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「この人が彼氏です!」と学園アイドルに言われたモブ、逃げられなくなる  作者: もりぞー
第二部

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第101話 紗月、悠真の家族と大晦日を過ごす

「大晦日、うち来ないか?」


 お皿を拭いていた手を止めて、悠真を見た。


「悠真のおうち?」


「おう。紗月呼んで、一緒に晩飯食おうと思って。母さんたちにも話してある」


「行きたい!」


 持っていたお皿を棚に戻して、悠真のそばへ行く。


 クリスマスが終わって、もう何日か。

 今日も私のおうちで、悠真とご飯を食べたところ。


「お母さんも、お父さんもいるの?」


「いる。食ったあとも、ちょっとゆっくりしてけばいいし」


「うん! あ、お父さんに会うの、初めてだ」


「そうだな。……親父、だいたいテレビ見てるだけだけど」


「じゃあ、一緒に見たい!」


 悠真が洗い終えたお皿を、水切りかごに置いた。


「……今年は、お前と一緒にいられたらと思って」


「うん。私もいたい!」


 去年、悠真のおうちにはみんないるって聞いて、いいなあって思った。

 今年は、私も一緒にいられるんだ。

 えへへ。早く大晦日にならないかな。


 悠真が帰ったあと、お母さんに話した。


「夜の十時ごろに、悠真のおうちを出るの。帰りは悠真が送ってくれるって」


「悠真くんも、年が明ける前には帰れるの?」


「うん。大丈夫だって!」


「分かったわ。帰ったら連絡してね。お母さん、まだお店かもしれないから」


「うん!」


「ご両親にも、よろしくお伝えして。……紗月、嬉しそうね」


「楽しみ! ご飯のあとも、みんなで過ごしていいんだって」


 お母さんが少し笑って、手元の予定を確かめた。


「元日の朝なら、お店へ出る前にゆっくり話せそう。悠真くんのおうちでのこと、聞かせてね」


「話す! お母さんも、お店のこと聞かせてね?」


「ええ。楽しみにしてるわ」


◇


 大晦日。

 悠真とマンションの階段を上がって、三階の玄関の前に立った。


 淡いピンクのマフラーから、顔を出す。

 お母さんには、また会える。お父さんには、初めまして。


 ちゃんと挨拶しよう。


「ただいま」


 悠真が開けてくれたドアから、暖かい空気が出てきた。


「お邪魔します!」


「いらっしゃい、紗月ちゃん。寒かったでしょう」


 廊下の奥から、お母さんが出てきた。

 前に会ったときと同じ声で、にこっと笑ってくれる。


「こんばんは。今日はありがとうございます!」


「こちらこそ。どうぞ、上がって」


 靴を脱いで揃えていると、奥でもう一つ、足音がした。

 顔を上げたら、悠真のお父さんがいた。


「……あ、初めまして。橘紗月です」


 背筋を伸ばして、頭を下げる。

 顔を上げても、すぐには声が返ってこなかった。


 お父さんの目が、ぱっと大きくなっている。

 私を見て、それから隣の悠真を見た。


 あれ。えっと、何か、もう一つ言ったほうがいいかな。


「親父。挨拶」


「……ああ。いや、驚いた」


 お父さんが私へ向き直る。


「こんなに可愛い子が来るとは思ってなくてな」


「えっ」


 頬が、急に熱くなった。


「えっと……ありがとうございます」


 お父さんへ返事をすると、横でお母さんが笑った。


「私も、初めて会ったとき驚いたもの」


「母さんまで。玄関で二人して言うなよ」


「ああ、そうだな。どうぞ。寒いところに立たせて、悪かったね」


 お父さんが一歩横へ寄って、廊下を空けてくれた。


「いえ! お邪魔します」


「さっきも言ったぞ」


「……あ、そっか!」


 悠真と顔を見合わせたら、笑っちゃった。

 お父さんも、口の端を少し上げている。


 リビングへ入って、コートを脱ぐ。

 マフラーと一緒に畳んで鞄の上へ置くと、お母さんが台所から呼んでくれた。


「紗月ちゃん、お茶飲む?」


「はい、飲みたいです!」


「悠真、そこの湯呑み取って」


「これ?」


「そう。四つね」


 悠真が棚を開けて、お母さんに湯呑みを渡す。

 私もそばへ寄った。


「運びます!」


「じゃあ、お盆ごとお願いしようかしら」


「はい!」


 四つの湯呑みを乗せて、テーブルへ持っていく。

 椅子を引いていたお父さんが、私の手元を見て、テーブルの上のリモコンをよけてくれた。


「ここに置けるよ」


「ありがとうございます。お父さんの、こっちでいいですか?」


「ああ。ありがとう」


 湯呑みを配ると、悠真が隣の椅子を引いた。


「ちょっと待っててな。そば、すぐできるから」


「うん。私、ほかにも運ぶものある?」


「天ぷらの皿、頼む」


「はーい!」


◇


「いただきます!」


 私の向かいにお母さん、その隣にお父さん。悠真は私の隣で箸を取った。

 真ん中のお皿には、天ぷらが並んでいる。


 おそばの湯気に、顔がほわっと暖かい。

 少し持ち上げて、ふうふう冷ましてから食べた。


「おいしい!」


「よかった。天ぷらも取ってね」


「はい!」


 かぼちゃを取っていると、お父さんが悠真のほうへ手を出した。


「七味、取ってくれ」


「ほら」


 悠真が小さな瓶を渡す。

 お父さんは蓋を開けて、おそばに振りかけた。


「あ、俺も使う」


 瓶を置きかけたお父さんが、そのまま悠真に返した。


「先にかければよかっただろ」


「今見て、かけたくなったんだよ」


「かけすぎないでよ。二人とも」


 お母さんが、自分の海老を小皿へ取る。


「そんなかけてねえって」


 悠真が瓶を置くと、お父さんもうなずいた。


 ふふっ。こういうところ、似てるんだ。


「紗月、七味使うか?」


「私は、今のままがいい!」


「おう」


 悠真がまたおそばを食べる。

 私もかぼちゃを一口かじった。甘くて、おいしい。


 お母さんがお父さんに何か言うと、悠真も顔を上げる。

 悠真に聞かれたことに、お父さんが答える。

 私もそっちを見ていると、お父さんと目が合った。


「普段は、どんなもの作ってるんだ」


 お父さんは、私と悠真を順番に見た。


「そっちの家で」


「色々。冷蔵庫見て決めることもあるし」


「この前は、チキンとグラタン作りました! クリスマスに」


「あら、いいわね」


 お母さんが箸を止めたので、私も顔を上げた。


「ケーキも! 二人で作ったんです」


「ケーキもなの?」


「はい。苺並べるの、楽しくて。……早く食べたくなっちゃいましたけど」


「しまうとき、ずっと見てたもんな」


「悠真も見てたよ!」


「見てた。俺も食いたかったし」


 悠真が笑ったので、私も笑う。

 お母さんも、そばの器を持ったまま笑っていた。


「二人で作って、二人で待ってたのね」


「そうなんです! あ、ここでも一緒に作ったんですよ。カレー!」


 前に二人で入った台所を見る。

 あのときも、ここのテーブルに座った。


「私、人参とじゃがいも切って。お皿も、あそこから出して」


「二人で入ると、狭かったでしょう」


「ちょっと! でも、一緒にやりたくて」


「鍋の前、交代しながらな」


 悠真が言った。

 私も、うんうんとうなずく。


「待ってる間も、見てた! それで、味見させてもらったんです」


「味見、好きだな」


「好き! 悠真、ちっちゃいお皿に入れてくれるんです。熱いからって」


「お前、熱いの苦手なくせに、すぐ食いたがるからな」


「でも、早く食べたいんだもん」


 お父さんが、ふっと笑った。


「待ってると、食べたくなるよな」


「はい!」


「あなたは待てなくて、先につまむでしょう」


 お母さんが横を向く。

 お父さんは、箸でつかんでいた天ぷらを自分の小皿へ置いた。


「今は、もう食べていいだろ」


「今の話じゃないわよ」


 悠真が口元を押さえた。

 私も、箸を持ったまま笑っちゃった。


「お父さんも、早く食べたいんですね」


「うん。うまそうなのが置いてあるとな」


「分かります!」


 悠真が、天ぷらに箸を伸ばした。

 お母さんが、そのお皿を少し悠真のほうへ押してくれる。


 あ、私もおそば。

 少し冷めて、さっきより食べやすくなっていた。


「……ねえ、悠真。おうちでも、味見のお皿出すの?」


「出すよ。スプーンで味見することもあるけど」


「じゃあ、お母さんも味見する?」


「するわよ。作ってもらってると、何かなって気になるもの」


「そう! 見に行きたくなるんです!」


 身を乗り出したら、お母さんも笑った。


「悠真に聞くと、まだできてないって言うのよね」


「できてないときに聞くからだろ」


「できてから呼ばれるまで、待てないのよ」


 お父さんが、小さくうなずく。


「お母さんも、待てないんですね!」


 私が言うと、お母さんは少し目を丸くして、それから声を出して笑った。

 悠真も笑いながら、首を振っている。


「……みんな、待っててくれよ」


「悠真も、さっきケーキ食べたかったって言ってたよ?」


「あれは俺も作ったやつだし」


「私も作ったよ!」


 お父さんの笑う声が聞こえた。

 見たら、もう次の天ぷらを食べている。


 私も、残っていたかぼちゃを口に入れた。


 まだまだ、お話ししていたいな。


◇


 食べ終わった器を運んで、テーブルを拭いた。

 お母さんがお茶を淹れ直している横で、悠真が最後のお皿を洗っている。


「私、拭くよ!」


「じゃ、これ頼む」


 渡されたお皿を拭いて、棚へ戻す。

 お母さんが台所を出ると、お父さんが食卓の椅子をテレビのほうへ向けていた。


「そこから見るの?」


「よく見える」


「そう。じゃあ、こっちにお茶置くわね」


 お母さんはお父さんの手が届くところへ湯呑みを置いて、ソファに座った。

 悠真が蛇口を止めて、手を拭く。


「終わり。俺たちも座ろうぜ」


「うん!」


 ソファの空いているところへ、悠真と並んで座る。

 テレビの中では、たくさんの人が手を振っていた。


「今、誰が出てた?」


 悠真がお母さんに聞くと、お母さんが画面を指した。


「この人たち。まだ始まったところよ」


「あ、この歌、知ってる!」


 私が言うと、お母さんも画面を見たままうなずいた。


「私も。これ、聴きたかったの」


 しばらく、みんなでテレビを見た。

 お母さんの指が、膝の上で小さく動いている。私も一緒に、足先で拍子を取った。


 隣の悠真を見る。

 ソファに深く座って、お茶を飲んでいた。


「悠真」


「ん?」


「ここ、よく座ってるの?」


「まあな」


「そっか!」


「……それだけ?」


「うん。聞いてみたかったの」


 悠真が笑って、湯呑みをテーブルに置いた。

 私も隣で、背もたれに寄りかかる。


 画面の中で司会の人が笑うと、お父さんも短く笑った。

 悠真が何か言って、お母さんが返事をしている。


 去年は、スマホを耳に当てて悠真と話してた。

 今日は悠真が話すと、すぐ横から声がする。


「紗月、今の見た?」


「あっ、ちょっと見てなかった。何?」


「あの人、出てくるとこ間違えて、戻ってった」


「えー、見たかった!」


「ほら、また映ってる」


 悠真の指したほうを見ると、司会の人の後ろで、男の人がぺこぺこ頭を下げていた。

 お母さんが笑う。私も笑って、隣の悠真の腕に触れた。


◇


 時計が十時に近づいて、悠真が立った。


「そろそろ、送ってく」


 私もコートを着てマフラーを巻き、鞄を取る。

 お母さんとお父さんが、玄関まで来てくれた。


「今日は、ありがとうございました! ご飯も、そのあとも、楽しかったです!」


「こちらこそ。また来てね、紗月ちゃん」


「はい!」


「気をつけてな」


 お父さんが悠真を見て、それから私にもうなずいた。

 私も頭を下げて、悠真と外へ出た。


 冷たい空気に、マフラーを少し引き上げる。

 マンションの階段を下りると、悠真が紺色の手袋をはめて、こっちに手を出してくれた。


「ほら」


「うん!」


 握ると、柔らかかった。

 私が選んだ手袋の中に、悠真の手が入ってる。


「あったかい?」


「あったかい。お前は?」


「私も! ここ、ぬくぬく」


 マフラーに頬を寄せたら、悠真がこっちを見て笑った。


「……ね、お父さんも、悠真と同じとこで笑ってた」


「そうか?」


「うん。テレビ見てるとき。二人とも笑ったから、そっちも見ちゃった」


「だから見逃したのかよ」


「そう!」


「画面見ろよ、画面」


 悠真はそう言って、また笑った。

 つないだ手を、少し揺らす。


「お母さんも、いっぱい話してくれた。悠真がご飯作ってるとこ、見に行くんだね」


「来るな。何作ってんの、って」


「私も聞く!」


「知ってる」


 悠真が、私の手を握り直した。


「……呼んでよかったわ」


「私も、来られて嬉しかった!」


「俺も楽しかった。また来いよ」


「うん。また行く!」


 坂を上るあいだも、今日の話をした。

 お父さんが初めにびっくりしていたことを言うと、悠真は「顔に出すぎだろ」と笑った。


 門の前で手を離して、悠真を見送る。

 家に入って、お母さんに帰ったよと送ったら、すぐに返事が来た。


『おかえりなさい。明日の朝、聞かせてね』


『うん!』


 部屋に戻ってコートを脱ぎ、マフラーを畳んでベッドに置いた。


 しばらくして、もう一度スマホが鳴った。

 今度は悠真だった。時計は、まだ十一時前。


『着いた。親父、もう寝そう』


 さっきの椅子に座ってるお父さんが浮かんで、笑っちゃった。


『悠真は?』


『俺はまだ起きてる』


『私も!』


 送ってから、畳んだマフラーを膝に乗せた。

 明日の朝、お母さんに話すこと、いっぱいある。


 続けて、もう一つ送った。


『ね、今年も一緒に年越そ! 電話していい?』


『おう』


 返事を見て、すぐに通話のボタンを押した。


「悠真!」


「おう。まだ十一時前だぞ」


「うん! いっぱい話せるね!」


「さっきまで話してただろ」


「まだ話したいもん!」


 悠真の笑う声がした。

 私も、膝のマフラーをぎゅっと抱える。


 えへへ。今年も一緒に、あけましておめでとうって言おうね。

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