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闇、闇、闇、見渡す限りの白い闇だ。
新は果ての無い白い空間に、ただ一人浮かんでいた。四方八方を見渡し、自分以外に何も無い事に気付くと、新はフウと溜め息をついた。
「夢……か。面白みのない夢だな。でも、いいか……もう……」
「やれやれ、相変わらず活気の無い奴だ」
脱力し目を閉じた新。その時、突然背後から聞こえた声に、新の背中がゾクリと震える。思わず震える唇を噛みしめ、新が振り向いた。
「八葉……無事だったのか!!」
新の背後でフワフワと浮かんでいた少女━━八葉は、困ったように腕を組み首を振った。
「うむ……だと良かったのだがな。残念ながら、今の私は、新の記憶が作り上げた幻影。つまりはただの夢だ」
「夢……じゃ、じゃあ……」
「そうだ。八葉は、あの場で灰となり滅んだ。これは変えようの無い事実だろう。しかし、だ。それがどうした、新!」
八葉が声を張り上げる。その声は空間ごと新の全身を震わせた。
「私は滅んだ。ただそれだけなのだよ、新。私一人が消えたとは言え、新達はまだ生きている。私が居なくとも、お前には……お前達にはまだ、やれる事があるはずだ! 命ある限り、立て! 歩け! 足掻き続けろ!」
八葉の言葉が胸に染み込み震わせる。それは弛緩していた新の心を叩いて伸ばし、いつしか口元には笑みが浮かんでいた。
「……ったく。死んだってのに、元気な奴だな」
「私は新の記憶の中にある八葉だからな。そう思うなら、お前の中での私という存在が、そうなのだろう。だが、だからこそ、こうして八葉らしく新に言葉をかける事が出来た。どうだ? まだ私の言葉が必要か?」
「……いや」
笑顔を浮かべたまま、新が首を振る。
「もう十分、力をもらったさ。そうだな、俺はまだ終わったわけじゃない。全部を投げ出すには早過ぎた。前のめりに倒れるまで、出来る事を全力でやってやるさ!」
「ふふん、その意気や良し。ならば、私は新の中で、お前の活躍をゆっくり楽しませてもらうとしよう」
ニヤリと八葉が笑う。その笑顔が段々と薄れていった。
「心せよ、新。目覚めと共に、新たな戦いが始まるだろう」
「ああ! ……ありがとうな、八葉」
笑顔を浮かべたまま、八葉の姿が消える。それと同時に、新は全身を浮上させる力を感じ、急速に意識を覚醒させた。
◆
「っ……う……」
新が目覚め、上体を起こす。既に夢の記憶は薄れ、新の記憶には残っていない。それでも、新の心には、何故か力が満ち溢れていた。
「ここは……俺の部屋? ……そうだ、士郎達が……なっ!?」
タワーでの戦い、新がその顛末を思い出すと同時に、部屋全体が激しく揺れだした。
「地震か!?」
「ブランクッ! っと……、起きてたか」
揺れ続ける部屋、その襖を勢いよく開き、士郎が部屋の中へと入ってくる。
「士郎?」
「寝起きで悪いが、下へ来れるか? 奴が、ディライトが動き出したぞ!」
「何っ! わかった、すぐに行く!」
新が立ち上がる。戦闘による疲労が残っていない事を確認すると、士郎に続いて一階へと降りた。
「あ、新さん! 大変ですっ!」
二人に気付いた律が、大きく片手を振る。もう片手で、居間にあるテレビを指差していた。
テレビの画面は、数度乱れた後、見慣れた景色を映し出した。
『手名芽市全市民へ。改めて自己紹介しよう……私の名はディライトだ。先程伝えた通り、今の揺れは自然の地震では無く私が起こした物だったが、皆は怪我などしていないかな?』
テレビに映った中原総合科学の本社ビル。その全体に、まるで触手のように黄金の樹枝が巻きついている。よくよく見れば、その枝は全てビルの中から突き出て生えていた。
その内の一本に座ったディライトが、拡声された声で語りかける。
『今、私はこうして、公共の電波をジャックしているわけだが、それは市民の皆へ大切なお知らせがあるからでね。今から皆には、ただの人間からより進歩した存在へと変わってもらおう』
画面の中でディライトが片手を挙げる。その動きにカメラが追随し、ビルの上部を映しだした。
多くの枝が集まり、黄金の光を放つそこには、白く輝く巨大な蕾が無数に垂れている。
その蕾が、突然前触れなく、破裂する様に勢いよく開いた。
「っ! ブランクッ!」
「ああ! チェンジッ!」
新と士郎が、互いに視線を交わす事なく外へと飛び出す。ブランクへと変わった新が屋根の上へと飛び上がると、無数のキラキラと光る破片の様な物が、手名芽市の中央部から高速で飛来した。
「ブランク、これを使え!」
「チャージッ! おおおおっっ!!」
神魔へと変身した士郎が、手近な電柱を引き抜きブランクへと投げ上げる。それを受け取ると、巨大な電柱を棒切れの様にブランクが振るった。
━━カンッカンッカンッ!━━
電柱に弾かれ、飛来した破片達が道路へと転がる。士郎もまたブランク同様に、引き抜いた電柱を手に別の屋根へと登り、破片を撃ち落としていく。
無数に飛来し、次々と落下する破片、その一つ一つが黒光りした虹魔石だった。
やがて、虹魔石の雨も収まり、ブランクと士郎が電柱を投げ捨てると、向こうから神魔姿のアルとサンが駆け寄ってくる。
「兄様! ご無事ですか!」
「む、向こう側は何とか防ぎました」
「よし、お前達よくやった! ……しかし、虹魔石の無差別発射とはな」
「っ! マズイぞ、士郎! 今の虹魔石、手名芽全域に撒かれたと思って間違いない。つまり、ここ以外の場所で、神魔が相当数生まれたはずだ!」
「くっ……とすると、どうする?」
「俺のセパレス・インパクトなら、まだ神魔から依代になった人達を救えるはずだ! 士郎達は他の神魔に襲われそうな人達を助けてくれ!」
「お前が来るまで、出来るだけ神魔を倒さずに……だな。わかった! アル、サン、行くぞ!」
「ブランクッ、士郎っ、ちょっと待ってくれ!」
ブランクと士郎が頷きあい、走り出そうとした瞬間、背後から制止する声が響いた。




