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ディライトを飲み込んだ白狼が、空中でクルリと向きを変える。進むその先、眼下に見えるのは虹魔木の巨大な幹だ。
「こいつで積み重なった憎しみと哀しみ、一切合切楽にしてやるっ!!」
ブランクが叫び白狼が瞬時に加速する。閃光のようなスピードで、虹魔木の頂点からかぶりつくように衝突した。
幹の頂点から根元へ、枝から枝へ、白い光が一気に虹魔木全体へと広がり包み込む。そのまま輝きを増した次の瞬間、バラバラと細かな灰に変わり崩れ出した。
「これで……」
いつの間に現れたのか、元居た屋上に立ちその崩壊を見上げている。否、その目線はさらに上、空間に開いた異世界の穴を凝視していた。
「君の思う通りだよ……ブランク君」
ブランクの背後でディライトが呟くように話しかける。その身体は殆どが灰化し、残った首元を含む頭部も徐々に灰へと変わっていった。
「……私と虹魔木の消滅。これによって、あの扉を支えている力は消える。間もなく、何事も無かったかのように閉じるだろう」
「……そうか」
「ああ…………どうやら私に残された時間は少ないようだ。最期に一つ、老人のわがままを聞いてはくれないだろうか」
ブランクは応えない。しかし、そうなるとわかっていたかのように、ディライトは構わず続ける。
「人類を守ろうとした私を討ち倒したんだ。後の事は任せ…………」
その先は、ブランクの優れた聴覚センサーでも何も捉えられなかった。ただ、灰が崩れるカサリという軽い音だけが小さく鳴った。
「…………ああ、もちろんだよ。ディスコネクト」
ブランクを光が包み込む。光が消え現れた八葉が、ぐらつく新に肩を貸し支える。
「っ……悪いな、八葉」
「いや……ふん、流石に消耗し過ぎたな。まあ、良い……皆の所へ帰ろう、新」
『それは賛成だね。支えていた虹魔木が消えて、このビルはもうじき倒壊するだろう』
八葉に頷き返し、新が両足に力を込めた瞬間、腕に巻かれたブランクギアから、哲也の声が響いた。
「哲也! お前、生きてたのか!?」
『新……あれはあくまで遠隔操作のチェイサーが爆発しただけだよ。とは言え、このままじゃあ僕もビルと心中だ。キツイだろうけれど、助けてくれるとありがたいね』
旧友哲也の相変わらずの口調に、新が思わず微笑む。
「……だ、そうだ。仕方ない、もういっちょやるか、八葉」
まだ少しフラつく足を踏ん張り、新が八葉から離れる。そのままいつものように、八葉へと手を伸ばした。
八葉もまた、小さく微笑むと新へと手を伸ばす。
「ああ、流石にここまで来て見捨てるのは寝覚めが悪いな……っ!」
手と手が触れ合う瞬間、八葉の動きがピタリと止まる。
「ん? どうした、八葉?」
不思議そうに新が首を傾げる。新の位置からは良く見えなかったが、うつむいた八葉の顔はどんどん赤くなっていった。
「な、なんでもないっ! ひ、憑依合身!」
首をブンブン振ると、半ば自棄気味に八葉が新の手を握り叫ぶ。その気迫に新も気圧されながら、続けて叫んだ。
「お、おう……エクシード・コネクトッ!」
◆
「ふう……なんとか凌げたっすね……」
虚木超常現象研究所の屋根の上、変身した椿が肩で大きく息を吸い込む。
全身の装甲は、ところどころひび割れ、シュウシュウと白煙をあげていた。
足元、研究所の中では律や楓、智秋達が避難住民と共に固まるように寄り添っている。
回復した椿は、全速力でここへ戻ると、全員を家の中へと押し込んだ。
ブランクとディライトの、神クラスのぶつかり合いから生まれるエネルギーの余波から、ただ一人で守る為だ。
「やれやれ、少しは加減を……出来る相手じゃ無かったすね」
椿がフッと空を見上げる。そこに開いた異界の扉は、今まさにゆっくりと閉じ始めたところだ。
「何はともあれ、良くやったっすね、新っち。流石は姐さんが選んだ、あたしの自慢の弟子っす!」
鬼面の奥、満面の笑みを浮かべ頷く椿。その時、足元から椿を呼ぶ声がする。見れば智秋と律が、椿に向かって大きく手を振っていた。
それに大きく手を振って応えると、この街と世界を救った英雄二人を迎えに、椿は大きく屋根を蹴って跳んだ。




