関係性。
ヴァレリアとの関係、グレイスとジュリアンの関係性のお話。
【クーン城・ステイシーの私室】
ファマスはフィリーサに呼ばれて城へ来ていた。
ヴァレリアはステイシーに会えると思い、祖父についてきた——。
「凄いねここ、やっぱり王女様だね(笑)」
部屋を見渡し、天幕付のベッドを見て、わざと羨ましそうな顔をする。
「ヴァレリア、わざと遊んでいるでしょ(笑)」
二人は仲良くお茶を楽しんでいた。
ゆっくり話をして過ごしたいところだが、ステイシーの一日は忙しい。
「ステイシー様、出発の準備が整いました」
今日は三件ほどの視察予定が入っていた。
ヴァレリアと親交を深めたかったが、公務は外せない。
「ふぅ……」
軽く溜息を漏らすと席を立ち、少し残念そうな表情になる——。
「王女様ってめちゃくちゃ忙しいのね」
「そうよ、暇なのはアニメの世界だけよ(笑)」
ちなみに忙しいのはアーレイの政策の一環だ。
王族は各地に出向き、庶民に寄り添いながら意見を聞く。
少しずつでも問題を解決していけば、自ずと王族への信頼も高まっていく。
アーレイは国を強くしたい思いから、そのような方針をとっていた。
「それじゃ頑張ってね、ステイ」
ステイシーを友人として受け入れたヴァレリアは、愛称で呼びかけたが、少し恥ずかしそうだった——。
「うふふ、友達と思ってくれてありがとう。ヴァレリア」
ステイシーも、身分の違いを意識させてしまうことに、少なからず申し訳なさを感じていた。
感謝を伝えるように、ステイシーはヴァレリアのそばに立ち、その手を握った。
「リアでいいわよステイ」
ヴァレリアもまた、愛称で呼び合いたいと思っていた。
その気持ちが、自然と笑顔に表れていた——。
「ヴァレリア様。女王が是非にと申しておりました」
「ゲッ!マジ、今から謁見なの(汗)」
喜んでいるところに、執事がサラリと重大なことを言い放つ。
執事は理由を明かさず、軽く口角を上げてステイシーを一瞥した。
「あのねリア、女王とお母様とのお茶会だと思うよ。上質な茶葉を味わってね(笑)」
「もう!ステイも付き合って!」
「残念です。そろそろお時間なので、これにて失礼します。リア、こうするのよ(笑)」
最後にステイシーは、お茶会で恥をかかないよう、ヴァレリアにカーテシーを披露してみせた。
それは女性でも見惚れるくらいに優雅だった。
ヴァレリアは意味に気がついたのか、同じように真似をする——。
「わわわ、結構むずいわ」
初めてのカーテシーに挑戦したヴァレリアは、背筋を伸ばして腰を下げるものの、バランスを崩してしまう。
「腰を落とさず形だけでいいのよ、それならできるでしょ」
ステイシーは笑うことなく、簡易的な所作を教えた。
「うん、ありがとうステイ」
時間になり、ステイシーはもう少し付き合いたかった。
そこは公務があり「じゃあね」と小さく手を振って部屋を後にした——。
※※※※※※
【ジュリアンのマンション】
ジュリアンはあれから大急ぎでデルタに戻った。マンションに着いた頃には、すでに夕暮れ時だった——。
「グレイス、あのね今戻ってきたの」
グレイスに連絡を取るジュリアンの声は、真っ赤に染まる夕暮れの静けさの中で弾んでいた。
<おかえりジュリアン。それじゃ今から向かうね>
最近のグレイスはジュリアンの家で夜を過ごすことが多くなっている。
謹慎中のため、女性を連れてホテルに行くわけにもいかず、二人は愛を育む場所に困っていた。
悩むグレイスを見たジュリアンは、自ら自宅に呼ぶようになったのだ。
「うん、ご飯作って待っているから……」
通話を終えたジュリアンは、赤く焼ける夕暮れを眺めながら、自分の頬が熱くなっていることに気づいた。
胸の鼓動も、いつもより少しだけ速い。
「……どうして、こんなに嬉しいのかしら」
自分の変化に気づいたジュリアンは、そっと胸元に手を当てる。
(あれ……わたし……もしかして、恋しているの……?)
その瞬間、ジュリアンは自分でも気づかないうちに、頬を緩ませていた――。
【数時間後……】
そして今はジュリアンの部屋のベッドで、二人仲良く抱き合っていた。
「君の手料理、凄く美味しかったよ」
「ありがとう。そう言われると素直に嬉しい」
帰ってくることを考えながら作ったジュリアン特製シチューは、グレイスの心を鷲掴みにしていた。
グレイスはあの日からジュリアンにのめり込んでいた。すでに彼女を、将来を共にしたい相手として意識しているのかもしれない——。
「今日は研究が進んだんだよ、あともう少しで会話ができそうなんだ」
妹のために全てを投げ打つグレイスは、リリアのことになると決まって熱っぽく語る。
「上手く行くと良いね。妹さんを早く抱きしめたいでしょ」
「うん、そうなんだ。リリアはきっと驚くと思う。早く君と会わせたいな」
彼は妹の話になると、いつも目を輝かせる。
グレイスの言葉を聞くたび、ジュリアンの胸はキュンと締め付けられていた。
「私も楽しみよ……けど、妹さん私を受け入れてくれるかしら……」
リリアを思うグレイスの姿を見ているうちに、ジュリアンは知らず知らずのうちに、リリアとコナリーを重ねていた。
そして、いつしか本当にグレイスを好きになっていた——。
「大丈夫だよ……僕の愛する大切な人だから、きっと認めてくれるよ」
「そうかな……泥棒猫って言われたりして(笑)」
ジュリアンの心配そうな表情を見たグレイスは、照れながらも彼女を強く抱きしめ、本心を初めて口にした——。
生まれて初めて『愛している』と言われたジュリアンは、照れ隠しのように冗談を口にした。
「リリアは優しい子だし、きっと君のことを好きになってくれると思うよ」
鼻が当たるくらいの距離で、真顔で答えるグレイス。
ジュリアンは、グレイスに愛していると言われたことが嬉しくて、恥ずかしさを隠すように軽くキスをした——。
「そうだといいね」
「だから……僕を愛していると言ってくれないか」
グレイスは少し照れながら、ジュリアンを強く抱きしめる——。
「嬉しいグレイス……こんな私を愛してくれてありがとう。もちろん貴方を愛しているわ」
作戦が終われば、嫌でも離れなければならない。
それでも今のジュリアンは、いつか訪れる別れを考えたくなかった。
家族を真っ直ぐに想うグレイスの姿に自分と同じものを感じたからこそ、自然と愛の言葉が溢れ出たのだろう——。
「好きだよ」
「うん、私も大好きよ」
最初は偽りだった関係が、いつの間にか二人にとって本物になってしまった。
二人の関係は、これからどのような未来へ向かっていくのだろうか……。
※※※※※※
【昼間クーン城・修練場】
「もう、今日こそは勝つ!」
修練場で剣を構えるヴァレリアは鬼の形相になっている。
ファマスに剣技を教わり始めてからというもの、ヴァレリアはステイシーに全く歯が立たなくなっていた——。
「リアの剣は叔父様と一緒だから、交わせるの」
「そっか、それなら正統派を教えてよ」
二人は互いに競い合い、メキメキと実力を身につけていく。
ヴァレリア自身もここまでドギツイ訓練を毎日することがなかったので、成長が著しかった——。
「それでは、構え方から入るね」
ステイシーは剣を下向きに構え、柄を顔の前へ引き寄せる。
この型は長剣を扱う剣士なら、基本として知っている構えだ——。
「これはね、防御しながら攻撃できるのよ」
ステイシーはゆっくりと腕を捻り、横薙ぎに剣を振るった。
ヴァレリアは手首を返し振り下ろしながら切先を合わせ防御する——。
ステイシーはヴァレリアの剣の峰に沿って刃を滑らせ振り下ろし、手首を返してカウンターを放った——。
「ああ、なるほどね。おじいちゃんは切先を下げないから、これだいぶ違うよ」
正統派の剣技の一部を見ただけで、その流れを掴むヴァレリアには、剣士としての才能があった。
「一つの流儀にこだわると、対処されやすいから引き出しを多く持ちたいのよ」
ステイシーは一つの流儀にこだわる剣士ではない。
その時々の状況に応じて攻撃方法を変える、柔軟な剣士だった。
「じゃあ……次は私が勝つ番ね」
ヴァレリアはこれまでファマスから教わった剣をひたすら磨いてきた。
それは間違いではない。
だが、ステイシーと戦うことで、自分にはまだ知らない剣があることを思い知らされていた——。
「ええ。望むところよ」
ヴァレリアは笑うと、再び剣を構えた。
「ステイ、そろそろ魔法の時間じゃないかしら」
戦いが始まる寸前、修練場にふらりとアデールが姿を現す。
剣の修練の後に、ステイシーは魔法の訓練を行うのだ——。
「あら、もうそんな時間なんだ」
ステイシーは剣を鞘に収めると、ハイドレーションパックを片手に持ち、すでに魔法の訓練へ意識を切り替えていた。
「凄いわねステイ、剣の修練の後に魔法の訓練をするなんて」
剣の修練でさすがに疲れたヴァレリアは、そろそろ休憩したいと考えていた。
だが、脳筋姫はチューチューと水分補給を終えると、何事もなかったかのように魔法の訓練へ向かおうとしていた。ヴァレリアは思わず呆れてしまう——。
「さあ、今回は魔力枯渇を何度も経験するのよ(笑)」
「マジですか、けど頑張らないと」
腰に差していた剣を台の上に置いたステイシーは、アデールと向き合う。
ヴァレリアは呆気に取られて二人を眺めていた——。
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