第六話 告白
あのとき、敵も味方も、戦場にいた誰もが何が起きたのか理解できなかった。
戦場は、またもカオスそのものだった。
各地から聞こえてくる雄叫び。飛び交う怒号。命を乞う者。慈悲を失い、ただ目の前の敵を斬る者。
自分の命を、友の命を、愛しき者の命を――その無事を願う者たち。
様々な思考がここには集まり、飛び交っていた。
だが、突如として起きた爆発によって、全員の思考が一つに染まり始める。
何が起きた?
なぜ爆発した?
一体なんのために?
どうやって?
そんな疑問が、今度は戦場中を飛び交い始める。
そんな中で、森田剛は笑っていた。
そう。
全て上手くいったのだ。何もかもが。
この静けさまでもが、彼の言っていた通りだった。
全部、彼の――あの青年の手のひらの上だったのだ。
燃える石山御坊。
その本丸で、青年は言った。
「チェックメイト」
現代で読んでいた、とある小説の影響だろう。
この言葉が、今の状況にはよく馴染んだ。
そして青年は、目の前にいる男へ言い放つ。
「詰みですよ。三好長慶さん」
青年は、小型の火縄銃の銃口を敵の総大将、三好長慶へ向ける。
そして、この戦の終わりを告げた。
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遡ること6日前。
会議室で青年が言い放った作戦に、森田は大笑いした。
青年が提示した策。
それは単純で、そして最も危険とも言える作戦だった。
「敵の一般兵に成りすまし、内部から壊す」
というものだ。
青年は、どの策にも期待していなかった。
岸和田で敵の対応力を見て、気づいたのだ。
普通のやり方では勝てない。
裏を読んだり、その裏を読んだり。
そんなものでは勝てない。
横の線があるとするなら、そこに縦の線を入れなければならない。
だから考えた。
敵の対応力。そして何より、敵の致命的な見落とし。
それら全てを含めて考えた。
そして、この策は生まれ、実行され――成功したのだ。
「いつからだ」
三好が問う。
「5日前」
青年は答える。
「なぜ気づかなかったのだろうな」
三好は、また問う。
「兵を詰め込みすぎたんじゃない?」
青年はあっさり答えた。
「お前、名前は」
長慶が問う。
「猫影照春。あんまり自分で言いたくないんだけど、ただの嫌われ者だよ」
もちろん、猫影はそれにも答えた。
「あっぱれだ」
「はぁ……まぁ、敗因は用心しすぎたことかな。この城に明らかに過剰な兵を詰めてるから、1人変わったぐらいじゃわかんなかっただろ?」
「かもせぬな」
「ちょっと物置き部屋を火薬で吹っ飛ばして、『火事だぁ!』って言ったら、みんなそっち行っちゃうんだからなぁ」
「それは本当か……?」
「あぁ。結構駆けつけて来てたはずだぜ?」
「そうか……」
「まぁ、いきなり城内から発火するなんて緊急事態だからね」
「ふっ。ちなみに岸和田もお前が?」
「そうだな。まぁ、あれの策自体は鶴賀のなんだけども」
「そうか……逸材だな」
「結果としては、してやられたんだけどもね」
「……」
「なぁ、長慶さんよ。俺は人殺しはあまりしたくない主義でさ。このままご同行願えませんか?」
「聞いたことのない言葉だな」
「え? あ、そう? まぁ、言ってみたかっただけだからいいけど……」
あまりにも離れている時代のギャップに、少し悲しくなる猫影。
だが、気を取り直して言葉を改める。
「ごほん。えぇと……降伏宣言、お願いできますか?」
「ふっ、わかった」
「あ、あと変な抵抗しないでね」
「わかっておる。この期に及んで抵抗するのは武士の恥よ」
「その心意気、めちゃくちゃ助かるよ」
その後。
三好は猫影に連れられ、燃える石山御坊を抜け出した。
そして敵にも味方にも、戦の行く末を語った。
そう。戦は終わった。
三好家の大敗。
それによって、この戦に終止符が打たれたのだ。
ちなみに、その5日後。
三好長慶は責任を取り、切腹でこの世を去ったという。
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終戦から2日後。
「「かんぱぁい!」」
今回の戦で受けた傷もそれなりに回復し、俺たちは勝利を祝っていた。
「かぁぁ。やっぱこれよな」
森田は勢いよく、冷えた麦ビールを飲み干す。
「ちょ、森田さん。せっかくなんですから僕らにも飲ませてくださいよ」
「んあぁ? 未成年共には飲ませらんねぇよ」
「共って……一応、今回のMVPっすよ? 僕ら」
「そんなの知ってるさ。だが、ダメなもんはダメなんだよ。そもそも酒なんて飲んでて良いこたねぇんだよ」
「「ちぇぇ」」
「チェじゃねぇ。お前らはもっと食え食え」
まるで親子のような彼らの会話に、なんだか心が和む。こんな打ち上げは楽しい。
だが、その条件は戦の勝利だ。
戦は極力したくない。避けて生きたい。故に、次の打ち上げを願わない天宮も、少なからずいた。
「はぁ〜い、あっ君。のんでるぅ?」
「おぉ、愛菜……酔ってる?」
「酔ってないわよぉ」
「いや、酔ってるよね」
「だぁかぁらぁ、酔ってないってばぁ」
「そう? じゃ、俺の今考えてることは?」
「うーん? そうね……早く家に帰って寝たいとかじゃないのぉ?」
「うーん……50%くらい正解かな。やっぱり酔ってるよね」
「いちいちうるさいわねぇ。そんなのはいいのよぉ。ちょっとこっちに来なさいぃ?」
ガッチリと手首を掴まれ、そのまま愛菜の怪力で強引に連れ去られる天宮であった。
「ちょいちょい、どこまで行くんだよ」
「いいからついてきなさい」
「いや、でもここ……むぐ!」
「もぉ、お口はチャック。うるさい人は嫌いよぉ?」
そう言い、口を指で挟まれて閉ざされてしまう。
酒の巡りのせいか。それとも、別の理由か。
愛菜のことを意識し始めている自分がいた。
「(耐えてくれ、理性)」
心の中で、そう呟く。
「ついたぁ」
近くの森を10分ほど歩いたところに、見晴らしのいい丘があった。
「綺麗だな」
「そぉ! 宴の光でイルミっネーショぉン!」
酔って無駄にテンションの高い愛菜。
このまま一線を超えて……。
ちくしょう!
酒なんて飲むもんじゃなかった!
「はぁ……こんな女、嫌いよねぇ……」
「今、落ち込みフェーズ入るの!?」
「なによ! めんどくさいとか思ってるんでしょ!」
口には出さない。
だが、正直に言うと――はい。
「良いわよ! どうせ、どんだけやっても伝わんないもの!」
「つ、伝わらない?」
「こういうの、本当に疎いわよね。あんた。そういうところよ」
「えぇえ!?」
急にディスられてしまった。
「はぁ……じゃあ良いわよ。正直に言うわよ。本当は帰ってからにしようと思ったのに。もうこの際、はっきり言うわよ」
またディスられるのかと、そう身構えていた。
だが――。
「あたしはね。あ……あっくんのこと。その……好きだったのよ」
想定外の発言が、耳の中を撃ち抜いた。
「へ?」
「だぁかぁらぁ。好きなの、あっくんのことが!」
口が閉まらない。目も戻らない。
故に、何も言えない。
「だぁかぁらぁ!! なんどもっ……むぐ」
「マジのやつ?」
そう聞くと、愛菜は顔を火照らせながら頷いた。
どうやら、ガチらしい。
「で、でもお前、好きなやついるって……」
「バカねぇ。あんたに決まってんじゃないぃ。あぁもう! あの時はほんっとにもどかしかったわよ」
「んじゃ! 膝枕も!?」
「そうよ! あんたが好きだったから! なんか文句でも!!?」
「ない、です」
「はぁ、もう私バカみたい……何やってるんだろう」
「な、なぁ……」
「うん!?」
「お、落ち着けよ」
「ずっと落ち着いてるわよ!!」
その言葉から、数秒の無音が流れた。
「な、なぁ」
「なによ」
「そ、その……俺がお前と付き合っても良いのか……?」
「ダメっ」
「へ?」
天宮はその言葉に驚き、心の底からめちゃくちゃがっかりした。
が――。
「冗談よぉ。これでダメなら、やばい女じゃない。ほら、顔を上げて?」
「へ? っむぐ!!?」
天宮の口は、今度は愛菜の口で塞がれた。
その次の瞬間――。
「しゃっ! キタァ!! 純愛カップルたんじょぉぉおうじゃぁあ!!」
「………あ」
「あ」
付近の茂みの前にガッツポーズをした、青年が居た。
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時を遡ること20分前。
「飲ませてくださいよぉ」
「ダメだってんだろ」
この世界にジュースがない。
スマホもない。ゲーム機なんてあるわけがない。
正直、未成年勢は宴にあまり参加できない。
「面白いこと……お?」
そこで目にしたのは、天宮さんが誰かに連れ去られるところだった。
「面白そうじゃんか。おーい、モッチー」
「猫影さん。はぁ、影武者やってくれって。一体どんな願いなんすか?」
「んあ? そんなのどうでもいいから、着いてこいよ。面白いものが見えるかもだぜ?」
「どうでもよくはないっすが……わかりましたよ」
天宮さんには用事があったので、モッチーこと餅蔵を連れて、10分ほど着いていく。
そして、開けた場所へ出た。
そこで二人も止まる。
なんだか良い雰囲気だ。
もしかすると、本当の絶景を拝めるかもしれない。
その5分後――。
「ガキンチョ共、なに……もぐ!!?」
「森田さんは黙って」
森の奥からやって来た森田さんの口を塞ぎ、いい感じの雰囲気を漂わせている二人の方向へ指を差す。
状況を理解したのか、森田さんは縦に大きく、ゆっくりと首を振った。引き続き様子を見守ることに
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そして現在
「「「ずびばべん」」」
3人とも顔をパンパンに腫らして、お叱りを受けていたのであった。
「その、人のプライベートですから、あまりよくないですよ?」
「いやぁ。こっちも見ててもどかしかったんだから、しゃあないですよ」
「「そうそう、しゃーないしゃーない」」
1分後。
「「「しゃーなぐないでず」」」
愛菜からの強烈なパンチを喰らった三人は顔にまたもアザを作って、先ほどのコメントを否定する。
まるでコントだ。
「それで3人は何をしに?」
「僕は猫さんに連れられて……」
「ガキンチョの面倒を見に」
「俺は天宮さんに相談をしに」
「なるほど……」
「その、おっ始め出したら流石に帰りましたよ!」
「いや、弁明になってないですよ!」
本当にコントだ。
「それで、なんの用なの?」
愛菜は猫影に問うた。
それに猫影は答える。
「一門のことです」
その言葉で、自分と愛菜の顔は真剣な表情に変わった。
内容は、愉遊開会に来ないかというものだった。
森田さんいわく、炎楽や天下騒乱は北崖さんらも含めて再編成するらしく、どうしても定員オーバーしてしまうそうだ。
なので、のんびりしたいなら愉遊へ来ないか、ということらしい。
ちなみに、どうやら猫影さんの昔の知り合いも愉遊へ行くらしい。
そういえば猫影さんの昔の知り合いといえば、
「あ! 亀倉さん」
「あぁ。謝って来ましたよ。なんて返せば良いのかわからなくて。あたふた、あたふた」
「あはは……」
なんとなく理解できた。
「んで、どうします?」
多分、これが起点なのだろう。
この決断で、全てが変わる気がする。
それでもきっと、この決断に後悔はしていないし、今後もしないと思う。
だから――。
「ぜひお願いします」
「私もぉ〜」
「かしこまです〜」
「かしこまって、きょうび聞かないっすねぇ」
「さて、もう一つ決めておきたい事が」
その猫影の言葉に天宮と愛菜は首を傾げた。
すると
「一門名ですよ。せっかく合併するんですからちょっと変えたいんですよね」
「へ?今のままで良くないですか?」
一門名を変えたところでどうなるのか
そもそも、変える意味とか名前の意味とかすら天宮にはわからない。
隣の愛菜も首を傾げたままだ。
「今のままでもいいんすけど。まぁ…気分?」
「な、なるほど…」
結局、なぜ名前を変えるのかまではよくわからなかった。
「名前…」
一門の名前なんて考えたことも。と言うより考えるタイミングなんてなかったので、急に言われても長々と悩んでしまうのが、天宮拓人だ。
「……お酒ラブとかぁ?」
「愛菜?それは流石にじゃないか?」
「よ、酔いすぎですね」
「わたしゃぁ!酔ってないわよ!」
そう言いながら、森田が持ってきた日本酒をグビグビと気持ち良い音で飲んでいる愛菜。
これ以上は体に良くなさそうである。
「そんなことはさておき、一門の名前ですか…」
「まぁ言っちゃうとなんでも良いんですけどね」
「本当に、その程度の奴なんですね…」
なんでも良いと言われてしまうと、一番良いベストアンサーを探りたくなってしまう。
「うーん。こうパッと出た奴でも」
「あ。」
そういえば、現世では隙間時間によく漫画を読んでおり、直近で読んでいた物が世界観は全く違うが、たまたま今の状況と似ている物だった。そんなことを思い出す天宮。
やはり憧れてしまうのだ。
自分も異世界に来たら所属してみたいと思う場所。
それは
「冒険ギルド…」
「冒険ギルド?」
「えぇ。冒険ギルドなんてどうです?」
多分、ギルドの後にもっと良い名前とかが続くのだろうが、ネーミングセンスは皆無に等しいので、これ以上は言わないでおいた。
「冒険ギルド…まぁギャップも相まって良いんじゃないすか?」
そう言い、餅蔵が肯定する。
「だね。それにしよう」
続けて猫影も肯定した。
「軽い…」
「ま、そう言うものですから……」
とても軽く一門の名前は決定した。
「一門、いや 冒険ギルド 愉宴 ってところですか」
「す、すげぇ」
一瞬にして、そんな名前を出してしまう猫影に憧れを抱いてしまった。
「んじゃ、決まりっすね」
これから共に彼らと生きていく。
きっと辛い事もあるはずだ。
それでも、僕はこのギルドで生きていく。
そう決断したのだから。
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そんなドラマの中、違うドラマを繰り広げている者たちもいた。
「なぁ、北崖。俺らでこの世界を面白くしないか。……面白く生きないか?」
「俺は興味ないな。姉貴さえ見つかりゃ、なんだって良いんだ」
「ふっ。そうか……なら、その姉貴も探し出してやろうじゃないか」
「ずいぶんと協力的だな。何が狙いだ、槍真倉」
「狙いも何も、俺はこの世界を面白くしたいだけだよ」
次回からは数話 猫影くんの方へ視点が移りまーす
また来月お会いしましょう
やっとかお前ら




