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戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
15/25

第十四話 護るべき者

「……」


あれから1日経った。

が、猫影はあまり納得していない。


「ネーコちゃん。みんなに言わないでいいの?」


「………」


「まだ昨日のことで悩んでる?」


「……だとしたら?」


「悩んだってしょうがないと思うんだけどなぁ」


「なんでだ」


「だって、何言われても私は行くもん」


「はぁ……はいはいわかった。やめるよ。このこと考えるの」


そう言い、猫影は立ち上がった。


呆れた。

彼女がここまでバカだとは思わなかった。


危険を顧みないのは良い。

そんなの猫影だってやっている。

守りたい者のために命をかけるのも良い。

そんなの猫影だってやっている。


だが、彼女が命をかける相手も、信用する相手も、どれもこれも猫影なのは不服でしかない。

なぜなら


「一つ言っとくが、俺はアンタが思うほどできた人間じゃないからな」


その言葉に、彼女は何も答えなかった。


それで良い。

答えなんて聞きたくない。

また厄介ごとが増えるだけだ。

これぐらい突き飛ばしておくことで、考えの一つや二つ変わるだろう。


そう思った。

そのまま猫影は部屋に彼女を残して、ゆっくりと扉を閉め、招集しておいた3名の所へ向かった。


――――――――――――――


「猫影殿……彼女は説得できたので?」


猫影が部屋に入り、ため息をつきながら床に座ると、開口一番、鶴賀がそんなことを聞いてきた。


もちろん、回答は否である。

猫影は首を横に振り、話の本題に入る。


「なんで呼ばれたかは知ってるのか」


「えぇ。伝えました故」


「そうか」


今回この部屋に呼んだのは、鶴賀、真鱈、餅蔵の3人だ。

ちなみに、すでに鶴賀には事情を伝えている。


「まぁ、偵察するってこと以外知らんけどな?」


少し不服そうに真鱈が口を開いた。


申し訳なさもあるが、一度偵察に出向いている彼らが適任と思ってのことだ。

本当は1人で行きたかったが、誰かさんのせいでオジャンである。


「呼ばれた理由は、偵察任務に君らが適任と思ったからだ。前回での功績もあるしな」


「なるほど……それでどこへ?」


「武田領、躑躅ヶ崎へ観光だ」


「おいおい、ずいぶんとまた、えらいとこに喧嘩売るじゃねぇか」


「すでに、織田は全国指名手配されているんすよ。だから他への戒めに武田と戦うそうっす。そのための偵察だとさ」


「でも、武田は病死するぜ? あそこ、強いの信玄だけだろ。まだ良いんじゃねぇか?」


「もし、信玄が死ぬ前に動いた時に備えてなんじゃないすか? 敵の兵力も知りたいだろうし」


「だが――」


「それは一理ありますな。だとせんと、今回の偵察の意味がない故」


「……」


真鱈は歴史に詳しい部類の人だ。

今回の意味の有無は、それなりにわかっているのだろう。


「申し訳ないが、付き合ってくれ」


「まぁ、良いがよ。何すんだ?」


「真鱈さんは騎兵を主に使ってるんで、その馬を借りたく」


「んぁ? 要は俺に用があるんじゃなく、馬に用が?」


「単刀直入に言うと、まぁ……ですが、真鱈さんの部隊の馬なので。ついて来てはもらいたいのですが……僕の馬の指導も兼ねて……」


「わーったよ」


よかった。


猫影はここへ来て長いが、馬に乗るのは得意な方じゃない。

いざって時にやらかしてしまうのも目に見えていた。


「そ、それで僕は……」


「餅蔵さんと鶴賀には、璃奈を守ってほしい。俺なんかよりも」


「ですが」


「命令だ」


「……わかりました」


「明後日にここを出発する。くれぐれも道中で正体がバレないように。頼んだ」


「おい」


そのままこの会議を終わらせようとすると、真鱈が声をかけてきた。


「本当にやるんだな? 言っとくが、武田も馬で有名だ。バレたら俺含め全員、命の保障はできんぜ?」


「……わかってる」


「鶴賀、オメーは?」


「私は恩があります故。彼に従うまででする」


「ぼ、僕も! 恩はないけど、役に立ちたいので!」


「はぁ……そうかよ。なら行くよ」


「ありがとう。本当に」


深々と礼をして、感謝を述べる。

そして、この会議は終わりを告げた。


明後日が出発の日だ。

それまでに色々しておかないとである。


まずはメンバーへ、数日の出張だと告げることにした。

その間は、森田さんの言うことに忠実に従うようにしてもらいたいとも伝えておいた。


彼とは、まだ出会って日が浅いが、少なくとも気が合うことはわかったし、前の天宮さんの件でも仲良くなれたので、多少の信用を置いている。


次に、騎乗の特訓だ。

いざって時は、数秒の時間も惜しくなる。

故に、どれだけ素早く馬に乗り、走り出すことができるかを鍛えておかなくては。


次は、馬の速度の測定だ。

武田は騎馬兵で有名。

うちのそこそこ速い馬では追いつかれてしまうだろう。

山の中を駆けることになるかもしれないので、そこら辺も考慮していきたいところだ。


――――――――――――


そうして時間は流れ、早くも出発前日の夕方へと差し掛かっていた。

腕利きの馬も見つかり、まだ不十分ではあるが、それなりの騎乗技術を身につけることはできた。


万全ではないが、無策でもない。

行けてくれと願うばかりである。


いつものところへ向かうと、璃奈がいた。

ここで黄昏ている時は、大抵悩み事を抱えている時だ。

頼むから、その悩みが明日のことであってほしい。

そして、この作戦から降りてほしいところである。


「ネコちゃんもよくここに来るよね」


彼女の隣に行くと、声をかけられた。

ちょっと意外だった。


「てことは、今日俺がここに来るのも知ってたのかい?」


「ううん。たまたまだよ」


「んで、今日はどうしたんだ。明日のことか?」


「そうかもしれない」


「俺は不安になってもらえて安心だよ。俺なんか」


「もう!その俺なんかみたいなの言うのやめてよ!」


急に怒鳴られてしまった。


ただでさえ前回の事件のこともあり、自己肯定感はマイナスまで振り切っている猫影だ。

それは無理に等しいだろう。


「ごめん。急に」


「……俺は頼られたくないんだ」


「じゃあ、なんで当主になったの?」


「……なんでだろうな」


もう、わからない。

自分という存在が。

どうしてあの過ちを犯してまで、またこんな重荷を背負っているのか。


わからない。


「じゃあ私が教えてあげる。それは君がとっても優しいからだよ」


「案外ありきたりな回答で安心だよ」


「そう? でも、とても大切なことだと思う。君の本心は頼られたくないかもしれない。でもね、ネコちゃんはとても頼りたくなる存在なんだ」


「……どこがだよ」


きっと森田の方が頼りになる。

猫影自身が頼りたい存在だからだ。


「私、見てたんだ。京都に行ってる時、愛菜さんがネコちゃんに相談してるの」


「それは……」


「相談の内容はなんだって良いの。大事なのは、相談されて、それにちゃんと向き合って答えてくれるか。そうじゃない?」


「まぁ……な」


「それでね。帰る時、愛菜さん、とっても楽しそうだった。だから、あの相談はちゃんと向き合って答えたんだなって。……伝えるの難しいな」


彼女は頭を掻きながらそう言う。

なんとなくわからなくもない。

きっと彼女は、自信を持てと言っているのだろう。


「要するに、君はとても頼れる存在なの! だって君は優しいから。どんな悩みとか、不安ごとも無理に胸を張って解決しようとするから」


「もっと要するに、自信を持てって?」


「まぁ、本当のことを言うとね。でも、どうせ君、嫌だって言うでしょ?」


「言うね。絶対」


それだけは謎の確信を持てている。


「だと思った。だから、君が自信のつくように私がしてあげる」


「遠慮しちゃダメ?」


「ダメ!」


彼女は笑いながら言った。


「じゃ、手始めに何をしてくれるんですか? 璃奈せんせ」


「そうだなぁ。目をつぶって?」


「えぇ……」


「先生の言うことは絶対! はい、目をつぶって」


「はいはい」


そうして猫影は、ゆっくりと瞼を下ろした。

すると――


「んむっ!」


唇に何か柔らかい感触が走った。

思わず目を開けてしまった。


すると目の前には、猫影の唇に自分の唇を重ねた璃奈の姿があった。


「バッ! 何やって――」


「……ふふっ」


「むぐっ!」


驚いて言葉が詰まる。

猫影は慌てて後ろにのけぞって顔を離した。


突然の出来事に、思考が追いつかない。


「これで、私の気持ち伝わったかな」


「と、とりあえず友達とか弟とかの関係じゃないよね?」


思いもかけない彼女の行動に動揺してしまい、つい声が裏返ってしまった。


「こんな時にからかわないでよ」


そう言って頬を赤め、彼女は告げた。


「私、ネコちゃんのこと好きだよ」


「あ、え、あぁ……と」


「もう。いくじなし」


「えぇ……いや、だって」


「いいよ。そっちの方が鍛えようがあるもん」


「ぁ…?…」


理性が追いつかない。

思考が回らない。


ダメだ。これはもう。


「ご、ごめ。返事とか、その。明日で」


「いいよ! おやすみ」


そう言い、彼女は満面の笑みで部屋を出て行った。


あぁ、情けないな。


自分の頼りなさと情けなさを噛み締めながら

猫影は自室に戻り、深い眠りについたのだった。


―――――――――――――

次の日。


「さぁ! しゅっぱあーつ!」


いつものように彼女のテンションはマックスである。

一方で猫影は――


「猫影殿?」


「え? うん。あ、あぁ行こうか」


「ボーっとしとるようですが、大丈夫です?」


「なんてことないよ。うん」


めちゃくちゃ引きずっていた。


それもそのはず。

何より、昨日の出来事が突然すぎた。

初めての経験だったこともあり、猫影の思考回路は今回の作戦どころではないのである。


「ねぇ! ネコちゃん」


「へぇ?……ぁ、すぅ」


彼女は笑いながら元気に話しかけてくるが、猫影はそれに答えられない。

それどころか、近寄られたら離れていってしまった。

いわゆる、好き避け的なものである。


「ちょぉっと。なんでどっか行っちゃうの? 鶴賀さん、チェンジチェンジ」


「うむ? まぁ良いが」


「いや、待て。鶴賀。お前ならわかってくれるよな。俺の気持ちが」


「いや、わかりませぬが。彼女と入れ替わっても?」


希望は絶たれた。

受け入れるしかないようだ。


「はひ…」


そして結局。

彼女は猫影の背中にピタッとくっついて


「やっとネコちゃんとくっつける」


「いやぁ。その、あんまりそう言うの……」


「なになに? 意識でもしちゃう?」


そうである。


それ以外に何があると言うのだろうか。

猫影はこういう展開に憧れはあった。

あったが、経験は皆無に等しい。


それなりにラブコメの漫画、小説は読んで来て、予習復習はできていると思っていた。


だが、結局はこの様である。


「そうかぁ。そうだよねぇ。ネコちゃんも男の子だもんねぇ」


「そ、そうっすよ?だからもう一回、鶴賀とチェンジ……」


「ヤダ! ネコちゃんとくっついてたい」


「あはは……やめテェ……」


か細く、弱々しくつぶやいた。


「それで、昨日の返事どうするの?」


「へ?」


「だから、付き合ってってこと。私だって、あれ恥ずかしかったんだよ?」


「え、ぁあ。まぁ……い、いいよ」


猫影は彼女の顔は見ずに、真っ直ぐ進行方向を見ながら答える。


「ほんと!?」


「まぁ……うん」


「ギュゥ!!」


「うぐぉ」


意外に力が強い。

耐えろ、俺の腹筋。


「でもよ。アンタ的にゃ俺には弟になって欲しいんじゃなかったのかよ」


「それも半分本心だよ。でも、もう半分はただの照れ隠し。実はね、初めて出会った時から一目惚れしたんだ。」


「…よく平気で言えるよ」


主観ではわからないが、きっと今、猫影の顔は気恥ずかしさで真っ赤なんだろう。


「それで、君の年齢を聞いて。私には気が重いって思ったの。だから弟って事にして諦めようとしてたの…でも君はそれを断ったでしょ?」


「そうねぇ」


「だから…君のせいなんだよ?」


「飛び火がえげつねぇ」


「えへへ。好きだよ!猫ちゃん」


頬を赤め。顔を猫影の背に埋めて彼女はそう答える。

一方で猫影はこれほどまでにないほど、理性に耐えて欲しいと思っていた。今日この頃である。

――――――――――――


出発してから三日目。


特に問題もなく、俺たちは武田領へ向かっていた。


とうに日は暮れ、野営の準備に差し掛かっているところだった。

猫影は簡易的なテントを建て終え、付近の丸太に腰を据えていると――


「ふぅ……」


璃奈が隣に座ってきた。


少し近い。

……いや、近いだけなら今までも何度もあった。


だが、今は付き合っている。

そう思うだけで、どうにも意識してしまう自分がいる。


「……」


「……」


何も喋らない時間が続く。


少し気まずい。

というより、何を話せばいいのかわからない。

昨日までなら普通に話せていたはずなのに。


「ネコちゃん」


「ん?」


「なんか距離遠くない?」


「そうか?」


「うん。昨日より遠い」


「気のせいだろ」


「じゃあ、こっち行くね」


そう言って璃奈が少し近づいてくる。


「……」


さらに近づいてくる。


「……おい」


「なに?」


「近い」


「恋人なんだからいいじゃん」


「それは……そうだけど」


「じゃあ問題なし!」


「いや、俺の心の準備が……」


「心の準備?」


璃奈が首を傾げる。


「……なんでもない」


「ふーん」


絶対わかっている。

猫影はそう思った。

すると璃奈が、猫影の肩へ頭を乗せてきた。


「……!」


「らく~」


「お前なぁ……」


「嫌?」


「……嫌じゃないけどよ」


「じゃあいいね」


「そういう問題か?」


「そういう問題だよ」


彼女は楽しそうに笑った。

猫影は何も言えなくなり、そのまま前を向いた。


……不思議だ。

昨日までは、こんな状況になったらすぐに離れていたと思う。

なのに今は。

少しだけ、この時間が悪くないと思っている。


「ネコちゃん」


「なんだ?」


「私ね。猫ちゃんと会ってから、こういうの結構憧れてたんだ」


「こういうの?」


「好きな人と一緒に旅したり、休憩したり。くだらないことで笑ったり」


「……」


「だから、今ちょっと嬉しい」


「……そうか」


「うん」


璃奈は目を細めて笑う。

猫影はそんな彼女を見て、少しだけ目を逸らした。


「……俺も」


「え?」


「……なんでもない」


「今、俺もって言った?」


「言ってない」


「言ったよね?」


「聞き間違いだよ」


「絶対言った!」


「……うるさい」


「ふふっ」


また笑われた。

……まぁ。悪くない。


そう思っていた、その時。


「おーい、お前らー!」


遠くから真鱈の声が聞こえてきた。


「そろそろ肉焼くぞー!」


「……あ」


璃奈が立ち上がる。


「行こっか、ネコちゃん」


「そうだな」


二人が立ち上がり、馬の方へ向かおうとする。


その途中。


璃奈が猫影の袖を掴んだ。


「ん?」


「……手」


「また?」


「また」


「……」


猫影は少しだけ悩んだ。


そして――


「……ほら」


手を差し出した。


すると璃奈が嬉しそうに握る。


「えへへ」


「……そんな嬉しいか?」


「嬉しいよ」


「そうか」


「ネコちゃんは?」


「……まぁ」


「まぁ?」


「……嬉しい」


「!」


璃奈が顔を輝かせる。


「もう一回言って!」


「嫌だ」


「なんで!?」


「恥ずかしいから」


「可愛い子だなぁ」


「お前なぁ……」


そのまま二人で歩いていく。


少し離れたところで、それを見ていた真鱈は、隣にいた餅蔵へ視線を向けて――


「なぁ、餅蔵」


「はい?」


「俺ら、何を見せられてんだよ」


「……いいですよねぇ。ああいうの」


「おいおい。揃って緊張感足りてないんじゃねぇのかぁ?」


「まぁまぁ。真鱈殿もきっといい人が見つかりますよ」


「うるせぇやい」


真鱈は深いため息をついた。


「なんで俺、こんなとこでこんな若い二人のイチャつきを見守ってんだ……」


その横で、鶴賀が淡々と口を開く。


「微笑ましいではありませんか」


「お前もかよ!」


「ははは」


「笑ってんじゃねぇ!」


そんなやり取りをしながら、戦国式BBQを始めた。

毎日が、こんなかけがえのない日々がいいなと、祈りながら。


――――――――――――――


それから移動には合計5日かかった。


それほど急ぎでもないので、ちょうどぐらいだろう。

なんなら少しでも今のうちに時間を稼いで、信玄の病死を待ちたいところだ。


「ついた! ここが躑躅ヶ崎!」


一行は躑躅ヶ崎に着く。

目当ては敵戦力の観測だが、気分では観光しに来た感じである。


「さて、自由行動開始だ。くれぐれも、バレないように。じゃ、また20時ごろにここへ」


「「「おぉー」」」


全員のその掛け声で、この場を離れることになった。


「さて、どこいく? ネコちゃん」


「躑躅ヶ崎は来たことないから、行き当たりばったりかな」


「へぇー。じゃ、さっそくあそこ見てみよ!」


「はいはい」


――――――――――――――


鶴賀視点


「真鱈殿、何かありましたかえ?」


「いやぁ。お前知ってるだろうけど、俺、武田好きだからよ。ちょっとテンション上がってんだよな」


「確かに、そうでしたなぁ」


「鶴賀どこだっけ?」


「む? 伊達ですが」


「そういやそうか」


鶴賀は真鱈と共に行動していた。


ちなみに、餅蔵も迷子にならない程度の距離にいる。


鶴賀も躑躅ヶ崎を観光するのは初めてのことなので、未だに街に慣れておらず、道もよくわかっていない。


正直、不安だ。


「ふむ、にしても警備が多めですなぁ……」


「なんかあったんかね」


「にしては……ぁ?」


「ん? どうした? 鶴賀」


そこで鶴賀は目にした。


憎き、あいつを。

岸和田で取り逃してしまった。あいつを。


原口王魔の姿を。

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