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「なんだ、もういいのか? 叶わないと思っていた再会だ。私の事は気にせず続けていいんだぞ? ほら、ギューっとな」
口調とは裏腹に何故か不機嫌そうな気配を発しながら、マカミは新の頭上をクルリと周る。
「ふ、ふざけてる場合じゃないだろ。マカミ、話を進めるぞ。ここは一体何処だ? そもそも、どうしてお前や八葉は無事なんだ?」
「ふん……イマイチ反応がつまらんが、まあ良いだろう。まず、この場所だが……いかに鈍チンの新とは言え、察しはつかないか。ここはあの虹魔木の中だ。さっきお前が捕らわれ、八葉が引き剥がした虹色のフワフワは、少し前から周辺に現れたが……どうやら別次元の存在らしいな」
「ああ、それならきっと、ディライトがお前と虹魔木の力で召喚した力……異世界の神ってやつらしい」
新がこれまでの事を掻い摘んで二人に伝えると、マカミがグゥと低く唸る。
「未来予知で知った破滅に対抗する為、異界の神を召喚し人類を神魔へ……か。奴め、大それた事を……」
「ああ……しっかし、ここがあの木の中とはな。お前や八葉が居るし、もしかしてそうじゃないかとは思っていたけれど……流石に木の中がこんな不思議空間じゃ実感湧かないぞ。でもまあ、本当にそうだとしたら、マカミはともかく、八葉はよく無事だったな」
神としての力を持つマカミと違い、八葉はただの少女だ。しかも魂が虹魔木に取り込まれたのは、もう何年も前になる。そう思いながら、新が再び八葉へ目を向けると、少女はどこか寂しそうに微笑んだ。
「伯父さんのおかげだよ、巧兄」
「おじ……なんだって!?」
「そうだ、新。私もここに来て初めて知った事だがな……お前の父親である間口耕三は、封印の解かれてしまった虹魔木に依代として取り憑かれた際、己の魂の全てを使って八葉の魂を護ったようだ」
「なっ……?」
「そして、残る力で虹魔木を内から縛った。完全に封印する程では無いが、それでも目覚めたばかりの虹魔木は大きく力を削がれた」
「…………」
「後はお前も知っているな。抜け殻となった肉体を、虹魔木の中に潜む魔性、アガルテに奪われた。その結果、お前はあの夜全てを失ったが……だがな、お前の父親はただの人間でありながら、それだけの事を成し遂げたのだ。長年の怒りや怨みを簡単に消せとは言わないが……私の言いたい事はわかるな?」
「…………ああ、わかっているさ」
重く、絞り出すように新が応える。そもそも、アガルテとの闘いから、それはわかっていた事だった。新は長年追い求めた仇が、実はそうではなかった事を知り、本当に倒すべき敵アガルテは既に倒している。
「俺は長い間、ずっと奴……父さんを怨んで責めていた。けれど、本当に責めるべきは、父さんでも、アガルテでもない。あの日の無思慮な自分だったんだ。俺が全てを引き起こした……その裏にディライトの思惑があったとしても、だ」
「巧兄! それを言うなら私だって……」
新が広げた掌で、言いかけた八葉の言葉を遮る。八葉を見る新の瞳は優しく、それでいて少しも揺るがない意志を秘めていた。
「責められるべきは俺だ。だからこそ、俺は俺のすべき事をしなきゃいけない。……マカミ、ここからお前達を連れて外に出るにはどうすればいい? どうすれば、異世界の神とディライトを止められる?」
「うむ……そうだな……奴の力の大部分が、この木とその神に依るものならば……方法は無いでもない」
「本当か!?」
「そうだ……そうだが、しかし……」
マカミが言い難そうに口ごもる。代わりに口を開いたのは、八葉だった。
「巧兄、外に出る事も、その悪い人をやっつける事も、出来る方法が一つだけあるの。それはね、私がマカミ様にこの魂を捧げればいいの」
「どういう意味だ?」
マカミが小さく息を漏らすと、八葉の肩に乗るように移動した。
「私が話そう……八葉が言ったそのままの意味だよ、新。本来であれば、捧げられた八葉の魂全てと融合し、その魂を神の座へとあげる事で、私は真に大口真神としての神力を発揮出来た。しかし、あの晩八葉に残っていたのは、虹魔木に奪われた、その残滓の様なものに過ぎない。以来、私は不完全な神としての力を、お前の魂やブランク・ギアによって補い、神魔を討ち滅ぼしてきた。だが、八葉の魂はこうして現存している……今ならば、あの夜のやり直しが……真の契約が行えるのだ。真神として本当の力さえ戻れば、ここから出る事も、虹魔木の力を削ぎ、ディライトを倒す事も可能だろう。だが、そのためには……」
「……八葉の魂が必要って事か。そんなの許せるわけ……」
「私は良いよ、巧兄」
静かに、しかしはっきりと八葉が告げた。返す言葉の出ない新に近づくと、その手にそっと自身の手を重ねる。
「こうなった責任が巧兄にあるなら、同時に私にだってあるんだよ。私も私に出来る事があるなら、それをちゃんとやらせてほしい……ううん、今やると決めたよ。私はマカミ様にこの魂を捧げて、巧兄と一緒に皆を守るの」
「くっ……八葉、お前……」
「ごめんね、巧兄。マカミ様、私の魂使ってください」
「うむ……新、八葉、他に為す術の無い、不甲斐ない私を許してくれ。八葉、気休めかも知れないが、私に魂を捧げても、お前が完全に消える訳では無い。今の私とお前、その二つの魂が混じり合い新たな大口真神となるのだ」
「え、そうなんですか? ……そっかぁ、じゃあきっと、新しい私は巧兄が大大大好きになるね! だって私もマカミ様も、巧兄の事大好きだもん!」
「ナッ!? 八葉、何を言うっ!?」
「アハハ! マカミ様、焦ってる〜、なんだか可愛いなぁ」
プルプルと震える光球を指差し、心底楽しそうに八葉が笑った。




