11-終
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ディライトによる人類神魔化計画は、ブランク達の死闘により阻止された。
ディライトは中原総合科学に怨みを抱いたテロリスト犯として処理された。騒動の最中に目撃された神魔達は、都市伝説的な噂話へと姿を変え、しばらくの間ゴシップ誌の紙面を賑わせたが、それもじきに飽きられ消えていくだろう。
甚大な被害を受けた手名芽市の街並みも、テロの被害となり死亡した哲史に代わり、新たに中原総合科学のトップへと立った哲也によって、急速に復旧の道を歩み始めている。
あれから三ヶ月が経過していた。
「もう行くのか?」
以前通りとは言えないが、ようやく落ち着きを見せ始めた街の中、相変わらずひっそりと建っている虚木超常現象研究所の前で、新は白く濁る息を吐き出しながら尋ねる。その問いに頷き応えたのは、暗くなり始めた道に立つ、アルとサンを連れた士郎だ。
「別に元々長居するつもりは無かったんだけどな……律の飯が美味すぎて、つい居着いちまった」
「えへへ、そんな……またいつでも食べに来てください!」
新の横で律がはにかみ照れる。その姿に笑みを浮かべ士郎が続けた。
「そうだな。これで今生の別れって訳でなし、またそのうち遊びにでも来るさ。とは言え、これだけは改めて言っておく。新、有難うな……お前達のおかげで、俺達は家族の仇が討てた」
「いや、それは俺も同じだよ、士郎。士郎達の協力が無ければ、今回の戦い……きっとダメだったろう。有難う、士郎、アル、サン」
新と士郎、どちらともなく両者が拳を握り軽くぶつけ合う。それで全てが済んだように、士郎達は新と律に背を向け歩き出した。
「……ああ、そうそう」
振り返らずに士郎が喋る。その声はまるでイタズラを思いついたかのように、妙に楽しげだ。
「八葉の事だが……以前と同じようで、あれで随分と変わったみたいだ。鈍いお前は気付かないだろうけど、まあ大事にしてやれよ!」
「え!?」
新は思わず背後を振り返る。当の八葉は今、一人玄関に背中を預けるように立っていたが、新と目が合うとスッと視線を逸らした。玄関先を照らす裸電球特有のオレンジ色の光に照らされ、その顔はいくらか赤く見える。
「何を言って……」
新が再び視線を戻した時、そこにはもう誰も居なかった。ただ、律だけが小さくため息を吐く。
「もう、せっかく僕は二番で良いって言うのに、これは先が長そうですね」
◆
寝静まった真夜中の街、ビルの陰から巨大なエリンギを思わせる異形が何の前触れもなく転がり出る。
それを追うようにもう一人、異形の戦士が同じ陰から現れた。
「グブブッ!」
その姿に怯えたように、巨大な異形はブルリと身体を震わせると、その体中から細かな粒子を放出する。
「……ランクB、巨大茸だな」
『新、今奴が出したあの胞子、まともに喰らわない方が良いぞ』
「応、サラマンダー! ソウル・コネクトッ!」
異形の戦士……ブランクの両腕が赤熱化する。そのまま大きく腕を振ると、放出された熱波でマタンゴの胞子達が一斉に燃え落ちる。
自身の攻撃を簡単に消され、戸惑い動きを止めるマタンゴ。その隙を見逃すブランクではない。
瞬時に距離を詰めると、赤く燃える右拳をマタンゴの胴へと突き入れた。
「グブォッ!!」
「苦しいか? 今、楽にしてやる……エクセス・チャージッ! バイツ・フレイム・ストライクッ!」
ブランクの右拳から上下に放たれた極高温の焔が、巨大な鋭い牙のように、マタンゴを左右に分断し一気に焼き尽くした。
「ディスコネクト……っと。しかし、これで続けて三体目か。今更こんな風に神魔が出るとはね……」
ブランクから新の姿に戻り、マタンゴだった灰の中から黒い結晶を摘まみ上げると、新は首を傾げながら隣に立つ八葉の口にそれを投げ入れた。
「うむ……あの日、椿の浄化で市内に居る神魔は消えたはずだが……上手く隠れていたのか、それとも新たに産まれたか」
「まさか!? 虹魔木が無い以上、虹魔石だってもう無いはずだよな?」
「そうだ、新しく出回る事は無いだろうな。だが、それ以前に虹魔石を手に入れた者が居ないとも言い切れない」
「なるほどな。つまりはあの虹枝の残党か」
肩を竦める新に、八葉もため息混じりに答える。
「向こうの都合は知らないが……なんにせよ、こうして手名芽市に続けて現れるというのは助かる。私と新で、被害が増える前に潰せるわけだからな」
「そうやっていれば、そのうち狙いも見えてくる、か」
「ああ。だが、そう心配する事も無いだろう。手名芽市には、新と私……魔を討つ神が居るのだからな」
そう言って、ニヤリと笑う八葉。その照れ隠しの笑顔に、新は自分の心が暖かな光で満たされているのを感じると、満足気に頷き応えた。




