10-終
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一瞬にすら満たない刹那、電光のようにブランクの脳内を駆け抜けた回想。垣間見た、自身の師匠である椿の覚悟に、ブランクもまた覚悟を決めた。次の瞬間には確実に自身を襲うであろうディライトの攻撃に、無防備な背中を晒したまま、真っ直ぐに虹魔木へと向かう。
例えディライトが放つ必殺の一撃を受けようと、それでどれだけのダメージを、或いは命を失ったとしても、必ず虹魔木へ、そして中に居るはずの八葉へと、魂を込めた拳を届ける……椿と同じ、己が信じる人類の為の、生死の矛盾すら覆す滅私の覚悟だ。
━━バシュゥッッ!!━━
その時、激しい音と共に、ブランクの全身を虹色の光が包む。しかし、不思議な事に、当のブランクは痛みどころか衝撃一つ感じない。
「……な!?」
「ハハっ、遅くなっちまったなぁっ! ブランクッ!」
『危ない所だったが……まあ、一応は間に合ったようだね、新』
思わず振り返ったブランクの目に飛び込んできたのは、マリスチェイサーに跨ったまま、黒焔の拳で虹色の光を受け止める士郎の姿だ。
「士郎! 哲也!」
「……へっ、待たせたなっ。安心しろよ、下の有象無象はキッチリ始末してきたぜ」
『細かな事情はともかく、察するに父さ……ディライトの野望を止める為、君には今するべき事があるんだろう? ここは任せて急ぐんだ』
「だな、急げよブランク。悪いが、そうそう長くはもちそうにないぞ」
士郎が虹色の光越しに前方のディライトを睨む。
今まさに、ブランクが無事な事を知ったディライトが左腕に力を集中させ、放つ光を更に増大させようとしていた。
「っっ……させないっすよっ!」
椿が抑えていた腕を離し、輝く右拳をディライトの顔面へと打ち込む。だが、その攻撃が命中する前に、鋭く高く蹴り上げたディライトの爪先によって、椿の右上半身が消し飛んだ。
「がっ……!?」
「椿っ!」
通常の生物ならば即死のダメージだが、椿は残った右手で、腹部を貫くディライトの右腕を強く強く掴んだまま離さない。一つだけ残った瞳は、チラリとブランクの方を見ると、構うなと物言わず語った。
その光景に特に反応を示さないまま、再びディライトが虹色の光をブランク達へと放出する。輝きも込められた力も、先の攻撃の数倍はあるだろう。
「アルッ、サンッ、気張れよっ!」
敬愛する兄の声に応えるように、装甲の上で五つの狼頭が目を輝かせ、顎から溢れんばかりの黒焔を吐き出すと士郎の両腕へと何重にも纏わせる。
哲也もまた、ディライトの攻撃に押し負けないよう、チェイサーのエンジンを唸らせた。
「わかった、後は頼む……ハイ・チャージッ!」
士郎達に背を向け、ブランクが虹魔木へと向かう。背後でピシリと士郎の装甲が割れる小さな音が聞こえた。それでも振り返らず、右の拳に白い輝きを集めながら、ブランクが心の中で八葉に語りかける。
(結局、俺は皆に支えられて、ようやっとここに立てたよ)
虹色に輝く黄金の幹。その中心に拳を向け構える。拳はブランクに残った魂の力を全て吸い出すかのように、どんどん輝きを増していく。
(皆がそばに居て……俺は、俺自身が思うほど、空虚じゃなかったみたいだ。けどな、俺の心を一番満たしてくれたのは……いつだって隣に居てくれたお前なんだよ。だからさ、そんな木の中で寝てないで、また俺の隣に戻ってこいっ、八葉!)
「ハァァァッッ……セパレス・インッパクトッッッ!!!」
全ての力を、魂を、想いを、拳に乗せてブランクが虹魔木を打つ。巨大な幹はそれでも僅かにブルリと震えただけだったが、ブランクの拳から伝わった白い輝きは、まるで上書きするように虹色の光を覆いながら、幹全体へと広がっていった。
やがて、虹魔木の中から、ブランクの光に同調するかのように、儚く明滅する白い光が生まれる。白い光の点滅は、最初は弱くゆっくりと、だが徐々に強さを増しながら早くなり、突然弾けるように一気に溢れた。
「くっ……!?」
周囲が完全に白く染まる。全てを飲み込む光の奔流の中で、ブランクの意識はブツリと途切れた。




