第一話 転移事件
誤字、脱字があったら申し訳ありません。
生暖かい目で見逃してもらえると助かります。
第1話
それはもう何年も前のことだ。
2016年、日本全国で5,000人以上が相次いで姿を消すという不可解な事件が発生した。
『連続失踪事件』。別名『転移事件』。
失踪者の約8割は1週間以内にほぼ無傷で発見されたが、中には精神的に不調をきたした者や、「戦国時代に行っていた」と証言する者もいた。
「怖い事件もあるもんだよなぁ」
会社のパソコンでそんな事件を調べていた私、天宮拓人は、思わずそう呟いた。
私は不思議な事件や現象を調査する仕事をしている。ほぼ趣味のようなものだが、案外給料も悪くなく、不満はない。時々、心霊スポットの調査が怖いくらいだ。
「随分と前の事件を調べてるのね」
脳内で自己紹介をしていると、背後から聞き慣れた声がした。
高田愛菜。仕事の同期で、高校からの付き合いがある。いわゆる幼馴染というやつだろう。
顔もスタイルも良い。のだが、欠点は話せば長くなるほどの重度のオカルトマニアである。
最近は落ち着いているようだが、長年の付き合いもあってか、私は彼女に対して全く色っぽい感情が湧いてこない。自分でも勿体ないとは思っている。
「ちょっと興味があってな」
「でも、この事件は結構考察が進んでるんじゃない? 当時それなりにスクープにもなったし」
「調べ直したらなんかわかることがあるだろ?」
「納期に間に合わないから、調べやすいのにしてるの間違いじゃないかしら?」
「はぁ、そうですよ。それ以外にあるとでも?」
「言ってくれたら手伝うのに」
「高田愛菜さんの手を煩わせるわけには行かないので」
「そう。じゃあ私は先に上がるわね。仕事はほどほどにしときなさいよ」
「随分と優しいじゃない」
すると、彼女は指を自分の目の下へ持っていき、
「クマ、前よりひどいことになってるわよ」
そう言い残して帰っていった。
確かに最近は寝ていない。とはいえ、これといった書き込みやスクープもなければ、変わった事件も起きていない。
正直、お手上げ状態だった。
「愛菜の野郎を頼るのも視野に入れておかないとなぁ」
とりあえず今日はとことん調べ、報告書を書く。終電には間に合わないだろうから、ここで一夜を過ごすことになるだろう。
「……の前に仮眠とるかな。誰もいないし、アラームつけていいだろ」
アラームを15分後にセットし、机に突っ伏す。
相当疲れが溜まっていたのか、すぐに意識が遠のいていった。
「「進めぇ!!」」
うるさい。
「「どらぁ!!」」
アラームの音、こんなのにしてたっけか。
「「やぁあ!!」」
いや、明らかにおかしい。
これはアラームの音じゃない。
とりあえず落ち着こう。やることは簡単、目を開くだけ。
落ち着け、天宮拓人。3、2、1で!
「……どこだ、ここ」
会社のオフィスで寝ていたはずなのに、次に目を開くと、知らない野原に立っていた。
「へ、へへ。愛菜のイタズラか? 趣味悪いなぁ、アイツ」
周囲を見渡す。
東京にいたはずなのに、ビルが1つも見当たらない。
代わりに広がっているのは、見渡す限りの草原と山々。遠くからは、何やら大勢の人間が叫ぶ声まで聞こえてくる。
「イタズラにしてはやりすぎな気が……」
そう呟きながら、恐る恐る歩き出した。
どこを見ても山、草、あと川。
そして、武装した人?
甲冑を着た人が――
「ぶちゅ」
「……?」
何かを踏んだ。
足元から、嫌な音がした。
恐る恐る視線を下ろす。
そこには、血を流して倒れている甲冑姿の男がいた。
「こ、れ……」
一瞬、頭が真っ白になった。
目の前の光景が信じられず、足がすくむ。呼吸が浅くなり、視界がぐらりと揺れた。
そして、少年のように情けない声を漏らす間もなく、私の意識は途絶えた。
――――――――――――――――――――
……あれから、どれだけ眠っていたのだろう。
あれはきっと夢だ。15分の仮眠で見た、少しばかり悪趣味な夢。ちょうど変な事件を調べていたから、そんなものを見たのだろう。
さあ、仕事の続きをしないといけない。
目を覚ますんだ、天宮拓人。3、2、1。
そう心の中で唱え、片目ずつゆっくりと開ける。
「……夢じゃない……」
見慣れたオフィスの天井は、どこにもなかった。
代わりに見えたのは、木造の天井と、見覚えのない部屋の景色。
どうやら、現実を受け止めなければならないらしい。
「ここは、どこかのお屋敷か?」
布団から身を起こし、今の状況を整理する。
1、ここは多分どこかのお屋敷。
2、自分は意識を失ったあと、ここに運ばれた。
3、多分現代じゃない。
仮説として、まだ愛菜のドッキリ説が残っているが、流石にこんな大掛かりなことはしないだろう。
正直、ドッキリであってほしいのだが。
部屋は結構広く、調度品もどこか古めかしい。少なくとも、現代のホテルや旅館とは雰囲気が違っていた。
「とりあえず、ここがどこで何年なのか情報聴取だな」
そう呟き、部屋の戸を開け――
「あ」
「ん?」
着物姿の女性と目が合った。
いや、ほぼ鉢合わせた。
「……あ、な、長政様!!」
女性は驚いた様子で声を上げ、そのまま廊下の向こうへ走り去ってしまった。
「はぁ。なんなんだ、全く……」
――――――――――――――――――――
その後、しばらく屋敷を歩き回って情報を集めていたのだが――
「はい?」
「えぇと、だから今年は1567年。ここは近江ですが」
「1567年……?」
正気か。
いや、きっと正気じゃない。夢だ。きっと夢なんだ。
「客人様」
現実を受け止められないでいると、背後から声をかけられた。
「浅井長政様がお呼びです」
一体どうなっているのか訳もわからないまま、少女についていく。
やがて、とある部屋の前で足を止めた。
「長政様、客人様です」
「入れ」
中から太い声が聞こえた。
「では、ごゆっくり」
少女は軽くお辞儀をして去っていった。
どうやら、入るしかない雰囲気のようだ。
「えぇと。失礼、します……」
「そんな畏まらないでよい。貴殿、生まれはいつだ?」
「え、えぇと……1994年です……」
「そうか、やはり未道人か」
「みと、じん?」
聞いたことのない言葉に、思わず聞き返してしまった。
「ふむ。要は未来人ということだ。最近増えておってな。探せば主の知り合いも居るかもしれんぞ」
未来人……。
じゃあ、本当に過去、戦国時代に来たのか?
てことは、あの事件は本当だったのか?
「名前を聞いてなかったな。なんと申す」
「天宮拓人、です」
「そうか。わしの名は浅井長政」
浅井長政。
昔、歴史に少し興味があったので覚えている。
確か、今の滋賀らへんの戦国大名だったはずだ。
ということは、時代どころか場所まで近畿に飛ばされたらしい。
この際、関係ないが。
「貴殿、行く宛はないだろう?」
「あ、えーとはい……」
「だろうな。まぁ良い。貴殿のような者達の集い、一門がある。そこを頼れ」
「一門?」
「安心しろ、味方だ。そこで学ぶが良い。わしはやることがある」
なんだか勝手に話が進んでいるが、まぁいい。
僕のような人の集まり。
とりあえず頼れるのは、そこだけだ。
――――――――――――――
「ここら辺か?」
教えられた場所までやって来たものの、どこへ向かえばいいのかよくわからない。
周囲を見回していると――
「ん? 君、新人かい?」
なんだか聞き覚えのある、お姉さんボイスで声をかけられた。
「あ、えぇとはい……あれ。愛菜?」
「あっくん……?」
まさかの巡り合わせだ。
こんなところで愛菜と出会うとは。
というか、さっきまで会社にいたはずのコイツが、なんでこんなところにいるんだ?
「それで、この状況どう見る」
「どうもこうも、転移事件に巻き込まれたとしか思えないわよ」
「だよなぁ。てか、さっきの先輩ヅラはなんだったんだ?」
「……そうよ。ここでは私が先輩なんだから、敬語ぐらい使いなさい」
「ハァ? 何言ってんだ」
「私、1年ここにいたの」
「は?」
本気で意味がわからない。
1年前?
じゃあ、あの夜話したのは――。
「そっちは何年経った?」
「え? 何年も何も、お前と最後に話して数分しか……」
「そう。じゃあ転移先の時代はある程度ランダム、もしくは現世の1分でもこっちには数ヶ月のブレがあるのかもね」
「いったい何言って――」
「愛菜さん。その人知り合いか?」
疑問を浮かべていると、横から男の声がした。
「えぇ、現代の」
「そうか。俺は森田剛。この一門の当主だ。よろしくな」
「あ、えぇと、よろしくお願いします……」
「そんな硬くならんでもいいからな。んじゃ、あとはいけるか」
「わかりました。では、後ほど」
森田さんと別れを告げ、僕は愛菜から知っていることをくまなく聞いた。
そこで得た情報は、
1、ここは戦国時代。
2、我々は浅井軍直結の一門、炎楽に参加している。
3、この世界で、現代人に老化はないが、死は存在する。
4、まだまだ多くの現代人がおり、愛菜はすでに100人は会っているそうだ。
「あっくん、メモ帳ある? ペンと」
「あ、あぁあるけど。何すんだ?」
「日記を書くのよ。いつか使えるかもしれないでしょ?」
確かにこんな世界だ。
現世に帰れば特大スクープ間違いなしだな。
タイトルは――。
「転移事件再来か、かな」
「? なんのこと?」
「あ、いや。こっちの話……」
「そう」
今日は1567年5月5日。
摩訶不思議な戦国ライフが始まった。
――――――――――――――――――――
乱世の時代とは、日々無情。
危険がいつ迫ってきてもおかしくない。
そんなところに飛ばされて2週間が経過した。
この2週間、愛菜や森田さんに一門メンバーの紹介、そして戦場での戦い方を教えてもらっていた。
「ちゃんとメモ取ってるの?」
この2週間を簡単に脳内で振り返っていたところに、愛菜がやって来た。
「流石にな。でも、このメモ用紙無くなったらどうしたものかな……」
「そうね。でも、本当になくなったらやばいのは、このペンのインクなんじゃない?」
「そうか。紙はあってもインクがなければ書けないか……」
「そう。こんな小さな紙に筆で書くのは至難の業よ」
「インク、節約しないとな……」
この時代に持ってこれた物。
胸ポケに入れていたペンとメモ用紙。あとは家の鍵だ。
「スマホは……」
「使える訳ないでしょ?」
それもそうかと心で唱えつつ、メモしたことを見直す。
この時代には、大まかに3つの階級が存在する。
一般兵、将兵、大将兵。
細かく見るとさらに分かれるのだが、現代人、通称『未道人』は将兵の階級を得られるそうだ。
将兵には少なくとも1,000人規模の兵力が与えられ、個々が戦闘の指揮を担う。
「戦闘指揮なんてどうやれば……」
「まぁ、それは実戦しないと無理よね」
「そういえば、愛菜って1年ここに居たんだよな」
「そうよ。それがどうしたの?」
「その間に何回戦に行ったんだ?」
「3回ぐらいね。最初は大変だったわよ」
「3回か……」
1年で3回は多いのか少ないのか、この世界に2週間程度しかいない僕にはわからない。
そういえば――。
「この世界? 時代? は史実通りに動くのか?」
「知らないわ。そこら辺は、森田さんの方が詳しいんじゃない?」
「そうか……」
また今度聞いてみるとしよう。
そう思っていたところに――
「俺に何か用か?」
「あ、森田さん」
ちょうどいいところに森田さんが来た。
取材込みで色々聞いてみよう。
「森田さんて、この世界についてどれぐらい知ってます?」
「うーん。まぁ、それなりに答えれるんじゃなかろうか? 例えばなんだ?」
「えーと、例えば……この世界は現代日本の知る歴史通りに動くのかどうか、とかですね」
「うーん。大まかな戦はそうだな。ただ、誰が天下を取るか。それは確定じゃなかったはずだ」
「それは、僕たちの影響もあってです?」
「そうかもな。少なくとも前はそうだった」
「……前?」
「あら、そういえば言ってなかったわね。森田さん、実は前の転移事件の被害者なの」
「え!? そうなんですか!?」
前回の転移事件の被害者が今回も巻き込まれている可能性は考えていた。
何せ5,000人以上の人が巻き込まれていたのだ。
しかし、それが森田さんだったとは。
日本は狭いんだなと思い知らされた。
「あぁ、まぁな。あんときは大変だったよ。誰も何もわからない。頼りになるのは中学で習ったうろ覚えの歴史の授業だけ」
「それは確かに、大変でしたね……」
「こんなところだ。人殺しも出来ちまう。だから現代人同士の裏切り、人斬りのオンパレード。いつ死ぬかヒヤヒヤしながら毎日生活してた」
「現代人同士で殺し合う……?」
「あぁ。俺が前の事件の時に入ってた一門は現代人殺しはしない主義だったが、他が同じとはいかない。怖い世界だよ」
日々ストレスが積み上がるような現代日本。
人殺しが許される世界に来たら、日頃の鬱憤を晴らすために人を殺してしまう者もいるのだろう。
「でも、そんなこと……」
「ないと思いたいよな。でも、これが現実だ。この世界に慈悲はない」
「僕たちはどうするんですか?」
「もちろん現代人に限っては不殺を掲げるさ。やむを得ない時もあるだろうし、絶対も無理だろうがな。可能な限りやるつもりだ」
その言葉を聞いて少し安心したものの、同時に、この世界の現実を改めて思い知らされた。
ここは現代じゃない。
人が命を落とすことも珍しくなく、自分がいつ死んでもおかしくない。
一般人として生きようが、その危険から完全に逃れられるわけではないのだろう。
「とんでもないところに来てしまった……」
思わず、そんな言葉が漏れた。
――――――――――――――
あれから1週間。
森田さんの呼び出しで、一門メンバーが広場に集められた。
一体何が始まるのだろうか。
そう思っていると、高台に森田さんが仁王立ちし――
「皆に知らせだ。今から5日後、丹波付近の防衛支援を頼まれた。今の兵力だけでは足らないそうだ。各々準備を頼む」
天宮拓人の初陣が決まった。
「戦国時代に冒険ギルドを設立します」を読んで頂きありがとうございます。
これからもダラダラ書いて基本毎週 火曜と土曜 に一話ずつ投稿して行くつもりですので、今後ともよろしくお願いします。
頑張れ天宮




