金欠とバカンス。
グレイスがメインですが、サービスとしてバカンスを描いてみました。
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
「顧問から話を聞いた。私が訪れたのは君に資金援助をするためだ」
研究所を訪れたジュリアン男爵は、資金不足に陥っていたグレイスに多額の資金援助を申し出る。
軍事会社の顧問であるヴァルターから、グレイスが資金繰りに困っていると聞いたことを正直に話すと、グレイスは少し安心した表情を見せた。
「ジュリアン男爵、多額の援助の提案ありがとうございます」
藁にでもすがりたいグレイスは、相手の素性を調べもせずにその提案を受け入れる。
経験不足もあったが、何より切羽詰まっていた彼は、冷静な判断ができなくなっていた。
(グレイスはチョロいな。金に困っている人間は、こうも簡単に話に乗ってくれるものなのか)
狙い通りにことが進み、ジュリアンは満足そうな笑みを浮かべる——。
「君の妹さんの救いたい気持ちに応じたまでだよ、あの技術はもう直ぐ手に入るよ」
グレイスの妹を救いたいという気持ちに共感しての善意なら問題はない。
だが、少なくとも多額の援助を申し出る以上、それなりの対価を求めるのが普通だ。
「援助はありがたいのですが、今はまだ対価を渡せないのが心苦しいです」
「未来への投資と思ってくれたまえ」
だが、ジュリアンはこの時点では具体的な成果を要求せず、当面の研究資金として数十万スカーをグレイスに提供した。
「ご理解いただき、感謝の言葉もありません」
「これは手付金だ。受け取ってくれたまえ」
「た、助かります」
グレイスが進める研究には、結構な金額が必要だ。
ジュリアンはいきなり多額では無く、研究成果に応じて資金を提供する契約を結ばせようと考えている。
そして——。
「これが契約内容なので、よく見てからサインしてくれたまえ」
契約内容は一般的なもので、目ぼしい成果が上がらなければ援助を打ち切り、提供した資金を回収するというものだった。
だが、グレイスは困難に打ち勝つ自信があるのか、強い眼差しでジュリアンを見返した。
「頼んでいる技術が手に入れば飛躍的に成果を出せます」
「その件については近々手に入る。慌てずに待っていてくれ」
今のグレイスには、この先の未来が薔薇色に輝いて見えていた。
しかし、資金も技術もジュリアンに握られていることに、グレイスはまだ気づいていなかった。
ペンを走らせるグレイスを見て、ジュリアンは目を細め笑っている。
(ククク、グレイス君、君は僕の恋人になってもらわないとね……)
ジュリアンの本来の目的は、レイヴン社の乗っ取りだ——。
手始めに契約でグレイスを縛り、資金と技術を餌に彼を自分の思い通りに動かす。そして、全てを手中に収めた後、会社そのものを乗っ取るつもりだった。
「サインを終えました。ご確認下さい」
そしてジュリアンの毒牙が今まさにグレイスに食い込もうとしている。
「契約完了だね。宜しくグレイス君」
これでグレイスは、ジュリアンとの契約に縛られることになった。毒牙は、彼の首筋に深く食い込んでいた。
その毒はゆっくりと全身に回り、気がついた時には手遅れになってしまうだろう——。
※※※※※※
【貴族学校・水上訓練場】
秋の剣術大会を前に、大規模な練習試合が行われることになった。
今回は通常の剣術訓練とは違い、水面に浮かべた筏の上で戦う特殊な試合だ。
足場の悪い場所での戦闘訓練を兼ねているが、生徒たちにとっては水遊びを兼ねた余興という意味合いも強かった。
そのため、参加者は水着の着用を義務付けられていた。
「ハァ〜、アレを着るのか……」
控室で頭を抱え、一人ため息をつくサラは、数日前に買った水着のことで悩んでいる。
改めて着てみると露出が多く、サラはそのことを気にしていた。
彼女は自室に以前使っていた水着があると思い込み、スク水のようなワンピースタイプを買い忘れていたのだ――。
<次、サラ対ヴァレリア>
今回の試合は前回の実力差を考慮した組み合わせになっている。
呼ばれたサラはパーカーを羽織り、重い足取りで会場を目指す——。
「あら、サラ、暗い顔してどうしたの?」
先にカラフルな筏の上に上がり、腕を組んで待ち受けているヴァレリアは、いかにも楽しそうだった。
戦うことしか考えていないヴァレリアと、水着のことで頭がいっぱいのサラ。
二人はあまりにも対照的だった――。
「うわぁ、凄い格好だね。恥ずかしくないの?」
「いや、動きやすさを考えたらこれしか勝たん!」
ヴァレリアは動きやすさを重視した真っ赤なビキニスタイル。
サラ的にはあり得ない格好だった——。
「そんな上着は濡れたら動きが悪くなるでしょ(笑)」
「だって恥ずかしいでしょ、もうそれ破廉恥よ(泣)」
王族にとって、人前で肌を晒すことは禁忌だった。
なのでサラは肌を隠すために、パーカーに膝上丈のパンツを穿いていた。
「負けっぱなしだからスタイルを変えたのよ、今日こそ勝つわよ!」
「はい、はい……」
コンコン
短めの木剣を二本取り出し、軽く打ち合わせるヴァレリア。
その表情には、やる気が漲っていた。
「私の二刀流は一味違うんだから!」
これはサラ対策として二刀流に切り替えたのだ。
足場の悪い筏の上では、ロングソードよりも取り回しの良い中剣の方が有利になる。
ヴァレリアはそう考え、二刀流に切り替えていた。
そして試合開始の合図を待つ——。
「それでは、始め!」
ついに始まった試合。
だが、互いにカウンターを警戒し、両者とも動かない。
「さあ行くよ!」
先に動いたのはヴァレリアだ。
左右に大きく動き、サラの注意を引きつけるヴァレリア。
だが、その狙いは別にあった――。
バシュ!バシュ!
剣で水面を何度も切り、盛大に水飛沫をサラに向けて飛ばす。
「キャ!」
バランスを取りづらい筏の上では、避けて体勢を崩すよりも、あえて水飛沫を受ける方が得策だと判断したサラ。
その結果、全身がびしょ濡れになってしまった。
「チャーンス!」
そして勢いよくヴァレリアが突っ込んでくる。
「クッ、動き辛い」
ガン、ガン。
だが、濡れた上着やパンツが身体に張り付き、動きが鈍くなっていた。
ヴァレリアはその隙を逃さず、追撃を加える——。
バシィ!
「クッ!」
「一本、それまで」
動きの鈍った一瞬を突かれ、剣を弾かれたサラ。
サラの上半身ががら空きになり、ヴァレリアの木剣が胸元で寸止めされている。
サラが初めてヴァレリアに土をつけられた瞬間だった——。
「やった!サラに勝った」
「……お見事でしたヴァレリア……」
勝って嬉しいヴァレリアは満面の笑みを浮かべ、負けたサラは強がることなく敗北を受け入れた。
彼女は、勝負にたらればを持ち込まない主義だった。
だが悔しいのか唇を噛む――。
(もっと剣技を磨かないとダメだ……)
一礼をしたサラは、静かに会場を後にするのだった。
※※※※※※
【デルタ王族用プライベートアイランドビーチ】
練習試合が終わったその週末。
クーンの六名とセシリアは、ジェフの計らいでプライベートビーチに来ていた。
ここは首都デルタから程近い、無数の島々が浮かぶ、日本の瀬戸内海を思わせる風景が広がっている。
「それでは皆様、ごゆるりとお過ごしください」
ここではジェフに仕える執事が、あれこれと世話をしてくれていた。
侍女たちも同行し、ビーチの準備を整えてくれていた――。
「それじゃ参りましょう」
「おー!」
水着に着替えた皆は、一斉にビーチへと駆け出す。
向かった先は真っ白な珊瑚砂が眩しい砂浜。
この綺麗な風景を見れば、皆の心が躍るはずだ――。
「姫姉様、ここなら恥ずかしくないでしょ」
「まぁね、ここならいいかな」
この場所は警備も万全で、盗撮される心配もない。
人前に肌を晒せない王女たちが、リラックス出来るようにと作られた楽園だ。
偽装を解き、ビキニ姿になったステイシーは、不安が消えたのか、表情を明るくした。
「ステイって、本当に凄く鍛えているんだね。惚れ惚れしちゃう(笑)」
「ワワワ、それはあんまり言わないでよセシー(笑)」
セシリアは、無駄な贅肉のないステイシーの身体を、ふむふむと頷きながらしげしげと眺めていた。
「筋肉美とはこういうものなのね。《《男》》《《役》》なら引く手数多だね(笑)」
「……もう……恥ずかしいよ……セシー」
こうした話題にまったく耐性のないステイシーは、顔を真っ赤にして、もじもじするのが精一杯だった――。
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