6-4
◆
「……よし、行ったか。何とか間に合ったな」
後方に走り去る車を背中で感じながら、ブランクはギアの通信ボタンを押す。
「哲也、紛れ込んだ車両一台を無事逃した。交通規制はこのまま、引き続き維持してくれ」
「わかった、新。こちらは任せてくれ」
「ああ、こっちは例の神魔を見つけた。これから狩る」
哲也の応答に、ブランクが短く応える。前方では巨大な鎧騎士が、今まさに起き上がろうとしていた。騎士が乗っていた馬は、ブランクの攻撃を受けた際に、まるで幻だったかのように霧散している。
その姿を見たブランクは、小さな溜息と共に首を振った。
「セパレス・インパクトは効果無し……依代になった人は手遅れ、か」
「ふん、そうであれば仕方ない。私達のするべき事は一つだ。行くぞ、新っ! 憑依合身!」
呟くブランクの隣、巫女服姿の八葉が組んでいた腕を解き、ブランクに触れる。
「ああ、エクシード・コネクトッ!」
闇夜を照らす青い光の中、鎧騎士が地響きをたてながら立ち上がった。衝撃で騎士の兜が落下し、鈍い音を辺りに響かせたが、残された騎士の胴にはあるべきはずの頭部が無い。ただ、無残な断面のみが真新しい血を滴らせながら、そこにあった。
「むぅぅ……その光、その姿……貴様が神魔狩りのブランクか!?」
「ふん、そういうお前は、首無し騎士デュラハンだな? お前が喰った魂全部、今俺が楽にしてやる。ハァッ!」
強くコンクリートを踏み込み、一気に彼我の距離を詰めたブランクが、デュラハンの胴に拳を打ち付ける。
━━ギャインッ!━━
火花と共に、ブランクの拳とデュラハンの鎧が、耳障りな金属音をあげた。しかし、鎧には目立った傷もなく、動じた様子の無いデュラハンはブランクへ、手にした大剣を頭上から真っ直ぐ下へ振り下ろす。
「フハハ、今吾輩を殴ったのか? あまりにソッと触られたので、少々こそばゆかったわ!」
「ちっ、硬いな……ランクBってところか。だったら……チャージッ!」
着地と同時に側転し、大剣を躱すブランク。その両手両足に青い輝きが宿る。
「ハッ! ヤッ!」
ブランクがチャージした力をのせた拳や蹴りを、次々とデュラハンの脚へ放つ。高い硬度をもつ鎧も、少しづつ凹みひしゃげていった。
「ええぃ、小癪なっ!」
脚にまとわりつくように攻撃を続けるブランクを、苛立った様子でデュラハンが蹴り飛ばそうとする。しかし、巨大なデュラハンでは、ブランクのスピードに対応しきれず、虚しくも空を蹴った。
やがて、止まらぬブランクの猛攻に、堪らずデュラハンは片膝をつき、大きくバランスを崩す。
「グゥゥゥッ……ば、馬鹿なっ、吾輩の鎧がっ!」
『新っ、このまま一気に畳み掛けるぞっ!』
「ああ、チャージッ!!」
激しい連撃によって消費され消えていた輝きが、再びブランクの四肢に灯る。デュラハンの脚を襲った攻撃が、今度は胴鎧に繰り出された。
「がっ! ががぐっ!?」
鎧が凹み、細かなヒビが入る。ヒビは広がり、亀裂となり、それもまた大きくデュラハンの全身へと広がっていく。
「くぅっ、おのれっ! 吾輩の鎧をよくもっ!」
デュラハンもまた、ただブランクにやられているだけではない。巧みなステップで立ち位置を変え、攻撃の射角を変え続けるブランクに、手にした大剣を逆袈裟に斬り上げた……が、やはり高速で移動するブランクを捉えきれなかった。
「ふんっ! デカく生まれた事が仇になったな、デュラハンッ!」
「ぬうっ!」
振り上げきった大剣を、瞬時に逆に持ち替えるデュラハン。大剣の重量を利用し、そのまま頭上から突き刺すように振り下ろす。
「っ! 遅いんだよっ!」
頭上から高速で迫る大剣を、身を反らす事で避ける。大剣は深く道路へと突き刺さった。
「これで仕上げだっ!!」
ブランクが、刺さった大剣の広く太い刀身を、壁に見立て強く蹴り、その反動を加えた鋭い蹴撃をデュラハンの鎧に叩き込む。
既に限界を迎えていた鎧は、この一撃で完全に砕け、大小様々な破片となって散り、デュラハンは黒く筋肉質なその本体を晒した。
『新っ!』
「応っ! トドメだ、デュラハン。エクセス・チャージッ!」
高く跳び上がるブランクの右脚が強く強く光りを放ち、深夜のハイウェイにデュラハンの長い影を作る。そのまま一気に降下すると、デュラハンの剥き出しとなった胴体に必殺の一撃を放つ。
「バイツ・ストライクッ!!」
━━ガシッ!━━
「な、何だっ!?」
しかし、ブランクの攻撃はデュラハンを切り裂き灰に変える事はなかった。思わず驚きの声をあげるブランク。その視線の先では突如、ブランクとデュラハンの間に割って入るように現れた異形の巨腕により、ブランクの右脚は完全に受け止められていた。




