第102話
「こちらコードベルー。ピントロング捕獲しました」
本部に通信が届く。
「コードベルー、報告を認容した。ご苦労であった」担当官が応じる。
「なんかさっき、森の外で誰か騒いでいたわ」ベルーは声を低くして補足の報告を続けた。「セムーみたいだったけど」
「コードセムーが同行したのか」担当官は確認する。
「同行はしていないわ」ベルーは少しむっとしたように訂正した。「なんだか騒いでるのが聞こえただけ。あいつ、地球の動物たちと慣れ合いになってるんじゃない? ちょっとどうなのかしら」
担当官は少しの間返事をしかったが、やがて「コードセムーには本来の任務の他に、モサヒー連行義務を任命してある。その任における関連事項として、地球産動物たちとの折衝を行う」
「いや、そうじゃなくて」ベルーはますます苛立ったように遮った。「聞いてた? 私の話? 慣れ合いになってるって言ったの。折衝とかいうレベルじゃなかったわよ。これは問題にすべきだと思うわ」
担当官はまたしばらく黙り込み、やがて「報告に感謝する」とだけ言い、通信を切断した。
「まったく」ベルーはいらいらと推進を再開した。
「お前くわっ」
突然どこからか──樹冠の辺りからのようだ──切羽詰まったような、緊張感漲る声が聞こえた。
「双葉かくわくわっ」
「あ?」ベルーは上空を見上げ、少しだけその辺りを捜し、程なく声の主を見つけた。
それはコウハシショウビン、巨大な嘴を持つ攻撃性の高いカワセミ科の鳥だった。捕獲対象ではない。「ああ」そこまでを確認したところで、ベルーはそのまま推進を続けようとした。
「おいくわっ」コウハシショウビンは追いかけてくる。「どこに行くくわくわっ」
「ええ、好いお天気で」ベルーは挨拶のみ告げた。「ごきげんよう」
「くわっ」コウハシショウビンは、諦めたのか一本の木の枝に留まったようだ。
特に気にもなりはしないが、推進しつつちらりと振り向くと、どうやら彼は小さな齧歯類を捕食したらしく、そのため枝の上から動かなくなったようだった。
さらにしばらく飛び進んだところで、今度は本部から連絡が来た。
「コードベルー、応答せよ」さきほどの担当官とは違う者のようだ。
「はい、こちらコードベルーです」飛びながら答える。
何の用なのか予測を構築するよりも前に、それは伝えられた。
「君にはオーストラレーシアへ向かってもらいたい」
「──え?」ベルーは思わず推進を止めた。「オーストラレーシア?」
「そうだ」応答は短く無味乾燥だ。
「どうして?」ベルーは当然の権利としてその辞令の理由を問うた。
担当官はすぐに返事しなかった。
こいつらの反応の悪さって、職業病なのかしら。ベルーはそのように思った。どいつもこいつも、話にならない。
「──を分……確……するこ……」
やっと返ってきた答えは挙句、途切れがちで頼りない弱信号だった。
「え?」ベルーは声を大にした。「聞こえないわ。何をどうしろって?」
そしてまた沈黙の答え。
ベルーは、認識不能と結論し、無視して進もうとした。
「狂犬病ウイルスを」だが通信は出し抜けに良好な状態に戻った。「分離確保することを任ずる」
再び推進を止める。
くわっくわっ
今となっては遥か後方より、コウハシショウビンの威嚇めいた鳴き声が聞こえて来る。追ってくる気配はない。恐らくベルーが彼の縄張りからはもう離脱しているからだろう。
そんなことを意識の片隅で薄く考えながら、ベルーは訊き返した。
「狂犬病ウイルスを?」
ゆっくりと信号を作成送信しながら、さらなる質問をどう構築するか、彼女は素早く計算しなければならなかった。




