10-12
◆
ディライトの顔を打った裏拳をそのまま振り抜く。目立ったダメージこそ無いが、ブランクに力負けした事で、ディライトの動きがわずかに遅れた。
その僅かな隙を突くように、ブランクの拳が真紅の光を纏いディライトへと放たれる。
「ハイ・チャージッ! ハァッ!」
「ヌッ……グッ!」
次々と撃ち込まれるブランクの拳を、両腕でガードするディライト。攻撃を受ける度に、ディライトの装甲がブランクと同じ、赤い光を放ち出した。
「今だっ! イグニッションッ!」
ブランクが叫ぶと同時に拳をディライトのガードしている両腕へ、一際強く打ち込む。その瞬間、ブランクの攻撃で、赤い光となって蓄積されていた力が、ディライトの腕で一気に解き放たれ爆発した。
「がぁぁっ!」
堪らず叫ぶディライト。その両腕はダラリと力無く垂れ、右腕は肘から先が消し飛んでいた。
『今っすよ、新っち!』
「ああ、再生する前に倒す! エクセス・チャージッ!」
ブランクの鎧がガチャガチャと移動し変形する。
装甲板が右手へと集まり、巨大な手へと変わった。
その右手に、力が集まる。拳に収まりきれない真紅の力は、その表面から溢れ湧き上がり、さながらマグマか小さな太陽のようでもある。
「オオオオオッ!」
ディライトの体を下から打ち上げるように左肩でタックルする。浮き上がった体へと、ブランクが異形の右拳を放つ。
「ジャッジメント・ブレイクッッ!!」
一瞬でディライトが光球に包まれる。結界で封じられた圧倒的なエネルギーの渦に包まれ、逃げる事も出来ずディライトの全身が分解されていった。
「……まさか」
やがて光が消え、ドサリと音がする。その音にブランクが目を向けると驚いたように声をあげた。
「……まさか、あの攻撃で生き残れたなんて……か?」
ディライトとしての装甲をほとんど全て失い、喪った右腕も再生出来ていなかったが、それでも無事だった哲史が倒れたまま笑う。
「ディライトの持つ力を、全て防御に回した結果だ。なに……そう悲観する事も無い。力を使い切り、今の私はもうブランク君と戦う事は出来ないさ」
挙げた左手をヒラヒラと振る哲史。その顔に浮かんだ笑顔がスッと消える。
「……しかし、惜しいな。それだけの力があれば、私に賛同してくれさえすれば……いや、最早言うまい。おめでとう、ブランク君。この勝負、君達の勝利だ」
「……あんた…………」
「だがね、ブランク君。君との戦いには、こうして敗れたが、私はどうやら上手くやれたようだ」
「何を……ッ!?」
パチンと左手の指を鳴らす哲史。その瞬間、ビルを激しい地震が襲った。
「見たまえ、ブランク君。時が満ちた」
地震が続く中、哲史の声に反応するように、部屋中の空間にいくつもの映像が現れる。それらは全て、様々な角度から手名芽市を映したものだ。
その映像の中、手名芽市中のビルが次々に倒壊していく。大小に関わらず、まるでランダムに押し潰すように、崩れ潰れていく建物達に、ブランクが驚き戸惑う。地震はビルが壊れ続け発生しているものだったらしく、映像の中で破壊が止まると振動もまた止んだ。
映像の端、超常現象研究所が無事な事を確認し、ブランクは密かに胸を撫で下ろした。
「こ、これは……!?」
「ふふ、あれを見て何か気付かないか、ブランク君」
哲史が指し示す映像、上空から手名芽市を映した画面を見た瞬間、ブランクの脳裏に大昔の手名芽市、アサ達が崇めた山神の社が浮かぶ。ブランクが居る中原総合科学本社ビルを中心に、無事なビル達が等間隔に円を描くように建っている映像が、あの社のストーンサークルに見えたのだ。
「都市開発の段階から用意していた儀式の場だ。今この瞬間、星は正しい位置へと還り、虹魔木によって再び生じたこの世界の歪みは、最大の物となったのだ」
「なんだと……!?」
虹魔木の枝葉が、虹色の光を纏い怪しく明滅する。同様に光る哲史が、フワリと空中に浮かぶと、ブランクを見下ろし笑う。
「君の相棒である狼神八葉君や、今そこに居る鬼神椿君、神と呼ばれる力を持ってはいるが、君達は所詮、人の想いが、願いが生んだだけの儚い存在であり、根源的には神魔と変わらない。全知全能というわけでもなく、そもそも魂の提供者である依代無くては力すら振るえない存在だ。そんなもの、本当に神と呼べるのかね?」
『ムカッ! 随分失礼な事言うっすね! 奴が何かする前に、終わらせるっすよ、新っち!』
「ああっ! ッ! グッ!?」
椿の言葉に、飛びかかろうとしたブランクの体が、哲史の向けた左手、そこから伸びた虹色の光に抑えつけられたかのように動けなくなる。
「もう少しだ、大人しく待ちたまえ、ブランク君。……さて、偽りの神しか居ない、この世界では、人の未来は救えない。ならばこそ、私は今! この力を使い、歪みをこじ開け真の神を召喚するっ! 刮目せよ、世界。これが絶望の終わり、新たな希望の世界の誕生だ!」
哲史が左手を高く真上へ掲げる。その手から溢れるように真っ直ぐ、空へと昇る巨大な虹色の光が、ビルの天井を吹き飛ばす。
ピシリ━━何も無い空に亀裂が走る。ディライトに幻視された未来、あの蛸の怪物が現れた時のソレよりも遥かに大きい亀裂が、内側から押し開かれるように、左右に開いていく。
ソレは、まるで開かれた扉を連想させた。




