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「この人が彼氏です!」と学園アイドルに言われたモブ、逃げられなくなる  作者: もりぞー
第二部

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95/103

第95話 紗月、行きたい大学の話が止まらない

 あった。この授業だ。


 机に広げた学科案内と、スマホの画面を見比べる。

 同じ名前のところを押すと、写真の下に長い説明が出てきた。


 日曜日に悠真と行った大学。

 水曜の夜になっても、机の上には、あの日もらった案内が開いてある。


 あの日は、悠真がくるみパンの半分を焼いてくれたっけ。


 チーズのパンも二人で食べて、とってもおいしかった!

 焼いたくるみパンも、端っこがかりっとしててすごかった!

 あの人に会ったら、まずそれを言いたいなぁ。


 スマホを持ち直して、説明の続きを読んだ。


 そこに暮らす人の話を聞く。

 聞いたことを持ち帰って、学生同士でも話し合う。


 写真には、地図を広げている人たちが写っていた。

 隣の人が指を置いたところを、学生さんがのぞき込んでる。


 この人は、何を教えてくれたんだろう。

 お店かな?

 よく行く場所かな?


 写真を大きくしてみたけど、地図の文字までは読めなかった。


 もう一つ下の紹介では、地域の人と学生さんが、やってみたいことを出し合っていた。

 集まりを開いたあとの話し合いも、授業に入ってる。


 終わったあともあるんだ!

 次は何をしようって、またみんなで考えるのかな?


 案内をくれた学生さんにも、聞いてみたかったな。


 福祉の制度を学ぶ授業もあって、こっちはよくわからないや。


 スマホでその授業の名前を押して、詳しい説明を出してみた。

 暮らしを支える仕組み、だって。どんな仕組みなんだろう?


 知らない言葉が、まだいっぱいある。

 あの学生さんも、こういうのを勉強してからカフェを開いてたのかな。


 案内のページを戻す。

 日曜日はパンが焼けるまで先に読んで、食べたあと、悠真と一緒に見たところだ。

 もう一回、授業の名前を目で追った。


 机の横から、もう一冊、案内を取った。

 工芸の大学の、器が並んだページを開く。


 青い縁の器、やっぱり好き。

 縁のところを指でなぞって、体験で金属を叩いたときの音を思い出した。


 これにおかずを載せたら、どんな感じかな。作ってみたいなぁ。

 椅子も、座れる大きさのものを作れるって返事をもらったし!


 工芸の案内も開いたまま、スマホへ目を戻した。

 あ、柊さんに、カフェのこと話そう。楽しかったって、お礼も言いたい!


『日曜日、交流カフェに行ってきたよ! 教えてくれてありがとう。学科の案内ももらって、今、どんな授業があるか見てるの』


 送ってから、さっきのページへ戻った。

 しばらく読んでいると、柊さんから返事が来た。


『行かれたんですね。どんな感じでしたか?』


『初めて会った人といっぱい話せたよ。パン屋さんも教わって、帰りに悠真と買っちゃった!』


 パンのことだけだと、食べに行ったみたいかな。

 もう一つ、続けて打つ。


『学生さんも地域の人と相談して、次にやることを考えるんだって。そういう授業も見つけたの』


『授業で一緒に考えるんですね。私も、この前お話しした授業を、もう少し調べてみました』


『子どもの遊びの? どんなことするの?』


 送ったあとで、ちょっと笑った。

 柊さんのほうも聞きたい。スマホを両手で持って、返事を待った。


◇


 次の日の放課後。

 鞄を肩に掛けて、悠真の席へ向かった。

 もう帰れるかな?


「悠真、帰ろ!」


「ちょっと待っててくれるか? 先生に職員室来いって言われてんだ」


「そうなの? じゃあ、ここで待ってるね!」


「おう。行ってくる」


 教室を出ていく悠真に手を振ると、後ろで鞄のファスナーを閉める音がした。

 玲奈も帰るところだ。


 あ、昨日のページ、見せたい!


「玲奈、今ちょっといい?」


「いいよ。どうしたの?」


 玲奈の机の横へ回って、鞄からスマホを取り出した。


「この前、大学のこと、また聞かせてって言ってくれたでしょ。私ね、ほかにも気になる学科ができたの!」


「へえ。どんなとこ?」


「コミュニティ福祉っていうのを勉強するところ。日曜日に、そこの大学でやってる交流カフェに悠真と行ってきたんだ」


 授業紹介を開いて、玲奈へ向ける。

 玲奈が椅子から立って、画面をのぞき込んだ。


「地域の人と学生さんが一緒に開いてるの。そこで学科の案内ももらってね、昨日ほかの授業も見てたんだ!」


「へえ。工芸とか、デザインのほうは?」


「お皿も椅子も、作ってみたいよ! 椅子はね、大学に聞いてみたら、ちゃんと座れる大きさのも作れるって返事が来たの」


「あたし、椅子作る授業って想像つかないな。持って帰れるの?」


「あ、どうだろう。持って帰れたら、座りに来て!」


 顔を上げると、玲奈が笑った。


「まず作ってからね。で、今見せたいのは?」


「こっち!」


 玲奈の腕にくっついて、スマホを二人の真ん中へ持っていく。

 昨日の、地図が写っているページだ。


「近くに住んでる人に話を聞きに行くんだって。そのあと、何ができるか考えるのも授業なの」


「カフェでやることとか?」


「そういうのも。カフェで一緒に話した人が、パン屋さんを教えてくれてね。私、パンの話ばっかりしちゃったんだけど」


「うん」


「その人、葉っぱの飾りも作ってたんだ。家でもああいうの、作るのかなって。次に会ったら聞いてみたい!」


 玲奈が画面を下へ送った。学生さんたちの活動の紹介が出てくる。


「こっちは、一緒に何かやってるね」


「うん。私も考えるところから入ってみたい。何したいですかって聞いて、私もそれやりたいってなったら、楽しそうじゃない?」


 あの机に、大きな紙を広げたら、みんなでのぞけるかな。

 私も、やってみたいことを書きたい!


「お茶飲むのでも、何か作るのでもいいし。知らないことだったら、教えてほしいし!」


「自分も参加する気、すごいね」


「するよ! 一緒に考えたら、やりたいもん」


 玲奈が小さく吹き出した。

 私も笑いながら、画面の下を押す。


「それでね、この次の写真も——」


「おーい。帰れそう?」


 入口から矢野くんの声がした。

 玲奈が顔を上げる。


「うん、帰れる」


 玲奈が机の上の鞄を持ち上げた。

 あ、もう一枚見せたかったな。


 開いた写真をのぞいていると、玲奈が画面を指した。


「続き、送っといて。あとで見るから」


「うん!」


 ページを送って、スマホを鞄にしまった。

 玲奈は鞄を肩に掛けて、矢野くんのところへ歩いていった。


「悠真は?」


「職員室。私、待ってるから、先に行ってて!」


 矢野くんが片手を上げ、玲奈も振り返って手を振った。

 二人を見送って、悠真の机の横へ戻った。


 ……もう一回、見ちゃお。

 スマホを取り出して、さっき送ったページを開いた。

 私もこの中に座って、話してみたいな。


◇


「悠真、お皿、ここでいい?」


「おう」


 土曜日の夕方。台所で二人分の皿に鶏肉をよそって、白いソースもかけた。

 味を確かめ終えた悠真が、使ったスプーンを流しに置く。


「よし。いいと思う」


「早く食べよ! 私、ずっと匂い嗅いでた」


「俺も。腹減った」


 料理本を閉じた悠真と、食卓へ皿を運ぶ。

 向かい合って手を合わせてから、お肉を一口食べた。


 あ、おいしい。

 ソースも、もうちょっとつけたい。


「これ、好き! ご飯にも合うね」


「だな。ソース、もう少し残しとけばよかった」


「次に作るときは、ソース多めって書いとこ!」


「食ってからな。まだ熱いうちに食いたい」


 悠真が笑って、もう一口食べる。

 私もお肉にソースをつけた。


「私ね、今日、悠真が来る前に、部屋で大学の案内を見てたの」


「日曜にもらったやつ?」


「うん。あと、工芸とデザインのほうも。椅子の写真も、もう一回見た!」


「実物も作れるって言ってたとこか」


「そう。自分で作ったのに座れるって、やっぱりいいなぁって。背もたれとか、何回も変えてみたいし」


 ご飯を一口食べる。

 悠真も食べながら、うなずいた。


「でも、そのあと、日曜日の大学の授業を見てたらね。私も、あの学生さんたちがやってること、やってみたくなったの」


「ああいう集まりを開くこと?」


「うん! 来てくれる人と、何をするか相談するところから。終わったあとに、どうだったって話すのも」


 悠真が顔を上げた。


「一緒に考えるって言ってたもんな」


「うん。何してみたいですかって聞いて、知らないことだったら、一緒に調べてみたい。私もやりたいってなったら、どうしたらできるか、みんなで考えたいし」


 あの机に、また集まって。

 この前の続きなんだけど、って話せたら楽しそう。


「お皿も椅子も、今も作ってみたいんだけどね」


「うん」


「今日、案内を見比べてて、思ったの。私、大学では、コミュニティ福祉を勉強したい」


 言うと、少しどきどきした。

 悠真が箸を置いて、こっちを向く。


「日曜の大学に行きたいってこと?」


「うん。コミュニティ福祉のほう」


 私も箸を置いた。


「またあのカフェに遊びに行くのも、楽しみなんだけどね」


「うん」


「私も、あの学生さんたちみたいに、人の話を聞いたり、調べたりして、何ができるか考えてみたい。そういうことを、大学で勉強したいの」


 悠真の顔を見て、うなずく。


「私、あの大学に行きたい」


 悠真が、ゆっくり笑った。


「そっか。いいな」


 その声を聞いたら、私の頬も緩んだ。


「あとさ、俺も気になる。あの会、終わったあとにどんな話してんのか」


「ね! 次にすること、もう出てたりするのかな」


「パン教えてくれた人にも、また会いてえな」


「うん! おいしかったって、早く言いたい!」


「次のおすすめも聞いとくか」


「じゃあ、帰りにまた買お!」


「聞く前から買う気かよ」


 楽しそうな顔をしてる。

 私も、あの日の続きが話したくなった。


「それでね、話の聞き方も授業でやるんだって。どんなことするんだろう? 同じ人に聞いても、私と悠真じゃ聞きたいこと、違ったりするよね」


「へえ。話を聞く練習もすんの?」


「うん。聞いたことをどうまとめるか、とかも。そこ、もっと読んでみたいの。案内、あとで持ってくるね」


「おう。……お前がやってみたいって言ってたとこ、教えてくれよ」


 嬉しくて、食卓の向こうへ身を乗り出した。


「うん。いっぱいあるよ!」


「一個ずつな。まとめて言われても覚えらんねえから」


「じゃあ、何回も話すね!」


「聞くよ」


 悠真が、私を見たまま言った。


「入ってからの話も、聞きたいしな」


 胸のあたりが、きゅっとした。

 春になったら、私は大学へ行って、悠真は料理を勉強しに行く。


 知らない教室で過ごしてきた悠真が、夕飯のときに、今日こんなの作ったって話す。

 私も、今日はこんな人に会ったよって、話したい。


「悠真のも聞かせてね! 私が知らない料理、いっぱい作るんでしょ?」


「俺もまだ知らねえの、いっぱいあるだろうな」


「食べてみたい!」


「俺が作れるようになってからな」


 楽しみ、と言いながら箸を取って、またご飯を食べた。

 悠真も箸を動かす。


 あ、次にこのソースを増やす話も、忘れないでおこう。

 それから、学科案内を持ってきて。


 お母さんにも、話したい。

 大学で何をしたいのか、今なら、たくさん話せる。


 お肉を食べて、悠真へ顔を上げた。


「ねえ、案内の写真に、気になるのがあってね」

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