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「なるほど……その嬢ちゃんが、お前の師匠でさっきの光を出した奴か。まさか、鬼神とはな」
合流地点に選んだ廃ビルで落ち合い、新から椿の居る事情を聞かされた士郎が頷く。既に二人は共に変身を解き、士郎の後ろではアルとサンが、何処から出したのか茶菓子とお茶の準備をしていた。
「で、八葉を救うってのは、どういう事だ? あの子は核を抜かれて消滅したはずだぞ」
「ああ、それについては、俺もまだ詳しく聞いていないんだ……」
「うん、今から説明するっす。そもそも、あたしや姐さんは、神魔同様に核である結晶体と、そこに内包された力で形作られた肉体から成っているっす」
そう言いながら、椿は自身の頬を指で挟み引っ張る。柔らかく、ほんのり赤い頬は、作り物には見えなかったが、それが事実だというのは新も士郎もよく心得ている。
「で、倒した神魔の結晶も、例えば姐さんが噛み砕き飲み込んだ……みたいに、何らかの方法で浄化しない限り、内部に休眠状態の神魔が残っているっす。つまり……」
「虹魔木の中に取り込まれたけれど、結晶の形で八葉は生きているのか!?」
驚く新に、椿は笑顔で人差し指をピンと立てた。物分かりの良い生徒を前にしたように、上機嫌で話を続ける。
「ビンゴっす。姐さんの場合、結晶に秘められ姐さん自身を構成している力、それそのものが虹魔木に必要な力っす。姐さんを消すって事は、折角結晶化させた力を、再び世界に散らしてしまうって事っすから、姐さんの核が無事な可能性は、新っちが想像するよりも、ずっとずっと高いっすね。核があれば姐さんの再生はできるっすから、虹魔木から姐さんの核さえ抜き出せば……」
「八葉を救えるんだな!」
双子の入れた茶をグイと飲むと、士郎も頷く。
「そうだな。けど、それだけじゃないぜ、ブランク。八葉を助けるって事は、そのまま虹魔木の無力化、ディライトの弱体化に繋がるんじゃないか?」
「そうっすね。姐さんの奪取が、そのままこちらの逆転要素となるっす。でも、一つだけ……あたし達に残された時間は、もうそんなにないって事だけは、頭に入れておくっすよ」
「時間? ……そうか、ディライトがあの力と虹魔木で何をするつもりか、まだわかってはいないんだよな。奴自身が強大な力を得て終わり……どうもそう単純な話ではなさそうだし、悠長に構えてはいられないか」
「俺も、とっとと済ますっていうのに異論はないな。このままディライトを野放しにすれば、また手名芽市に虹魔石の雨が降る。今回はなんとか切り抜けられたが、あんな事二度も三度も起こってたまるか。なあ、アル、サン!」
士郎の言葉に二人もコクリと頷く。新が見てきた街の惨状と同じ様なものを、士郎達も見たのだろう。士郎の眉が不快そうに歪んだ。
椿は新達を見回し、ポンと手を打つ。一瞬、その瞳に、戦意とは別の色が浮かんだが、新が気付く事はなかった。
「…………皆わかったなら、それでいいっす。それじゃあ、早速行くとするっすかね!」
椿が窓の外に目を向ける。数ブロック先に、全体を虹魔木に覆われた、手名芽市一巨大なビルが見えた。
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━━ドゴォンッ!━━
爆音と共に、壁が破壊される。舞い上がる粉塵の中から現れたのは、既に憑依合身状態のブランクと士郎だ。壁を通り抜けると、二人は薄暗い大きな広間に出た。新は何度も訪れた事がある、中原総合科学本社ビル、その一階ロビーだ。
「さしたる抵抗も無くあっさりと侵入成功、っと。だけどな、ブランク。こんな事して良かったのか?」
「ん? 正面玄関が虹魔木で塞がれてるんだ、仕方ないだろう?」
「いや、わざわざ真正面から侵入してよかったのかって意味だ」
「ああ、そんな事か。ディライトは、俺と八葉が戦いを始める前から、この街全体を掌握している。神魔狩りすら知られていたんだ。当然、今の俺達だって補足されているだろうな。なら、コソコソ行くのも、こうして正面から乗りこむのも、そう変わらないさ」
「そうか。……ん? なあ、待てよ? それじゃあ、俺達がここに来た目的も?」
「まあ、筒抜けだろうな。でも奴が自身の目的の為に、八葉の核へ手を出せない以上、それは大した問題じゃないさ」
「その通りだ。よく来たね、二人共」
消えていた照明が一斉に点灯する。ロビーの先、五基並んだエレベーター、その脇から突き出た虹魔木の枝に腰掛け、ディライトがパチパチと拍手していた。
士郎が、金属装甲で出来た牙を、ギリと噛み叫ぶ。
「ノコノコ出てくるとは感心だな、ディライト!」
「ああ、その成金趣味な黄金面、探す手間が省けたぜ! 勝負だ、ディライトッ!」
「ふぅむ……やれやれ、嫌われたものだな。まあ待ちたまえ、士郎君にブランク君。物事には順序という物がある。君達にはまず、彼等の相手をしてもらおう」
パチリとディライトが指を鳴らす。その合図を待っていたかのように、沈黙していたエレベーターが全基一斉に稼働し始め、階数表示が一階を指し示すと、ゆっくりとその扉を開いた。
ガチャリと音を立て、各エレベーターの中から数体の異形が現れる。
「なっ!?」
ブランクと士郎から、思わず声が漏れた。異形達は皆、素のブランクと同じ姿をしていたのだ。唯一の違いは、新が変身するブランクが純白の装甲なのに対し、異形達のそれは鈍くくすんだ赤錆色で、それはまるで乾いた血を連想させた。
異形達はブランク達へ一定の距離まで近づくと、ピタリと一斉に歩みを止める。一糸乱れない無機質な動きはまるで、訓練された兵士か機械のようだ。
「彼等の名は尖兵。神魔への耐性を人為的に組み込み培養したクローン体が、人工的に生み出された神魔を封じたギアを使って変身したものだ。ブランク君はよく知っているんじゃないかな? 哲也が完成させ君の友人である少年が使用していたグレイブギア……あれの発展系だね。君達には、彼等と戦ってもらうよ。なに、なかなか実線テストをする相手が居なかったものでね。君達には少々物足りない相手かもしれないが、壊せるなら壊してしまって構わないさ」
「人為的……クローンだと!? 命を何だと思っている、ディライトッ!」
「……人の命は地球よりも重い、か。私もそういった考えがわからないでも無い。だがね、ブランク君……人類全ての命と比べるならば、この命一つ一つはそれより重い事などないだろう」
「何をっ……!」
「まあ、いい。私はこのエレベーターで上がった最上階で待つ。ヴァンガード達を全て倒したら上がって来るといい。では、始めたまえっ!」
ディライトが振り上げた腕を下ろす。その瞬間、ヴァンガード達のスリットアイが妖しい光を放ち、全員が同時にブランク達へと襲いかかって来た。




