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飛び込んだエレベーターの中、天井を突き破り、長い縦穴を壁を蹴りながら登っていく。
「……奴等、追ってこないな」
『う〜ん……おそらく、そこまで賢くはないようっす。あの場に居る相手を倒すくらいしか、出来ないんじゃないっすかね。士郎っちも無視してこっちに来れば良かったっすのにね』
「いや、あいつの考えている事はわかるよ。あんな奴等を、そのまま放置して、もしビルの外にでも出たりしたら……」
『ふんふん、それは大事になるっすね。それじゃあ、仕方ない……ああ、新っち、アソコっす!』
ブランクの内側から、椿がブランクの視線を一点へと向けさせる。最上階近く、閉まったままのエレベーターゲートに取り付くと、ブランクは力で扉を左右に押し広げた。
「来たか……意外に早かったな」
ゲートを抜けた先は、広く拓けた展望ホールになっていた。あちこちに虹魔木が枝を張り巡らせ、その中の一つにディライトが腰を降ろしている。
「ふむ、ブランク君一人か。まあ、こうして最後の幕が上がる前に、君に間に合ってもらえたようで良かった」
「何が良かっただ! 最後の幕だとっ! ディライト、一体何を企んでいる!」
油断なく構えながら叫ぶブランク。しかし、ディライトは動かず、ただ静かに腕を組み頷いた。
「何を企む、か。……ブランク君、君は超常現象研究所の所長だ。もちろん、あくまで神魔狩りをする上での、表向きな肩書きだというのは知っているがね。そのブランク君に尋ねよう、いわゆる超能力というものは実在すると思うかい?」
「何? どういう意味だ!?」
スッとディライトが立ち上がる。その金属製の爪先で、床を軽くコツコツと打った。
「そのままの意味さ。私が何故、これほど巨大な企業を起こせたのか。私が何故、何も無い田舎の村だった手名芽村を、大都市へ開発したのか。そうして何故、今その手名芽市に混乱を招いているのか……全ての答えがそこにある」
ディライトが右手の親指と人差し指で輪を作ると、その輪を自身の目の位置にかざし、覗き込むような真似をする。
「私にはね、幻視能力があるのさ」
「ヴィジョン……?」
「気付いたのは、まだ子供の頃だった。私の意思と関係無く、未来に起こる様々な事が私の脳に流れ込んでくるのさ。当然、最初は半信半疑だったが、ヴィジョンの内容が現実となっていき、不信が杞憂だとわかるまでに時間はかからなかった。この力を使って、私は中原総合科学を創り、簡単に大きくする事が出来た」
輪を作っていた右手をブランクへと差し伸べる。その掌に突然、燃え上がる炎のような光が生じ、次の瞬間には眩い閃光を放った。
「くっ! しまっ……」
慌てて腕で庇いながら目を閉じるブランク。だが、その隙にディライトが攻撃を仕掛ける様子は無い。光が収まるのを感じ、目を開け周囲を見渡すと、ブランクの体を衝撃が走った。
「な、なんだっ!?」
いつの間に外に出たのか……ブランクは今、何の力も使わずに街を見降ろす高度で、宙にフワリと浮いていた。
その時、状況を呑み込めず戸惑うブランクの背後から、ディライトの声が響く。
「長くヴィジョンを受け入れてきた私だが、ある時期から変わらず見続けている光景がある。虹魔木の力を少し借りれば、こうしてブランク君にも見せる事が出来るようだ」
「ディライトッ!」
振り返り見れば、ディライトもブランク同様、フワフワと宙に浮かんでいた。ブランクは即座にディライトへ拳を打ち込むが、まるで煙のように揺らいだ身体を突き抜けるだけで、手答えがまるで無い。
「落ち着きなさい、ブランク君。今の私達は、ヴィジョンに投影された影、互いの認識した存在であって実体では無い。それより、あの街並みを見るといい」
どうやらディライトの言う事は確からしい。ブランクはそう考えると、警戒を崩さずにディライトの指差す眼下の街並みを見た。
「あれは……」
「気付いたかな、あれは私や君達が暮らす手名芽市では無い。ここでは無い異国の、実在するとある街だ…………ふむ、そろそろ始まるぞ」
まるでディライトの言葉が合図だったかのように、突如異変が始まった。
ブランク達の目線の先、都市の上空、何も無いはずの空間に巨大な亀裂が走る。亀裂は更に広がり、やがて破片を撒き散らしながら、空に巨大な穴が開いた。
内部を窺い知れない、その暗い穴から巨大なナニカがズルリと這い出してくる。無数にある触腕を動かし、ヌメヌメと光る、腐り濁った水のような体色をしたソレは、ブランクに蛸を連想させた。
「あれが私達の避けられぬ未来、そこに現れる人類の敵だ……ブランク君」
巨大な蛸の怪物が穴から完全に抜け出すと、ボトリと都市の上に落下する。いくつものビルが蝋細工のように潰れ、崩壊する都市の中心で、怪物は空を振り仰ぎおぞましい叫び声をあげる。
それは、ブランクの知る限り、最も忌まわしい産声だった。




