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討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第十話 真なる神と手無女伝説の終焉
118/130

10-11

◆


『やあ、ただいま』


 スピーカーから似つかわしくない声を発しながら、金属の塊かと思うような重装甲の無人バイクが、虚木超常現象研究所の前に停車した。


「あ、お帰りなさい! 哲也さん」


 家を守るように周囲を警戒する、強面の黒スーツを着た男達の間から、智秋が顔を出し手を振る。


『やあ、智秋君。寝ていなくていいのかい?』


「はい、もうだいぶ回復しました。それに……こんな状況じゃあ、ゆっくり寝てなんかいられませんよ」


『そうだね……ん、どうやらまた少し増えたかな?』


 チェイサーのカメラアイをクイと動かし、家の中に目を向ける哲也。高機能なセンサーは屋内の熱源を正確に探知する。そのセンサーが知らせる通り、今や家の中や大して広くもない庭には、既に満員と言ってもいいほどの人が溢れかえっていた。


「そうですね……でも、律さんや楓さん、それに極楽町の皆さんのお陰で、一先ず落ち着いています」


 彼等は皆、先のディライトによる手名芽市無差別神魔化の騒ぎから、ブランク達に救い出され、この場所へと誘導された人々だ。元より今この場で、現状を完全に把握出来ている者は、数えるほどしか居ない。何もわからない大多数の顔には、疲労と不安の色が濃く、また一部ではそんな気持ちを隠そうとするかのようにピリピリといらだった空気さえ漂っていた。

 それを何とか抑えているのは、この家の実質的な主人とでも言うべき律と、彼の指示で上手く立ち回っている黒スーツ達の力に依るところが大きい。

 律の母親でもある多聞によって派遣された、屈強な見た目の男達だったが、その辺りは流石、様々な人間と問題を日々抱え込む極楽町の住人と言うべきか、相手の人柄を即座に見抜き、それに最適な対応を流れるようなスムーズさでこなしている。

 一方、楓もまた、律の手助けを行い、市民の間を回っている。少しでも新達の手助けになればと思っての事だろう。

 そう哲也が考えていると、智秋が様子を伺うように尋ねる。


「それで……そちらはどうでしたか?」


『ああ、確証があるわけではないのだけれど、大量発生した神魔は、さっきの光で残らず浄化されたとみて、まず間違いないようだね。流石は、新と君のお師匠様だ』


 ブランクと椿の会話をブランクギアの通信機能で聞いていた哲也は、既にその事を知っていた。しかし、内容はにわかに信じ難く、研究所への襲撃の兆候が無いのを確認した後に、チェイサーを走らせ周囲を調査したのだ。その結果、あれほど発生していた神魔の影一つなく、椿の神として持つ底知れない力を見せつけられる事となった。


「じゃ、じゃあ、もう安全なんですね!?」


『……いや、それはどうだろうか。確かに市内の神魔達は消え、今この街は静かだ。けど、僕には……その静けさが、嵐の前の静けさ、一時の平穏に思えてならないな。その証拠に……』


 太く重いタイヤを回転させ、チェイサーがその場で旋回する。その先には、全体に虹魔木の枝を巡らせた巨大ビルが見えた。


『僕が━━つまり人間である僕が今居る、あのビルに新達が突入してしばらく経つ。中に居る僕にはわかるんだけれど、少し前からビル全体が不規則に震えだしたんだ。内部のブランクと通信出来なくて詳細は不明だけれど、おそらくブランクは僕の父と、最後の闘いを始めたようだね』


「新さん……」


『そこでだ。智秋君、僕は今からそこへ乗り込もうと思う。勿論、このマリスチェイサーでね。ここの守りは薄くなるけれど、市内の神魔が消えた以上、それほど警戒する必要はないだろう……が、今後の見通しが立たない以上、皆にはもう少し窮屈な思いをしてもらった方が良いだろうね』


「……はい、分かりました! 僕が行けない分、少しでも新さん達を助けてあげてください!」


『ああ、そうだね。それじゃあ、これを受け取ってくれないかな?』


 チェイサーの装甲が一部割れ、中からポンと智秋の方へ何かを飛ばす。

 慌てて受け取った智秋が、その手の中を見ると、そこにはグレイブギアが鈍い光を放っていた。


「これは!?」


『予備のパーツで組んだグレイブギアだよ。ただし、封印された神魔のそれは、よくてせいぜいデフォルトのブランク程度の力しか出ないだろう……けど、無いよりはマシ、という事さ。僕の居ない間、ここを頼むよ、智秋君』


 哲也の言葉に智秋が強く頷く。それを見届け満足したのか、哲也はチェイサーのエンジンをウォンと吹かせた。そのまま走り出そうとしたチェイサーを、二つの声が止める。


「ま、待ってください!」


「新さんの所に行くんですね?」


 声の主━━慌てて玄関から飛び出した律と楓は、言いようのない想いを込めた瞳でチェイサーを見つめる。二人はちらりと視線を交わすと、同じ想いを叫んだ。


「虚木さんに、必ず無事に生きて帰ってと伝えてください!」


「僕、ずっと待ってますから!!」


 二人の想いに応えるように、再び大きくエンジンを唸らせるマリスチェイサー。そのまま、猛スピードで走り出す。


「新さん……」


 律は思わず両手を祈るように重ね握り、新が居るであろう巨大ビルの上層階を見上げた。

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