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「ぐっ……!!」
怪物の叫びに大気が震え、その大音量にブランクは思わず、装甲の上から耳を抑える。一方ディライトは動じた様子もなく、前方の怪物を指差す。
「これは始まりに過ぎない……見たまえ、奴が動くぞ」
ディライトの言葉通り、怪物がノソリと動きだす。身動ぎし周囲のビルを更に崩すと、怪物は身体中に生えた、蛸のそれに似た触腕をシュルシュルと周囲へ伸ばした。
「何を……なっ!?」
伸ばした触腕のいくつかを引き戻す怪物。その一つ一つに捕らわれているのは、間違いなく人間だ。老若男女の区別無く捕まった人々は、巨大な怪物と比べると、まるで蟻かなにかのようだが、ジタバタと必死にもがいているのがブランクからでも見える。
怪物は目を愉悦の形に歪めると、触腕に覆われた大口をパカリと開いた。
「ま、まさかっ! やめろっ!」
「無理だ、ブランク君」
怪物は捕まえた人間を、自身の触腕ごと次々と喰らい始める。止めようとするブランクだったが、その場から一向に進む事が出来ない。ブランクの後ろでディライトが首を振った。
「無駄だよ、ブランク君。この光景は、遠い未来から私達の脳へ、投影された映像に過ぎない。まあ、私も最初の頃は、君と同じようにしたがね」
肩を竦めるディライト。その横を数機の戦闘機が轟音をたてながら通り過ぎていく。戦闘機は編隊を崩さずに高度を上げ怪物の上空を旋回すると、怪物の頭部目掛け次々にミサイル状の何かを撃ち出していった。
爆炎の華が怪物を覆う。瞬間的に発生した炎がもたらす超高温の渦の中で、無傷の怪物がうるさそうに上空を睨んだ。
「さて……もういいかな」
ディライトがパチリと指を鳴らす。その瞬間、全ての景色は遠のき、ブランクは再び中原総合科学の展望ホールに立っていた。
「……っ、椿、今のを見たか!?」
『新っちと同じ物を見ていた……いや、見させられていたっす。正直、にわかには信じがたい話っすね』
「だな……けど、あれは……」
「悲しいが、確実に起こる事だ、ブランク君」
ブランクの言葉を、このホールに足を踏み入れた時と同じように、再び虹魔木の枝に腰掛けたディライトが遮った。
「あの怪異に対し人類も必死に抵抗を試みるが、通常の兵器では効果が薄い。少しづつ追い込まれた人類は絶滅する事になる」
「……確かに、あれが、お前のヴィジョンが真実なら、そうなんだろうな。けれど、お前が俺達に都合の良い幻覚を見せたって可能性もあり得るだろう」
「ふぅむ……そうだな。怪異のヴィジョンを得た私がまず考えた事は、どうすれば人類という種が助かるか? という至極当然な問題だった」
顎に手を当て、遠い過去を思い出すように虚空を見上げディライトが呟くように応える。
「ヴィジョンの内容を精査すれば、現行の科学や、その延長線上にある技術程度では、到底奴に対抗出来ない事はわかった。ならば、人類が未だ見ぬ、或いは忘れ去ってしまった力を加えればどうか? そうして私の持てる知識と力、そして何よりヴィジョンの力で探し出した答えがこれ……虹魔木だ。人を人ならざる超越者へ変化させる神器、これさえあれば人は人という脆弱な存在から抜け出し、あの怪異にも対抗出来る。……初めて存在を知った時には震えたよ。最も、その時は厳重に封印されていたがね」
「っ……お前か! お前だったのか!」
「そうだよ、ブランク君。全て私がした事だ。当時の手名芽村に封印された虹魔木があると知った私は、グループ会社全てを手名芽村へ移し、大々的に開発を開始した。それも全て人類を救うための、私の計画の一端だった。そして君の家に代々祀られた御神体、それこが私の求めた神器だと突き止めたのさ。しかし、忍びこんだは良いものの、困った事に肝心の箱が開かない。封印を解くためには、箱の守り人である間口家の人間が、自らの意志で箱を開ける必要があったようだ。まあ、君にはその辺りの説明は必要ないかもしれないね」
「くぅっ……!」
ブランクの……新の脳裏に、あの夜の出来事が鮮明に蘇る。あの時点で既に、虹魔木は、新達は、手名芽市は、このディライトに狙われていたのだ。自覚なく握りしめた拳が金属の歪む音を立てる。
「かくして、虹魔木は解放され、共に封じられていた太古の魔人アガルテもまた、自由を得た。動きだしたアガルテへと、私は密かに接触し財力や技術面での協力を申し出る……ちょうど君と息子のような関係だね。彼のおかげで、神魔研究は大いに捗ったよ。この一連の流れが、私の能力が実在する証拠だ。先のヴィジョンが真実である、という証拠にはならないかもしれないがね」
「……あの映像が本当だとして、お前は虹魔木をどうする気なんだ」
「私の目的は何も変わらない。あの怪異を打倒し、人類という種を生かす事だ。だが、現生人類のままでは勝てない……ならば、人間を、人の生み出した社会そのものを、新たな力で変革進化させなければならない。つまり……」
スーッとディライトが右腕を挙げる。その人差し指は高く空を指し示していた。
「虹魔木の力を使い、全人類を魔人や神魔へと変換させるのだ」




