第101話
「こんにちは、ぶーん」アカヒロハシはとりあえず挨拶を返した上で、それが誰なのかを見極めた。
それは、今近づいてきている巨大な四足獣の声ではなく、その獣の長い首の辺りにくっついている何か別の、小さなものからかけられた声だとわかった。
「うん、アカヒロハシさんですね」そのものは続けて確認してきた。
「そうだよ、ぶーん」アカヒロハシは肯定した。鳥の直感で、この相手は恐らく自分に危害を加える者、つまり双葉ではないのだろうと思った。
「んー、アカヒロハシかあ」しかし続けてまた違う声が聞こえた。「あんまり需要ないわねえ。この辺りだったら、うーんと……」
「ぼくはモサヒーといいます、うん、レイヴンの同僚です」先に挨拶してきた方の者が自己紹介をする。
「レイヴン?」アカヒロハシは驚いた。その名はまさに今、森の中にいる仲間たちに伝えようと思っていた名前だからだ。「ぶーん」
「うん、はい」モサヒーと名乗った者は頷く。「レイヴンをご存知ですか」
「知ってるよ、ぶーん」アカヒロハシは少し羽ばたいた。「インドの森で、マルなんとかだかミルなんとかだかと一緒にいるって、今しがた聞いたよ、ぶーん」
「うん、あ、そうなんですか」モサヒーの方も少し驚いたようだったが、すぐに嬉しそうに明るく話を続けた。「それはよかった、うん、教えてくれてありがとうございます」
「ピントロング」続けてさっきの、モサヒーとは別の声が叫んだ。「ヒュー、いいのがいるじゃない」
「ピントロング? ジャコウネコ科の奴か」巨大な四足獣の背の上にいる者が、それに応える。「会ったことはないが、名前だけは聞いたことがある」
「ええ、絶滅寸前の危急種よ。とっ捕まえなきゃ」
「捕まえる? 地球の動物を?」巨大な四足獣も応じる。「どうして?」
「どうしてもこうしてもないわ、それが私の仕事よ」モサヒーとは別の小さな者がさらに怒声を放つ。「口出ししないで頂戴」
「いいえ、そんなことはさせないわ」巨大な四足獣が首を振る。
「大体、ここまで俺たちにフラフラついて来ながら、何を今さら仕事なんて言うんだよ」巨大獣の背の上の者がせせら笑う。「散々サボってたくせに」
「ついて来たのはあんたたちの方でしょう」モサヒーとは別の小さい者が金切り声を挙げる。
「うん、ところで、レイヴンの他にもいましたか、マルティコラスの傍には」モサヒーが何も聞こえないかのようにアカヒロハシに質問する。
「ぶーん」アカヒロハシは低く歌い答えた。「双葉も、一緒にいるって話だったよ、ぶーん」
「うん、双葉もですか」モサヒーは少し考える。「うん、大丈夫とは思いますが、うん、急ぎ合流した方が、いいですね」
「あ、ダーリン、ちょっと待っててくださるかしら? 私森の中に行って」
「うん、セムーさん、駄目です」モサヒーは拒否した。「ピントロングさんは、うん、日中は休んでいるはずです。うん、起こしてはいけません」
「あら、だけど……」セムーと呼ばれた者は何かもじもじしながら弱々しく抗弁する。「ピントロングなんて、ほら、素敵じゃない? これを捕まえて行けば、きっとあなたもギルド本部に気に入ってもらえるわ。そのために私」
「うん、ぼくには気に入ってもらう必要がありません」モサヒーはそう言い、触手を伸ばしてセムーの体に巻きつけた。「今は、うん、レイヴンと合流することが先決です」
「まあ」セムーは少し驚きながらも、どこか幸福そうに悦びの分子を発散させた。「そうね、あなたは私と、地球時間で一秒でも離れていたくないってことなのよね。わかったわ、甘えん坊さん。うふふ」
「お前がとっ捕まってんじゃねえか」巨大獣の背の上の者がまたせせら笑う。
「愛の悦びを知らない哀れなボブキャットは、精々独りぼっちでくだらない戯れ言をほざけばいいわ」セムーはぐるぐる巻きにされた状態でボブキャットというらしいその者を馬鹿にした。
「うん、アカヒロハシさん、どうもありがとうございます。うん、それでは」
モサヒーは別れの挨拶をすると、西へ向けて飛び去った。
「さよなら、ぶーん」アカヒロハシはそれを見送った。
さまざまなサイズをした一行は、あっという間に視界の向こうへ消えた。
「ぶーん」森の中に入る前に、もう一度アカヒロハシは一行が立ち去った方向に目をやり歌い呟いた。「あのいちばんでっかい奴は、なんていう奴だったのかな。ぶーん」




