剣と水着。
アランと水着のお話。
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
グレイスが籠る地下研究所には、アランの姿があった。
「グレイス、頼みがある。俺が弱すぎてサラは相手にしてくれないんだよ」
サラは訓練には付き合ってくれるものの、アランと個人的に親しくなるつもりはないようだった。
お茶に誘っても応じてくれず、逆に怪訝な顔をされてしまう。
「脳筋だから簡単と思ったけど、間違いだったか……」
「逆だよ、脳筋だからこそ、強くないと駄目なんだよ」
もちろん、アイラから指摘されたことでサラも警戒していたため、当然の結果だった――。
そもそもサラの中身は王族のステイシーだ。そう簡単に靡くことはない。
まぁ、それでも、そこそこ強くなれば個人的に相手をしてもらえる可能性はある。
「それならマッスルスーツを着込んでパワー押しすれば良いじゃないか」
「お、おう、それなら貸してくれよ」
剣技で敵わないならパワーで押せば、なんとかなると考えたのだろう。
グレイスはフンと鼻を鳴らし、クローゼットを開ける。
「これは訓練用だけど、筋力が約1.8倍アップする」
グレイスは極薄で銀色のマッスルスーツをアランに渡した。
それは新兵がバトルスーツを扱う前に着用する訓練用で、筋力補助機構が備わっている。
また、レギンスのように身体にぴったりと密着するため、服の下に着込めば外からは気付かれない。
「じゃ、早速試してみるよ」
グレイスからスーツを受け取ったアランは、足早に研究所を後にする。
正面玄関から出ていくアランの後ろ姿を、愛くるしい瞳がじっと捉えていた——。
「やっぱりグレイスの仲間だったの」
軍事会社を出たアランの姿を動画に収めると、パルエッタは気配を消して後を追った。
バッチリな証拠を掴み、ニヤリと口角を上げるのだった。
※※※※※※
【王族専用控室】
「もう、もう、もう」
控室の扉が静かに開き、誰もいないように見えた室内から、サラの声が響き渡る。
そしてステルスを解除すると、不機嫌な顔をしたサラが姿を現した。
「その慌てっぷり、もしかしてアランに告白でもされましたか?」
「そんなのあるわけないじゃん!」
アイラとの魔法訓練を終えたサラは、アイラと一緒に控室へ向かうはずだった。
「もう、アランしつこい。やっと撒いてきたわ」
しかし、その途中でアランに『話がある』と呼び止められ、アイラは気を利かせ先に控室へ行ってしまった——。
「うふふ、それで用件は何でしたの?」
「魔力切れで疲れているって言っているのに、手合わせしてくれってしつこいのよ」
奴はマッスルスーツを装着したので、試してみたかったらしい。
だが、魔力切れで疲れているサラは相手にしたくなかった。
なので丁重にお断りしたものの、しつこく食い下がり、逃げて来たのだ。
「あら、それは大変でしたね」
「もうマジでウザかったわ」
普段ならここまで苛立つこともないサラだが、魔力切れで疲れていたこともあり、いつになく不機嫌だった。
椅子に座ると腕を組み、怒りを露わにする。
そんなサラを見て、アイラは苦笑をしていた——。
「アランはグレイスの手先なの」
プンスカと怒るサラの合間に、絶妙なタイミングでパルエッタが割って入る。
そして、証拠映像をサラに送った——。
「あれ、まあ……」
軍事会社を出るアランの姿は、サラを納得させるには十分だった。
「ありがとうエッタ。放課後は魔法の訓練に集中するわ」
「それが良きです」
切り替えが早いサラは、朝は剣の鍛錬とバーチャル。
放課後は魔法の訓練。そして夜にバーチャルに潜ると宣言する。
「ガンガン訓練しますよ、姫姉様には、まだまだ伸びしろがありますから」
「望むところよ、魔法を極めなきゃね(笑)」
パルエッタの調べのお陰で、サラはアランとの距離を置くことになり、魔法の訓練を本格化させるつもりだ。
※※※※※※
【翌日放課後・修練場】
「……あれ、サラは来ないな……」
修練場に一人ぽつんと立っていたのは、剣を手にしたアランだった。
待ち人のサラは姿を見せず、アランは一人で待ちぼうけを食らっていた——。
「魔法修練場に行ってみるか」
サラと手合わせしたかったアランは、魔法修練場に向かった。
しかし——。
「サラを探しているのだが……」
「あら、珍しいわね、アラン君。今日はここには来ていませんよ」
魔法が使えないアランが魔法修練場に顔を出すと、同級生たちは不思議そうな顔をした。そして、サラはここには来ていないと告げられる
以前訪れた時は、アイラと一緒に鍛錬をしていた。
「うーん、どこに行ったのだろう……」
突如、姿を消したサラ——。
実はなんてことのない理由で、彼女は今、デルタの繁華街に出向いているのだった。
※※※※※※
【デルタ繁華街】
洋服店が立ち並ぶ繁華街を、ファストファッションで身を固めた、五人の美少女が練り歩いている。
メンツは、パルエッタ、パルティータ、アイラ、フィグネリア。
そして偽装魔法を解除したサラだ——。
フィグネリアやセシリアが一緒にいる時は、偽装魔法を解除して本来の姿に戻ることができる。
「自分の姿に戻ったけど……逆に違和感を感じるよ……」
通り沿いのウインドウに映る金髪の姿を見て、意味深な言葉を吐く。
赤髪のサラとして過ごすことに、すっかり馴染んでしまった自分に戸惑っていた。
「正体を明かすタイミングはいつですかねぇ」
「うーん……成績次第よね……」
遅かれ早かれサラは在学中に、ステイシーであることを公表しなければならない。
成績不振のまま卒業すれば、強制的に婚姻相手を決められる。
そんな恐怖が彼女を身震いさせていた——。
「さあさあ、そんな顔をしないでお買い物に行きますわよ」
「……やっぱりやめにしない……」
沈んだサラをアイラが慰め、買い物に行こうと手を取る。しかし、サラはどうにも気乗りしない様子だった。
「サラだけ買わないのは反則です。エッタはそう考えます」
「うんうん」
そして、バグウサギに背中を押されたサラは、スポーツ用品店に強制的に連れ込まれてしまうのだった……。
「新作の水着が出揃っていますね、姫姉様どれにしますか!」
「うわぁぁ、これを着るのですね。結構際どい……フィグは恥ずかしいです」
水着を買いに来たのは、夏休み前に海へ行きたいとフィグネリアが言い出したことがきっかけだった。
しかし、ビキニタイプを手に取ると、顔を赤らめモジモジする始末だ。
そして一方のサラはと言うと——。
「……スク水でいいかな……」
なぜかすごく消極的だった。
「スク水なんてもってのほかです!」
仲良しクーン組が、そんな消極的な意見を受け入れるはずもなく、過激な水着を手に取りサラの体に押し付ける。
「えっ、これ、いやだって、下着より露出が多いじゃん(大汗)」
「ビキニタイプを着るのは若さの特権です」
「エッタは白のビキニが似合うと思います」
ほとんど肌を隠さないとんでも水着から、フリル付きの可愛らしい物を目の前に並べた。
全て、露出が多いタイプでサラはドン引きしていた。
サラがここまで消極的なのには、理由があった——。
「これならそんなに恥ずかしくないでしょ」
「……うん、まぁ……これなら」
めちゃくちゃ過激なものを見せつけて、フリル付きの可愛らしいビキニを押し付けると、少しハードルが下がったのか、恐る恐る水着を手に取る……。
もうここまで来たらあとは試着だ。
サラを更衣室に押し込み、強制的に着替えさせた。
「……あの、絶対に笑わないでよ……」
着替え終えたサラは、カーテンの隙間から顔だけ出して断りを入れてくる。
そしてゆっくりと更衣室を出た——。
「うわぁ〜ボディビルダー真っ青」
「贅肉がほぼ無い……幼女体型にその筋肉質は不釣り合いね、腕も太いし(笑)」
「もう、だから言ったのに——」
水着姿のサラは、驚くほど引き締まった身体をしている。
特に腕の筋肉は鍛錬の成果がはっきりと表れており、同年代の少女とは思えないほど太い。
サラは夏でも長袖を着るのは、この腕を見せたくないのだ――。
「だから、ワンピの方がいいと思うのよ」
「いえこれはもはや芸術の域です。この金髪との相性抜群ですよ」
真っ白なフリル付きのビキニと、真珠のような白い肌。それと金髪はよく似合っている。
ただ、もう少し丸みを帯びればの話だった——。
「……」
とはいえ、芸術のように美しい筋肉美は皆の注目を浴びるのは間違いないし、逆に憧れと認識するだろう。
ただ、本人にしてみれば恥ずかしいだけだった——。
「ワンピだと、レスラーみたいに見えますよ」
「……うん、そうだよね……」
そう言われると反論できず、サラは渋々ビキニを選ぶことになった――。
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