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「この人が彼氏です!」と学園アイドルに言われたモブ、逃げられなくなる  作者: もりぞー
第二部

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第100話 悠真、クリスマスに紗月へマフラーを贈り、二人で抱き合って笑う

「悠真、できた!」


 紗月が絞り袋を置いて、俺を呼んだ。

 白いクリームの上に、苺がぐるっと並んでいる。


「おお。うまそう」


「ね! もう食べたい!」


「俺も。けど、先にチキンだな」


「うん。そっちも食べたい!」


 十二月二十四日。

 昼過ぎから紗月んちで焼いたスポンジが冷めるのを待って、二人で仕上げたケーキだ。


 今日はお母さんが用事で出かけていて、晩飯は紗月と二人だ。

 冷蔵庫の棚を空けてあるというので、皿ごとそっと入れる。


「ご飯のあとに食べようね」


 紗月がケーキに手を振って、扉を閉めた。

 俺も名残惜しい。あとは、晩飯を作るか。


 鶏肉をオーブンへ入れてから、二人でグラタンのソースに取りかかった。

 紗月が鍋の中を混ぜる横で、俺が牛乳を少しずつ足す。


「あ、だんだんなめらかになってきた」


「おう」


 木べらで混ぜると、白いソースがなめらかに流れた。

 紗月はポニーテールを揺らしながら、底のほうまで混ぜた。


「これ、けっこう腕にくるね」


「かわるか?」


「もうちょっと。私、ここまでやりたい」


「じゃ、頼む。俺、グラタン皿にじゃがいも並べとくわ」


 茹でておいたじゃがいもを皿に移していると、鶏の焼ける匂いがしてきた。

 さっきケーキを見たときから、ずっと腹が減ってる。


「悠真、チキン見て。もう茶色い?」


 オーブンをのぞく。皮のところが、いい色になってきていた。


「なってる」


「わー、見たい。……でも、こっち」


 紗月が鍋とオーブンを見比べる。

 俺はグラタン皿を置いて、鍋の横へ戻った。


「持つから、見てこいよ」


「うん! すぐ戻る!」


 木べらを受け取ると、紗月はオーブンの前にしゃがんだ。


「あっ、皮ぱりぱりになってる! 悠真、これ、絶対おいしいやつ!」


「俺もそう思う」


「早く食べたいねえ」


 戻ってきた紗月に鍋を任せて、俺も残りの支度を急いだ。


◇


「メリークリスマス!」


「メリークリスマス」


 グラスを合わせてから、二人で料理に手を伸ばした。

 紗月はさっそくチキンにかぶりついている。俺も、皮ごと肉を口へ入れた。


 ぱりっと割れたところから、肉の汁が出てくる。

 ああ、これ。待ってたぶん、余計にうまい。


「んん……!」


 隣から聞こえてきて、そっちを向いた。

 紗月が頬を動かしながら、何度もうなずいている。


「うまいな」


 紗月が飲み込んでから答える。


「うん! この皮、やっぱり好き!」


「俺も。焼いてるときから腹減ったわ」


「だよね! ケーキしまうとき、食べちゃおうかと思ったもん」


「お前、さっきも食べたいって言ってたもんな」


「悠真も食べたかったでしょ?」


「……まあな」


 二人で笑って、またチキンを食べた。


 グラタンを取り分けると、焼けたチーズの下から湯気が上がる。

 紗月は自分の皿をのぞいて息を吹きかけ、それからチキンへ戻った。


 俺は先にグラタンを口へ入れる。

 熱い。けど、ソースがじゃがいもに絡んで、焼けたチーズもうまい。


「どう?」


「うまい。ソース、いい感じ」


「よかった。私も早く食べたい」


 紗月がもう一度、皿へ息を吹きかけた。


 俺はグラタン皿の端っこをすくって、自分の皿へ取った。

 少し茶色くなったチーズがうまそうだ。


「あっ、悠真、私もそこのチーズ食べたい!」


「反対側もいい感じだぞ。取るか?」


「うん、ちょうだい!」


 反対側の端からもすくって、紗月の皿に乗せた。

 紗月は少し息を吹きかけてから、口へ運ぶ。


「……あ、ここ好き!」


「だろ」


 遠慮なく自分の分も食う。あっという間になくなった。

 紗月も皿のチーズをスプーンですくい、満足そうに口へ入れている。


「今年も、悠真とこれ食べられたね!」


「おう。今日、作ってよかったわ」


 紗月が笑って、グラタンをもう一口食べた。


 チキンの骨だけになった皿を下げて、冷蔵庫からケーキを出す。

 紗月が持ってきた皿に切り分けると、白いクリームの間に苺が顔を出した。


「お腹、まだ入るか?」


「入るよ。悠真は?」


「食う。これ楽しみにしてたし」


「私も! 早く食べよ!」


 並べた二切れを見て、紗月が皿を一枚、俺の前へ置いた。


 今度は二人でフォークを持つ。

 俺は一口分を切り取って、口へ運んだ。


 冷たいクリームと柔らかいスポンジに、苺の酸っぱさが混じった。

 チキンもグラタンもあれだけ食ったのに、もう次の一口が欲しい。


「……まだ食えるな」


「ね。私もちょっと心配だったけど」


「さっき、入るって言い切ってたじゃねえか」


「食べたいのは決まってたの!」


 紗月が笑いながら、フォークで苺をすくった。

 俺も、クリームをたっぷりつけたスポンジを口へ運ぶ。


◇


 食器を片付け、テーブルを拭き終わると、紗月が俺の袖をちょんと引いた。


「悠真、ちょっと待ってて。渡したいものがあるの」


「おう。俺もある」


「ほんと? じゃあ、待ってて!」


 紗月が二階へ上がっていくあいだに、俺もソファの脇に置いた鞄から包みを出した。


 選んだときは、似合うと思った。

 けど、渡す直前になると、やっぱり落ち着かねえな。


 戻ってきた紗月が、俺の前へ紙袋を差し出す。


「私から。メリークリスマス!」


「ありがと。開けていいか?」


「うん!」


 包みを開くと、中には紺色の手袋が入っていた。

 そっと手に取ると、指先に触れる生地が柔らかかった。


「手袋だ」


「去年のマフラーと、一緒につけてほしくて。色も合わせてみたの!」


「ああ。合うな、これ」


 コートと一緒に置いてあるマフラーのほうを見て、手袋をはめた。

 指を曲げる。内側が柔らかくて、手首のところまで暖かい。


「どう? きつくない?」


「平気。気持ちいいな。中も柔らかい」


「そう、それ! 私も触って、これがいいって思ったの!」


 紗月が嬉しそうに、俺の手へ手を伸ばした。

 差し出すと、手袋ごと両手で包まれる。


「似合う! ね、帰りにつけてね?」


「つける。もう外すの惜しいくらいだし」


「えへへ。じゃあ、しばらくこのままでもいいよ」


「いや、俺のも渡したいから」


「あっ。うん!」


 紗月が手を離してくれたので、手袋を外して包みの上に置く。

 今度は俺から、プレゼントの包みを差し出した。


「ほら。メリークリスマス」


「ありがとう!」


 紗月がリボンをほどく。

 淡いピンクのマフラーを持ち上げたところで、目が大きくなった。


「わあ、かわいい……! これ、悠真が選んでくれたの?」


「おう。お前に、似合いそうだと思って」


「つけていい?」


「そのつもりで渡したんだけど」


 紗月が笑って、首にくるっと巻いた。

 端を胸の前へ垂らしてから、こっちを向く。


「どう?」


 明るい茶色の髪の下に、薄いピンクが重なっている。

 店で見たときより、ずっといい。


「……うん。似合う」


「ほんと?」


「ほんと。かわいいと思う」


 言ってから、自分の顔が熱くなった。

 いや、そう思って選んだんだから、そこは言うだろ。


 紗月がマフラーに頬を寄せる。


「嬉しい……。悠真、これ選んでるとき、私のこと考えてくれたんだ」


「そりゃ、考えるだろ」


「どんなふうに?」


「……今みたいに、巻いてるとこ」


 紗月は口元をマフラーに埋めて、それから、また顔を出した。


「じゃあ、いっぱい見てね。これ、つけるから!」


「おう」


 笑っている紗月を見て、こっちまで頬が緩んだ。


「ねえ。私たち、二人ともあったかいもの選んでたね」


「そうだな」


「一緒につけて歩くの、楽しみ!」


「俺も」


 紗月がマフラーの端を撫でた。

 しばらくつけたまま俺に見せてから、大事そうに外して畳む。


 俺は手袋を紙袋に戻し、ソファへ持っていって脇に置いた。

 隣に座った紗月は、畳んだマフラーを膝に乗せて、まだ眺めている。


「ありがと、悠真。今日、ずっと楽しかった!」


「俺も。飯もうまかったし、これも嬉しい」


 手袋の入った袋に触れてから、紗月を見る。

 ああ、まだ隣にいたい、な。


 座面に置かれていた手に、俺から手を重ねた。

 紗月がこっちを向き、指を握り返してくる。


「……手、つなぎたくなった」


「うん。私も」


 紗月が体を寄せてきた。つないだ手をほどくと、俺の背中へ腕が回る。

 俺も背中へ腕を回して、抱きしめた。腕の中で、紗月がほっと息を吐く。


「あー……やっと、ぎゅってできた」


「さっきまで、両手ふさがってたもんな」


「うん。作って、食べて、包み開けて」


 紗月が顔を上げた。

 すぐ近くで目が合う。頬が少し赤くて、それでも、にこにこしている。


「今は悠真、つかまえた」


 背中に回した腕に、少し力を込めた。


「……俺も、つかまえてるけど」


「えへへ。うん」


 その顔を、もう少し近くで見たくなった。

 俺が顔を寄せると、紗月のまぶたが下りる。


 唇に、そっと触れた。


 離れても、紗月は腕をほどかなかった。

 目が合って、紗月の口元が緩む。俺も、たぶん同じ顔をしてる。


「……何笑ってんだよ」


「悠真も笑ってるよ」


「そりゃ、まあ……嬉しいし」


「うん。私も嬉しい」


 そう言って、紗月がまたくっついてきた。

 肩のあたりで、小さく笑う声がする。


 俺も笑って、紗月を抱き直した。

 帰りにつける手袋は、もう少し待っててもらおう。

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