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戦国時代に冒険ギルド設立します  作者: 不思議な人
第一章 近畿中部 乱戦編
14/25

第十三話 信頼

天宮視点


これは、あれから一週間後のことだ。


「おぉ。ここが京!」


天宮達は、ついに京へと到着していた。


今回の参加メンバーは、僕や森田さん、愛菜を含めて十人程度。京の探索はある程度グループに分かれて行うらしく、僕は森田さんや愛菜と同じグループになっていた。


ちなみに、他のグループはというと――

猫影さん、鶴賀さん、璃奈さんの三人組。

そして、槍真倉さん、北崖さん、花皆さん、古見根さんの四人組だ。


「いやぁ、京なんていつぶりなんだか」


「森田さんは来たことあるんです?」


「まぁな。前の事件の時だがよ」


「はへぇ」


「……」


森田さんは、ふと愛菜の方へ視線を向けた。


そして、


「東京なんかと比べるとそりゃ不便だが、まぁいいところだぜ」


「ですねぇ」


「まぁ今回のオメェらのデートに、俺は邪魔だろう。道に迷わないぐらいのサポートだけにしとくよ」


「へ?」


突拍子もないことを言われ、思わず森田さんを見る。


「ほらよ。彼女さんが寂しそうだぜ?」


そう言って、森田さんは顔だけを愛菜の方へ向けた。


指差しているわけではない。

だが、どう考えても「あとは二人でどうぞ」という意味だ。


「あ、あ。はい! ありがとうございます!」


「いいってこったよ。楽しめよな」


「はい!」


森田さんはそう言って、僕たちから離れていった。


――本当に、こういうところだけ妙に気が利く人だ。


――――――――――


「……最低」


「えぇ……ごめんて……」


愛菜のところへ合流すると、開口一番そう言われた。


「まぁいいわ。代わりに私を満足させなさい?」


「お、おぉよ」


なんだ、この会話。

妙に緊張する。


愛菜とは会社の出張などで、今までにもあらゆる場所へ行ったことがある。

だが、それはあくまで仕事仲間としてだ。

恋人になってから、こうして二人で出かけるのは初めて。

どう振る舞えばいいのか、いまいちわからない。


「……何か言いなさいよ」


「へ?」


「はぁ……本当、疎いよねぇ……こういうの」


「す、すまん」


「はい、そうやってすぐ謝らない。いいわよ、元から知ってることだし。それくらいが可愛らしいとも思ってるから」


「ほんと?」


「彼女の言葉は素直に信じるものなのよ?」


「だ、だよねぇ……」


……初彼女が愛菜でよかった。

心の底からそう思う。


「こういう時はね。まず服とか……色々褒めるものなのよ」


頬を赤くしながら、愛菜がアドバイスをくれる。


なるほど。

つまり、ここで答えられなければ無作法ということか。


僕は愛菜の姿を改めて見る。


そして、


「着物姿“も”かわいいね」


「ん。許してあげる」


なぜか、そこから愛菜の機嫌が一気によくなった。


……女心は難しい。


自分がそういうことに疎いのは、俺自身も自覚している。


なら、こういうところも少しずつ愛菜に教えてもらいながら、克服していけばいい。


そんなことを思いながら、僕たちは京の町を歩いていった。


「見てよ! これ!」


「おぉ。この時代にもこんなもんが」


かわいい。


「んーー! 美味しいぃ! あっ君も、ほら!」


かわいい。


「お、おう」


「はい、あーん」


「あーん。もぐもぐ……」


うまい。

うまいけど――今はそれどころじゃない。


「かわいぃ……」


「ん? 何か言った?」


「え!? いや」


「そう? まぁいいわ。次、あそこ行きましょ!」


「お、おう!」


楽しい。

純粋に、楽しかった。


――――――――――


猫影視点


「あの人ら、うまくやってんのかなぁ」


「どーしたの?」


「いや、なんでも」


実はというと猫影は、昨日の野営中に愛菜から相談を受けていた。


――――――――――


「デートプランですか?」


「そう……どうせあの人、オドオドするだけだから。私がリードしてあげないと」


「なるほど」


なぜか、容易に想像できた。


「あれ? でも森田さんとかに聞かないんすか? 同じ班だし」


「聞いてみたんだけど、『そういうのは若い子の方がいい』って言われて」


「なるほどな」


完全に押し付けられた。

そう確信した。


「まぁ、そうだな。正直あまり覚えてないけど、おすすめの店なら何個かありますぜ?」


「ほんと!?」


「あまり過信しないようにね」


「わかってるわ!」


――――――――――


「あとは託しましたぜ。森田さんよ」


昨日のことを振り返りながら

猫影は小さく呟いた。


森田がどこまで計算していたのかは知らない。

だが、少なくとも自分たちが余計なことをせず、二人の時間を作るくらいはしてやろう。


そう思っていた。


「それで、私たちはどうするの?」


「そうだな。基本おでかけだけど……もっと大事なことあるだろ?」


「なになに?」


「君の一方的な兄弟喧嘩だよ」


「あ……」


璃奈の表情が少しだけ曇った。


あの件は、ここでケジメをつけておいた方がいい。

なにせ、この先またゆっくり話す機会があるかどうかもわからない。


「それに、悩みの解決はお早めに、だよ」


「そう、ね……」


「本当は心の準備を待つ方がいいのかもしれないけど、準備してるうちに『まだ心の準備が……』って言い訳して逃げる。なんてこともあり得るでしょ?」


「私は!」


「わかってる。逃げる人じゃないよ」


猫影は苦笑する。


「でも、ダラダラ準備してると……なんてことも、な」


「……」


「すまない。少し他責かもしれないが、頑張ってくれ。応援してる」


「ありがとうね、ネコちゃん。やっぱネコちゃんは頼りになる弟君だよ」


「あれ。前、兄貴としてサポートするって……」


「そーお? そんなこと覚えてなーい!」


「まぁいいよ。北崖さんは鶴賀が今呼び出して――」


「断られました」


「へ?」


「用があると断られました」


「えぇぇ?」


せっかく色々励ましたりしていたのが、全部パーである。


「おいおい。んじゃ、どーするんだよ」


「知りませぬ。どうにもできませんわ」


「いや! できる! できなくてもやるんだよぉ!」


「だから断られたんですって」


「でもよぉ……」


「ふふっ」


「?」


無理難題を言っているのは承知の上で鶴賀に頼み込んでいると、璃奈が笑った。


「もういいよ、ネコちゃん!」


「ん?」


「あとは私の問題。私がなんとかするわ!」


「……わかった」


「うん! じゃ、気持ちを改めて観光しましょ!」


「だな」


こうして一行は、京の観光を楽しむのであった。


――――――――――


北崖視点


昨日、鶴賀とかいうやつに呼び出された。

断った。

それどころじゃない。


「姉貴……」


見つからないでほしいと願いながらも、早く見つかってほしいと思う。


そんな矛盾した気持ちを抱えながら、北崖は京の町を歩いていた。


京は、この時代では最も人口が多い。

ここなら、もしかすると見つかるかもしれない。


そう思い、今も必死に探している。


「姉貴……」


「北崖。こい」


「あ?」


「そんな反抗的になるな。なに、お前のその姉貴とやらは後で探してやるさ」


「わぁったよ」


それから三十分ほど歩いた。

すると――


「ここって……」


「将軍家の義昭がいるところだ」


「なんで……」


「ふっ。面白くするんだよ」


そう言って、にやける槍真倉を見て、北崖は露骨に嫌そうな顔をした。


――やっぱり、こいつ気持ち悪い。


「ほぉ? 我と協力し、天下を?」


「えぇ。あなた様の思うがままの世をつくろうじゃないですか」


「ほぉ。面白い。気に入ったぞ! が、しかし主らは織田軍。信長はどうするのじゃ?」


「考えがあります」


こいつは、一体何を企んでいる。


北崖は、目の前で笑う槍真倉を見ながら、そんな疑問を抱いていた。


――――――――――

猫影視点


次の日のことだ。


「どうでした?」


義昭との謁見の結果を、森田さんに聞いた。


「意見が合わず、断られましたよ」


「そうですか」


やはりだ。

やはり、こうなった。


「まぁ、わかってたことなんですがね。とっとと、あの将軍倒して天下取りましょ」


「ですね」


この世界の将軍家は偉大だ。

義昭を倒せば、ほぼ天下を取ったも同然。


――少なくとも、俺たちはそう考えていた。


「これでいい……」


本当は、良くないと思っている。

それでも、次の戦を正当化する理由を探していた。


――――――――――


それから二週間が経った。


織田家は全国から指名手配。

浅井や松永との同盟も断ち切られ、孤立してしまう始末。


「まぁ、こっからどうにかするのが織田家なんだけども」


ハッキリ言おう。

こんな状況でも、織田家は強い。


現代人がいなくても、歴史の流れと運だけでなんとかしてしまうほどには。

別に、現代人が必要じゃないわけではない。


彼らがいれば、歴史は変えられる。

効率よく天下を取るために。

誰かを失わないために。

変え方はいくらでもある。


だが――


「まずは武田だ」


「あぁ?」


槍真倉の発言に、森田さんが不服そうな声を返す。


もちろん、俺も同じ意見だった。

なぜなら――


「その、信玄はそろそろ病死します。無視でも……」


「そうだ。総大将の義昭を――」


「今は全国が敵だ。義昭は狙えない」


「……」


「だが、武田を潰せば周りはひよる。その次に義昭だ」


「まぁ、ほぼ史実を辿るわけか」


「ですが、さっきも言った通り……」


「はぁ……物分かりが悪いやつだな」


効率的ではないと正そうとすると、槍真倉から睨まれてしまった。


「勝手に病死するかもしれないが、戦をして勝ったという実績がいるんだよ。どう勝ったかは別としてな」


「……なるほど」


確かにそうだ。


たとえ病死でも、武田に勝ったという実績があるだけで、周囲は警戒する。

武田は三好のいない今、天下に近い家の一つだ。

そこに勝ったとなれば、他家も簡単には手を出してこないだろう。


「やっと理解したか」


「すみません……」


「まぁいい。こっちは戦の準備をしとく。物分かりの悪いお前らは、躑躅ヶ崎へ行って敵戦力を偵察してこい」


「わかりました」


「おいおい、だがよ」


「いいえ。これぐらいしかできないので、大丈夫です」


「……そうか」


これがどれだけ危険かわかっている。

躑躅ヶ崎は山に囲まれた地形。

もし敵に見つかれば、無事に帰れる保証などない。


そんな偵察だ。


「決まったな。これで今日は終わる」


「はい」


「……おう」


そう言って、槍真倉はそそくさと部屋を出ていった。


「猫影、わかってんのか」


「ええ」


「……そうか。死ぬな。死なせるな。それと、連れていく人は選べ」


「そのつもりです」


当たり前だ。


この作戦は熟練者を選び、少数で行く。

それが条件だ。

あくまで偵察。

戦うわけじゃない。


「じゃ、俺からは以上だ。じゃあな」


「お疲れ様です」


そうして、今回の作戦会議は本当の終わりを告げた。


「はぁあ……このことは、明日にでも話すかなぁ」


そう呟きながら部屋を出る。

すると――


「ん? あ、璃奈」


「……場所、変えてお話ししたい」


「お、おう」


場所を変えたいと言われ、彼女についていく。


彼女はいつからいたのだろうか。


聞かれていたのだろうか。


まぁ、どうせ明日には話すことになる。


どちらでもいいことだ。


璃奈に連れられること二分。


いつもの場所へやってきた。


「……」


「んで、なに……か……?」


言葉が止まった。


彼女は、呆然としたような、どこか切なそうな顔で景色を眺めている。


何かあったのだろうか。


そういえば、北崖さんとはうまく話せたのだろうか。


もしかして――


「なぁ……北崖さんと、何かあったのか?」


「ううん。まだ話せてないんだ」


「そうなのか」


「でも、そんなことは今はいいの」


よくはないと思うが。


「ネコちゃん。私、聞いてたんだ。偵察のこと」


「まぁ、状況的にそうだろうとは思ったよね」


やはり聞かれていたらしい。

なら、話は早い。

いくら約束で毎度の作戦に出ると決めたとはいえ、今回は格が違う。


逃げ道があるならまだしも、山に囲まれた土地。

さらに言えば、街中で正体がバレれば、命がいくつあっても足りないだろう。


だから今回は――彼女の参加に反対させてもらう。


「まぁいいよ。どうせ明日には話すんだから。それでだな、璃奈には――」


「私も行くからね。ネコちゃんになんて言われても」


「……」


こういう時の彼女は、察しが良い。


「ダメって言われても、コッソリついて行く。それが、指切りの約束だから」


指切りの約束。

どうして、そんなものをしてしまったのだろうか。


「なんで……」


「ん?」


「なんで、約束に従ってまで危険な目に遭おうとするんだ」


「……それは」


「確かに俺らで決めた約束だよ。でも、命をかけるほどのものじゃない。あんな約束よりも大事なものなんて、いくらでもある」


「ネコちゃんにとって、それはなんなの?」


俺にとって、あの約束よりも大事なもの。

そんなもの、決まっている。


「仲間だよ。仲間の命だ。長く深く関わった人の命だ。それに――」


「それに?」


「あんたの命もだよ」


「……やっぱり、そうだったんだ」


「?」


何に気づいたというのだろうか。


「この偵察、ネコちゃん一人で行くつもりだったでしょ?」


「あ……」


正解だ。

六割方、その方針で進めていた。


あわよくば、そのまま一人で行ければとも思っていた。


一人なら動きやすい。


それに――

彼女を危険に晒さずに済む。


「いや、鶴賀とかもさ」


「ううん。ネコちゃんは連れていかない」


「ぁ……」


なぜ、こんな時に限って彼女はこうも察しがいいのだろうか。


「ネコちゃんは優しいから」


「……」


何を知っている。

彼女に何がわかる。

璃奈は、結局なんなんだ。


「まずは、自分の問題から解決しろよ」


「へっ?」


「だから! 勝手に始めた姉弟喧嘩から終わらせろって言ってんだよ!」


気づかないうちに、声を荒げていた。


「だってそうだろ! 他人を気遣うってことは、まずは自分の問題を解決して、その上で余裕があるならの話だろ!」


猫影の自制心ですら、もうこの勢いを止められない。


「今回は危険度の格が違うんだ。ついて行く、ついて行かないは、姉弟喧嘩のケリをつけてから相談しやがれ!」


「……そうだね」


多分、嫌われただろう。

そう確信した。


やはり所詮は嫌われ者だ。


これが正しいことだと思っている。

だが――これが正しい言い方ではないとも思っている。


「ネコちゃんが正しいよ。でもね」


「あ?」


「ネコちゃんだって、それをやってきたの?」


「ぁ……」


その瞬間、言葉が詰まった。


正しいことを言った。

だが、それをしていなかったのは――自分自身だ。


「私は、ネコちゃんはしてないと思う」


「なんでわかんだよ」


「だって私は、ネコちゃんのお姉ちゃんだから」


「……違う」


違う。


姉なんてものではない。

自分は弟でもない。

姉弟でもない。


「それに、友達……ううん。なんなら、私と一緒」


「……」


「だから私にはわかる。君は全部一人で背負ってしまう。そんな優しい人」


違う。


「自分のことも、人のことも全部背負ってしまう。人との関係も、約束も、何一つ破ることがない。そんな人」


違う。


「私はね。――」


「違う!!」


「……」


「そんな俺は居ない!」


声が響いた。


そうだ。

こんな世界に、こんな無情で、不条理で、残酷で、最悪で、命の保障も死に方も自由に選べないそんな腐った、クソッタレな世界に二回も来て、他人のことなど気にかけてられない。だから


「今の俺は!目的のためなら、なんだってやる!一々それに他人のことを背負ってられるかってんだ!」


「……それが、本当の君でも」


璃奈は、静かに言った。


「今、私が見てるのは、私が今言った君」


「……は?」


「だからね。私は君を一人にはさせない」


一歩、彼女が近づく。


「心も、体も、一人にはさせない。絶対に私が隣にいてあげる。二人にしてあげる」


「何言って――」


「Win-Winでしょ?」


「……」


「私も一人にならない」


「……でも」


「君がどれだけ否定しても、私はこの約束を守る。今回の偵察だって、足手まといでもついて行く」


璃奈は少しだけ笑った。


「無理言ってるのも、わかってる」


「ならよ――」


「じゃあ」


言葉を遮る。


「君は、私を一人にするの?」


「ぁ……」


理不尽だ。

なんて奴だ。


「ネコちゃん」


彼女は真っ直ぐに猫影を見た。


「信じて? 私は死なない」


「なんで、そう言い切れるんだよ」


「だって――」


璃奈は、少しだけ笑う。


だってなんだ。

彼女の答えようとする言葉がわからない。

何が言いたい。

だってなんだというのだ。

一体なんの確証を持ってそんなことを言えるのだ。

だってとは…


「私にはネコちゃんがいるから」


「ぁ……」


言葉が出てこない。


「だから私は死なないよ」


その声には、迷いがないのがハッキリとわかった


「……ずっと君のそばにいるから」


彼女は猫影の目を真っ直ぐ見つめた。

否、ずっと見つめていた。

猫影がそれを拒め、背けていただけだ。


「だから、信用してるよ。ネコちゃん」


その言葉だけが、妙に胸に残った。

まるで、自分のことを信じてくれる人なんて、最初から存在しなかったかのように。


猫影は、何も言い返せなかった。


ただ――

この人だけは、何があっても守らなければならない。


そんな思いだけが、胸の奥に残っていた。

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