第十一話 妹の破滅
王宮に向かう馬車の中、鼓動は早鐘のようだった。
隣に座るルークの手を握りしめていなければ、震えが止まらなかったかもしれない。
(大丈夫……私はもう逃げない。彼と一緒に立つと決めたのだから)
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謁見の間に入ると、重苦しい空気が漂っていた。
王、王妃、そして重臣たちが揃い、床には意識を失ったままの王太子が横たえられている。
その隣には、顔色を変えたメリアナとライネルが立っていた。
「リリアナ姉様……!」
わざとらしく目に涙を浮かべる妹。
その姿に、過去の記憶がよみがえる。
いつだって彼女は、涙で同情を買い、私から大切なものを奪ってきた。
(でも、もう違う)
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王の威厳ある声が響く。
「クロフォード伯爵家の長女リリアナよ。毒の件、弁明はあるか」
一瞬、喉が詰まった。けれどルークが私の背に手を添える。
その温もりに支えられ、私は真っ直ぐに顔を上げた。
「私は、王太子殿下を害する意図など一切ございません」
震えはなかった。
はっきりと、はじめて自分の声で否定できた。
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ルークが一歩前に出る。
「陛下、証拠は揃っております」
彼の手の中に現れたのは、小さな瓶。
透明な液体が揺れるそれは、王宮の厨房から見つかった毒薬だった。
「これを仕込んだのは、クロフォード家の次女、メリアナ。
さらに、それを助けたのがライネル殿下。調べは尽くしてある」
「なっ……!」
メリアナの顔から血の気が引いた。
「嘘ですわ! 姉様が、姉様がやったのです!」
必死に叫ぶ妹。
けれど、ルークの冷たい瞳が彼女を射抜いた。
「ならば、なぜ君の部屋からこの瓶と同じ成分の粉末が見つかった?」
沈黙。
周囲の重臣たちがざわめく。
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「もうやめなさい、メリアナ」
私は静かに言った。
驚いたように、妹の瞳が私を映す。
「いつも泣いて人を欺き、私から奪ってきた。
でも、その結果がこれなのね。……あなたは自分で、自分の破滅を呼んだのよ」
かつてなら、こんなことは言えなかった。
けれど今は違う。
私はルークの妻として、胸を張って立っている。
「姉様……! いや、いやぁっ!」
妹は叫びながら崩れ落ちた。
王は厳しい声で告げる。
「メリアナ・クロフォード、ならびにライネル・フェルディナンド。両名を拘束せよ」
衛兵たちに腕を取られ、二人は引きずられていく。
妹の泣き叫ぶ声が、遠ざかっていった。
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すべてが終わったあと、私は小さく息をついた。
震えが戻ってきそうになるその瞬間――ルークがそっと抱き寄せてくれた。
「よくやったな、リリアナ」
「……私、できましたか?」
「ああ。君は俺の誇りだ」
優しい声に、涙が溢れる。
けれどそれは、悲しみの涙ではなかった。
(私はもう奪われるだけの姉ではない。愛され、守られ、そして共に歩む――)
妹の破滅を前にして、ようやく胸を張ってそう思えたのだった。




