二章 プロローグ
「お前の姉貴とやらは死んだ」
槍真倉から告げられたその言葉に、北崖は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
「……は?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
死んだ? 誰が? 姉貴が?
そんなわけがない。何かの間違いに決まっている。
これまでずっと探してきたのだ。どこかで生きていると信じて、手がかりを求めて歩き回ってきた。槍真倉の企みにだって、信用できない部分はいくつもあった。それでも協力してきたのは、姉貴を見つけるためだった。
それなのに、こんなにもあっさりと。
「すまないな。遺体は運んでこれた。火葬ぐらいしてやれ」
そう言いながら、槍真倉は北崖の目の前に、姉貴の、璃奈の亡骸を横たえた。
「……嘘だろ」
北崖はその場に膝をついた。
見間違えるはずがなかった。
何度も見てきた顔だ。何度も言葉を交わし、何度も世話を焼いてもらった。血こそ繋がっていないが、北崖にとっては、たった1人の姉だった。
その姉が、今は何も答えてくれない。
「姉貴……?」
呼びかけても、返事はない。
嘘だと思いたい。ふざけるなと叫びたい。
だが、目の前の現実は何1つ変わらなかった。
一体……一体誰が。
「猫影が、殺したんだ」
「……あ?」
北崖はゆっくりと顔を上げた。
猫影。
聞いたことがある名前だ。
そういえば、そいつの手下だか何だかに呼び出されたこともあったか。
そいつが、姉貴を?
「……何でだよ」
「何?」
「何で姉貴が殺されなきゃならねぇんだよ!」
思わず声を荒らげた。
だが、槍真倉は眉1つ動かさない。
その態度が、どうにも気に入らなかった。
そもそも、こいつの言葉をどこまで信じていいのか。
槍真倉という男が、何かを企んでいることくらいは分かっていた。何を考えているのか分からず、時折見せる笑みには薄気味悪さすら感じていた。
それでも、姉貴を探すためならと目をつぶってきた。
だが、今はどうだ。
姉貴が死んだというのに、目の前の男は妙に落ち着いている。
「俺と共に復讐しようではないか」
「復……讐?」
「あぁそうさ。ちょうどここにもう1人、猫影に恨みを持つ者がいてな。どうだ?」
そう言いながら、槍真倉は北崖へ手を差し伸べた。
北崖はその手を見つめる。
こいつを信用していいのか。
本当に猫影が姉貴を殺したのか。
聞きたいことはいくらでもあった。
だが、目の前に横たわる姉の姿を見ると、そんな疑問すらどうでもよくなってしまいそうだった。
もし、槍真倉の言うことが本当なら。
もし、猫影という男が姉貴の命を奪ったのなら。
どうして許せるというのだ。
「お前の姉貴のために、俺は協力してやる。さぁどうする?」
ニヤけながらそう言う彼は、とても狂気に満ちていた。
北崖には分かっていた。
この男は、姉貴のために怒っているわけではない。
自分を利用しようとしているのだろう。
それでも、差し伸べられた手から目を離せなかった。
この手を取ったら、もう戻れない。
そんな予感がした。
北崖はもう1度だけ、姉の顔を見た。
「……姉貴」
もう2度と、その声を聞くことはできないのだろうか。
あれほど探し続けていたのに。
ようやく見つけたと思ったら、こんな結末だなんて。
北崖は唇を噛み、ゆっくりと立ち上がった。
そして、槍真倉の手を握る。
「俺は猫影を殺す」
「いいねぇ。面白くなってきた」
槍真倉は満足そうに笑った。
その笑みを見て、北崖は確信した。
やはり、この男は信用できない。
それでも、今は構わなかった。
姉貴を奪った相手が誰なのか。
その答えを、自分自身で確かめるまでは。
急遽色々変えてました。
深夜にドタバタしてたのはそのためです。
二章 一話目も本日配信する予定です。
今後もよろしくお願いします




