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「この人が彼氏です!」と学園アイドルに言われたモブ、逃げられなくなる  作者: もりぞー
第二部

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第56話 悠真、クリスマスに手料理で紗月を驚かせるはずが、手編みのマフラーに撃ち抜かれる

 両手がふさがってると、坂はよけいにきつい。


 十二月二十四日の夕方。

 買い込んだ袋を二つ提げて、橘家の坂を上っている。


 息が白い。

 袋の持ち手が指に食い込んで、じわじわ痛い。


 中身は、鶏の骨つきもも肉と、じゃがいもと、ブロッコリー。あとは生クリームだのチーズだの、普段は買わないやつ。


 全部、自分で選んで、自分の財布で買ったやつだ。


 いつもは橘んちの冷蔵庫にあるのを使ってる。お手伝いさんが買ったやつ。

 でも今日くらいは、これでいきたかった。


 坂の途中で、いったん荷物を持ち直す。

 手のひらに食い込んだあとが、じわっと痛い。


 肩にかけた鞄の底に、小さい箱が一個、入ってる。

 ラッピングしてもらったやつ。中身は、髪につけるアクセサリだ。


 駅前のモールで散々びびって、結局買えなくて、商店街のちっこい雑貨屋で見つけたやつ。

 値段は、財布が泣くほどじゃなかった。


 店の姉ちゃんに「彼女さんへ?」って訊かれて、なんか変な汗をかいたのは、もう忘れることにする。


 ……これでよかったのか?


 歩きながら、また考える。


 飯なんて毎日作ってる。クリスマスだからって、急にうまくなるわけでもない。

 アクセサリだって、似合うかどうか、正直、自信はない。


 ——けど、それはもう昨日のうちに腹くくったろ。


 立ち止まって、自分にツッコむ。


 値段じゃねえし、釣り合うとか釣り合わないとかでもねえ。選んだもんは選んだんだ。それでいい。


 よし、と短く息を吐いて、また足を出す。


 いつもの坂が、今日はやけに長い。


 やっと、坂の上に、橘家の門が見えてきた。



 チャイムを押す前にドアが開いた。


 これも、もう毎日だ。


「いらっしゃ——わっ、すごい荷物!」


 紗月が、目を丸くして俺の手元を見てる。


「半分持つ! 貸して貸して!」


「……ん。じゃあ、こっち」


 片方の袋を渡すと、紗月が両手で抱えて、中をのぞき込む。


「えっ、これ全部今日の?」


「おう」


「悠真が、ぜんぶ用意してくれたの?」


「……まあな。商店街で買ってきた」


 そう言うと、紗月が袋を抱えたまま、ぱっと顔を輝かせた。


「うれしい! なんか、うれしい!」


「荷物持ちながら飛ぶな、落とすぞ」


 通されたキッチンは、相変わらず広い。アイランドってやつ。


 窓の外はもう暗くて、坂の下のほうで、どこかの家のイルミがちかちか光ってるのが見えた。


 袋から食材を出して、台に並べる。

 紗月が横で、一つひとつを神妙な顔で見てる。


「これ、なに作るの?」


「ローストチキン。あと、グラタンと、スープ」


「ろ……ローストチキン!?」


 紗月が、わっと両手を口に当てた。


「すごい! お店のっ。ちゃんとしたやつ!」


「ちゃんとしたやつって何だよ」


「えっと、なんかこう、骨ついてて、足にひらひらついてるやつ!」


「ひらひらは、ねえな」


 あれは店の演出だ。そこまではできねえ。


 でも、まあ、骨つきは買った。

 いつもの親子丼とか豚汁とは、ちょっと違うやつにしたかった。


 鶏に塩と胡椒をすり込んで、にんにくをすり込む。

 オーブンの予熱を入れて、紗月にじゃがいもを渡す。


「皮、剥けるか」


「剥けるよ。ピーラーでしょ!」


「指、剥かないようにな」


「わかってるってば!」


 紗月がピーラーを構えて、じゃがいもと格闘し始めた。

 手つきは、まあ、危なっかしくはない。


 最近、こういう下ごしらえは任せられるようになってきた。

 みじん切りも、地味な皮むきも。


 偽物の頃、料理を教えに通ってたのが、嘘みたいだ。


「ねえ悠真、見て見て、ツルッて剥けた!」


「おう、上手」


「でしょ!」


 えへん、と胸を張る。

 ピーラー持ったまま反らすな、危ねえって。


 俺は鶏をオーブンに突っ込んで、グラタンのソースを作り始める。

 バターを溶かして、小麦粉を炒めて、牛乳を少しずつ。


 ダマにならないように、ひたすら混ぜる。


「いいにおい!」


 紗月が、また横にぴたっと寄ってきた。

 肘が、エプロンごしにかすめる。半歩、鍋のほうへずれる。


 視界の端で、紗月がちらちら棚のほうを気にしてるのが見えた。


「……飾りは、料理できてからにしろ」


「えっ、なんでわかるの!?」


「さっきから棚ばっか見てるだろ。わかりやすいんだよ」


「うっ……ばれてた」


 紗月がぴゃっと首をすくめる。


「だってクリスマスだもん。ちょっとくらい飾りたいじゃん!」


「ちょっとな。料理の邪魔にならない範囲で」


「やったー!」


 紗月が、いそいそと棚から箱を引っ張り出して、小さい飾りを並べ始めた。

 金と銀のやつとか、ちっこいツリーのオーナメントとか。


 ……まあ、いいか。こいつが楽しそうなら。


 ソースがとろっとしてきたところで、また視線を感じた。

 横を見たら、紗月がスマホを構えてた。


「ねえ、写真撮っていい?」


「は?」


「あ、もう撮った。悠真が真剣に混ぜてる顔!」


「撮ってから訊くな!」


「だってかっこよかったんだもん」


 さらっと言うな。

 手が止まるだろ。


「実況もすんなよ。集中できねえだろ」


「実況なんてしてな——あ、今、ソース味見したよ。料理人っぽい!」


「実況してんじゃねえか」


 ったく。

 こいつ、料理してるとき、いつもより十割増しでうるさい。


 けど、うるさいぶん、台所があったかい。


 いつも、自分ちで一人で作ってるときは、こんなじゃない。

 換気扇の音だけして、テレビもつけないで、淡々と作って、淡々と食う。


 ここは、ぜんぜん違う。


 紗月が鼻歌うたって、飾りつけて、写真撮って、味見して、辛いとか言って。

 オーブンからは、鶏の焼ける匂いがじわじわ広がってきてる。


 ……悪くねえな、これ。


 じゃがいもを茹でて、ブロッコリーを下茹でして、グラタン皿に並べる。

 ソースをかけて、チーズを散らす。


 そこで、紗月のスマホが鳴った。


 画面を見て、あ、と小さく声を上げる。


「玲奈だ。ちょっとごめんっ」


 そう言って、くるっと背を向けて、二、三歩離れた。


 ……またか。


 ここんとこ、こうだ。宮田と、何か内緒の話。


「うん……うん、大丈夫。もう、あとは渡すだけ——あっ」


 声が、急にしぼんだ。

 肩越しに、ちらっとこっちをうかがってくる。それから、わざとらしく明るい声に切り替えた。


「ううん、なんでもないの。こっちのこと、気にしないで」


 背中で、スマホを隠すみたいに体をひねってる。


「……うん、それじゃ、また。ばいばい」


 ぱっと通話を切って、スマホをエプロンのポケットに突っ込む。

 くるっと振り返った顔は、もう、いつもの笑顔に戻ってた。早すぎて、逆に身構える。


 渡すだけ、って聞こえた。

 ……あれ、俺に何か渡す気だな。隠すの、下手すぎるだろ。


 ……人のこと、言えねえしな。


 俺だって、鞄の底の箱のこと、一個も言ってねえし。


 グラタンをオーブンに入れて、スープを温める。

 鶏が、いい色になってきた。


「もうすぐできる。皿、出してくれ」


「はーい! ……ねえ悠真」


「ん」


「今日、すっごく楽しい」


 不意打ちで言うな。


 うまい返しが、何も出てこねえ。とっさに、視線だけ皿のほうへ逃がす。


「……まだ、食ってもいねえだろ」


「作ってる時間も、ぜんぶ楽しいの」


 にこっと笑って、紗月が皿を取りに食器棚へ向かう。


 その背中を見ながら、俺は鶏のほうに向き直る。

 手のひらで、首の後ろをこすった。なんか、そこだけ妙に熱を持ってる。


 オーブンのせい、ってことにしておく。



 六人掛けの長いテーブルに、料理を並べた。


 まんなかに、ローストチキン。横にグラタンとスープ。

 紗月が並べた金銀の飾りが、皿のまわりでちかちかしてる。


「うわぁ……!」


 紗月が、両手を組んで、料理を見下ろしてる。


 その「うわぁ」が、なんか、いつもと違った。


 親子丼のときは、「お店みたい!」って、ぱあっと声が弾けた感じだった。


 今日のは、声がうまく出てない感じだった。


 じわっと込み上げて、それを抑えてるみたいな、そんな声。


「悠真……これ、すごいよ。ほんとに、すごい」


「……そんな大したもんじゃ」


「ううん、すごいの。私のために、こんなに——」


 言葉が、途中で詰まる。

 目のふちが、ちょっと光ってた。


 ……なんで泣きそうなんだよ。


 そう思ったら、こっちまで、なんか喉のあたりがむずがゆくなる。


 エプロンを外して、椅子の背に掛ける。


「……ほら、座れ。冷めるぞ」


 いつもみたいに、紗月が当たり前の顔で、俺の隣に座る。

 六人掛けなのに、隣に座る紗月の腕が、すぐそこにある。


 二人ぶんの料理と、二つのグラス。

 お手伝いさんが用意してくれてたっていう、ノンアルのシャンパンみたいなやつを、グラスに注ぐ。


「えっと……メリークリスマス?」


 紗月がグラスを掲げて、ちょっと首をかしげる。


「……メリークリスマス」


 軽く、グラスを合わせた。

 ちん、と小さい音がして、それが、しんとした広い家に響いた。


「いただきます!」


 紗月が、チキンに思いっきりかぶりついた。


 行儀とか、どっか行ってる。

 でも、その食いっぷりが、こいつらしい。


 一口食べて、目をまんまるにして、もぐもぐして、それから、ぱっと顔を上げる。


「……んんっ、おいしいっ! なにこれ、お肉やわらかい!」


「そりゃどうも」


「中までちゃんと味してる。すごい、ほんとにすごい!」


 大げさだ。


 けど、頬を膨らませて、目を細めて食ってるのを見てると、まあ、気合入れて作ってよかったと思う。


 俺も一口、食う。


 皮はパリッとして、中はジューシー。塩加減も、まあ、悪くない。

 グラタンも、チーズがとろっとして、ソースもダマになってなかった。


 ……うん。今日のは、ちょっと、いつもより気合入っちまったな。


 毎日の親子丼や豚汁とは、別物だ。

 手間もかけたし、自分で食材も選んだ。


 その分、ちゃんと、うまい。


 ふと隣に目をやると、紗月が、料理と俺を交互に見ながら、ずっとにこにこしてる。


 広いダイニング。

 いつもは、こいつが一人で飯を食ってる席だ。


 でも、今日は二人だ。

 二つの箸の音がして、紗月の「おいしい」が止まらない。


 それだけのことが、やけに、沁みる。


「ねえ悠真、来年もやろうね、これ」


「気が早いな。まだ今年のクリスマス、終わってねえぞ」


「えへへ、そうだけど。でも、ぜったいやろう」


「……まあ、考えとく」


「やったー!」


 考えとく、で、こんなに喜ぶなよ。



 食い終わって、皿を片付けたあと。


 紗月が、急にそわそわし始めた。


 立ったり座ったり、服のすそを押さえたり。

 さっきから、目が泳いでる。


「……お前、どうした。さっきから挙動が」


「えっ、な、なんでもない!」


「なんでもないって顔じゃねえだろ」


「あの、えっと……悠真」


 紗月が、すーっと息を吸って、覚悟を決めた顔になった。


「私から、渡したいものがあって!」


 そう言って、ぴゅっと部屋を出て、二階のほうへ駆けていった。


 ……渡したいもの?


 ああ、やっぱりか、と思った。

 ここんとこの、宮田との内緒の相談ってのは、これだったわけだ。


 じゃあ、こっちのタイミングも、今だ。


 俺は、さっき足元に下ろしておいた鞄に手を伸ばす。


 戻ってきた紗月が、両手で、きれいにラッピングされた箱を抱えてた。

 俺は俺で、鞄の底から、小さい箱を引っ張り出してる。


 目が、合った。


 紗月が、俺の手元の箱を見て、ぴたっと動きを止めた。


「……え」


 俺のほうは、たぶん「ほらな」って顔になってる。


「えっ、悠真も、用意してたの!?」


「おう。お前が、なんか企んでる気はしてた」


 紗月が、ぽかんと口を開けて、固まってる。


 お互い、相手に内緒で、相手のために。

 そういうとこ、似た者同士なんだろうな。


「せ、せーので渡す?」


 紗月が、頬を赤くして言った。


「……おう」


「せーの!」


 二人で、同時に箱を差し出して、同時に受け取る。


 俺の箱を、紗月が、わくわくした顔で開ける。

 俺も、紗月の箱の包みを、解く。


 紗月のほうから、先に声が上がった。


「わあっ……髪飾り! かわいい!」


「……似合うか、わからんけど」


「これ、私に似合うかな……えへへ、うれしい、毎日つける!」


 紗月が、さっそく箱から出して、髪に当ててる。

 はしゃいでる紗月を、見るともなしに見ながら——俺は、自分の手元の包みを、最後まで解いた。


 中から出てきたのは。


 ……マフラーだった。


 紺色の、毛糸の。


 受け取って、広げる。


 編み目が、ところどころ大きさが違う。端っこが、ちょっとよれてる。


 手で、編んだやつだ。


「……これ」


「えへへ……私が、編んだの」


 紗月が、急に小さい声になった。

 箱を抱えたまま、上目遣いで、こっちをうかがってる。


「玲奈に、編み方教えてもらって。ずっと、内緒で練習してたの」


 宮田と内緒の相談。


 あれは、これだったのか。


「初めて編んだから、下手っぴで……ほんとは、もっとちゃんと作りたかったんだけど」


 紗月が、もじもじしながら、早口になる。


「でも、買ったやつじゃなくて、自分で作りたくて。悠真、毎日ご飯作ってくれるから、私も、なんか、手で作ったの、渡したくて——」


 マフラーを、握る。


 毛糸が、思ってたより、やわらかい。

 手のひらに、じんわり、あったかい。


 よれた編み目が、こいつが何時間もこれと格闘してたんだろうな、って、なんか、伝わってくる。


 胸の奥を、ぐっと掴まれた。


 何か言おうとしたのに、声が出ない。


 ……ずるいだろ、これ。


 こっちは、店で買ってきたアクセサリ一個なのに。

 お前は、これを、何日もかけて、自分の手で。


 でも、と思う。


 こっちだって、料理を、食材から自分で選んで、自分の手で作った。

 お前は、マフラーを、自分の手で編んだ。


 ——やってること、根っこは、まるっきり同じじゃねえか。


 不意打ちすぎる。


 顔が、熱い。耳まで、たぶん、まっか。


「……不意打ちすんな、っての」


 やっと出たのが、それだった。


「えっ、ど、どうしたの!? 顔、赤いよ!?」


「うるせえ。誰のせいだと思ってんだ」


「私!?」


「他に誰がいるんだよ」


 マフラーを握ったまま、顔を背ける。

 でも、紗月が、ぱっと立ち上がった。


「ねえ、つけてみて。似合うか見たい!」


 そう言って、紗月が、俺の首に、そのマフラーを巻きつけてきた。


「お、おい、自分で——」


「はい、できた。えへへ、似合う!」


 巻かれたマフラーが、首元で、もこっとしてる。

 不格好な編み目の、ちょっとちくちくする毛糸が、肌に触れる。


 でも、あったかい。

 紗月の手が触れてた分、よけいに。


 至近距離で、紗月が、にこーっと笑ってこっちを見上げてる。

 その顔が、近い。


 近い、って思った瞬間。


 ちゅ、と。


 頬に、やわらかいのが、触れた。


「……っ」


 固まる。


 紗月が、ぱっと体を離して、自分でも顔をまっかにしてる。


「めっ、メリークリスマス!」


「……お前」


「だ、だって、うれしかったから!」


 うれしかったから、で、頬にキスすんな。

 心臓に悪いだろ。


 ……いや、もう、何も言えねえ。


 マフラー巻かれて、頬にキスされて、こっちはもう、完全に、撃ち抜かれてる。


 頬に残った熱と、首元のあったかさが、両方いっぺんに効いてきて、どうしようもない。


「……ったく」


 それしか、出てこなかった。


 紗月は、もう、満面の笑みだ。

 もらった髪飾りを、ぎゅっと両手で握りしめてる。


 その顔を見てたら、一言くらいは、ちゃんと言っとくべきだと思った。


 巻かれたマフラーを、ぎゅっと握り直す。


「……これ、大事にする。ありがとな」


 そっぽを向きながら、絞り出すみたいに、それだけ言った。


 紗月が、ぱあっと、いっそう顔を輝かせる。


「……うんっ!」



 夜の坂を、下りていく。


 首には、紗月が巻いてくれたマフラーが、そのまま。

 白い息が、首元のすぐ上で、ふわっとのぼって消える。


「……あったかいな、これ」


 誰もいない坂道で、ぼそっと、独り言が出た。


 毛糸は不格好で、ちょっとちくちくする。

 でも、いつものマフラーより、ずっとあったかい気がする。


 たぶん、気のせいじゃない。


 明日からこれ巻いて学校行ったら、矢野になんか言われるんだろうな。

 ……まあ、いい。言わせとけ。


 ローストチキンは、思ったより、うまくできた。

 あいつ、あんなに喜ぶなら、また作ってやってもいいかもな。


 来年も、とか言ってたし。


 ……まだ今年も終わってねえのに、気が早いっての。


 でも。


 気合入れて、損は、なかったか。


 商店街で食材選んで、慣れない料理に半日かけて、似合うかわからんアクセサリで散々悩んで。

 そんで、お返しが、手編みのマフラーと、頬へのキス一発。


 ……釣り合いとかじゃねえ、って決めたのに——どう考えても、こっちのもらいすぎだろ、これ。


 なのに、なんでこんな、悪くない気分なんだか。


 マフラーに、ちょっとだけ顔をうずめる。


 毛糸のにおいに、ほんのり、紗月んちの匂いが混じってる気がした。


 ……気のせいだ、たぶん。


 白い息が、坂の下の街灯に向かって、まっすぐ流れていった。


 メリークリスマス、か。



 悠真を見送ったあと、私は、自分の部屋に戻った。


 ベッドに、ぽすんと座る。


 もらった髪飾りを、てのひらに乗せて、ずっと見てる。


 悠真が、私のために選んでくれたやつ。


 ……毎日つけよう。学校にも、どこにも。


 頬っぺた、ちょっと勢いでいっちゃったけど。

 ……後悔は、してない。だって、好きなんだもん。


 ふぅ、と息をついて、髪飾りを、そっと枕元に置く。


 ちっちゃい頃のクリスマスは、この広い家で、一人で、ケーキの箱だけ開けてた。

 誰もいなくて、テレビの音だけしてた。


 でも、今日は、違った。


 二人ぶんのお皿が並んで、笑い声がして、ぜんぶ、あったかかった。


 誰かと過ごすクリスマスって、こんなにあったかいんだ。


 ……知らなかったな。


 胸の奥が、いっぱいで、ちょっと泣きそう。


 ——ずっと、こんな日が、続けばいいな。

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