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孤独なオタク社会人の出前アプリ、なぜか異世界に繋がっていて、憧れの漫画飯が届く  作者: めるしー


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10/11

異世界出前 聖堂の癒し膳・滋養の薬膳粥

 週末の夜。今夜も、アプリを開く。


 ……あの勇者が、言っていた。「うちの僧侶」のことが、なぜか、頭の片隅にずっと引っかかっていた。身寄りがなくて、仲間が家族で。どんな人なんだろう、と。


 メニューを眺めていると、ふと、目に留まる一軒があった。


『聖堂の癒し膳・滋養の薬膳粥』


 ……聖堂。僧侶。もしかして。


 深く考える前に、俺の指は、もう注文ボタンを押していた。


   ◇


 ピンポーン。


 ドアを開けて——俺は、思わず、息を止めた。


 立っていたのは、白い清楚な法衣を纏った、女性だった。柔らかそうな髪。穏やかで優しい目元。その身からは、ほのかに、あたたかい光がこぼれている。怖くない。むしろ——綺麗で、つい見惚れてしまうほど、だった。


「こんばんは。ご注文の薬膳粥を、お届けに参りました」


 鈴のような、けれど、どこか芯のある、落ち着いた声。


「あ、ど、どうも……」


 今まで、どんな配達員にも、慣れたつもりだった。オークにも、ドラゴンにも、魔王にも。なのに——優しい女性、というだけで。なぜか、いちばん、しどろもどろになってしまう。


   ◇


「あの……もしかして、勇者さんと、ご一緒の……?」


 彼女の目が、ふわりと丸くなった。


「まあ。あの子から、お聞きに? ……はい。同じ一行で、僧侶を務めております」


「やっぱり。勇者さんが、その……すごく、大事にしてて」


 彼女は、少しだけ頬を染めて、ふふ、と笑った。それから、ふと、俺の顔を、じっと見て。


「……あなた、少しお疲れですね。顔色が、あまりよくない。ちゃんと、眠れていますか? 食事は、抜いていませんか?」


 ……え。


 その問いかけが、あんまり自然で。あんまりまっすぐ、俺の体を心配していて。俺は、不意を突かれて、言葉に詰まった。


 誰かに、そんなふうに気遣われたのは。……いつ以来、だろう。


   ◇


「だ、大丈夫です。最近は、ちゃんと食べてるんで。……というか。あなたこそ」


「私?」


「いつも、誰かを治したり、ご飯を作ったり……してるんですよね。勇者さんたちのぶんも。……自分のことは、後回しに、なってませんか」


 彼女の笑みが、ほんの一瞬、止まった。


 それから——困ったように、けれど、どこか泣きそうに、微笑んだ。


「……不思議な方。誰かに、そんなことを言われたのは。……初めて、かもしれません」


 身寄りもなく、ずっと、人を癒す側で。自分を気遣われることには、慣れていない。——その横顔は、少しだけ、昔の俺に、似ていた。


   ◇


 俺は、薬膳粥を受け取った。ほんのり、薬草のいい香り。ひと匙、口に運ぶと——じんわり、と。体の芯から、ほどけていく。


 優しい。なんて、優しい味なんだ。一杯一杯ですり減った夜に、そっと寄り添ってくれるような。食べる人のことを、心から思って作られた味。


 ……ああ。この人は、こういう味を、ずっと、誰かのために作り続けてきたんだ。


   ◇


 気づけば、彼女は、もう帰り支度をしていた。


「では。……どうか、ご無理をなさらず。ちゃんと、眠ってくださいね」


 最後まで、俺の体を気遣って。彼女は、ぺこりと頭を下げ、夜の中へ去っていった。


 ドアを閉めて。俺は、しばらく、その場に立ち尽くしていた。


 ……あ。


 名前を、聞きそびれた。


 彼女がどこの誰で、どんな人で。何も知らないのに。胸の奥が、妙にざわざわして、落ち着かない。こんな感覚は、ずいぶん久しぶりだった。……いや。もしかしたら、初めて、かもしれない。


 薬膳粥の、最後のひと匙をすくう。


 ……また、会えるだろうか。あの人に。


 そう思っている自分に気づいて、俺は、なんだか、無性に照れくさくなった。


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