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「ちぃっ!」
ヴァンガードの拳を掻い潜り、士郎がその胸を貫手で貫く。しかし、ヴァンガードは自身の胸を貫いたままの、士郎の腕を両手で掴み逃がさない様に締め上げる。そうして生じた隙を突いて、別のヴァンガード達が横手から連続的に攻撃を仕掛けてきた。
「兄様っ!」
「ハァッ!」
士郎を覆う装甲となった、アルとサンのアギトが開き、士郎の意思とは関係無く、闇のように黒い地獄の炎を吐き出す。
超高温に晒され、士郎の腕を掴んでいたヴァンガードも、攻撃を仕掛けたヴァンガード達も、装甲ごと融解し蒸発した。
「悪い、二人共っ」
「い、いえ!」
「まだ来ますよ、兄様っ!」
仲間達の死に、なんら興味を示さず、新たなヴァンガードが士郎へと迫る。周囲の敵は、倒した分を含め、当初の数から数倍へと増えていた。
まるで、この巨大なビルの何処か、今なおリアルタイムで産み出され続けているかのように、ある一定の周期で新たなヴァンガード達がエレベーターを使ってロビーへと送り込まれるからだ。
「くっ……ただでさえ数が多いってのに、こいつらロボットみたいに捨て身でくるし、一体一体がなかなかの強さだ。流石に無限に……ってわけじゃないだろうが、このままじゃコッチがジリ貧だな!」
黒い光を纏った拳で、ヴァンガードの頭部を吹き飛ばしながら、士郎が苛立ち吐き捨てるように言う。動かなくなった相手の身体を、別のヴァンガードへと投げ付けた。体勢の崩れた敵の首を手刀で跳ね飛ばしながら、士郎が斜め後方を振り返り見た。
「おいっ! そっちは大丈夫か、ブラン……」
相手の物量に、自然と互いに背中合わせ、背面をかばい合うように戦っていた士郎とブランク。その様子を確認しようとした士郎の言葉が途中で止まる。
迫るいくつもの拳や蹴りを、ブランクは労せず躱し、いなし、受け止めていた。対してブランクの攻撃は、水流のように、滑らかな動作で相手の防御を掻い潜り、一撃ごとに一体ずつ確実に次々と打ち倒していく。攻防が最小限の動作で完結し、だからこそ高速で動いているはずの当のブランク自身は、傍目には酷くゆっくりと舞踏のように動いていると、士郎には感じられた。
それは、まるで神へと奉じる神楽舞のような動きだった。
「……あいつ……へへっ、そうか」
装甲に隠されたその奥、士郎が一人笑みを浮かべる。ブランクを見たのはほんの数瞬だったが、その間に飛びかかって来たヴァンガードを、カウンター気味に大きく蹴り上げ叫んだ。
「ブランクッ! 聞こえるか!」
背中ごしに「どうした!?」というブランクの声を聞く。新手の腹部を掌底で打ち抜きながら、士郎が続ける。
「このままじゃあ、らちが明かない! ここは俺に任せて、お前は先に行けっ!」
「なっ!? だけど、この数じゃ!」
「はんっ、魔人である俺を舐めるなよっ! この程度の雑魚、百倍来ようが訳無いぜ!」
その時、更にヴァンガードの増援が到着したのか、五基のエレベーターが一斉に開いた。
士郎が手近に居たヴァンガードを一体掴むと、全力で投げつける。士郎に投げられたヴァンガードは、今まさにエレベーター内から出ようとした、数体のヴァンガード達をなぎ倒し、もつれ合いながら派手な音を立てた。
「今だ! あのエレベーターは奴の管理下だろうし使うな! その上部を抜けて、縦穴を登りディライトと虹魔木の場所へ先に行けっ! ……急げよ、ブランク。俺達に残された時間は、もう残り少ないかもしれないぞ!」
「……ああ、わかった! 後は任せたぞ、士郎っ!」
「応っ!」
躊躇は一瞬。ブランクはロビーの壁面に向かって跳び上がると、その壁を蹴ることで、弾丸のような速度でヴァンガード達の頭上を飛び越え、エレベーター内へとそのまま突っ込んだ。その勢いで、中で倒れ起き上がろうとしていたヴァンガード達をすり潰すと、すぐさまエレベーターの天井を破り、ディライトの待つであろう上階へ向かった。
「行ったか……ディライトは頼んだぜ、ブランク」
その様子を視界の端で見送り、士郎が構える。
ロビーを埋め尽くす程の、ヴァンガード達の視線が、今は士郎一人だけに向かっていた。
「ふん、ロビーに居る敵を倒せ……おそらくそんな類の単純な命令しか聞けないんだろうな、お前達は。まあ、俺にとってはその方が好都合だけどな。良いだろう、俺達がとことん相手してやるぜ……来いっっ!!」
飴玉に群がる蟻のように、ヴァンガードの集団が士郎へと一斉に動き出す。黒い炎を全身に纏い、士郎が吼えた。




