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戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
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第十五話 スベテハオマエノセイ

「真鱈殿、ちょっとこっちへ」


「ん?」


鶴賀はハッキリとその両目で確認した。

原口王魔の姿を。

なぜここに奴がいるのかはわからない。

ただ確かなのは、


「今すぐ、猫影殿の元へ行かねば……」


「鶴賀さん!」


「む?」


餅蔵の声がした方向へ向く。

すると、付近の武田兵に囲まれた彼の姿があった。


いつ、どこで、なぜこのことがバレたのだろうか。


やはり、これも。


「あぁ……そこでしたか」


「原口……」


「いやですねぇ。そんな目で見ないでもらいたい」


「貴様、一体どこから」


「さぁ。どこからでしょうか」


あぁ、なんて腹立たしい奴だ。

あぁ、なんて優秀な奴なのだ。

これは全て、手の内だったというのか?


「チッ! ヒューーーー!」


鶴賀と原口が睨み合っていると、隣で真鱈が舌打ちをしながら指笛を鳴らした。

すると、


「なんだ! おい! そこの馬を止めろぉ!」


猛スピードで3匹の馬が駆けてくる。


「捕まれぇ!!」


「ぬぉ!」


「あら」


餅蔵、真鱈、鶴賀の3人は全力で駆けてくる馬の手綱を掴み、減速することなく騎乗に成功した。


あとは、


「猫影殿……!」


――――――――――――――


一方、猫影視点。


「チッ」


「ネコちゃん。これって……」


「誰だよ。ヘマしでかしたのは」


すでに兵に追い詰められていた。


周囲を見渡しても、敵、敵、敵。

逃げ道らしい逃げ道も見当たらない。


「いいか。絶対に前に出てくるなよ」


そう言い、璃奈に忠告する。

そして、


「かかってこいヤァ!!」


5対1の殺し合いが幕を開けた。


ハッキリ言おう。

猫影は人並み以上には強い。


それは餅蔵や森田などには劣るが、並の兵士数人に負けるほどではない。


「日々の特訓(もうそう)がここで役立って来やがらぁ!」


ハッキリ言おう。

猫影は未だに厨二病を捨てきれていない。


なので、バトル漫画やアニメには憧れるし、勝手に脳内で自分を登場させて戦わせることだってある。

その妄想が、まさか本当に役立つ日が来るとは。


「ぬぉらぁ!」


気合いの声とともに、猫影は敵へと踏み込んだ。


――


「はぁ……はぁ……」


疲れた。


殺しはしたくないので、全員峰打ちで眠らせているが、かなりギリギリだった。


腕も息も限界に近い。

だが、ここで立ち止まっているわけにはいかない。


「行くぞ! 璃奈!」


「うん!」


彼女の手を引き、この場を後にする。


なんて兵の数なのだ。

あまりに多すぎる。

偵察をしている合間にも思ったことだが、ここまでとは。


「チッ、見越されてたかよ」


それしか可能性はなかった。


今のところ、武田が動くという情報は聞き出せていない。だとすると、この守備隊の数には裏があってもおかしくない。


一番考えられるのは、


「身内の裏切り……」


走り、璃奈を守りながら思考を巡らせる。

懐かしい感覚だ。

そして、もう二度と味わいたくない感覚でもあった。


仲間を疑わなければならない。

誰を信じていいのか、わからなくなる。

そんなことを考えていると、


「猫影殿!」


「鶴賀か!」


鶴賀が馬に乗り、猛スピードでこちらに駆け寄ってくる。


「無事で何よりでする」


「オメェらも?」


「ええ。走りながら話す故、これを」


「これは……」


そこにいたのは、明らかに持って来た馬とは違う4匹目の馬だった。


「奪い取って来ました。他の者はすでに山の方へ逃げております。さ、我々も」


「……わかった」


少し躊躇ってしまった。

考えてしまったのだ。


ここで鶴賀が裏切っている。

その可能性を。


「いや、やめよう……そんなわけねぇ……」


「ネコちゃん」


「わかってる。捕まってろよ!」


そう言い、猫影は慣れない馬を走らせる。


「そんで、何があった?」


「原口です。奴がここに」


「なるほどな。逆に安心だ」


「はい?」


「もしかするとの可能性だよ。ここの誰かが……な?」


「なるほど……」


そう言い、顔を暗くする鶴賀。


だが、


「それで、どういうこと? その原口さんが悪い人なの?」


「うーん。間違ってないかな。とりあえず、そいつに追われてるから、今は逃げよう」


「先に、逃げた者たちとも合流せねばですぞ」


「集合場所は伝えたのか?」


「えぇ。駿府は無理でしょうし、八王子集合と」


「流石は鶴賀、わかってるじゃねぇか」


八王子を集合場所にした理由は大きく2つある。


1つは北条領であることだ。

織田の指名手配に次いで、武田と北条は不可侵を結んでいる。故に北条領へ逃げ込めば、生存率は格段に上がる。


もう1つは、駿府が検問の対象になっていることだ。


最も商人の交通量が多い駿府。

あそこで紛れ込んでも、バレるのは目に見えている。人混みで足止めを食らうのも避けたかった。


「それでも、やっぱあいつらと……」


「鶴賀かぁ!?」


「ん! 真鱈殿!」


「良かった。向こうはダメだ。もう兵士だらけで通れたもんじゃねぇ」


「チッ、ならば……」


「一旦、隠れられるところを探せ。動き回っても体力を使うだけだ」


「ですな」


なんとしてでも、彼女を生きて帰らせるために。

作戦を練り直さなければ。


一行は隠れれる場所を探し回ること10分。ようやく、それなりに大きい空洞を見つけた。


「……んで、どーするんよ」


時間はない。

せめて今日中には北条領に出ておきたい。


「出るなら夜ですな」


「だとすると、結構時間あるな。ゆっくり考えるぞ」


「ですな」


「………」


「ネコちゃん」


「心配するな。約束したろ? 守るって」


「……うん!」


彼女の目が、その約束が重たい。

つくづく運がないものだ。


「私に案が」


「なんだ」


「私単体で敵に……」


「却下。死なれてたまるか」


鶴賀にはまだ死んでもらっては困る。

彼がいなくなれば、猫影のメンタルがどうなるかわかったものじゃない。


「なぁ……なら鶴賀、真鱈。危険な頼みできるか」


「なんだ?」


「夜……光って目立つよな」


「まさか囮になれって?」


「違う。山火事を起こしてもらいたい」


「は?」


「躑躅ヶ崎は、ほぼ円状に山が形成されている。そして今は、この辺」


そう言い、猫影は簡易的な躑躅ヶ崎の山の地図の南西あたりに指を置く。


「んで、ここ。この北らへんを燃やしてほしい」


「それを俺が?」


「頼めないか」


「そのあとはどーすんだ。消火しに来たやつに挟み撃ちでオジャンじゃねぇか?」


「……上に逃げろ」


「んぁ? 上って上杉か朝倉じゃねぇか?」


「多分……だが織田領とも近い……はずだ」


「……わかった。死んだら責任は取れよ」


「わかってる」


そのつもりだ。

こんな仕事、本当は頼みたくもない。


「鶴賀、お前には南の、駿府周辺でやってるであろう検問付近で発砲しろ」


「発砲とは?」


「とりあえずパニックを起こしたらそれでいい」


「御意に」


「餅蔵」


「はい!」


「俺らで璃奈を守りきる。いいな」


「おっす!」


策は決まった。

あとは成功させるだけだ。


「頼むぞ。運命」


その日の、日が落ちてきた頃。

各々、馬に乗り、それぞれの目的地へ向けて走り出した。


兵を揺動せねばならないので、猫影たちは30分ほど間を空けて動くことにした。


すると、


「山火事が起きてるらしい! 応援を呼べぇ!」


「騒々しくなってきた」


兵たちの焦る声が聞こえた。

よく見ると、反対側が光っているのが見える。


「ナイス真鱈さん! よし、行くぞ!」


「はい!」


なんとタイミングが良いことか。その声に合わせるように、小さく、


「「パン!!」」


と、鶴賀の放った銃声が鳴り響いた。

まるで、リレーが始まる時の空砲のように。


そして、猫影たちは走り出した。

北条領、八王子を目指して。


道は暗い。

暗いというより、ほぼ道がない。


山麓を無理矢理走っているので仕方のないことだが、足元も見えづらく、少しでも気を抜けば馬ごと転びそうだった。


このペースなら、すぐに着きそうだ。

何事もなく。

そう思った瞬間だった。


「おーほっほっほっほ」


その声に鳥肌が立つ。

もう聞きたくない声。


その笑い方に殺意が湧く。

もう聞きたくない笑い方。


「いやぁ。またお会いできるとは」


「はらぁぐちぃ!」


「おぉ怖い怖い。いやぁ、にしても流石は猫影さんだ。まさか北と南で騒動を起こして、その隙に……」


「何が悪りぃんだよ」


「猫影さんらしすぎましてなぁ。私には読めてしまいました」


「チッ、死ね」


「怖いですなぁ」


「んなことより、その木から降りてこいよ。高所恐怖症なんだろ?」


「はて、なんのことか」


「とぼけ……」


「やかましいですねぇ。まぁいいです。あなたにはここで死んでもらうので」


「あ?」


疑問を浮かべたところだった。

そう、浮かべた途端だった。


「まずっ、逃げろぉ! 猫影さん!」


その声で、ようやく危険に気づいた。

自分の命に迫る危険に。


だが、それも、


「遅いです」


「ネコちゃん!!」


「「パァン!」」


璃奈に馬から突き落とされた途端、近くの茂みから銃声が鳴り響いた。


「ぁ……あ?」


「ネコ、ちゃん。良かった……」


「あ?」


理解ができない。

理解が追いつかない。


ただ、ハッキリとわかる。


璃奈が馬から崩れ落ちかけている。


「璃奈!」


頭を打たないように、猫影は彼女を抱きとめた。

だが、それも遅かった。


彼女の胸から血が流れ出していた。

心臓のあるであろう場所から。


「あ、ぁ。おい……」


「ネコちゃ……ん」


「喋るな! 待て、待ってろ!」


猫影は自身の着ている衣服を破き、傷口に当てて処置をする。

それでも血は止まらない。

当たりどころが悪すぎる。このままでは、


「では私はここら辺で……」


「貴様ぁ!!」


「おーほっほっほっほ」


高笑いをしながら、原口は闇へ消えていってしまう。


「クソが! 璃奈さん!」


餅蔵が駆けつけてくる。


「璃奈さん! しっかり!」


だが、


「逃すなぁ!」


「あぁ! クソ! 僕はあいつらを!」


「いや、いい。お前は逃げろ」


「え?」


「いいから!」


諦めたわけじゃない。

ただ、餅蔵までも失うわけにはいかなかった。


「いいえ。争います。僕の気が済むまで」


「はぁ……わかった。死ぬなよ」


「はい!」


そう返事をして、餅蔵は馬を駆け出す。

しかし、


「ネコちゃん……」


「璃奈、大丈夫だ。俺が……」


「ううん。もういい。いいよ。置いてって」


「は? できるかよ。んなの。そもそも、俺が守るって言っておいてこんな……」


「でも、警告したのはネコちゃん……でしょ?」


「いいから喋るな。傷が……」


止まらない。

どれだけ服を破き、傷を塞いでも、血は止まらなかった。


嘘だと言ってほしい。

嘘だと。


涙が止まらない。


「ネコちゃんが、警告してくれた……それだけで私は守られたの」


「違う。違う!!」


「それを破ったのも私だよ」


「んな、言いがかりはやめろ!」


「ううん。言いがかりじゃないよ。ありがとうね……ネコちゃん」


「やめろ。そんなこと今言うな! 帰ってからにしろ!」


「私ね……ネコちゃんと色々できた日々が、とっても楽しかったよ」


「よせ、だから何も喋るなって!」


彼女との思い出が蘇る。


それは痛いほどに。

心が傷つくほどに。


「はじめてこの世界に来た時。とても不安だった。でもね、そんな時にネコちゃんが明るく声をかけてくれた。私ね、それだけで救われたの」


「だから! 思い出話は、俺らがジジババになった時にでもしろよ!」


「残念……だなぁ……叶いそうに、ないよ」


諦めんなよ。

何勝手に諦めて、何勝手にペラペラ喋ったんだ。


「ありがとう、私なんかと話してくれて。

ありがとう、私なんかの相談聞いてくれて。

ありがとう、私なんかと付き合ってくれて。

あぁ……こんなに短い間だったのに、ありがとうが止まらないよ」


「ふざけるな……ふざけるなぁ!」


なぜ、彼女の血は止まらない。

なぜ、自分の涙は止まらない。

なぜ、彼女の言葉は止まらない。


なぜ止まらない。

なぜ止められない。


「いやだよ……りな……嫌だ。死なないでくれ……また俺を1人に……」


「ネコ、ちゃんは1人じゃない……みんながいるじゃん……」


そう言い、微笑む彼女。


そして、


「これ」


「躑躅ヶ崎で買ったお守り……プレゼント……こんな事になって……ごめんね」


「ぅ、うぅ……いやだ。死ぬなよ。置いていくんじゃねぇよ……言ったじゃねぇかよ。絶対死なないって。絶対隣にいるって。あれはなんだったんだよ!」


「ごめんね。約束守れそうになくて……でも、守れた約束もあるよ」


「ぁ?……ん」


理解が追いつかない猫影の唇に、3度目の口付けが行われる。


1度目や2度目とは違う。


血の味が、

涙の味が、

鼻水の味もする。


そんな残酷な味がした。


「ちゅ……君を……守るって約束」


そう言い、微笑む彼女は皮肉にも可憐だった。


そして、そのまま彼女の腕の力が消えた。

首の力も、足の力も。

呼吸さえも。

消えた。


「りな……? りな……」


「おい! りな!」


何度呼んでも返事は来ない。

なら、何度呼べばいいのか。


答えはない。

なぜなら彼女は死んだからだ。

目の前で。

腕の中で。


愛しくて、騒がしくて、いつしか猫影の心の拠り所になっていた。


そんな彼女は死んだ。


「……ぅ。うぅ……」


受け止められない。

受け止めていられない。


また。

まただ。


また失った。

また誤った。

また救えなかった。


「猫影さん!!」


まだ、いる。

まだ救うべき対象はいる。


餅蔵だ。

彼だけは逃さなければ。

だが、力が入らない。


なぜだ。

なぜだ。まだ、救うべき対象がいるのに。


「あぁ。そうか……俺はもう、生きる気力なんてないのか」


「猫影さん?」


気づいた。

気づいてしまった。


そして、わかった気がした。

この世界に来た理由が。


きっとこの世界は、猫影に罰を与えるためにあったのだ。

きっとこの世界は、猫影に絶望を与えるためにあったのだ。

きっとこの世界は、猫影照春に死んでほしかったのだ。


「餅蔵……もういい。逃げろ」


全ての気力をなくした。

脱力し、絶望した声を放つ。


「でも!」


「うっせぇ!! 逃げろって言ってんだろが!」


なぜ誰も俺の言うことを聞かないのだ。

黙って聞いていればいいのだ。

黙って従っていれば、こんなことにもならなかったんだ。


「……わかりました……どうか、達者で」


あぁ、やっとか。

やっと2人になれるのか。


最後の彼の言葉を聞いたか。

達者で、だとさ。


笑える。


あの言葉に、あの声。

きっと彼も猫影に落胆し、そして信用をなくした1人なのだ。


「なぁ……璃奈……」


呟き、嘆き、絶望を抱えながら、猫影は璃奈の長い黒髪を一部切り落とし、束ねて懐にしまった。


何をやっているのか、自分でも理解できていない。

なぜなら、考える隙間なんてないからだ。


束ねた髪から聞こえる。

髪をしまったところから聞こえてくる。


彼女の声。


それはどれも、自分を呪い、軽視し、嘲笑う。

そんな残酷な言葉だった。


なぜ私が死ななければならなかったの?


答えは猫影のせいだ。


なぜ約束の1つも守れないの?


答えは猫影だからだ。


なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜ?


なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ、なぜ。


          なぜ?


それもこれも、全て答えは猫影照春だからだ。


「おい、そこのお前」


「ぁ?」


声がした。

なので声がした方向を振り向く。

するとわかることがある。


あぁ。なんだ。敵か。

あぁ。なんだ。救済か。


いつの間にか、こんな醜く、最低な猫影を救済してくれる者ども百人ほどに囲まれていた。


そして、救済者の1人が放った。


「ご同行願えるか?」


困惑した。

当たり前だ。

なぜなら、その言葉は、


「おまえ……現代人なのか?」


現代人でなければ、知らない言葉だったからだ。

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