第111話
「でも感謝してるって」ボブキャットはそう続けた。「ずっと傍にいてくれて、ぼくが淋しくならないようにしてくれたって」
「──」コードルルーは大きく息を呑んだ。「ミルキィ!」マルティコラスに高速移動で近づく。
「──」レイヴンは一瞬にして複雑な想いに包み込まれたが、次の一瞬には自分の取るべき態度、口にするべき言葉を必死で模索し始めていた。「ああ、それは確かに、そうだな……そこについては君に感謝するよ、ルルー」
「──」ルルーは、はっとしたように移動を止め、ちらりとレイヴンを見た。彼もまた、自分がどのような態度を取りレイヴンに対しどのように対応するべきか、高速で考えなければならかった。「私は職務を忠実に遂行していただけだ。礼には及ばない」
「──」レイヴンはさらに必死で、しかしここでこのギルド員と慣れ合いになるわけにはいかないのだと自らに言い聞かせる必要があった。「しかしそれにしてもだ、我々はマルティコラスの返還を、君たちに求めなければならない」
「──」ルルーは、なかば予想していた事ではあるがレイヴンからの要求にギルドとして何と返答すべきかを構築するしかなかった。「我々ギルドは、ミル──この動物について調査をする必要があると考えている」
「調査?」レイヴンは久しぶりに間髪を入れず発言した。「何の調査だ?」
「詳細を君に伝えることはできない」ルルーもまた間髪を入れずに回答した。
「──」レイヴンは再び発言までに時間を要する状態となった。
「知らせが届いたぞ」
その時誰かの叫ぶ声がした。
レイヴンとルルー、そしてモサヒーら一行は咄嗟にその声の方を見た、が何故か全員の見る方向が違っていた。
「海の方からの報告だ」
声が続く。その声の主は、イヌワシ、オオサイチョウ、エジプトハゲワシ、インドクジャク、つまりその場にいる鳥たちだった。
「えっ、報告?」レイヴンは、自分が見上げていたイヌワシに向かって問うた。「何の?」
「二体の双葉が、海中に潜って来たと」イヌワシが答え、
「そしてその場で気絶したと」オオサイチョウが答え、
「抗生物質の効果が現れてきたものと思われると」エジプトハゲワシが答え、
「シャチたちがそう言っていたとほげえええ」インドクジャクがまとめた。
「うん、そうですか」真っ先に答えたのはモサヒーだった。「彼女らは、うん、生きてはいるんですか」
「生きてはいるらしい」イヌワシが伝える。「だが完全に意識がなく呼びかけにまったく反応しないとのことだ」
「──一体、何をした」ルルーが恐怖に襲われたかのように声を掠らせる。
「一回がちんしてやったら起きるんじゃないのか」オオサイチョウが頭頂についている鮮やかな黄色のカスクをぶんぶんと前後に振りつつ言う。
「それで、その双葉たちは今」レイヴンは、モサヒーに気を使うべきなのかどうなのかに迷いを覚えつつも質問した。「どこに?」
「今は取り敢えずシャチたちが頭に乗せて様子を見ながら泳いでいるそうだ」エジプトハゲワシが答える。「その結果次第では、このやり方を交渉時の武器に使えると見ていいようだ」
「──」ルルーも再び、何を言うべきかの考察に時間が必要となった。「はは」仕方なく、また力なく笑う。「武器、ね」
「レイヴンさんは双葉に、この子を返してもらいたいんですね」そこで発言したのはアジアゾウの一頭だった。マルティコラスを見ている。
「え、ええ、そうです」レイヴンは大きく頷いた。「マルティは、うちの動物なので」
「だったら、私たちと一緒にタイム・クルセイダーズに交渉するといい」アジアゾウの別の一頭が続ける。
「交渉」レイヴンは復唱した。
「そうですね」インドサイも頷く。「近い内に、またシャチらから何らかの行動指針が届くはずですから」
「おお」レイヴンはただ感動の声を挙げるのみだった。「皆さん」
「ミルキィは」ルルーが叫ぶように訊く。「どうしたいんだ。レイヴンと一緒に帰りたいのか」そうしてボブキャットの方を向く。「訊いてみてくれ」
「にー」マルティコラスは、細い声で鳴いた。
「ぼくはここにいたいって言ってるよ」ボブキャットが通訳する。「おいしい草があるからって」
「えっ」レイヴンが驚き、
「えっ」ルルーが同じく驚く。




