邪神達の独り言/そして邪龍神機へ……
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夜……なのだろうか、周囲は暗く何も見えない。ただ、目の前にはドアがポツンと一枚、壁も何もなく自立していた。
僕はしばらく辺りを見回したが、結局そのドアのごくありふれたドアノブに手をかけ回す。
━━カチャリ━━
ドアはあっけなく開いた。自立したただ一枚のドアだ。普通に考えれば、そのドアの向こうには左右の景色と同じ暗闇が広がっているはずだ……ったのだが。
「……これは、一体」
ドアを開けた僕の前に見えたのは、薄暗いながらも天井に吊るされたライトに照らされた、小さな酒場らしき店内だった。中には十人程の客が居て、店員はカウンターに立つバーテンダーの男一人と店の奥に設けられた小さな舞台で風変わりなフルートを奏でる楽師だけのようだ。
およそ理解し難い光景だったが、思わず店に足を一歩踏み入れた瞬間、更に驚くべき事が起こる。
いや、驚く事など何も無かった。店に入った瞬間、僕は僕が何者であり、ここが何処なのかを全て『思い出した』のだ。
「やあ、『私』。今夜は随分とお疲れのようじゃないか」
カウンターに座った一人、白衣姿の白人女性が手にしたグラスを置いて手招く。僕はその隣に迷いなく座った。特に注文はしなかったが、バーテンダーが目の前にグラスを置く。僕が何を望んでいるのか、彼は既に知っているのだが、それも別に不思議な事では無かった。
「なに……最近、少しばかり多忙でね」
「あぁ、『私』の尻拭いか。しかし、まさかあの『私』……『人類愛の権化』が人間に倒されるとはね」
「そうは言っても、まだ『僕』としては未覚醒だったしね。あの『僕』は、純粋に人類の為の行動だと信じてたようだけど……まあ、これは僕自身もか」
肩を軽く竦めた僕に、女は小さく首を振る。
「ま、別にそこの経緯はどうでもいいさ。結果的に『私』の目的は達成出来なかった……それは確かなわけだからね」
「ああ、世界に存在している歪み程度で作れた穴では、あの神の力……そのほんの一端を呼び込むのが精一杯だった。あれではまだまだ力が足りないな……」
僕はグラスの中身を一気に飲み干す。ドロリとした粘つく黒い粘液が、ゆっくりと食道を降りていった。
女がクックックと小さく笑う。
「そうかそうか、今の人間が生み出せる力では、この辺りが精一杯か。ああ、仕方ないさ、今まで散々繰り返してきた事だ。次の計画に移るとしようじゃないか」
「そうだね。既にこちらは動き始めているよ。もうしばらくすれば、アレを発見する予定だ」
「こちらも、それに合わせて動く。他にも数人、今ここには居ないが『私』が参加する」
「ああ、そうしよう。僕の仕事はそこまでだけれど……後は頼むよ、『僕』」
僕の言葉に女が笑みを浮かべ頷く。それを見届ける事もなく僕は席を立つ。
「なんだ、もう行くのかい?」
「言ったろう、これでなかなか多忙なのさ。では、またいつかの夜に」
女とバーテンダーに手で挨拶し店を出る。その瞬間に視界がグニャリと歪んで溶けた。
◆
「んん……」
目を開けると、見慣れた天井が見える。どうやら自室に帰ると同時に、ベッドに倒れて眠っていたようだ。時計に目をやれば、三時間ほど眠っていた事になる。
「なんだか……変な夢を見ていたような気がするな」
見ていた夢を想い出そうと思考するが、まるで霧の中に消えていくように、考えれば考えるほど霞んで消えていった。
「……まあ、いいか。最近、僕にしては無理していたし、そのストレスか何かが原因ってところだろうな……さて、と」
欠伸を噛み殺し、僕━━中原哲也━━は起き上がるとベッド脇の端末を操作する。立ち上がった端末のディスプレイに次々と表示されるデータや自身の仮説をまとめた文章を眺めながら、僕は一人ニンマリと笑った。
父親である哲史……ディライトが、新や僕達に倒されてから今日まで、息子である僕はプライベートなんてまるでない程、慌ただしく事後処理に追われた。けれど、それもようやく落ち着き、明日からしばらくは自由な時間を満喫出来る。
「ふぅ、ようやく研究を開始出来るよ。先ずはこれの存在確認……いずれは上手く実用化出来れば……」
実用化出来れば、何だったろう。スッと思考に靄がかかった気がした。いや、それも眠気からくる気のせいだろう。実用化出来れば、出来る事はいくらでも思いつく。総じて言うならば、人類は大きな転換期を迎えるだろう。
うん……やっぱり、眠気が残ったままではいけないな。僕はそう思うと、眠気覚ましの熱いコーヒーを煎れる為ベッドから飛び降りる。
そうして寝室を出ると、後にはただ、ベッドの上に残された端末だけが、謎の力を放つ虎に似た少女の映像と『魔素』の二文字をディスプレイに表示していた。
以上で『討魔戦鬼ブランク』の物語は終わりとなります。
この物語は、前作『邪龍神機イオス・ドラグーン』と同一世界、同一時間軸上のお話です。
よろしければ、そちらも是非お楽しみください。
それではお付き合いいただきありがとうございました!




