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真昼の手名芽市内を走る。
そうしてブランクが目の当たりにした光景は、想像していたものより、遥かに悲惨だった。
道路のあちこちに、操作を誤り衝突したと思われる自動車が乗り捨てられ、所々には倒れたまま動かない人の姿がある。その生死は不明だが、ブランクは駆け寄る事もせず、それらを無視してただ走った。……自分が今すべき事、自分でしか出来ない事を何度も何度も脳内で反芻し、奥歯を噛み締めながら、立ち止まりそうになる脚を動かし続ける。
「……っ! こっちか!」
限界まで感度を上げた聴覚センサーが捉えた音を頼りに、ブランクが路地へと飛び込む。
路地を曲がったそのすぐ先には、黒々とした巨体の大鬼が居た。
オーガは今まさに、壁際へと追い詰めた一人の中年男へ襲いかかろうと、その拳を振り上げる。
「チャージッ」
速度を落とさず、半ばタックルのような格好でオーガへと衝突したブランクが、その毛深く分厚い胸に光る掌を当てる。
「ヌグゥッ……ナ、ナンダ!?」
「セパレス・インパクトッ!!」
ブランクの掌からオーガの体へと衝撃が突き抜け、その勢いで神魔の背からスーツ姿のサラリーマンが飛び出し倒れた。男は小さく呻き声を挙げるが、立ち上がる様子は無い。
「ウググ……」
「チャージッ! ハッ!」
倒れた男を見る事もなく、よろめくオーガへと光のヤイバを振るうブランク。逆袈裟に斬られた大鬼は、瞬時に灰へと変わり消えた。
「さすがは、哲也。これなら……」
「な、なぁっ! あんたは一体……いや、あの化け物は……」
ブランクがヤイバを軽く振るうと、オーガに襲われていた男が、震える指でブランクを指差し尋ねる。
「……すみません、今質問に答えている時間はありません。あの倒れている人は、もう怪物ではない、安全なただの人です。どうかあの人を連れて一緒にここへ避難してください」
ブランクがそういうと、男のポケットの中で携帯端末が震えだす。慌てて男が端末を取り出すと、ブランクギアによって送られた地図が表示されていた。
地図の上では虚木超常現象研究所を指し示すマーカーが赤く点滅している。
「こ、ここへ行けば良いんだな? わかった、あの人の事は任せてほしい。……ありがとうな」
ブランクは小さく頷くと再び走り出した。後に残った中年男が無事避難できるか、倒れた男をちゃんと連れて行ってくれるのか、ブランクにはわからない。だが、それを見届ける時間は今のブランクにも、手名芽市にもなかった。
ブランクに出来るのは、悲鳴や唸り声など、センサーが感知した微かな音を頼りに、一体でも多くの神魔から、依代となった者を切り離し、灰へと返す事だけだ。
「次はあっちか!」
既に片手で余る数の神魔を打ち倒したブランクが、辿り着き飛び込んだのは、小さな公園だった。
巨大な戦斧を担いだ牛男がニヤけた口元からヨダレを垂らし、公園の片隅にあるジャングルジムの中へと逃げ込んだ、数人の男女を見下ろしている。御馳走を前に、どれから手をつけようかと迷っているのだろう。
その巨体へとブランクが跳躍し、太い首元に生えた毛を掴むと輝く拳を打ち込む。
「セパレス・インパクトッ!」
衝撃にミノタウルスが片膝をつく。
だが、その身体からは依代である犠牲者は出てくる様子はない。
立ち直ったミノタウルスが激しく身震いし、振りほどき着地したブランクに気付くと目を丸くして驚く。
「グォッ!? なっ、き、貴様は……神魔狩りっ!」
「……俺を知っているのか……お前、今日生まれた神魔じゃないな」
ブレードを構え、ブランクがミノタウルスの全身を見回す。ミノタウルスは荒い鼻息を吹き出しながら、ドンと戦斧の柄を地面に突き立てた。
「ふんっ、そうよ! ここまで大事になった以上、コソコソ隠れて人間を喰う必要なんて無いからな! しかし、まさか神魔狩りが現れるとは、思いもしなかったぞ……まあ、いい。お前を倒せば、俺様も虹枝の一員、これで大出世だっ!」
そう叫ぶと、ミノタウルスが戦斧を振り上げ、巨体からは想像もつかない速度でブランクへと振り下ろした。
「ッッ!!」
避けきれない、そう判断するとブレードで斧を受けるブランク。激しいスパークと共に、殺人的な重圧が、その両腕へとのしかかるが、手にしたヤイバを斜めに下げ、斧の力を受け流すと共に、ブランクはヒラリと体を躱す。
そのまま、ミノタウルスの頭部を横にスライスしようと、戦斧の柄に添わせるように、ブレードを振るう……が、首を傾けたミノタウルスの角に当たり、受け止められてしまった。
「くっ、硬いなっ!」
瞬時に判断しヤイバを引くと、ミノタウルスの身体へと蹴りを放つ。もちろん、ただの蹴りで倒れるミノタウルスではなかったが、その反動を利用しブランクは後方へと大きく跳び距離を離した。




