備に陸橋の上に佇むのは余りに危険すぎる。不審に思いつつも、急ぐルドルフは無視して通り過ぎようとした瞬間、銀色の何かが目に入った。
「これ落ちましたよ」
通り過ぎようとした瞬間、キンと金属音が聞こえ、足元に銀色の花をあしらったブローチが転がり落ちてくる。ルドルフは反射的に拾い上げた。
<Link with Arley Works encryption?YES/NO>
渡そうと拾い上げ、持ち主の顔を伺った瞬間、モジュールの中空モニターにはあり得ないアイコンが現れ一瞬で体が凍り付いてしまう。これはもちろんアーレイがブローチに仕込んだ暗号化通信チップが反応したためだ。
「えっ、このブローチって・・・」
「拾って頂いてなんですけど、持ち主に返して貰えるますかね(笑」
「あ、ああ、あっ?」
中空モニターには点滅するArley Worksのアイコン、お礼の言葉はデルタ語翻訳と表示され、持ち主に返してと言われたルドルフの頭の中は混乱の極みだったりする。なので間抜けな返事になったのは仕方ない。
アーレイの奴め、小賢しい事をしやがる。
認識阻害膜の向こう側の、ぼやけた小顔の輪郭を伺えば何者か分からずとも、艶やかな金髪、聞いたことのある声質、抜群なプロポーションを見れば、フローレンスと理解するのは容易い。ルドルフの頭の中で点だった疑惑が線で結ばれ、家族の失踪を含め全てを理解したのか、声を出すかわりにニヤリと笑った。
「それではお暇させて頂きますわ」
ヒントになる言動は御法度なので、最低限の言葉を残したフローレンスは踵を返し反対方向へと歩いてゆく。見送るのは証拠になる恐れがあると瞬時に考え、ブローチを見詰めながらアイコンを開いた。
<えへへ〜、誘拐犯のフローレンスは撤収しますね。ジョアン君とジェシカちゃんは可愛いですわ>
「君も彼に似て斜め上になってきたな、わざわざありがとう」
音声の記憶に関しては曖昧過ぎて記憶遡行の検索には反応しないし、モジュールの画像は視神経を刺激するだけなのでこれもまたヒットし辛い。なので安心してArley Worksのアイコンを開きリンクすると<online>と表示され、音声だけが鮮明に聞こえ始める。
<さて本題に入ろうかルドルフ>
「色々聞かせてくれ、とりあえず俺は家に向かう」
この後アーレイは家族を安全な場所で匿い、カルネ経由で星団側に連れ出すと説明をすると、ルドルフは安全な場所ならどこでも構わないとの承諾を頂く。
<これは君の為でもあるのだが、この後は疑われないように行動してくれないか>
「もちろんだ。デルタに向かうまで演技するよ」
今後のルドルフの行動は、明日の朝まで総統府に連絡を入れつつ家族を探し回る事になった。因みに数日後に部屋を持ち去ると付け加えると、無言になったのは言うまでもないだろう・・。
宜しければブクマ、評価お願いします。スピンオフ始めました、しかし更新は遅いと思います。




