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戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
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第二十話 願いのその先

あれから二日後のことだ。


「よぉ。今まで何してたんだ、虎子」


そう言って、猫影はあの場所にいた。


見晴らしのよい丘。璃奈と何度も話をした場所であり、二人が出会った場所でもある。

そして今では、後悔の場所でもあった。


そこで黄昏ていた篠原に、猫影は声をかけた。


「というか、何でまた虎子がここに?」


猫影は篠原に会いに来たわけではない。

そもそも、自分が何をしにここへ来たのかすら、よく分かっていなかった。

ただ、気づけばここまで来ていた。


「ここ、景色綺麗だね」


「だろ」


「うん」


夕方の風が二人の間を通り抜ける。

町並みが彩る景色と、その先に連なる山々。


何度見ても、この場所から見る景色は綺麗だった。


「今では自慢の場所だよ。出会いの場でもあるし」


猫影はそう言って、少しだけ笑う。


「そして、後悔の場でもある」


その言葉に、篠原は何も返さなかった。

誰のことを言っているのかは、聞くまでもないのだろう


しばらく二人で景色を眺めたあと、篠原が振り返る。


「改めて、久しぶりだね。春くん」


「……ああ」


「現代では、元気にしてた?」


「まぁ。元気ではあったよ」


苦い思い出は出来てしまったが、それでも、あの頃はまだ平和だった。


少なくとも、目の前から大切な人がいなくなることなんて、考えもしなかった。


「それなら、よかった」


篠原は小さく微笑んだ。


猫影は、その顔を見て少しだけ視線を逸らす。

彼女と二人でいるのは、やはり気まずかった。


つい昨日、告白されたばかり。

そして、それを断ったばかりなのだから。


「なんか、たくましくなったよね」


「……そうか」


「うん。昔はちっさくて可愛かったのに」


「お前だって一つ上なだけだろ」


「それとこれとはまた別なの!」


「……理不尽だなぁ」


思わず苦笑する。


こうしていると、まるで昔に戻ったような気がした。

ただ、昔とは違う。


もう二人とも、あの頃のままではない。


「……その、お前も可愛くなったな」


「それ! 振った女に言う!?」


「いや、あの件は悪かったって」


「いいですよ。どーせ私は一番になんてなれないんですから!」


「……」


急すぎたのだ。


もっと積み重ねれば、いつか。

そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。


だが、


「いや、やめよう」


猫影は小さく首を振った。


これはもう考えないでおこう。

あまりにもクズすぎる。


「ねぇ。その、璃奈さんってどんな人だった?」


「……それ聞いちゃうか」


「参考にさせてよ」


「するな。お前は変わんなくて良いよ」


そう言うと、篠原は頬を赤くさせ、顔を背けた。


「そ、そう言うところだよ……」


「一体どういうところなんだか」


猫影は内心では何となく理解していた。

それでも、分からないふりをした。


「なぁ」


「ん?」


「この世界で死んだ人って、どうなると思う?」


篠原は少し黙った。


「それ、前の時も言ってなかった?」


「……そうだっけ」


「言ってたよ。何回も」


「じゃあ、事あるごとに聞くかもな」


「じゃあ何度も答えてあげる」


篠原は、ゆっくりと笑った。


「きっとみんな、現代に帰れてるよ」


「……」


猫影は空を見上げた。


そうだと良いなと思う。

それがどれほど小さな希望でも、猫影はそうであってほしいと願っていた。


璃奈も。

旬も。

これまで自分の前から消えていった人たちも。


どこかで、生きていてほしい。


「だからさ」


篠原が続ける。


「また現代に戻れたら、私たちで旅をしようよ」


「旅?」


「うん。春くんが生きてて欲しいって思う人を探す旅」


「懐かしいな」


猫影は目を細める。


確か、前回の事件でもそんな約束をした覚えがあった。


みんなで現代に帰れたら、もう一度会いたい人たちを探そう。


そんな話をしていた。


だが、それは叶わなかった。

理由はいくつかある。


一番大きかったのは、年齢だ。

旅をするには、自分たちは少し若すぎた。


「やりたいな」


自然と、そんな言葉が口から出た。


「やろうよ。今度は絶対」


「そのためにはまず、お前から探さないとなんだけどもな」


「それは、また考えようよ。集合地点決めてさ」


「……そうだな」


最近は願ってばかりだ。


こうなってほしい。

ああなってほしい。

誰かが生きていてほしい。

現代に帰りたい。


そんなことばかりを願っていた。


願い続けるくらいなら。


「それをやり遂げる……」


猫影は小さく呟いた。

篠原がこちらを見て、頭を傾げる。


「何か言った?」


「いや、何でもない」


猫影は立ち上がった。


やはり、ここに来たのは間違いじゃなかった。

ここに来て募るのは、後悔だけじゃない。


この場所は、出会いの場。


そして――決意の場でもあった。


今度こそ、自分で何かを成し遂げる。

それが何になるのかは、まだ分からない。


ただ、立ち止まっているつもりはなかった。


―――――――――――――


それから一日が経った。


猫影は森田、鶴賀と共に会議室にいた。


机の上には、この先の移動先や各勢力の位置が書き込まれた地図が広げられている。


「んで、どうするんだよ。これから」


森田が地図を眺めながら口を開いた。


「私は猫影殿の意向に従うまで」


「鶴賀、もうそれやめないか」


「……」


鶴賀は黙った。


別に悪いわけではない。

それだけ猫影を信じているということなのだろう。


だが、「意向に従うまで」は、いささかやりすぎな気がした。


「まぁ良いじゃねぇかよ。それだけ猫影さんを信じてんだ」


森田が口を挟む。


「それは、まぁ……」


猫影は少し困ったように頭を掻いた。


そして、


「でも、俺が全部正しいわけじゃないからな」


「承知しております」


「なら、余計にだよ」


「それでも、私は猫影殿を信じます」


「……頑固だなぁ」


猫影は少し困った顔をした。


以前なら、その言葉を素直に嬉しく思っていたかもしれない。


今はまだ、少しだけ怖い。


自分を信じてついてきた人たちが、また傷つくのではないか。

そんな考えが、頭の片隅から離れなかった。


「それで」


森田が話を戻す。


「俺は東北に行くこと自体は賛成だ」


「僕もです」


「ただし」


森田は地図から顔を上げた。


「だがよ。そんな簡単に出来んのか?」


猫影は黙った。


「……私も経験がない故。わからないでする」


「これってつまり、織田を離れるってことだよな」


「ええ」


室内に、少し重たい沈黙が落ちた。


これまで自分たちは織田の側にいた。

織田のために戦い、織田の名の下で行動してきた。


そこから離れる。


ただ東北へ移動するだけなら、まだ話は簡単だった。


だが、これは違う。


所属を変える。


つまり――鞍替えだ。


「織田から抜ける以上、当然向こうからすれば面白くないだろうな」


森田が腕を組む。


「場合によっちゃ、裏切り者扱いだ」


「……ですね」


猫影は地図に視線を落とした。


だが、迷いはなかった。


「それでも、もう織田に残る理由はない」


「……」


「槍真倉が武田と繋がってる。今後を考えると、ここに残るのは危険すぎます」


「それは確かにそうだ」


それには森田も頷いた。


「それに」


猫影は続ける。


「俺たちは今、織田のために戦うことより、自分たちがこれからどう生きるかを考えるべきだと思うんすよ」


森田が猫影を見る。


「珍しくまともなこと言うじゃねぇか」


「失礼ですね」


「ははは」


少しだけ空気が緩む。


だが、森田はすぐに真剣な顔へ戻った。


「それで、東北のどこへ行く?」


「上杉なんてどうだ?」


猫影が地図の一角を指差した。


「上杉……」


鶴賀が呟く。


「越後の上杉ですね」


「そう」


「受け入れてもらえる保証は?」


「ないです」


猫影は即答した。


上杉が自分たちを受け入れてくれる保証など、当然なかった。

それどころか、一度、支えた家を離れた人間を素直に受け入れてくれるかすら分からない。

それでも、猫影に迷いはなかった。

今の織田に残り続けることの方が、よほど危険だ。

だから


「少なくとも今のまま織田にいるよりはマシなはずです」


「確かにな」


森田も頷く。


「上杉に話を通して、受け入れてもらう。それができれば、俺たちは織田とは別の勢力として動ける」


「そういうことだ」


「ただな」


森田が指を立てる。


「織田から抜ける以上、今までみたいに自由に動けるとは思うなよ」


「分かってますよ」


「それと、上杉に行ったからって完全に安全になるわけでもねぇ」


「それも分かってます」


「……ならいい」


森田は地図へ視線を戻した。


「俺は賛成だ」


「鶴賀は?」


「私は、最初から猫影殿についていくつもりです」


「だからそれを――」


「今さら変えるつもりもありません」


「……はいはい」


猫影は諦めたように息を吐いた。


「それじゃあ、上杉で決まりだな」


「ああ」


森田が頷いた。


しかし、その直後。


「……でも」


猫影が地図を見つめたまま呟いた。


「どうした?」


「織田に、何も言わずに出るのは……」


森田が少し驚いたような顔をする。


「言うのか?」


「黙って裏切るのは嫌いなもので」


「……まぁ、それもそうか」


鶴賀が口を開く。


「では、出立前に織田へ事情を伝えますか?」


「そうだな。俺から話をつける」


そうして、この会議は終わりを告げた。


―――――――――――――


その日の夜。


猫影は一人で廊下を歩いていた。


ふと、とある部屋の中を見た。


その部屋の向こうには、あの眺めの良い場所がある。


璃奈と何度も話した場所。

だが、そこには誰もいない。


「……璃奈」


小さく名前を呼ぶ。


返事はない。

分かっている。


それでも、名前を呼んでしまう。


猫影は懐に手を入れた。

そこには、璃奈から残されたものがある。


指先でそれに触れる。


「俺、ちゃんと進めてるかな」


答えは返ってこない。


「……まぁ、進むしかないんだけどな」


少しだけ笑った。

その時。


「猫影殿」


背後から声がした。

振り返ると、鶴賀が立っている。


「何?」


「……いえ」


鶴賀は少しだけ迷ってから、口を開いた。


「先ほど、上杉へ行くと決めましたが」


「ああ」


「もし、上杉が受け入れてくれなかった場合は?」


「その時は、その時だな」


「随分と簡単に言いますね」


「簡単じゃないさ」


猫影は窓の外へ視線を戻す。


「怖いよ」


鶴賀が少し目を見開く。


「でも、怖いからって何もしなかったら、また同じことになる」


「……」


「俺はもう、誰かが死ぬのをただ見てるだけなのは嫌なんだ」


その言葉に、鶴賀は何も言えなかった。


「それに」


猫影は続ける。


「今度は、願うだけじゃなくて自分で動くって決めたからな」


「……承知しました」


鶴賀は静かに頭を下げる。


「では、私も動きます」


「おう」


鶴賀が去っていく。


猫影はその背中を見送った。

そして、もう一度だけ窓の外を見る。


「……行ってくるよ」


誰に向けた言葉なのか。

それは、猫影自身にも分からなかった。


―――――――――――――


翌朝。


「おーい! 猫影さん!」


廊下の向こうから、森田の声が響く。


「何です。朝っぱらから」


「出発の準備だ!」


「もう?」


「こういうのは早い方がいいんだよ!」


「はいはい」


猫影は苦笑しながら荷物をまとめる。

刀を腰に差し、必要な物を確認していく。


天宮たちも準備をしていた。

愛菜が何かを確認しながら、天宮へ声をかけている。


「忘れ物ない?」


「大丈夫だよ」


「本当に?」


「大丈夫だって」


そんなやり取りを聞きながら、猫影は少しだけ笑った。


数日前なら。

この輪の中に戻ってくることすら、考えられなかった。

それでも今、自分はここにいる。


傷は残っている。

後悔も消えていない。

怒りも、なくなったわけではない。


それでも


「行くのか」


そう声をかけて来たのは帰蝶だった。

もちろんその答えには、


「えぇ。行って来ます」


「達者でな」


「達者で」


「……んじゃ、ちょっくら織田さんと話しつけてくるわ」


猫影がみんなへ告げた。


「おう」


森田が頷く。


「はい」


鶴賀も続く。


これから先に何が待っているのかは、誰にも分からない。


そして上杉が自分たちを受け入れてくれる保証もない。

織田が素直に「はい、分かりましたよ」と見送ってくれる保証だってない。


それでも、進むしかなかった。


猫影は歩きながら、懐にある璃奈の残したものへそっと触れる。


「……今度は、ちゃんとやるからな」


小さく呟く。


その声は誰にも届かなかった。

だが、それでいい。


願いは、もう口にするだけでは終わらせない。


自分で叶える。


いつか現代へ帰った時。

もう一度、会いたい人たちに会うために。

そして――今ここにいる仲間たちを、これ以上失わないために。


「だから、我々は上杉へ向かいます」


そう言うと、信長は笑った。

そして、


「我を見捨てると」


「残念ですが、そうなります」


「ふっ……ふふふ」


すると突然、信長は笑い、


「わかった。達者でな」


猫影たちのその決断を肯定した。


自分で言っておきながら身勝手な話だが、猫影は少し困惑した。

なぜだろう、と。


「そもそも、この時代の者ではないはずなのに、多くの戦に付き合わせてきたのだ。

こうなることだってあり得ると考えていたからな」


「……ありがとうございます」


猫影は深々と頭を下げて感謝した。

すると、


「勘違いするなよ。

次会う時は敵、容赦はせぬからな」


「わかってます」


「達者でな」


「そちらこそ達者で」


何となくわかった気がした。

三神旬が、ただのありふれた高校生から信長になった理由が。


そして猫影は仲間に信長とのことを話し、

猫影たちは東へ歩みを進めた。


その先にあるのは、上杉の地。

これまでとは違う戦国での新しい居場所だった。


第一章 完

これにて一章終了です。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

そして何よりお疲れ様でした。

今後も小説としてのクオリティを上げつつ、二章からもこんな感じで配信できればなと思います。


ちなみに、作品説明に 主人公 天宮 と書いてますが、今後のメインは猫影になると思います。

(感覚は猫影と天宮のダブル主人公のつもり)

詐欺って申し訳ないです。

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