目覚め。
少しずつ事態が動きます。
【貴族学校・修練場】
「えい!やっ!」
放課後、いつものように鍛錬をするサラ。
一日サボれば切れが悪くなり、二日休めばライバルにバレてしまう。
そのため、毎日の鍛錬を欠かさない——。
「姫姉様、久しぶりに魔法の訓練をしましょう」
珍しくアイラが修練場を訪れ、魔法の訓練をしようと誘う。
じんわりと汗をかいたサラは、ニコニコしながらタオルを受け取った。
「そうね、魔法も鍛錬しないとアデールに勝てないもんね」
アデールの魔法技術は桁違いで、間違いなく星団最強クラスの一人だ。
遊び相手だったサラは、日頃から彼女の無詠唱魔法を習得したくて、仕方なかった。
要するに追いつきたいのだ——。
「もう、姫姉様たら、脳筋すぎますよ(笑)」
「だって、剣では勝てるから、次は魔法でしょ」
アイラが剣より魔法が得意なのと同じで、アデールは剣技でサラには敵わない。
間もなく剣聖の称号が与えられると噂されているサラは、それに飽き足らず、魔法の高みを目指す。
「けど、風魔法だけではアデール様に勝てませんよ」
サラは風魔法との相性が一番良く、五精霊の加護によって闇魔法以外なら、すべて発動できる。
しかし、同じ五精霊の加護を持つアデールは、魔法の扱いにおいても遥かに先を行っている。サラとの実力差は、まだ大きかった。
「うん、それもあって、魔法の鍛錬を再開しようと思っていたのよ」
「どこまで強くなろうとしているのかしら?」
「善は急げよ、さあ行きましょう」
そして魔法専用の修練場に移動した二人は、早速自主鍛錬を始めることにする――。
※※※※※※
【魔法修練場】
「それじゃ、火魔法からはじめようかな」
「あれれ、風魔法じゃないのですね」
いつもなら得意の風魔法を最初に発動するのだが、剣の鍛錬を終え身体が活性化しているサラは、放つとスカッとする火魔法を選んだらしい。
「それじゃファイヤボールを連発しましょう」
「おい!それって無理ゲーよ(笑)」
身体を鍛えることが大好きなサラは、軽口を挟みつつ魔法発動のための詠唱に入る——。
ボワァ!
「ひ、姫姉様、火球が大きすぎませんか」
「えっ、まじ、どうしてこうなった!」
普通にファイヤーボールの詠唱を終えたサラの前に、いつもの大きさの倍はある火球が現れる。
久しぶりの魔法だったが、身体の成長に伴って魔力の出力も上がっていたようだ。――。
「それじゃ放ってみてください」
「うん、そうするよ、ファイヤ!」
ドド、ドーン!
火球が放たれ壁に激突する。
そして、熱風と衝撃波が二人を包み込む。
間違いなくこれは中級魔法使い並みの威力だった——。
「ええ、マジで威力が爆上がりしているわ」
「以前より威力が倍以上は上がっていますわよ」
魔法が得意なアイラは、サラの放った火魔法を解析し、その威力に驚いていた。
高温を発する火球は、最前線でも十分に通用する威力だった――。
「あはは、なんか凄いね(汗)」
「そうですねー(棒)」
二人は信じられない様な顔をして互いを見合う。
そして、微妙な空気が流れる。
「他の魔法も試してみるか」
「そうですね(笑)」
この何気ない魔法修行は、サラの奥に眠っていた未知の力が、覚醒した序曲に過ぎなかった——。
※※※※※※
【レイヴン・テクノロジーズ・地下研究所】
「あともう少しだといのに、金が足りない……」
グレイスが軍事会社に進捗を問い合わせると、間もなくディスティアの技術が手に入るとの返答があった。
ただし、同時に成功報酬の支払いも求められてしまう。
予算が削られ、金が無いグレイスは成功報酬を払うために、金の工面をしなければならなかった——。
「クラファンは時間がかかるし、集まるかどうかも怪しい……」
未成年のグレイスでは、保証人なしで大金を借りることもできない。
『リリア復活計画』と銘打てば、クラウドファンディングで資金を募る手もある。
しかし、募集には時間がかかるうえ、数百万スカーもの大金が集まる保証もない。
悩むグレイスは一刻も早く、手元に金を用意したかった。
そして——。
「仕方ない、こうなったらパテントを売り払って工面するか……」
神童と呼ばれるグレイスは、これまでに数多くの発明品を生み出し、その特許を保有していた。
そのうちのいくつかを売却すれば、まとまった資金を手に入れられる。
リリア復活のために、なりふり構わないグレイスは、すぐさまパテントを利用する企業に連絡を入れ始めた。
【数日後……】
パテントを売り払い、それなりの金は工面できたが、軍事会社に支払うと大して残っていなかった――。
支払う際、ヴァルターから「よくもこれだけの大金を用意できたものだ。大したものだな」と褒められたが、当然、身銭を切ったグレイスは素直に喜べなかった。
「ああ、クッソ!リリアの研究費が到底足りない……」
研究費までは工面できなかったグレイスは、絶望的な表情を浮かべ頭を抱える。
「あの糞女さえいなければ、こんな事にならなかった筈だ」
このような状況に陥ったのはグレイス本人の所業なのだが、反省の色など見せず逆恨みをしていた。
イライラが募るその時だった――。
「グレイス様、ペッパー男爵家のジュリアン様がお見えになっています」
研究所に籠るグレイスに、わざわざ逢いに来る奴などいない。
不審に思い断ろうと一瞬考えるが、男爵の名を聞き少しためらう。
「俺を訪ねて来るとは……用件は何と言っている」
「あの技術の件と言えばわかると申しておりました」
「……それじゃ通していい」
軍事会社に金を支払った事で、早速使者が訪れたと判断するグレイス。
だが、この出会いが、やがてデルタ王国を揺るがす事件へと繋がることを、この時の二人はまだ知らなかった――。
※※※※※※
【数日後・王族専用控室】
「ふんふん、ふーん……それじゃ行きますか!」
放課後の鍛錬が日課のサラは、珍しく鼻歌交じりに出掛ける準備を終えた。
普段、物静かに準備することが多いサラは、今日はどこか上機嫌だ。
アイラはそんな姫姉様をじっと見つめていた。
「……姫姉様、最近、アランとよく修練していますね。噂になってますわよ(笑)」
そしてアイラがしたり顔で、ステイシーをからかうように尋ねる。
その理由は、あのアランと言う男子生徒が、数日前から修練場に顔を出し、サラとの手合わせをしていたのだ。
「んまぁ、下手だけど、やる気だけはあるからね」
サラにとってアランはまだまだ弱い相手だったが、懸命に挑んでくる姿は嫌いではなかった。
クーン組は放課後は色々忙しく、剣の鍛錬相手をしてくれないのも理由の一つだった。
「うふふ、デレてますねー、遂に恋に目覚めたのですか(笑)」
剣の鍛錬の後、魔法訓練に少し遅れてくるサラを、実はアイラは密かに見ていた。
もちろん、サラが男に興味がないことを知っている。だからこそ、面白がって突っ込みを入れ、反応を確かめたいのだ。
「最近知り合ったばかりだし、弱いし、それは無い!」
当然、否定するが、健気に挑んでくる相手に気が緩んでいたのは事実だった。
「まぁそうですよね……けど弱いのに毎回練習に付き合うこと自体に違和感を感じます」
「ん〜言われれば確かに違和感しかないね……」
アイラに指摘され、思うことがあるサラは荷物を置くと腕を組み思考を始めた。
(確かに、筋トレは適当だし……クーンのことばかり聞いてくるし……)
思い返すと、何の接点もないアランが、サラに挑む理由が明確では無かった。
「姫姉様に執着するということは~恋心ですよね!」
アイラの言うように、自分に好意を持っている可能性もある。だが、それだけでは説明がつかない気もした。
「ま、まさか、私に気があるってこと!」
「その線は少なからずあると思いますわ(笑)」
「WWW(汗)」
王女なのでおいそれと声がかかることはないし、生まれてこのかた好意を寄せてくる男など皆無なサラ。
そんな姫様に降って湧いた色恋沙汰は刺激が強いのか、顔を真っ赤にしてしまう。
「もしかして、幼く見える女の子が好みの変わった人なのでは?」
「ギャー!」
鍛え上げられた体の線は細く、見た目は華奢なので、どうしても幼く見えてしまうし、美少女だがまだ幼さが残っている。
サラはそのような目で見られていると想像したのか、叫ぶと同時に鳥肌が立っていた——。
「何か変なので、エッタは調べてくるのだ」
ステルスバグウサギさんは諜報活動が得意中の得意で、野生の勘も鋭い。
アランの素性を調べるなら、エッタに頼むのが一番だった。
「そうね……エッタよろしくね」
「はいなの!」
エッタが調べ始めれば、アランの素性が明らかになるのは時間の問題だった――。
相変わらずの軽いステップで、ウサギさんは消えていくのだった。
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