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空に浮かぶ泡からの光が虹魔木を包むと、黄金色の枝が虹色に染め上がり、次々と虹魔石を生み出していく。それを眺めながら、ディライトが挙げていた両手を降ろし満足気に頷いた。
「接続完了。ようやくだ……これで人類は……」
「フンッ。あれが、あの泡粒があんたの言う神様なのか?」
背後から鼻で笑いながら、問いかけてくる声に、ディライトが少しだけ肩を落とし振り返る。
「ブランク君、まさかあの攻撃で生きていたとは……」
「生憎と、な。あの程度で全部投げ出せる程、お気楽な人生を生きてないんでね」
「わかるだろう? 最早、事は成った。真なる神は既にこの地へと現れ、虹魔木へと力を注ぎ始めたのだ。それでも、君はまだ私と戦うと?」
「そうだよ、馬鹿野郎。手前勝手な人類救済しようっていう、お前のその沸いた頭を、今から殴って直してやるぜ!」
「そうか……それが変わらない君の答えか……むっ!?」
目の前に飛来したクナイを、ディライトが神速の拳で弾く。そのクナイに重なるように続けて投げられた複数のクナイも、全て同様に弾き飛ばした。
「まさか、今更こんな物で倒せるとは思うまいね」
「そうだな……爆っ!」
ブランクが叫び、周囲に散ったクナイが一斉に爆発する。しかし、その爆発によって発生したのは、高熱の焔でも、金属の散弾でもなく、重く立ち込める白い煙だ。
「っ、煙幕か。だが、視界を奪ったところで、力までは隠せんな。その位置、簡単にわかるぞっ!」
その言葉を証明するように、ディライトが白煙の中ユラリと動く。刹那、ディライトの頭部があった場所を、鋭い拳が通り過ぎた。
「ふんっ!」
ディライトの右拳が虹色に輝き、白煙の中に突き入れる。鬼のようなシルエットの中央、堅牢な装甲と共に、柔らかな臓腑を貫く確かな手ごたえと、自身の装甲を伝う真紅の血に、ディライトはブランクの死を確信した。発生した拳圧が、風を巻き起こし周囲の煙を払う。
「……ふは、捕まえたっすよ」
突然聞こえた若い娘の声に、ディライトの身体がピタリと止まる。声の主、自身の腹部を貫く腕を、両手でガシリと掴んだ、全身金属製の鬼が姿を現した。
普通に考えるならば、ディライトに体の中心を貫かれ即死のはずだ。その腕を両手でガッチリと掴む力強さには些かの衰えも感じられない。
「くっ!」
「おっと、逃がさないっすよ」
慌てて腕を引き抜こうとすれば、今度は砕いた装甲ごと、鬼の内臓が蠢き腕に絡みついた。
「君は……ブランク君では無いな」
「鬼神椿、その最強形態、鬼神殻鎧っすよ。覚えておくっすね」
鬼が、椿が装甲を歪ませニヤリと笑う。
「分離したのか……ではブランク君は?」
眼前の椿を無視し、ディライトがここに居るはずのブランクを探す。そして虹魔木へと向かって走る、白い素体状態のブランクをすぐに見つけだした。
「何をする気か知らないが、やらせんっ!」
ディライトが自由な左手を虹色に輝かせ走るブランクに向けて振るう。左手が描く軌跡が虹色の刃を形作り、超高速で打ち出された。
(……っ!)
背後から迫る殺気に、ブランクがブレードを取り出し、真横へと跳びのきながら、振り払うように投げつける。ブレードの光刃が虹色の光と接触した瞬間、激しいスパークと共に大爆発を起こした。
「くぅっ!」
至近距離の爆発に、生身よりも遥かに重量のあるブランクの身体が、軽々と吹き飛びゴロゴロと転がる。しかし、致命傷は受けていない。目の前で輝く虹魔木の太い幹まで後数歩で手が届くといったところだ。
ブランクはすぐさま跳ね起きると、再び虹魔木へと向かう。
数歩、たとえ八葉と合身していない今のブランクでも、瞬く間に辿り着く距離だ。
だが、その瞬きよりも早く、ディライトは再び虹色の腕を振るった。
「愚かなっ!」
ジリジリと背中を焼く、虹色の殺意を再び背中に感じながらも、ブランクは虹魔木への一歩を踏み出す。その脳裏には走馬灯のように、椿との言葉が蘇っていた。
◆
数分前、ビルの壁を蹴り上げながらブランクが椿に尋ねる。
「この状況を打開できる考えか……俺には思いつかないけど、一体どんな策なんだ?」
(まず確認っすが、さっきも言った通り、このまま無策でぶつかっても、今のあたし達に奴を止める力が無いのは理解してるっすね?)
「……ああ、間違いないだろうな」
ピタリとブランクの動きが止まり、言いにくそうに呟く。気合いや小手先の技で覆る程、神の力を引き出したディライトとの力の差は小さく無い……ブランクの戦士として鍛えられた眼は、冷静にそう判断していた。
(オーケーっす。現状で歯が立たない以上、何かしらの方法で彼我の力量差を埋める必要があるっす。今回は時間が無いっすから、あたし達の強化ではなく
向こうに弱体化してもらうっすよ)
「弱体化……っ、まさか!?」
(そう、虹魔木っす。虹魔木は、姐さんの力を取り込む事で、真価を発揮し、今異界の神を召喚、奴はその力を受けて強化されてるっす。つまり、虹魔木と姐さんの繋がりさえ絶ってしまえば……)
「必然的にディライトは弱体化、神の召喚そのものも止まるかも……けど、八葉は今でもあの中で無事なのか?」
(それなら心配ないっす)
ブランクの感じた当然の疑問に、しかし椿は簡単に応えた。
「何故、そう言い切れるんだ?」
(ああ……そういえば、新っちには話した事無かったっすね。実は、あたしと姐さんは魂が繋がってるっす。姐さんが産まれた時、その身に収まりきれず溢れた力の残滓、そこから造られたのがあたしっすよ。まあ、山の精気も多少混ざってはいるっすがね)
「えっ、そうだったのか!?」
ブランクが驚きの声をあげる。八葉と椿がいつ出会い、どういう関係なのか、自身が何一つ知らなかった事に思い至る。
(あたしが無事な以上、どうやってか姐さんも虹魔木の中で無事なはずっす。後は新っちの力で、木との結び付きに綻びを作れば良いっすよ!)
「そうか! けど、その間、ディライトはどうする?」
(奴は、あたしの鬼神殻鎧で止めるっす。全ての力を一気に出せば、時間稼ぎくらいは出来るっすよ)
「ちょっ、ちょっと待てよ! それじゃあ椿は……」
鬼神殻鎧は、強力な分、極端に力を消費する。そういう意味でも、椿は夢幻門の中でしか、その姿になる事は無かった。鬼神殻鎧になり、ましてや全ての力を使うと宣言した。
椿の発言の意味に気付き、ブランクは戸惑う。少女の姿をした鬼神は今、己の全存在をかけて、ブランクの為に時間を稼ぐと言ったのだ。
(……どのみち、山を降り力を行使し続けたあたしに、もうそれほど猶予は残っていないっすよ。言っていたはずっす、時間が無いと)
「……そういう意味だったのかよ……でもっ!」
(黙るっす、新っち……いや、新。今ここでアレを止める代案が無い以上、問答無用であたしの策にのってもらうっすよ)
「椿は……師匠はそれでいいのか……?」
(姐さんから生まれ、随分と長く生きたっす。その間に、こうして二人の教え子も出来たっすが……あたしの生まれた意味……姐さんから授かった力を使うべき時、それがようやく訪れたんすよ。そういう訳だから、新っちもあたしを師匠と思う以上、師の花道を邪魔しちゃあいけないっす)
ハハハハハとブランクの中で椿が笑う。その声には一片の迷いも感じられなかった。ブランクは一度短く息を吐き強く頷くと、再び壁を登り始める。
「……わかった。何としても止めるぞ、椿」
(オーケィ、行くっすよ!)




