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戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
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第十九話 アドリブ

「へっ……アドリブね」


呆れた。


いい加減、人の言うことを聞いてもらいたい。


「殺したくない。帰れ」


「殺したくないって……」


「そうだよ。殺したくない」


目の前に居るのは、腐っても元仲間だ。

別に彼は何も悪くない。だからこそ、情だって湧く。


だが――


「俺を邪魔するなら話は変わるよ」


そう言って、猫影は腰に携えた刀を手に取った。


「璃奈の刀……探しに行かなきゃな」


彼女が残してくれたもの。

彼女から譲り受けたもの。


それを、無駄には出来ない。


「猫影さん……」


まただ。


また名前を呼ぶだけ。

それで何が変わるんだよ。


「その名前は嫌いなんだよ」


その名前のせいで失った。

その名前で、失いすぎた。


だから――


「二度と俺の名前は呼ぶな」


「いいえ」


そう言って、天宮は首を横に振った。


「それは断ります」


「じゃあ二度と俺の名前を呼ばせねぇ」


猫影は刀を構え、攻撃の態勢に入る。


二度とその名前を聞かないために。

二度とその名前を言わせないために。


「猫影さん」


あぁ、うるさい。


「猫影さんはそれでいいんですか」


逆に教えてくれ。

何がいいと思う。


「猫影さんだって気づいてるんでしょ」


あぁ、気づいてるよ。

あぁ、気づいてるさ。


「こんなことしたって何も報われないって!」


「んなのわかってんだよ!」


その言葉が引き金になった。


猫影は大きく踏み込み、天宮(あまみや) 拓人(たくと)へ刃を向ける。


だが、殺したくない。


そんな慈悲が。そんな情が。猫影を止める。

故に、猫影の刃はあっさりと天宮に止められてしまった。


「猫影さん。やめようよ、こんなの」


やめたいよ。こんなこと。


「璃奈さんだって、こんなの望んでないですよ」


そうだな。

望んでないだろう。


でも――


「だからなんだ」


それから猫影は刀を数回振る。


それは、どれもこれも当たらない。


なぜなら、当てる気がないからだ。

殺す気がないからだ。


「お前、ここを誰から聞いたんだよ」


ずっと気になっていた。

天宮が、ここに来られた理由。


ここを知っているのは、猫影と――


「あぁ、帰蝶か」


彼女しかいない。


「そうです。彼女から聞きました。あなたが過去に何があったかも!」


「じゃあ。なおさら帰れよ」


過去がわかっているのに、猫影を止めに来る。


そんな行動に嫌気が差す。

嫌悪が湧く。怒りが込み上げる。


「帰りません。あなたを説得できるまで」


「別に説得する必要ねぇだろ。勝手にそっちでやりゃいいじゃねぇかよ」


「それで悲しむ仲間が居るから。僕は今ここに居るんです」


「あそ、勝手に悲しめば?」


「ッ! それでもここまで共にして来た仲間かよ!」


ついに。

ついに、天宮は怒鳴った。


「ちげぇよ。俺はもう、あんた含めあいつらを仲間と思っちゃいねぇよ」


「……いえ、そんなことないはずです」


「そんなことあ」


「そんなことない!」


ある、と肯定しようとした瞬間。

天宮は声を上げ、それを否定した。


根拠のない否定を。


「何でそんなこと言える」


「猫影さんが僕を殺したく無いからです」


それもそうだ。

確かにそうだ。


だが、それはお門違いだ。


「信用のない奴を仲間と呼ぶか?」


「それは……」


「そう言うことだよ」


決着はついた。

もう決まった。

後戻りは出来ない。


――はずだった。


「……確かに、そうかも知れない。でも、猫影さんは信用できると僕は思ってます」


「それでなんだよ」


「だから猫影さんも、僕たちを信じて欲しい」


「……ふざけんな」


その声は、小さく震えていた。


それが怒りなのか。

悲しみなのか。

それとも喜びなのか。


猫影自身にもわからない。

だが、これだけは言える。


「ふざけたこと抜かしてんじゃねぇよ」


「ふざけてなんてありません」


「じゃあ、あんたは信じれんのかよ……」


猫影は一度、間を置いた。

そして、次の言葉を告げる。


「俺とあんたの立場が逆になった時にでも、あんたは人を信じれんのかよ!」


無理だ。

絶対に無理だ。


なぜなら――


「経験あんのか?」


頼っていた人間に裏切られた。

慕ってくれた仲間にさえも裏切られた。

世界を変えようと約束した仲間は、身を投げた。

世界を変えようと言った親友は、殺された。

絶対に一緒に居ると。一人にさせないと。

そう約束を交わし合った愛する人は、自分の代わりに死んだ。

頑張っても、世界は変わらなかった。

どれだけ歴史を振り返っても、何も変わっていなかった。

交わした約束は、どれも守れなかった。

信じていた仲間は、みんな裏切った。

学校ですら、こんな話は信じられなかった。


そんな残酷な経験。


「俺みたいな経験あんのかよ!」


「……ないです」


「そうだろぉな。当たり前だ」


当たり前だ。


なぜなら彼は、まだ人を信じているから。

まだ、猫影という存在を信頼しているから。


だからこそ、そんな彼は――


「俺とあんたの立場が逆になった時……あんたは人を信じられなくなる」


「その通りだと思います」


ほらな。


否定すれば良いのに。

やっぱ、この男はバカだ。


「でも」


なんだ。

まだあるのか。


バカの戯言に、興味は――


「でも、僕と猫影さんが逆だったら、猫影さんはきっと僕を見捨てない」


その言葉に。そのバカの戯言に。

猫影は驚き、動揺した。


「バカ言ってんじゃ……」


「いいえ。事実ですよ」


なぜ。

なぜ、そう言い切れる。

どうして、そこまで猫影を信用できる。


「なぜなら、あなたが猫影照春だから」


「ぁ……」


「僕は思ったんです。帰蝶さんの話を聞いた時。きっとここに僕が来なくたって。猫影さんは影で僕たちを信じ、助けてくれるって」


「なんで」


「それも、猫影さんだからですよ」


どうして、ここまで。

どうして、そこまで。

何一つ守れない、醜い子猫を信用できる。


そこで猫影は思い出した。


璃奈との会話を。

璃奈の言っていたことを。


「私にはわかる。君は全部一人で背負ってしまう。そんな優しい人」


違うと、そう否定したい。


「自分のことも、人のことも全部背負ってしまう。人との関係も、約束も、何一つ破ることがない。そんな人」


そんな人ではない。


そう言いたいのに。

それなのに、その言葉が出てこないのはなぜだ。

涙しか流れないのは、なぜなのだ。


「猫影さんが僕たちを信用しなくたって、出来なくたって。猫影さんは僕たちを守ってくれる」


そんな確証はないはずなのに。


「なぜなら猫影さんは僕たちの仲間だから」


そう言う彼を、真っ向から否定したい。

それなのに、言葉が出てこない。


「どれもこれも猫影さんだから。だから帰りましょう」


そう言って、天宮は手を差し伸べた。


猫影は、その手を見つめる。


「どこに帰るんだよ」


「みんなの居るところ。猫影さんの仲間の元へ」


「だから俺は!」


「たとえ猫影さんが仲間と呼ばなくても。僕たちが猫影さんを仲間と呼びます。

たとえ猫影さんが僕たちを信じなくても、僕たちが猫影さんを信じ続けます」


嘘だ。そんなのありえない。


そう言いたい。

でも、言葉が出てこない。


「だから帰りましょう。猫影さん」


そうか。


この子猫は。

この、何一つ守れない醜い人間は――まだ傷つきたいのだ。


まだ、後悔を重ねたいのだ。

まだ、守り、助けたいのだ。

まだ、人を信用したいのだ。


「猫影さん」


名前を呼ばれる。


醜い名前が。

嫌いな名前が。


皆が頼り、信じる名前が。


「かえろう」


そう、帰ろう。


帰って謝ろう。

帰って償おう。


この過ちを。

今までの愚行を。

ここまでの思考を。


謝り、償い、そして頼ろう。


「えぇ。帰りましょう。猫影さん」


ちゃんと帰ろう。

みんなの元へ。


この身を預けよう。

彼らの元に。


「そうだな」


猫影は涙を流しながら、天宮が差し伸べた手を握った。

その手は、思っていたよりも温かかった。


そして二人は、仲間たちの待つ場所へと戻っていった。


――――――――――――――


鶴賀は、ただ待っていた。

天宮が戻ってくるのを。

そして、その隣に猫影がいることを。


だが、時間だけが過ぎていく。


「天宮殿……」


ひどく心配だった。


止めるべきだった。

猫影の心は、もう戻ることはない。

そう思ったからだ。

傷つくだけだと、そう思ったからだ。


だが――


「大丈夫よ。あっ君なら」


それでも天宮を信じる人が居た。


愛菜だ。


「きっと春くんは戻ってくる」


あれでも猫影は帰って来ると信じる人が居た。


篠原だ。


二人の言葉を、鶴賀はただ聞いていることしかできなかった。

そして誰も、それを否定することはなかった。

そんな空気が漂っていると――


「はぁ……やっと帰れたよ」


「! 真鱈殿、無事でしたか」


「なんとか」


真鱈が、一足遅く帰って来た。


「猫影さんは」


そんな真鱈の問いに、誰もが顔を俯かせた。

だが、そうしなかった人も居た。


愛菜と篠原だ。


二人だけは、廊下の先を見続けた。

あの二人が帰って来ると信じて。


天宮が解決してくれると。

猫影が元の猫影に戻ると。


そう信じて。


「まぁ、聞かないようにしとくわ」


そう言い、真鱈は自室へ戻るため、二人が見つめる先を歩いていく。


そして、曲がり角を曲がろうとした時だった。


「おぉ……猫影さん。大丈夫か」


その真鱈の声に、全員が驚いた。


そう。


猫影は帰って来たのだ。


「あぁ。まぁな……」


そう言って、猫影は頭を掻きながら皆の前に姿を現した。


「猫影殿……」


「春くん」


「猫さん」


「猫影」


各々が猫影を呼ぶ。

そして、皆が思った。


よく帰って来た。

よく戻って来てくれた。


「ごめん、みんな。迷惑かけたな。ただいま」


「よくぞ帰って来られました……猫影殿……」


「なぁに泣いてんだよ。大げさな」


涙が止まらない。

止めることが出来ない。


もう会えないと。

もう、自分を信じてくれないと思っていたから。


だから、この涙を止めることはできない。


「春くん……」


「虎子、ごめんよ。さっきは、久しぶりだな」


「春くん!」


そう言い、篠原は猫影に抱きついた。

そして――


「おかえり! 春くん!」


「ただいま。あぁと、さっきの返事なんだが」


「いいの。答えなくて。春くんには他に好きな人がいるんでしょ?」


「ごめん……」


「だから謝らないでよ。別の意味で泣いちゃうから」


「そうだな……」


彼が帰って来られて、本当に良かった。

鶴賀は、心の底からそう思った。


―――――――――――――


その光景を少し離れたところから、天宮は眺めていた。


猫影が帰って来た。


それだけで、胸の奥に張りつめていたものが、ゆっくりと解けていく。


「たまにはやるじゃない」


そんな天宮に、愛菜が声を掛けた。


「はぁ……」


「何ため息してるのよ」


「いやぁ、安心したら。ね」


「そうね。あなたのおかげよ」


「いや、それはどうかな」


「何言ってるのよ。あなたがあそこで飛び出して行かなかったら、彼は帰って来れなかった。

やるじゃない。あっ君」


「……それもそうかも知れないな」


そう言われて、天宮はようやく、自分の行動は間違っていなかったのだと実感した。


本当に良かった。


そう思った。

そして、愛菜のほうを見る。


「まだ、言えてなかったわね」


「ん?」


疑問を浮かべ、彼女の顔を眺める。

すると愛菜は笑って、


「おかえりなさい。あっ君」


「……ただいま」


その言葉を聞いて、ようやく実感できた。


ひとまず、一件落着したのだと。


猫影が帰って来れてよかった。

猫影を説得出来てよかった。

そして――


愛菜が彼女で良かった、と。

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