10-2
「……哲也か?」
振り返ったブランクが首を傾げる。無人のマリスチェイサーが物陰から、二人の前へとゆっくり進み出た。
「うん、あいにくと虹魔木のせいで、僕本人はあのビルの中から出られないけどね。君が眠っている間に、律君から今の状況を聞いて理解しているし、君達が今すぐ行かなきゃならないって事もわかっている。けれど、少しだけ待ってほしい」
「ああ、わかった。でも、手短にな」
「それじゃあ、まずはブランク……これを」
哲也がそう言うと、チェイサーの側面装甲が開き、金属製の棒を一本、ブランクへと差し出す。
「アンリミテッドブーストに付属している物から、僕なりに改良したブレードだ。今の君でも、消費するエネルギーを抑えながら、高出力の刃を構成出来る。魔人相手には厳しいかもしれないけれど、並の神魔なら問題無いだろう」
「なるほど、助かる」
「ああ、それで君が神魔を狩る間、僕はこのマリスチェイサーで、虚木超常現象研究所を守ろう。あそこなら、今でも神魔の類は近づきにくいはず……だから、これから助けた人もそこへ行くように誘導してほしい」
「なるほど、八葉が居なくても、神域としてまだ機能しているって事か。わかった、皆を頼むぞ、哲也」
「……待て、ブランク。お前はそいつを信用するのか?」
二人のやりとりを黙って聞いていた士郎が、チェイサーを睨みながら尋ねる。
「どういう意味だ、士郎?」
「嬢ちゃんに聞いたんだが、そいつはディライトの息子だっていうじゃないか。今そのバイクが、親父側じゃないって証明出来るのか?」
士郎の言葉を肯定する様に、背後のアルとサンも同時に頷く。哲也は数瞬沈黙すると、落ち着いた声色で応えた。
「そうだね。父さん……ディライトが、あんな事をする人だったとは少しも想定していなかったし、彼の野望を未然に防げなかった事も事実だ。そして、今ここで僕の潔白を証明する事も、残念ながら出来ない。それでも、本当に都合のいい話だとは思うけれど、この状況を少しでも好転させる為に、どうか僕を信じてほしい」
「……士郎、確かにお前の言う事も理解出来る。だけれど、俺は哲也を信じるぞ。と言っても、これは士郎達が納得出来るような理屈の話じゃない……長い付き合いの哲也に対する、俺なりの……そう、言うなれば覚悟、だな。こいつを疑うくらいなら、万が一騙されたっていいさっていう覚悟だ」
チェイサーの装甲をコンコンと叩き、ブランクが士郎を見る。士郎もまた、その真っ直ぐな視線を見つめ返していたが、やがて大きく、やや大袈裟な溜息をついた。
「……わかったよ。哲也だったな……疑ってすまなかった。ブランクが信じるお前を、俺も信じるとしよう。まあ、そもそも折角の助力を、一々疑える状況でも無いしな。二人もそれで良いな?」
「私は兄様に賛せーい!」
「兄様がそう言うのであれば、私達は兄様の信じる貴方を信じます」
「ありがとう。ブランクだけでなく、君達にもそう言ってもらえると嬉しいよ。では士郎、これを受け取ってくれ」
チェイサーが士郎に近付き、装甲を開く。士郎がその中から、一つの白いギアを取り出した。
「これは?」
「予備のブランクギアを、虹枝のブラックギアと同じ仕様へと修正したものだ。肝心のブラックギアそのものを、入手し解析したわけでは無いから、多少細かな差異はあるかもしれないけれど、基本的には以前と同様の使い勝手で扱えるはずだ」
「なるほどな……だが、以前のギアはディライトの干渉を受けたぞ?」
「その点なら問題無いさ。そのギアには、ディライトの手が一切入っていないし、そんな余計な機能は最初から付けていないからね。代わりに……という訳じゃ無いけれど、ブラックギアと違ってセパレス・インパクトを使えるから、君もブランクと同じ様に、神魔から依代となった人を救えるはずだ」
「お、そうか! そういう事ならありがたく使わせてもらおう」
士郎が口を歪め腕にギアを装着する。狼の顔なのでわかりにくいが、笑っているようだ。
「さて、僕の話は以上だ……先ずはディライトの起こしたこの騒ぎを鎮めよう。頼んだよ、二人共」
「二人……そういえば、智秋はどうした?」
「無事さ。でもギアの方が再生不可能なレベルで破損してしまった。彼はもうグレイバーにはなれないだろう」
「そうか……いや、無事なら良い。じゃあ頼んだぞ、哲也。それに士郎、アル、サン」
ブランクの言葉に、士郎達が頷き、チェイサーがヘッドライトを点滅させる。それ以上言葉を交わさず、それぞれの為すべき事をする為に、ブランク達は別方向へと駆け出した。




