表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤独なオタク社会人の出前アプリ、なぜか異世界に繋がっていて、憧れの漫画飯が届く  作者: めるしー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/11

異世界飯 冒険者ギルド酒場・本日のスタミナ定食

 あの魔王の一件から、この異世界の出前は、すっかり俺の週末の楽しみになっていた。


 平日は仕事に追われて、それどころじゃない。でも、週末の夜だけは別だ。怖い配達員にも、もう慣れたもので。さて今夜は何を頼もうか、とアプリを眺める時間が、たまらなく好きだった。


 すると、また新しい店が増えていた。


『冒険者ギルド酒場・本日のスタミナ定食』


 ……冒険者ギルド。完全に、王道ファンタジーのやつだ。心が躍る。どんな猛者が届けに来るんだろう。俺は迷わず、注文した。


   ◇


 ピンポーン。


 ドアを開けて——お、と、声が漏れた。


 立っていたのは、まばゆいほどの好青年だった。陽に焼けた、爽やかな顔。背中には、大きな剣。よく見れば、その身に、うっすらと、聖なる光のようなものまで纏っている。


 これは……まさか。


「どうも! ご注文のスタミナ定食、お届けに上がりました! 俺、勇者やってます!」


 勇者。

 出た。今度は、勇者だ。魔王の次は勇者。そりゃ、いるよな。


 子どもの頃から憧れてきた、ザ・主人公。それが爽やかな笑顔で、俺の玄関に立っている。テンションが、上がる。


「す、すごい。本物の勇者さんだ……。あの、世界を救う……」


「あー、はい。一応、それが本業なんですけど」


 勇者は、爽やかな笑顔のまま、がくっと肩を落とした。


「……正直に言うと。世界を救う仕事、まっっったく、儲からなくて」


 えっ。


「魔物討伐の報酬は、年々下がる一方で。装備の修理代も、宿代も、ばかにならない。仲間の食い扶持もある。……で、こうやって空き時間に、配達のバイト、してるわけです。はは」


 はは、じゃない。勇者が、副業。


 よく見れば、ぴかぴかに見えた鎧も、あちこち傷だらけで、継ぎ当てがしてある。背中の剣も、鞘がすり切れている。爽やかさで、うまく隠していたけれど。この人も——かなり、カツカツだ。


「世界を救っても、誰もお金はくれないんですよ。感謝は、されるんですけどね。感謝じゃ、飯は食えないっていうか」


 ……あれ。これ。


 俺は、思い出していた。少し前、この玄関で、城の財政難に泣き崩れた、あの魔王のことを。


 倒すべき魔王も。世界を救う勇者も。揃いも揃って金欠で。同じようにすり減って、副業で食いつないでいる。


 ……こいつら、けっこう、似た者同士なんじゃないか。


   ◇


「あ、でも、仲間がいるから、なんとかやれてます」勇者は、ふっと優しい顔になった。「特に、うちの僧侶がね。あいつ、身寄りがなくてさ。俺たちが、家族みたいなもんで。あいつの飯だけは、絶対切らさないって、決めてるんです」


 ……僧侶。


 なぜか、その言葉が、妙に耳に残った。どんな人なんだろう。そう思っている自分が、いた。


   ◇


 俺は、定食を受け取りながら、つい聞いてしまった。


「あの……よかったら、これ。少し、持っていきます?」


 冷蔵庫から、缶ジュースを何本か出して、押しつける。勇者は、目を丸くした。


「え、いいんですか? っていうか、なんで、こんなに優しく……」


「いや。……前に、似たような人を、知ってるんで」


 勇者は、不思議そうにしながらも、嬉しそうに受け取って、帰っていった。爽やかな笑顔と、軽くなった足取りで。


   ◇


 さて。


 スタミナ定食の蓋を、開ける。どん、と、山盛りの肉。ほかほかの麦飯。具だくさんの、スープ。ザ・冒険者飯。安くて、多くて、力が出る、旅の飯だ。


 肉に、かぶりつく。——うまい。素朴で、豪快で。明日も戦える気がする、味。


 ……それにしても。


 魔王も、勇者も、本当はただ、必死に生きてるだけ、なのかもな。


 そんなことを思いながら、俺は、旅の飯を、ゆっくり平らげた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ