表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「この人が彼氏です!」と学園アイドルに言われたモブ、逃げられなくなる  作者: もりぞー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/29

第28話 モブ、学園アイドルに「来なかったら意味ないじゃん」と言われて返信できなくなる

 教室が、うるさい。


 始業式が終わって五分。席に戻った途端、あっちでもこっちでも夏休みの話が始まっている。誰が日焼けしただの、誰が髪切っただの。


 俺は——何も変わってない。

 ……変わってないってことにしておく。


「水野ぉ!」


 藤川が突進してきた。


「夏休みどうだった? 橘さんとどっか行った?」


「行ってない」


「嘘だぁ」


 中村が後ろから顔を出した。


「水野くん、ちょっと日焼けしてない?」


「してない」


「してるよ。ねえ藤川」


「してるしてる! 海とか行ったんだろ!」


 海には行った。認めたら芋づる式に全部掘り返される。


「だから行ってねえって——普通だよ普通」


「ねえ矢野、水野って夏休み何してたの?」


 藤川が矢野に振った。

 振るなそっちに。


 矢野は隣の席で頬杖をついたまま、こっちをちらっと見た。


「本人に聞けよ」


 パス。しかも全力で俺に投げた。


「だから普通だって——」


「普通だったんだろ?」


 矢野が言った。半目。口元が微妙に上がってる。

 分かってるくせに、やめろその顔。


「水野の『普通』って全然信用できないんだけどさぁ」


 藤川がケタケタ笑った。


「赤くない? 顔」


 中村が小声で追撃してきた。


「赤くない」


「赤いって」


 チャイムが鳴って、担任が教壇に立った。


「はい、席に着いて。HR始めます」


 藤川と中村が席に戻っていく。


 矢野は何も言わずに前を向いた。

 とりあえず助かった……。


 HRの連絡が一通り終わったところで、担任が黒板に大きく書いた。


「文化祭の出し物、今日決めるぞ。候補ある人いるか?」


 声のでかいやつが勝つ会議が十分ほど続いて、2-Bは焼きそばに決まった。


 焼きそばか。まあ、楽でいい。



「メイド喫茶、本格的に動き出したよ!」


 昼休み。屋上。


 橘が弁当箱を開けながら言った。隣で宮田がおにぎりの包みを剥がしている。

 矢野はフェンス際に座って、ガチャを回してる。


「今日のHRでね、衣装をどうするか話し合ったの! レンタルと手作りで揉めたんだけど、結局レンタルベースで小物だけ手作りにしようってなった!」


「ふーん」


「あと、看板娘の衣装だけちょっといいの借りよう、ってクラスの子が言ってくれて——」


「それ紗月が押し切ったんでしょ」


 宮田が突っ込んだ。


「押し切ってないよ! みんなが言ってくれたの!」


「はいはい」


 橘が卵焼きをつまんで続ける。


「でね、メイド服にも種類があって——ねえ悠真くん」


 振るなよ。


「クラシックメイドとフレンチメイドだったら、どっちが好き?」


「——っごほ! ごほ!」


 むせた。

 何言ってんだこいつ。


 メイド服の違いなんて知らねえけど、橘が……着るのか。

 ダメだ、想像すんな。


「知らねえよ」


「えー、どっちか選んでよ! 参考にしたいの!」


「何の参考だよ」


「だって見に来るでしょ?」


 ……なんでそう、当然みたいに聞くんだよ。


「まだ決めてない」


「えー、来てよ! 悠真くんが来なかったら意味ないじゃん!」


 なんで俺一人が来ないと意味がないんだよ。


「なに、水野の好みの格好にしたいの?」


 宮田がニヤニヤしながら橘に聞いた。


「そんなんじゃ、ない、けど……」


 橘が詰まった。珍しい。


「ないならなんで聞くのよ」


「だって、せっかくだし……」


「せっかく、ね」


 宮田がこっちを見た。目が「聞いた?」と言ってる。


 聞いてない。聞こえてない。


「……俺に振るな」


 矢野がポテチの袋を開けた。半目でこっちを見てる。

 その顔、やめろ。


「むー。じゃあ自分で決める! クラシックにする! ロングスカートで白いエプロンのやつ」


 ——白いエプロンの橘が、浮かんだ。


 だから想像すんなって!


「あ、でもフレンチも捨てがたいなぁ。膝丈のスカートで——」


「文化祭の準備の話しろ」


「してるよ? メイド服の話、文化祭の準備だよ?」


 ……正論だった。


 何とかして話題を変えようと考えていたが、ふと、スマホの通知を思い出した。

 LINEグループに委員長から連絡が来てたんだった。


「あ、俺今日放課後、装飾班の集まりあるわ」


「えー! じゃあ今日一緒に帰れないじゃん!」


 橘が口をとがらせた。


「しょうがないだろ。文化祭まであと一ヶ月ないんだから」


「……わかった。じゃあ終わったらLINEしてね?」


「ああ」


「ぜったいだよ?」


「わかったって」


 矢野がポテチをかじりながら、何も言わなかった。

 こいつが黙ってるときは——もう何も考えたくない。



 放課後。


 階段を降りる。三階から二階へ。

 一年のフロアを通って、渡り廊下に向かう。


 教室の前を通りかかったとき、声が聞こえた。


「——橘先輩の彼氏——」


 ……一年にまで広がってんのかよ。


 気にせず歩いた。

 渡り廊下に出ると、九月の風がまだ暑かった。


 視聴覚室に入ると、夏休みに何回か顔を合わせたメンバーがぽつぽつ集まっていた。


 委員長が前に立つ。


「二学期もよろしく。今日はスケジュール確認だけだから、さくっと終わらせます」


 プリントが配られた。来週から制作開始。

 看板デザインは決まってるから、次はアーチと装飾パネルか。

 作業日は毎週火曜と木曜の放課後。


 ……週二回。結構あるな。


 火曜と木曜の放課後は、ここに来ることになる。

 ……橘と帰れない日が増えるな。まあ、いいけど。


「担当パートの希望は来週までに出して。じゃ、今日は以上」


 十五分で終わった。


 視聴覚室を出て、スマホを開いた。


 橘からLINEが来ていた。


『今日どうだった?? 早く終わった??』


 二学期の始まりからこれかよ。


『今出た』


『はやい! ねえねえ、エプロンの色って白と黒どっちがいいと思う??』


 まだメイド服の話してる。


『好きにしろ』


『えー!! ちゃんと選んでよ!! 見に来るんでしょ??』


 ——見に来るんでしょ。


 来るとは言ってない。

 まだ言ってない。


 でも「行かない」とは打てなかった。


 返信しないまま、スマホをポケットに突っ込んだ。


 震えた。


『楽しみにしてるからね!!』


 ……勝手に確定すんなよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ