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「この人が彼氏です!」と学園アイドルに言われたモブ、逃げられなくなる  作者: もりぞー


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第23話 モブ、「楽しみにしてるからね!!」のビックリマーク二つがしばらく消えない

 昼休み。屋上。


 終業式まであと二日。

 テストが終わり、プールが終わり、あとは夏休みを待つだけ——のはずだった。


「お前、マジでクジ引いたのか」


 矢野がポテチをつまみながら言った。


「引いたんじゃねえ。引かされたんだよ」


 今朝のHR。文化祭の実行委員、各クラスから一人。

 担任が「立候補いないならクジな」と言った瞬間、教室がしんと静まった。

 で、俺が引いた。


「持ってるな、悠真」


「何も持ってねえよ」


「ハズレくじを引く才能は持ってるだろ」


「それ褒めてないからな?」


 矢野が小さく笑って、ポテチを口に放り込んだ。


「えー、悠真くん実行委員なんだ!」


 橘が弁当の卵焼きをほおばりながら、目を丸くした。


「笑い事じゃないんだけど」


「笑ってないよ! すごいじゃん!」


「何がすごいんだ。クジだぞ」


「だって、文化祭の実行委員って色々決めるんでしょ? かっこいい!」


 かっこよくない。クジだって言ってるだろ。


「紗月、あんたも大変でしょ? メイド喫茶の」


 宮田が箸を止めずに聞いた。


「そう! 先週決まったんだー」


「看板役じゃん」


「推薦されちゃった、えへへ」


 橘が、にへっと笑った。


 ……メイド喫茶。橘がメイド服。


 ——想像するな。


「悠真くん?」


「なんでもない」


 矢野がポテチの袋越しにこっちを見た。

 目が笑ってる。


 何も言うな。


 橘が弁当の蓋を閉めながら、ふと聞いてきた。


「ねえ、実行委員って放課後なの?」


「今日初会合。特別教室棟の一階だってさ」


「じゃあ悠真くん、今日は一緒に帰れないんだ」


 橘が、ちょっとだけ口をとがらせた。


「一日くらい大丈夫だろ」


「わかってるけどー」


「わかってるなら何でとがってんの」


 宮田が涼しい顔で突っ込んだ。


「とがってない!」


 とがってた。


 予鈴が鳴った。


「あ、もう時間。悠真くん、放課後がんばってね!」


 橘が立ち上がって、弁当箱を鞄に戻す。


「終わったらLINEしてよね!」


「……はいはい」


 橘と宮田が先に屋上から降りていった。

 いなくなると、いつもの静けさが戻る。


「悠真」


「何」


「文化祭、楽しめよ」


「……努力はする」



 放課後。特別教室棟の一階、視聴覚室。


 机がコの字に並べられていて、前にホワイトボードが一つ。

 半分くらい席が埋まっていた。知らない顔ばっかりだ。特に1年は誰が誰だかわからない。

 適当に空いてる席に座った。


 しばらくして、3年の先輩が前に立った。

 腕章をつけてる。実行委員長らしい。


 ……なんで俺、ここにいるんだ。

 本当なら今頃、矢野と帰ってるか、橘にLINEで呼び出されてるかのどっちかだ。


「はい、始めます。文化祭実行委員会の第一回です。最初に自己紹介から。——そっちの端から順にお願いします」


 一人ずつ、クラスと名前を言っていく。

 俺の番が来た。


「2年B組、水野です」


 短く言って、座る。

 周りの何人かが、ちらっとこっちを見た気がした。

 ……どうせ「橘の彼氏」だろ。もう慣れた。


 自己紹介が一巡して、委員長が配布資料を回し始めた。


 が、プリントが人数分足りなかったらしい。1年の方がざわつき始めた。

 「え、足りないの?」「どうする?」と小声が飛び交っている。


「大丈夫、私がコピーしてきます」


 1年の女子が、席を立った。ショートボブの、小柄な子。

 隣の子からプリントを一枚借りて、足りない人数を指折りで確認してから、「すぐ戻ります」と委員長に声をかけて教室を出ていった。

 他の1年がおろおろしてる中で、一人だけ動いてた。


 しっかりしてるな、あの1年。


 プリントが行き渡ったところで、委員長が部門の説明に入った。

 ホワイトボードに「企画」「装飾」「広報」「会場」と書かれている。


「希望がある人は手を挙げてください。希望がない人はクジで」


 さっきの1年が「装飾」に手を挙げた。他にも何人か手が挙がる。


 俺は——正直、どこでもいい。

 どうせクジで来たんだ。希望もクソもない。


 手を挙げなかった残りがクジになった。

 紙を引く。


 ——装飾。


 ……またクジかよ。


 初回の会合はそのまま、夏休みの作業日の日程を確認して終わった。


「次回は夏休みの作業日に。今日はこれで」


 委員長がホワイトボードを消しながら言った。

 周りの委員が鞄を持って立ち上がる。


 帰ろうとしたところで、担当の先生が机の端に積まれた資料を指した。


「これ、職員室に戻しておいてもらえる?」


 今日の説明で使った参考資料らしい。前年度の報告書とか、装飾の規定をまとめたファイルとか。クリアファイルが二冊と、プリントの束。


 周りを見る。他の委員はもう出口に向かっている。


「私が戻します」


 さっきのショートボブの1年が、迷いなく立ち上がった。

 そのまま両腕で資料の束を抱え上げる。


 先に教室を出ていった。


 俺は鞄を肩にかけて、のろのろ視聴覚室を出た。


 特別教室棟から本館に戻るには、渡り廊下を通る。

 この先を行けば昇降口だ。さっさと帰ろう。


 渡り廊下を歩いていたら、前に誰かいた。

 さっきの1年だ。資料を抱えたまま、ゆっくり歩いてる。

 クリアファイルの上に乗せたプリントが、歩くたびにずるずる滑っていく。


 ——落ちる。


 反射だった。


 横に出て、滑りかけたプリントごとクリアファイルを片手で押さえた。そのまま束の上半分を引き取る。


「あっ——」


「ああ、落ちそうだったから」


 1年がこっちを見上げた。

 なんか驚いた顔してる。


「大丈夫です。自分で運べますので」


「もう持ってるし。職員室、この先だろ?」


「……はい」


 二人で渡り廊下を歩いて、本館に入った。

 1年は半歩くらい後ろにいる。


 本館一階の廊下。昇降口の前を通り過ぎる。


 ここで「じゃ」って渡せば帰れる。帰れるのに、足が止まらない。

 途中で荷物だけ渡して帰るのも、なんか中途半端だし。


 しばらく、無言。


「あの……先輩は、なんでですか?」


「何が」


「わざわざ、手伝ってくれなくても……」


「落ちそうだったろ。それだけだ」


「……」


 職員室に着いた。

 ドアを開けて、先生の机の横に資料を戻す。


 廊下に出る。

 1年がこっちを向いて、小さく頭を下げた。


「ありがとうございました」


「おう」


 それだけ言って、俺は昇降口の方へ引き返した。


 数歩いったところで、後ろから小さい声が聞こえた気がした。


「……変な先輩」


 ん?


 振り返ろうとしたところで、ポケットの中のスマホが震えた。


 橘からのLINE。


『実行委員おつかれ! 終わった??』


『夏休みのプール、ちゃんと予定空けといてね!!』


 ……こいつ、まだ覚えてたのか。

 っていうか、プール。また、水着。


『終わった。空けるもなにも何も入ってねえよ』


 送信。

 既読がつく前に、もう一通。


『やった! 楽しみにしてるからね!!』


 ビックリマーク二つ。いつもの橘だ。


 スマホをポケットにしまって、昇降口に向かう。


 さっきのビックリマーク二つが、なぜかしばらく頭から消えない。


 ……夏休み、か。

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