↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
3/25

第二話 初陣

初陣が決まってから、8日が経過した。


この8日間、浅井領を通っていたおかげか敵に遭遇することもなく、俺たちは無事に丹波の防衛前線までたどり着いた。

――のだが。


「う……なんですか、これ……」


砦の中へ足を踏み入れた瞬間、言葉を失った。


あまりの惨状に吐き気が込み上げてくる。それなのに、開いた口は閉じようとしてくれなかった。

最前線の砦は負傷兵で溢れ返っていた。


呻き声。

慌ただしく駆け回る兵士たち。

そこかしこに漂う、血の匂い。

戦場というものを、俺はまだ知らなかった。

だが、ここにある光景だけは嫌というほど理解できる。


――まさに、惨敗だった。


「こういうのはザラにある。恐ろしい世界だよ」


森田さんは、そんな光景を前にしても落ち着いていた。


「も、森田さんは慣れたのですか?」


思わず尋ねてしまう。


「まぁな。俺もここに来て6年……いや、前の時もあるから何十年も経つ」


「そ、そんなに!?」


何十年。


その言葉の重さに、思わず森田さんを見る。

自分がこの世界に来てから、まだそれほど時間は経っていない。

それなのに、この人は何度も戦場を経験している。


「いいか、天宮さんは俺みたいになるなよ」


森田さんはそう言って、少しだけ表情を曇らせた。


慣れは怖いものだ。

慣れは時に、無情なものだ。

こんなにも血生臭い光景を前にして、何も感じないのか。


「……あぁと、勘違いしてるようだが、何も感じないわけじゃないぞ?」


「!? ……顔に出てました?」


「いいや。長年の勘だよ」


森田さんは、それだけ言って視線を前へ戻した。


その横顔を見ていると、余計にわからなくなる。


この人は一体、どれだけのものを見てきたのだろう。


そんなことを考えていると、


「森田さん!」


声が飛んできた。


「おぉ。亀倉、生きとったんかワレぇ」


「はぁ、なんとか……」


いつもの調子で声をかける森田さんに、亀倉さんは疲れ切った様子で答えた。

だが、その顔には冗談を返す余裕すらあまり残っていない。


「ふざけてて良い感じじゃ無さそうだな。何があった」


それから俺たちは、亀倉さんから何があったのかを聞かされた。


「不意打ちか……」


「です。全く気づきませんでした……申し訳ないです……」


「謝ることはないさ。取られたら取り返せばいい。不意打ちをしてくる程度の相手だ」


そこで森田さんは、一度言葉を止めた。

そして、低い声で尋ねる。


「………何人やられた」


「16人です……」


その数字が告げられた瞬間、部屋の空気が変わった。

さっきまでのざわめきが嘘のように消え、重たい沈黙が広がる。


16人。

ただの兵が死んだ数ではない。


この数は――現代人が死んだ数だ。

もちろん、この世界の一般兵がどれだけ犠牲になったのかも計り知れない。


そう考えるだけで、また吐き気が込み上げてくる。


人は人だ。


一般兵だから、現代人だから。

そんな区別を戦場ですることなんてできない。

それに、相手を生かしておけば戦況が悪い方向へ傾くかもしれない。

わかっている。

頭では、理解している。

それでも――。


「もっといい方法は……」


「……あんまり考えすぎるな。考えすぎた奴から死ぬぞ」


「なんで……どうしてそんなにカラッとしてるんですか!?」


思わず声が大きくなった。


「そうだな。天宮さんに比べると、俺は無情で最悪な男かも知れないな」


森田さんは苦笑する。


「だから言ってるんだ。俺みたいになるなよ」


「……どうして……」


どうして。


なぜ彼は、森田剛はこんな状況であんなにも平然としていられるのだろう。

その答えの見えそうにない疑問に、俺の心はどんどん蝕まれていった。


「あっ、君。こっちに来なさい」


そんな時だった。

愛菜さんから声をかけられた。


「はぁ……あんたの気持ちもわかるけど、仕方ないことはあるのよ」


「何が仕方ないんだよ! なんで殺し合いなんか……」


「相手を殺さなきゃ自分が殺される。そんな世界に来てしまったからには、それに従うしか生きられない。郷に入れば郷に従えよ」


何も言い返せなかった。

この世界では、これが正解なのだ。

人を殺すことが正解。

それを不正解にするためには、この内乱を一刻も早く終わらせるしかない。


「早く帰りたい」


口から、自然と言葉が漏れた。


早く帰って。

家で穏やかな生活を過ごしたい。

戦うことも、殺し合うこともない。

そんな当たり前の日常へ。


「そんなの、みんな思ってるわ」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


森田さんから、詳しい話を聞いた。


亀倉(かめくら) 裕作(ゆうさく)


一門・白夜の当主であり、この事件に巻き込まれてから3年が経つという。


戦況は芳しくない。

2日ほど前の夜、三好の一門――カゲロウとやらに奇襲されたらしい。

一門メンバーの半分が逃げ遅れた上、部隊にも大きな被害が出た。

そして、なんとかこの砦まで逃げ込んできたということだった。


相手の一門には何も言えない。


確かに、もっと平和的な解決方法はなかったのか。

そんな愚痴が出てくるのもわかる。

それでも、こんな世界では仕方ないのかもしれない。

そう思ってしまう自分が、少し嫌だった。


「合併するか」


森田さんが突然そう言った。

合併。

あまり聞き覚えのない言葉だった。


「何それって顔してる。そんなあなたに教えてあげる。今、森田さんが言ってるのは、一門と一門を1つにまとめない?ってことよ」


「いや、わかるよ。それぐらい」


「本当かしら」


愛菜さんの疑うような目が刺さる。

……本当に失礼な人だ。


それから3日。


結局、白夜と炎楽は合併することになった。

そして俺たちは2つの部隊に分かれ、丹波奪還に向けて動き始めていた。

しかし――不思議なことが起きていた。


「敵がいない……」


焼けた村。

見るに耐えない光景。

火事場泥棒をする賊。

そういったものを目にすることはあった。

だが、肝心のカゲロウがいない。


「どうやら、下の方で織田が暴れてるそうだ。斎藤にも喧嘩売ってるのに、よくこっちにも来れるなって感じだよ」


三好を惹きつけ、斎藤にも喧嘩を売っている織田家。

正直、どれほど凄いことなのか俺にはよくわからない。


ただ、とんでもないことをしているらしい。


「このまま、大阪まで行っちゃおうぜ」


森田さんが、まるで散歩にでも誘うような軽い口調で言った。


「大阪まで?」


「おう。敵がいないなら、行けるところまで行っちまおう。向こうの状況も見ておきたいしな」


「よく、そんな簡単に言いますね……」


大阪まで行く。


言葉にすれば簡単だ。

だが、ここは戦場だ。


「まぁ、危なくなったら帰ればいいさ」


「それができるなら苦労しないじゃないです……?」


「はっはっは! そうかもな!」


「相変わらず、楽観的すぎじゃないです?」


そんなやり取りを交わしながら、俺たちは南へ進むことになった。

その後も、大した抵抗はなかった。

村を通り、街道を進み、いくつもの集落を越えていく。


時折、遠くから煙が上がっている。

どこかで戦が起きているのだろう。

それでも、こちらへ敵が向かってくることはなかった。


「全然敵がいないな」


「だな」


森田さんは笑っている。


そんな調子で歩き続けていると、しばらくして前方から兵士の声が上がった。


「見えてきました!」


「ん? 何がだ?」


「石山御坊です!」


「やっとか……」


遠くに、大きな建物が見える。

あれが石山御坊。

後の時代では、大阪城が建つ場所らしい。


「へぇ……ここが後の大阪城か」


歴史の教科書や資料で聞いたことのある場所を、実際に自分の目で見ている。

なんとも不思議な気分だった。

そんなことを考えていると、


「……止まれ」


森田さんの声がした。

足が止まる。

森田さんは、真っ直ぐに向かいの丘を見つめていた。


「あれって……」


その視線の先を追い、目を凝らす。

そして――息を呑んだ。

丘の向こう。

そこには、大量の兵が待ち構えていた。


「なるほどな。満を持して、ここで待ってたってわけだ」


森田さんは何かを理解したような顔で、正面を見据える。


「なんだ、あの数は!」


周囲が一斉に騒然とする。

理由は明白だった。


敵の数である。


……多い。

とにかく、多い。


「……これ、勝てます?」


「いや、無理だな」


森田さんが即答した。


「ですよねぇ……」


「よし、逃げよう!」


「判断早っ!」


「いったろ? 危なくなったら逃げりゃいいんだよ」


森田さんの号令とともに、部隊が一斉に後退を始めた。

背後から怒号が響いている。

だが、意外なことに三好の軍は追ってこなかった。


一定の距離を保ったまま、こちらを見ている。


「……あれ。こっちに来ない? なんで……」


「知らん!」


森田さんも困惑しているようだった。

それでも、ここに居続ける理由はない。

俺たちはそのまま距離を取り続けた。


結局、大きな戦闘になることはなく、丹波へ戻ることになった。


「……いつか、あれと戦うのか」


帰り道。

思わず、そんな言葉が口から漏れた。


「そうだわね」


愛菜さんが隣から答える。


「心配?」


「そりゃ」


「私もよ」


そう言って、愛菜さんは前を向いた。

俺も、それ以上は考えなかった。


ただ一つ。

今回のことで分かったことがある。

三好は、俺たちが思っていた以上に大きな勢力らしい。


――それだけだった。


丹波に戻ってきた一行は、今回の行軍で受けた傷を確認し、そのまま丹波防衛を継続することになった。


そして、次の日。


「と、こんなもんかな」


「律儀なものね。私なんか、思い出した時にしか書かないわよ」


「それはそれで、どうなんだ……」


最近の日課は、日記を書くことだ。

日記を書くことで、少しだけ心の整理がつく。

それに、現代に戻れた時にはレポートの材料としてきっと役立つだろう。


何より――。


この世界で起きたことを、忘れないためでもあった。


「そういえば、ここ最近静かだな」


「そうね。なにせ森田さんらが出張しちゃったもの」


「えぇと。存じ上げないんですが。そんなこと言ってた!?」


「あなた、本当に人の話聞かないわね。織田家に礼を言いに行くから、数日頼んだって言ってたじゃない」


「あぁ……多分寝てたな、これ」


「はぁ……」


愛菜さんから、失望のため息が漏れた。


自業自得なのだが。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


10日後。


森田さんらが帰ってきた。


その間、三好からの攻撃もなく、比較的平和に過ごすことができていた。


「お前らぁ! たーだいまぁ!」


森田さんは帰ってくるなり、扉を勢いよく開け放った。

そして、少し誇張気味な帰還報告。

その瞬間、部屋中が一気にざわめいた。


「あ、帰ってきた!」


「お疲れ様です!」


「早かったですね!」


あちこちから声が飛び交う。

森田さんは満足そうに周囲を見渡し、笑った。


「これ本当に織田さんへ定期報告しに行っただけですよねぇ……」


俺が少し呆れながら呟くと、その場にいた一人が手を挙げた。


「あのぉ……盛り上がってるところ悪いんですが、本題に入ってよろしいでしょうか」


亀倉さんだった。


ざわめいていた部屋の空気が切り替わる。

話は本題へと入った。


「え? あ、あぁ。本題なんだが、斎藤との戦いが終わったらしい。次は三好を潰すのが目標と決まったんだ。なんで、我々もそれに合わせる。ここからもっかい南下する。目標は大阪だ」


なかなかに衝撃的な知らせが入った気がする。

なのに、以前ほど驚きを感じない。

――嫌な感覚だった。

この世界に、少しずつ馴染んできてしまっている。


それが嫌だった。


「天宮くん。そんなに嫌そうな顔をしないでくれ」


「え? あ、いや、その……」


「冗談だ。各々準備を進めておくように。以上、解散!」


なんてヒヤヒヤさせてくる人なのだろう。

ここで戦が嫌だなんて言ってしまえば、違反分子。

謀反も同然ではないか。

それのせいで死ぬのはごめんだ。


「そう考えてしまう自分も大概嫌いなんだが……」


「何、まだ一人でぶつぶつ言ってるの」


どうやら考え事が口に出てしまったらしい。

愛菜さんに聞かれてしまっただろうか。


「あんたの気持ちはもちろんわかるよ。この件が治まれば、みんなでなんとかしましょう」


「みんなでなんとかって、どう……」


「森田さんはあんたの敵じゃないの。むしろ味方よ? 提案すればすぐ実行してくれる。ただ、それが現実的なことか、そうじゃないかの違い。理想は語ってるだけじゃ理想でしかないの。


たくさんの理想を提案してれば、現実的な理想が見つかるかも、でしょ?」


「難しいことを言ってお姉さんぶってる?」


「な! これでも真面目な話をしてるのですが?」


愛菜さんの顔がどんどん膨らんでいく。


……多分、怒ってるのだろう。


一応、謝っておこう。


「はいはい、悪かったです」


「全然反省してる感じしないんだけど。まぁいいわよ」


「なぁ、帰ったらなんかしたいことでもないのか」


「そうね。好きな人にでも告白しようかしら?」


「へぇ。お前が告白ねぇ」


「何よ。何か文句でも?」


「いいえ。何にもないですよ」


「それこそ、あなたはないの? 現世に帰ってしたいこと」


現世に帰ってしたいこと。

聞いてみたけど、自分では考えたことがなかった。


毎日、珍事件を調べて、それをレポートにして提出。

たまに番組に使われるかどうかの仕事を続け、家では自堕落に過ごす。


あの頃は幸せだと思っていた。


けれど、今になって考え直してみると――終わっていた生活だったのかもしれない。

それでも、それ以上は求めない。

求めすぎると、物事は悪い方向へ傾いていく。

それを、俺は知っている。


だから――。


「あの頃の日常に戻ることかな」


「つまんないわね」


「ストレートだな」


「まぁいいんじゃない? あっ君ぽくて私は好みよ?」


「お前、本当に俺のことからかうの好きだよな」


「たまに面白い反応が見られるもの。今後もよろしく頼むわよ?」


「何を頼まれたのかわからないけども。まぁOK?」


「じゃ、私これから用事あるから」


そう言って、愛菜さんは部屋を出ていった。


扉が閉まる寸前。

何かを呟いていたような気がした。

だが、何を言っていたのかまでは聞き取れなかった。

少し気にはなったものの、多分次のスケジュールでも確認しているのだろう。


そう自分を納得させた。


5日後の朝。


「でわ、皆、用意はできたかぁ?」


少し気の抜けた声で、森田さんが声をかける。


用意と言っても、武器の手入れ。

積み荷と食料の確認。

兵士の健康状態の確認など、やることは多い。

もちろん、この世界に来て最も歴の浅いであろう天宮には、特にすることもない。

たまに積み荷の確認を手伝っていたくらいだ。

正直、これから戦に出るというのに、こんなのでいいのか。

そんな罪悪感が、常に胸の奥にあった。


だからこそ、これから巻き返していきたい。


「よぉし。じゃ! ワイの故郷、大阪に出発や!」


「森田さんの故郷、初耳ですし、あまり大きな声で言うものじゃないですよ」


亀倉さんが、森田さんの気合の入った関西弁の号令にツッコミを入れる。


これから戦に行くというのに、今のやり取りはまるで軽いコントだ。


けれど――。


「これくらいの方が気が楽だなぁ」


「そうでしょ。だから、あなたも今ぐらい気を軽くしておきなさい」


「……そうだね」


「さ、私たちも行きましょう」


愛菜さんに促され、俺も歩き出す。


これが――

天宮拓人の、二回目の出陣であった。

次回は9/8(火曜)

進め炎楽

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。