ステイシーの夏。
ステイシーの夏休みの回です。
【クーン城・修練場】
ドーン!
魔法の訓練に切り替えた直後から、修練場から攻撃魔法の爆音がずっと鳴り響いていた——。
「ええ、まだぶっ放すつもりなの。ステイ、フラフラじゃない」
「うん……けど……もっと頑張らないと……」
アデールの命令はただ一つ。「限界まで魔法をぶっ放せ」だった。
ステイシーはそれに従いガンガン火魔法を打ちまくっているのだが、魔力が枯渇しかけているのか、青ざめた表情になっていた――。
「もう少しね、倒れても心配しないで」
「分かりました……クロス……ファイヤ!」
ゴォー。
夏休みに入ってから、アデールとの訓練で習得したファイヤーボールの派生魔法、クロスファイヤーを放つ――。
小さな火球が数個、修練場の壁に激突して弾け飛ぶ。
「す、すごい威力……」
以前のファイヤーボールとは比べものにならない熱量が三人を包み込む。
魔法が使えないヴァレリアはその威力に圧倒されていた――。
「あっ……もうだめ……よ」
魔力枯渇に陥ると意識が飛び、常人の精神力ならぶっ倒れるところだ
今のステイシーはギリギリのところで踏ん張っていた。
「さあこれからが本番よ(笑)」
にひりと笑ったアデールは、無詠唱でステイシーに魔力を分け与え始める。
虹色の粒子がステイシーの全身に纏わりつき、吸い込まれていった。
「ああん、この感覚、エロいよ〜」
通常、外部から魔力を補給しても、このような感覚にはならない。
だが、急速充電のように大量の魔力を一気に注ぎ込まれ、全身の皮膚から吸収することで、神経が過敏に反応していた。
まるで全身を生暖かい何かに包まれ、撫でられているような感覚だった――。
「ああんじゃ無くて、気持ちがいいの間違いでしょ(笑)」
「もう!お陰様で復活しました」
絶頂に似た快感に晒され、恥ずかしさからステイシーの顔が赤くなっていた。
まあ、生娘には少々刺激が強すぎたようだ――。
「あと数回は、枯渇させるからね」
「うわぁ〜アデール様って鬼だわ」
アデールには急ぐ理由があった。
身体が完全に育ち切るまでに、魔力総量をフローレンスより上げたかったのだ。
なので、無茶振りをしていた。
「うん、頑張るから大丈夫!」
「ステイは私より脳筋だわ〜(呆)」
呆れるヴァレリアを尻目に、アデールの特訓は続いていくのだった——。
※※※※※※
【クーン城・ダイニング】
夏休みで全員揃ってはいるものの、政務や公務があり、休日でなければ皆が揃うことはない。
広いダイニングには、へとへとに疲れ切ったステイシーとアデールの二人がいた――。
「最後に魔力を補給しないのは、自分で魔力を回復させる力を鍛えるためですか?」
「ええ、そうよだから今晩は私も肉を食べるわ。守護する精霊も分け与えてくれるけど、自力で補給した方が訓練になるのよ(笑)」
ゆっくりと食前酒を飲むアデールは久々に限界まで魔力を放出したのか、顔には疲れが見えるものの、すごくすっきりとした表情に見える。
「食べて回復か、結構単純ですね」
「アーリー様は、ものすごく食べていたわよ。酒も魔力になるって言って飲んでいたわね」
「豪快ないわゆる女傑ですね。私も頑張って食べなきゃ」
そして運ばれてきた料理は、焼きたての巨大ローストと大量の野菜だ。
ステイシーは微炭酸の食前酒を飲み干すと、黙々と食べ始めるのだった——。
※※※※※※
【ステイシーの私室】
たらふく食べて、湯浴みを済ませたステイシー。
頭にタオルを巻き、鏡の前に立つ姿は、幼顔だけどそれなりに色っぽい——。
ただ、バスタオルの下に隠されている身体は、バキバキの筋肉質だったりする。
「あれ、もうお腹が空いてきちゃった……」
身体の線は細い方だが、食欲に関しては普通に一人前を平らげる。
今日はアデールと競うように肉にかぶりつき、普段の三倍は食べた。
それでも、摂取した栄養はすでに魔力へと転換されてしまったのか、もうお腹が空いてきたらしい……。
「んっ……」
ピンク色のパジャマ姿でベッドに入ると、身体に違和感を覚える。
(身体が熱っぽい……訓練の疲れが出たのかな)
だがそれは序章だった——。
「寒っ!これはまずい……アデール様に連絡しないと」
寝るのはまだ早い時間だったが、ナイトキャップを被り、いつでも休める体で様子を見ていた。
少し経つと、背中にヒヤリとした感覚を覚えたと同時に、強烈な寒気に襲われる。
食事中、アデールに高熱が出たら教えてと言われたことを思い出し、連絡をいれた――。
「嗚呼……来てくれたの……ですね」
「やっぱり出たわね。その様子じゃかなり辛そう……ヒール!」
すぐに駆けつけてくれたアデールは、高熱で真っ赤なステイシーを見るなりヒールを掛けてくれた。
「助かります。楽になりました」
しかし、魔力解放はまだ始まったばかりだった。
ヒールで症状を和らげれば、その分だけ解放の進行も遅れてしまう。
そのことを承知のアデールは、隣に座りステイシーを軽く抱擁する。
そして大丈夫よ任せてと耳元で囁いた――。
「ヒールは一時しのぎよ、さあ背中を見せてちょうだい」
「あ、はい、もちろん素肌ですよね」
アデールが何をするかは分からない。
ただ、彼女を信頼するステイシーは、パジャマを脱ぐと背中を向けた。
「やっぱり若い肌っていいわね~この艶は再現できないのよ~」
「ひゃ!もう」
真っ白で透き通る、磁器のような肌が露わになるとアデールが食いついてきた。
背中を撫でられたステイシーは思わず声を上げて身を捩る――。
「さあ、今から封印術式を施すから、少し待ってて」
「はい!」
アデールは鮮やかな手つきで、ステイシーの背中に魔法陣を描き始める。
十数分後、複雑な幾何学模様の紋様が完成した――。
「それじゃサクッと終わらせるよ」
「よ、よろしくお願いします」
あとは詠唱を終え、魔法陣を起動するだけで、ステイシーの異常な状態は改善するはずだ。
「我が精霊に命ずる。苦しみよ眠れ。痛みよ去れ。この人の今を、先の未来へ――」
(これは、封印というより、先延ばしだよね……)
詠唱を聞いたステイシーは、この術式は何かしらの症状を抑えるための物だと理解しつつ、自分の身に起きていることは結構重要だと嫌でも気づかされる――。
「さあ、これで完成よ、ホールド・オン!」
戸惑うステイシーを無視して魔法陣は光り輝き、背中に吸い込まれていった。
「もうこれで大丈夫なのですか、あっ、熱が下がり始めた」
「魔力解放が始まろうとしていたの。けれど、今はまだ早いわ。総量をもっと増やしたいから抑え込んだのよ」
ステイシーは幼いころに一度、魔力解放を経験している。
しかし、今回の訓練で魔力枯渇を何度も繰り返した結果、魔力総量が総量が急激に増えたため、二度目の魔力解放が始まりかけていたのだ。
「承知しました。元気になったらまた訓練したいです」
「まだまだ総量は増えるわ。また頑張りましょう」
この後、魔力解放を止めたステイシーは、魔力総量を上げる訓練を繰り返す。
だが、彼女は同時に剣の修練を行い、身体を限界まで追い込む。
実はその行為が、後にとんでもない結果になるとは、この時点では夢にも思っていなかった――。
※※※※※※
【夏休み・最終週】
訓練と公務を精力的にこなしたステイシーは、魔法も剣も目覚ましい上達を遂げていた。
夏休みの終わりに近づき、今までの成果を公表するため、修練場には皆が集まっていた。
「剣も魔法もステイの方が、私より上手なんだよね」
ポツリと呟いたのはフローレンスだ。
「ステイはそんなに凄いナノ?」
剣に興味のないポコは、首を傾げて不思議そうな顔をした。
「呆れるくらい強くなったのよ、もう……昔は私が教えてあげていたのに……」
娘の成長は嬉しいが、剣聖である自分を打ち破る実力には、少し嫉妬していた——。
「今日は勝つわよ!」
「リア、全力で行くからね!」
フローレンスの複雑な思いをよそに、ステイシーとヴァレリアの試合が始まろうとしていた。
「両者、始め!」
その瞬間、二人が同時に地面を蹴った――。
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