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戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
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第七話 猫の戦国

猫影照春(ねこかげ てるはる)、今年19歳。


別にこれといってずば抜けた才能もない ありふれた凡人

そんな青年は少し伸ばしすぎた髪をヘアゴムでまとめてその場に立ち尽くす


しかし彼は、一つ普通の人と違うところがあった。それは、

彼は2016年、日本を大きくざわめかせた「転移事件」の被害者5000人以上のうちの一人であるといこと。


「……のはずなんだけど……なんでまたここに戻って来てるんだって話ぃ!!」


これは、天宮が転移されてくるほんの数ヶ月前に遡る。


「なんでだよ! 俺、何してたっけ? 確か学校行って、便所行って……あ。授業眠いから寝てたんだっけ?」


ここに来る前にしていたことを思い返す。


猫影は前回の経験者。

もしかすると、この世界に来る条件がわかるかもしれない。


「でも、前の時って……瞬きしたらこっち来てたよな………」


そこまで考えたあたりで、猫影は頭を抱えた。


「うぁぁあ!! 何年も前のことなんて思い出せるかぁ!!」


結局、謎は解けなかった。


だが今回は、幸いにも前の経験がある。

前より的確に、上手く進められる。

……はずだ。


「まずは……どうしたものか……」


何より先に、ここがどこなのかを知らなければ何も始まらない。


「そこからだな」


猫影はそう呟くと、近くに見える民家へ向かって歩き始めた。

――――――――――――――


「すんませーん」


最寄りの民家で情報収集を行った。


どうやら今は1567年。

ここは織田領、尾張の東付近にあたるらしい。


「ラッキー。今回もアタリなんじゃねぇか?」


なぜアタリなのか。


それは前回の経験上、この世界は何もしなければ史実通りに動くはずだからだ。


要するに、織田家はこの世界でも有力武将。

今後、歴史に名を残す人物の中にも、織田家と親密な関係を持つ者は多い。

無条件でその人たちの下につけるというのは、かなりのアドバンテージなのだ。


「だからと言って、ヘマはできないだろうけど……」


この世界からの脱出条件。


正直なところ、そこまで詳しくは覚えていない。

誰かに天下を取らせる。もしくは関ヶ原で勝利すること。


……確か、そんな感じだったはずだ。


前回も絶望しながら、帰ることはできた。

今回だって、死ななければ帰れるはずだ。

そう。死ななければ。


「うし、まずは清洲の織田に会いに行くとしよう。もしかすると、またあいつがやってるかもしんねぇ……」


淡い希望を胸に、猫影は清洲へ歩みを進めた。


――一日後。


「………今回は、そういう感じ……なのね……」


猫影は清洲へ着くや否や、織田信長と会い、顔を確かめた。


もしかすると、知人かもしれない。そんな期待があったからだ。

だが、違った。

あれは多分、マジの織田信長である。期待は砕けた。


率直に言うと、軽く絶望している。


「はぁ……とりあえず一門建てよう。誰か知ってる人が来るかもしれないし」


自分で言うのもなんだが、こう見えて猫影は前回の事件ではかなりの有名人だ。


悪い意味で。


自分の名前くらいは知っている人が、それなりにいると思いたい。


「だから何って感じはするけども……はぁあ……今日はもう暗いし、明日、人の集まり具合を見て色々考えよ」


猫影は大きなため息を吐きながら、そんなことをボソボソと呟き、意識を遠のかせていった。


―――――――――――――

不意に意識が覚醒する。鼻の感覚が 下のざらつきが 肌の感触が 生命において必要な活動全てが目覚める。すると、


「……臭い」


焦げ臭い。空気が薄い。咳が止まらない。

そして何より――熱い。


この感覚は、よく知っている。

この感覚に最も近しいもの。


それは――火事だ。


いや、近しいものとかの次元ではない。

多分、今まさに火事が起きている。

死ぬのはごめんである。


なのに、まだ目を開けられていないのはなぜだ。

動きたいのに、動けないのはなぜだ。

思考ではなく、体を動かしたいのに動かせないのはなぜだ。


まさか、こんな時に――。


「かなしばりかよ……」


絞り出した声は、ほとんど声ではなく、息を吐く行為に等しかった。


猫影は、よく金縛りに遭う。

だが、こんな時に金縛りになるとは思いもしなかった。


これが死因になるのはごめんだ。

そもそも死ぬのは、ごめんだ。


「だれが……しんでやるかよ……」


絞り出した声で威勢を張る。

全力で体を動かす。

筋肉を刺激する。


すると――目が開いた。

さっきの運動により、寝返りも打てるようになった。

この隙に――。


「あれ……」


目の前に、人が見えた。

あの姿には見覚えがあった。


「しゅん……?」


三神(みかみ) 旬(しゅん)


前回の事件で知り合い、共に戦い、共に考え、そして友となった。


自分より三つ上。

当時、高校一年生だった青年。


この世界に来る前に色々とあり、信長になったらしい。それがなんなのかは、本人も覚えてないそうだ。

そしてそんな彼は――猫影のせいで、本能寺で死んだ。


「にげろ……しゅ、ん……」


絞り出した声は届かない。

そもそも、届く感じがしない。


建物が燃える音。

何かが倒れる音。

敵が攻めてきている音。

あらゆる音に、猫影の絞り出した声はかき消される。


あぁ……やっぱり、この世界は嫌いだ。

いいことなんて、一つもなかった。

最初は少し憧れた。


武士、忍者、戦国。


そんな言葉は、誰しも一度は聞いたことがあるだろう。

中学一年生だった猫影は、そこに憧れまで抱いていた。

でも――いいことなんて、一つもなかった。


長く信用し、頼りにしていた人。

自分を慕ってくれた後輩。

最後には全員から裏切られた。


最も仲良くしてくれた人は、猫影たちを守るために死んだ。


命の恩人も。

友も。

救えなかった。


よくそんな中で、のうのうとあの時代から帰れたと思う。


正直、死んでしまいたかった。

自分のせいなのだ。

一人では何もできない自分のせいで、多くの仲間が死んだ。


その罪悪感が、猫影の心を蝕んでいく。

その感覚は、猫影自身も感じていた。

もう、それでもいいのかもしれない。


そんなことまで考えてしまった。


「にげ、てくれ……」


また声を絞り出した。


届かない。

届くはずがない。

前もそうだった。

無知なせいだ。

戦闘もできない。

頭も良くない。

そんな自分は、何もできなかった。


「くそがぁ……」


また絞り出す。

届くはずもない声を。


「猫影! 大丈夫か!」


――届いた。


届かないと思われた声は彼に届いた。

でも、悲しいかな。


届いたことで、彼はこちらへ駆け寄り――

その直後、瓦礫に巻き込まれた。


「ううぉぉ!!!!」


生々しい記憶が、まだ肌を伝っているような感覚。


「はぁ、はぁ……ふぅぅ……」


震える息で深呼吸をする。


思い出したくもない記憶。

頭の奥底にしまい込み、考えないようにしていた記憶。


吐き気が――。


「猫影殿、お久しぶりでする。鶴賀です。大丈夫ですか?」


「んぇ……あ、あぁ。鶴賀……鶴賀ね。久しぶり……」


気がつくと、隣に旧友 鶴賀が居た。彼も少なからず猫影と同じ思いを背負ったことのある一人だ。


「うなされていたようですが」


「ちょっと昔のことをね」


そう言うと、鶴賀は何かを察したのか、顔を暗くした。

どうやら気を落とさせてしまったらしい。


「なぁに、心配するなよ。この世界の夢じゃないさ」


嘘も、時には必要である。


「さようですか……一門の業務はあらかたやっておきました」


「お、ありがとう。今何人?」


「54人ほど」


「現代人……の数だよね?」


「いえす」


「多くない?」


あまりに多い数に、猫影は少し引いた。


前回は織田の一番手一門でも40人前後だった。

それなのに今回は、二番手にもかかわらず、前回の記録を大きく超えている。


「被害者が増えた……?」


「のかと」


「鶴賀が前回会った知り合いとかは、その中に?」


「数名見かけました故、少し昔話はしましたな」


「あら、そう。今度俺に紹介してね」


「かしこまでする」


猫影は、さっきの夢のことを忘れようと息を整え、集まった一門メンバーに顔を出すことにした。


「……54人って、やっぱ多いなぁ」


「点呼をとりまする。そこの青年からダァーッと、とりあえず名前だけ教えてくだされ!」


54人分。


個性豊かな名前発表会が始まった。


「うむ? 一人足りませぬな」


「ん? 名前わかる?」


「いや……流石に……」


「だよねぇ。正直、俺も4人ぐらいしか頭に入ってないよ」


「あと一人は……」


「探してくる。多分、城内だろ。その間に諸々説明任せたぜ」


「了解でする」


「あんがとな! じゃ!」


手を振り、消えた一人を探すついでに、清洲の探索を開始した猫影。


「つっても、どこから……片っ端から行くか……」


先が思いやられそうだ。

そう考えていると――。


「もしや、猫影か?」


「へ?」


声のした方向へ振り向く。


そこには、信長の妻――帰蝶がいた。


「えぇと……どこかで会いましたっけ?」


帰蝶。


また、懐かしい人だ。


前回は旬と、この人とよく話したものだ。


しかし今回、この世界に来てから、まだ彼女とは顔を合わせてもいない。

なら、どうして――。


「何を言う。私じゃ、帰蝶じゃ」


「いや、それは、わかるんですけど。なんというか……」


「なぁ主、しゅ……信長と仲良くしておったじゃろ?」


「え?」


しゅ……?


旬のことか?


「あれ、アイツ正体隠してなかったっけ?」


「その……アイツ自ら、名乗りおったのじゃ」


「はえぇ……」


いつの間に……。

というか、もっと触れるべきものがある。

なぜ、前回の事件の記憶が彼女にあるのだ?


「ちなみに、覚えてるんですよね……?」


「覚えとる」


「全部?」


「あぁ。お主らがここへ来て、私らとなにを話し合って、どんな関係で、何をしたか」


でも、そんなことあり得るのか?


これはかなり異例な気がする。

もし、この世界の人が全員こうなら――。

テンプレ通りに動かなくなってしまう。

それは、誠にマズい。


「懐かしいなぁ。随分とデカくなりおって。久しぶりじゃな。元気にしておったか?」


「え、えぇ。まぁ……」


「なんとも言えん反応よのう……そうじゃ、旬は来ておるのか?」


「……わからないです……」


「そうか……まぁ良いのじゃ。主が戻って来ただけでも」


何を言ってる。よくないだろ。良いはずがないだろ。

なぜなら――俺のせいで、旬は。


「えぇと、その……帰蝶さんは、なんで前のことを……」


「私にもわからぬ。一度死んで、次に目が覚めたらここへ……」


「なるほど……」


「帰蝶さん」


「昔のように帰蝶で良い。こっちがなんだかムズムズするわ」


笑いながらそう答える彼女。

でも、雰囲気に流されるわけにはいかない。


これだけは――。


「その……申し訳ない……旬を……三神を……俺は救えなかった……」


この言葉だけは、何がなんでも伝えなければならなかった。


例え、それが記憶の中の彼女だったとしても。


「はぁ……顔を上げて。そのことはもう忘れるのじゃ。男一人の死に、そないにクヨクヨしてると惨めに見えるぞ?」


「そう、ですね。ありがとう、帰蝶。俺、人を探してるから。行ってくるわ」


「その勢いじゃ。行って参れ」


そう言い、帰蝶と別れた。


まさか、こんな形で帰蝶とまた出会うとは思ってもいなかった。


だが、もっと意外なのは――前回の記憶があること。

他の、この時代出身の知り合いにはまだ会えていない。だからなんとも言えないが、彼女以外もそうなのであろうか。


「ありえないか………ん?」


そんな考え事をしながら探し回っていると、一人、この時代にはそぐわない格好で空を見ながら黄昏ている女性がいた。


多分、彼女が探してた人だ。

声をかけることにしよう。


「やぁあ、お嬢さん。今、暇かなぁ? よかったら僕とお茶でもしない?」


声をかけるレベルを超して、ナンパしてみた。

多分、この時代で一番伝わりやすい声のかけ方である。

だが――反応がない。

まさかのフル無視を決め込まれているかもしれない。


「ごほん。あのぉ、お嬢さん。愉遊開会の参加メンバーですよねぇ……?」


まだ返事がない。

夢の件も含め、そんなに俺の声は小さいのか。


「あのぉ」


「うきゃぁ!」


ちょっと声量を上げたら、今度は悲鳴を上げられる始末。


あぁやっぱ、この世界は嫌いだ。


と、全部この世界のせいにした。


「あ、えーと、すみません。ちょっと考え事を……」


「あはは、そりゃしますよねぇ。こんな世界に飛ばされて来たら」


「……あなた、お名前は?」


「一応、当主。猫影照春っす。以後よろしく。あなたは?」


「私は友香里璃奈(ゆかり りな)。歳は私の方が上、よね?」


「いや知らないですけど、僕はまだ18ですが」


「そう。なら私が上ね。なら、あなたのことはネコちゃんとでも呼ばせてもらおうかしら?」


「初対面でグイグイ来ますね。まぁ、別に良いんですが」


「あら。最初にナンパして来たのは誰かしら?」


非常にやりにくい。

相手のペースに乗せられてしまう。


「てか! 聞こえてたのかよ! やっぱ最初の無視ってわざと!?」


「面白そうだったから」


ひどい!

この人、ひどい!!


「ごめんね? 私からも、これからよろしくね。ネコちゃん」


まぁ、スタイル良し。顔立ち良し。

性格は……ちょっと不明だが、可愛いし、普通にタイプだからオールオッケイとしておこう。


「はぁあ……こりゃまた、楽しい楽しい戦国ライフが始まりそうだよ………」


呆れ顔で、そう呟く猫影であった。

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