↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討魔戦鬼ブランク〜手名芽市神魔討伐譚〜  作者: 九頭龍
第十話 真なる神と手無女伝説の終焉
115/130

10-8

◆


 飛び込んだエレベーターの中、天井を突き破り、長い縦穴を壁を蹴りながら登っていく。


「……奴等、追ってこないな」


『う〜ん……おそらく、そこまで賢くはないようっす。あの場に居る相手を倒すくらいしか、出来ないんじゃないっすかね。士郎っちも無視してこっちに来れば良かったっすのにね』


「いや、あいつの考えている事はわかるよ。あんな奴等を、そのまま放置して、もしビルの外にでも出たりしたら……」


『ふんふん、それは大事になるっすね。それじゃあ、仕方ない……ああ、新っち、アソコっす!』


 ブランクの内側から、椿がブランクの視線を一点へと向けさせる。最上階近く、閉まったままのエレベーターゲートに取り付くと、ブランクは力で扉を左右に押し広げた。


「来たか……意外に早かったな」


 ゲートを抜けた先は、広く拓けた展望ホールになっていた。あちこちに虹魔木が枝を張り巡らせ、その中の一つにディライトが腰を降ろしている。


「ふむ、ブランク君一人か。まあ、こうして最後の幕が上がる前に、君に間に合ってもらえたようで良かった」


「何が良かっただ! 最後の幕だとっ! ディライト、一体何を企んでいる!」


 油断なく構えながら叫ぶブランク。しかし、ディライトは動かず、ただ静かに腕を組み頷いた。


「何を企む、か。……ブランク君、君は超常現象研究所の所長だ。もちろん、あくまで神魔狩りをする上での、表向きな肩書きだというのは知っているがね。そのブランク君に尋ねよう、いわゆる超能力というものは実在すると思うかい?」


「何? どういう意味だ!?」


 スッとディライトが立ち上がる。その金属製の爪先で、床を軽くコツコツと打った。


「そのままの意味さ。私が何故、これほど巨大な企業を起こせたのか。私が何故、何も無い田舎の村だった手名芽村を、大都市へ開発したのか。そうして何故、今その手名芽市に混乱を招いているのか……全ての答えがそこにある」


 ディライトが右手の親指と人差し指で輪を作ると、その輪を自身の目の位置にかざし、覗き込むような真似をする。


「私にはね、幻視能力《ヴィジョン》があるのさ」


「ヴィジョン……?」


「気付いたのは、まだ子供の頃だった。私の意思と関係無く、未来に起こる様々な事が私の脳に流れ込んでくるのさ。当然、最初は半信半疑だったが、ヴィジョンの内容が現実となっていき、不信が杞憂だとわかるまでに時間はかからなかった。この力を使って、私は中原総合科学を創り、簡単に大きくする事が出来た」


 輪を作っていた右手をブランクへと差し伸べる。その掌に突然、燃え上がる炎のような光が生じ、次の瞬間には眩い閃光を放った。


「くっ! しまっ……」


 慌てて腕で庇いながら目を閉じるブランク。だが、その隙にディライトが攻撃を仕掛ける様子は無い。光が収まるのを感じ、目を開け周囲を見渡すと、ブランクの体を衝撃が走った。


「な、なんだっ!?」


 いつの間に外に出たのか……ブランクは今、何の力も使わずに街を見降ろす高度で、宙にフワリと浮いていた。

 その時、状況を呑み込めず戸惑うブランクの背後から、ディライトの声が響く。


「長くヴィジョンを受け入れてきた私だが、ある時期から変わらず見続けている光景がある。虹魔木の力を少し借りれば、こうしてブランク君にも見せる事が出来るようだ」


「ディライトッ!」


 振り返り見れば、ディライトもブランク同様、フワフワと宙に浮かんでいた。ブランクは即座にディライトへ拳を打ち込むが、まるで煙のように揺らいだ身体を突き抜けるだけで、手答えがまるで無い。


「落ち着きなさい、ブランク君。今の私達は、ヴィジョンに投影された影、互いの認識した存在であって実体では無い。それより、あの街並みを見るといい」


 どうやらディライトの言う事は確からしい。ブランクはそう考えると、警戒を崩さずにディライトの指差す眼下の街並みを見た。


「あれは……」


「気付いたかな、あれは私や君達が暮らす手名芽市では無い。ここでは無い異国の、実在するとある街だ…………ふむ、そろそろ始まるぞ」


 まるでディライトの言葉が合図だったかのように、突如異変が始まった。

 ブランク達の目線の先、都市の上空、何も無いはずの空間に巨大な亀裂が走る。亀裂は更に広がり、やがて破片を撒き散らしながら、空に巨大な穴が開いた。

 内部を窺い知れない、その暗い穴から巨大なナニカがズルリと這い出してくる。無数にある触腕を動かし、ヌメヌメと光る、腐り濁った水のような体色をしたソレは、ブランクに蛸を連想させた。


「あれが私達の避けられぬ未来、そこに現れる人類の敵だ……ブランク君」


 巨大な蛸の怪物が穴から完全に抜け出すと、ボトリと都市の上に落下する。いくつものビルが蝋細工のように潰れ、崩壊する都市の中心で、怪物は空を振り仰ぎおぞましい叫び声をあげる。

 それは、ブランクの知る限り、最も忌まわしい産声だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。