第105話
「ファージって何? あんた、地球の細菌をやっつけられるの?」コードセムーが引っ張って行かれながら興奮気味に問いかける。「それ、本部からの支給? 私には何にも」
「ないわよ、そんなもの」コードベルーは素っ気なく答え、停まることなく推進を続けた。「はったりよ、はったり」
「はあ?」セムーは明らさまに呆れた声を出した。「なあんだ、期待して損した」
「ていうか、今からそれを手に入れるのよ」ベルーは低い声で付け加えた。「私たちで、ファージを」
「ええー?」セムーは明らさまに面倒臭そうな声を出した。「それが本部の指令? 緊急の?」
「──緊急のやつは、また違うわ。本部から来たのは、オーストラレーシアに行って、狂犬病ウイルスを分離確保しろってこと」
「狂」セムーは反復しようとして声を失った。「──え?」心底から訳が分からなさそうな声を出す。
「狂犬病ウイルスよ」ベルーは低い声で繰り返した。「地球の哺乳類にとって、絶対的で致命的な症状をもたらす最恐のウイルス。そして」さらに低い声で続ける。「なんと私たちギルド員にとっても、致命的に最恐のウイルスらしいわ」
「──」セムーはまだ返事ができずにいた。
「五名」ベルーは静かに続ける。「オーストラレーシアで、仲間が死滅している」
「──」
「そのウイルスにやられて」
「帰るわ」セムーは一言告げた。「離して。今すぐ」
「──」ベルーは一瞬黙り込んだが「いいえ」と断言した。「一緒に来てもらうわ」
「いやよ」セムーは叫んだ。「絶対にいや。絶対に死ぬんでしょ、馬鹿らしい。誰が行くもんですかそんな所」
「考えるのよ」ベルーは冷静さを保っている。「あんたもギルド精鋭部隊の端くれでしょ。私達ならできる。本部もそう言ってる」
「でも」セムーは抗弁しようとしたが、どこかに『精鋭部隊』という単語が影響をもたらし、彼女の姿勢を見つめ直させた。「──本部は、私たちならできると、言っているの?」
「ええ」ベルーは間髪を入れずに答えた、自分が同じ問いをした際担当官がそうしたように。
ただベルーの場合、それは嘘っぱちだった。セムーを連れて来たのは、たまたま森を抜け出た後騒ぎを聞きつけて様子を見に行き、状況に即して行動しただけのことだ。
決して本部からそのようにしろと言われた訳ではなく、増してやセムーにもこの仕事ができると本部が判断したわけでも──
ベルーは思わず推進を止めそうになった。
ああ。
そうか。
それはそうだ。
あの担当官が即答したからといって、それが確かに真実であるとは、全くもって限らない。
きっとあの担当官も、今の私みたく嘘っぱちを口走ったのだろうな──
「まあいいわ」ベルーは呟いた。「真実にしてやればいいだけのこと」
「え?」セムーが問う。「何を?」
「なんでもない」ベルーは速度を上げた。「海に行くわよ」
「わかったわ」セムーはついに了承した。「早く済ませましょう」
二体のギルド員は、進んで行った。
そしてそのやり取りは、セムー本体内部の細胞から、モサヒーにも余すところなく伝えられていた。




