第十一話 最悪な再会
出発の前日。
鶴賀と、青年と中年くらいの男が猫影の部屋にやって来た。もちろん、2人の名前は覚えていない。
「んで、要件は?」
「伊賀の偵察に向かおうかと」
「明日出発なのに間に合うのか?」
「間に合わせまする。集合は現地になりそうですがな」
「後ろの2人も?」
「いえす」
「えーと、その名前を聞かせてもらえたり……」
青年は少し緊張しながら答えた。
青年の名前は、餅蔵佐江丸。顔は猫影とそれなりに似ていて、好青年って感じだ。唯一の違いは、歳下なのと、目が死んでいないことぐらいである。
男はため息をつきながら答えた。
男の名前は、真鱈泰介。鶴賀の話を聞くに、鶴賀の知り合いでゲーム仲間だそうだ。
ちなみに2人とも、オフ会でたっぷり飲んで、気づいたらここに居たらしい。
「なるほど、真鱈さんの馬で先に行くと……」
「と言うことでござる」
「まぁいいんじゃない? 鶴賀いるならなんとかなるでしょ」
「なぜか、重みのある信頼が……」
「まぁ頑張りたまえ」
「……では、行ってまいりまする」
そう言い、3人は部屋から出て行った。
「フゥ……今回の作戦は何人来るだろうなぁ」
今回の作戦において、一番の懸念点である人数問題。
鶴賀の予測が当たっていれば、最悪、鶴賀と自分の2人でも攻略できるだろうが、外れていた時がとても怖い。
「まぁ偵察に行ってくれてるし、なんとかなるか」
そうやって思考に区切りをつけ、布団に潜ろうとした時、襖がまたノックされた。
「どうぞ」
ノックをした相手に入室の許可を出す。
すると――
「「バン!!」」
と音を立てて、思いっきり襖を開けられた。
「私が、キタァ!!」
そう叫びながら、目を輝かせる璃奈がズカズカと部屋に入ってくる。
「そのテンションで襖を開ける時って、基本ノックしないんじゃ?」
「そう? でもほら、年頃の男の子の部屋に入る時はノックしろってよく言うじゃない?」
「まぁ、よく聞きはしますけど…言いはしないんじゃ…?」
「ふーん」
あまり納得してなさそうな相槌をしながら、璃奈は猫影の隣に座った。
「で、なんでそんなにテンションが高いので?」
「なんか、こう……ワクワクしちゃって」
「出陣に?」
「そうよ! ほら、やっと弟の役に立てると思うと、心高まらない!?」
「いや、高まりませんけども」
「そう?」
一人っ子の自分には、やはりそんな気持ちはわからない。
多分、一人っ子じゃなくても、今の自分ではそんな気持ちにはなれないだろう。
「にしても、ほぼ毎日会ってるのによく話題が尽きないですねぇ」
「それ、よく言われる。友達からとか、アンタと居ると飽きないって」
「それ、悪い意味じゃなく?」
「知らない。考えないようにしてるから」
確かに、考えない方がよさそうである。
「ねぇ……ネコちゃんは向こうの世界に友達いるの?」
「友達……は、いますよ?」
「これ、いない奴だ」
別に、いないわけじゃない。
ただ、中学の時はかなり気まずかった覚えがある。
前回の事件から帰ってきた時、1週間も行方不明になり、不登校もしていた。当然、周囲からは何があったのか聞かれる。
それに対して、どれだけ真実を話しても信じてもらえず、クラスでは異端者扱いをされる日々だった。
「あれは、キツかったな……」
「ねぇ」
「なんです?」
「私たちって、友達なのかな」
「それ、璃奈さんが言います?」
「どうしてよ」
「いやほら、弟役をさせるんじゃないのかなと」
「うーん。だってさっき断らなかったじゃん」
「え? いつ?」
「ほら、役に立てるからって話の時」
『弟の役に』的な言葉を聞いたが、確かに否定した覚えがない。
「気づいてないってことは、薄々その役にハマりつつあるってこと」
なんだか、とても嫌である。
「だから、両方認めたって事にして、その話は終わり! 次のステージに入るの!」
「それで、友達?」
「そう!」
兄弟関係的なのになった後に友達になるのは、聞いててなんともはちゃめちゃな順番である。
「まぁ、どこで友達を定義するのかは知らないですけど、いいんじゃないですか? 友達で」
「ほんと!?」
「それ、驚くの?」
「いや、否定するのかなぁって……」
「僕は兄弟関係になろうとする事に否定してたんですよ」
「ふーん。認めたくせに」
「認めてないですよ?」
「いいもん! 勝手に私の中で認めた事にするから!」
「えぇ……」
「じゃ。今日から改めてよろしくね! 弟役であり友達のネコちゃん」
「はぁ……わかりましたよ。弟役はごめんですけど、こちらこそ改めてよろしくです」
「あと、今後からその敬語禁止ね!」
「えぇ……」
「じゃ! 私行くね!」
「あ、はい。ではまた」
「うん! また明日!」
そう言い、ドタバタと部屋を飛び出していった。
「まったく…飽きない人だこって……」
いい意味の方で、そう思った。
—―――――――――――
出陣当日の朝。伊賀国周辺にて。
「さぁ! 行くわよ!!」
「「おぉ!!」」
愉遊開会軍。
璃奈の掛け声に応える、現代人37名を含む総勢2000の兵が集合していた。
「この計画の懸念点って、人数不足だったような気がするんだけど。気のせい?」
「まぁ、なんだっていいじゃない!」
「いや、そうなんだけど。みんな、そんな気強い感じじゃなさそうだったし……」
「そう? みんな心強い人たちだけど」
すると、男が1人こちらに来て、意気揚々と言い放った。
「女性も行く戦に、男が行かなくてどうする!」
「そうだ! そうだ!」
その他34名の男たちも、それに同意する。
「あはは……なるほど」
今回の異様な参加率の謎が解けた気がした。
ちなみに璃奈は胸を張って、自慢げに「ふふーん」と鼻を鳴らしている。
多分、彼らの下心には気づいていないのだろう。
それはともかく、まだ鶴賀たちの報告が来ていないので、少し動きづらさがある。
「一旦、報告待ちかな」
そう思っていると、
「猫影殿ぉ!」
偵察隊が合流してきた。
「お、いいところに」
「どんな感じ?」
「予想通り、いえ、予想以上にガラガラですな」
「なるほど……」
「前のように……」
「考えないでおこう。まだここにスパイがいるとは思いたくない」
「ですな……」
何かと前回の状況と似ている今回。
前回のようなことにはなりたくはないが、スパイがいても気づかないだろう。
だから、いないと思いたいところである。
「よし、行こう」
こうして猫影らは、岸和田へ向かうのであった。
—―――――――――――――
あれから約5時間が経過した。
猫影らは、すでに岸和田領内に入り込んでいた。
「こんだけ順調なの、すごく怖い」
「右に同意ですな」
「左? に疑問!」
「その疑問に疑問。なんでそんなにずっとテンションが高いの?」
「うーん。私にもわからない」
「あんまりはしゃぎすぎないでよ? 手に負えなさそうだから」
「むぅ! お姉ちゃんに向かってなんて言い方!」
「いや、だから……」
「おぉい。そこの旅行気分のみなさん」
また兄弟関係を否定しようとすると、真鱈さんが城内偵察から帰ってきた。
「なぜワシまで旅行気分になってると……」
「いや、一緒にいたからよ」
「ごほん。で、どうでした?」
「んぁ? あぁ……うまくできたか知らねぇけど、見た感じ、中に人はあまりいなかったな」
「城内マップもわかったり……」
「おらぁ、そこまで器用じゃないし、プロでもないんだなぁ。これが」
「ですよねぇ」
「まぁ、中の状況はなんとなく理解できましたわい。2000も居ればいけるかと」
「だな。よし! 一気にいくか」
「おぉう!」
璃奈だけが相槌をし、その声だけが響き渡った。
—――――――――――――――
1時間後。
「「うおぉ!!」」
兵たちの雄叫びが岸和田城中に響き渡っていた。
「このペースなら、あと30分でいけるだろ」
「ですな」
猫影と鶴賀は戦場の様子を見ながら、勝ちを確信していた。
そして、
「よし、俺らは本丸向かうぞ」
「りょーかいでする」
2人で、さらに手薄であろう本丸へ向かうことにした。
「お、大将さんか?」
あっさり岸和田城の本丸に着いた猫影と鶴賀。
あまりの手薄さに違和感を感じてやまないが、とりあえず無視している。
本丸に着いて敵大将・三好長慶を探して、はや5分。
少し太った大将っぽい風格で、顔全体を隠した男を見つけた。
「今回の三好さんは、そういう感じなのね」
信長といい、長慶といい、どうやら大名の姿にはバリエーションがあるらしい。
そんなことはまだしも、まだ相手から返答が来ない。
さては――
「死んでるんすかぁ?」
そう確認しようとすると、
「まった」
鶴賀に止められた。
一体、なんだというのだろうか。
「ふ、ふふふふ……」
不意に、目の前の男が笑いだす。
「おーっほっほっほ!!」
どこかで聞き覚えのある、上品げな感じの高笑い。
「流石は、鶴賀さん。勘が衰えてないようで何より……」
「チッ」
猫影も聞き覚えのある声に、鶴賀は舌打ちをする。
「猫影さん。お久しぶりですなぁ……随分と大きくなられたようで……」
目の前の男の正体に気づいた瞬間、動揺が止まらない。
過去の自分を知っている相手。
聞き覚えのある声と、笑い方。
まさかと思った。
だが、次の瞬間――確信に変わった。
「覚えてますか? 私ですよ」
そう言いながら、男は顔に纏ったものを取り、素顔をあらわにした。
「原口さん……」
「正解です♪」
原口 王魔。
前回の事件において、猫影が最も頼りにしていた1人。
そして岸和田攻めの中で、突如として猫影を裏切った、その張本人。
前回度々起こった、猫影の思う最悪な出来事の数々。
その諸悪の根源とも言える、その人だ。
「なぜ、ここに……なんて思ってます?」
「……!」
図星だ。
まさか、また居るとは思わなかった。
「それは、私もですねぇ。何せ、死んだと聞いたものでね?」
声のトーンを変え、こちらを挑発してくる。
ただ、これには乗っては――
「原口! キサマァ!!」
次の瞬間、隣で火縄銃の発砲音が響いた。
怒りの形相の鶴賀が放った弾丸だった。
「ほっ!」
体型には見合わない素早い動きで、鶴賀の放った弾丸を避ける。
口惜しいかな。
彼は強い。
到底、この2人では勝てない。
「クソっ!」
「抑えろ鶴賀!!」
「くっ……」
「あれれ? やめてしまうのですかぁ?」
「場が悪いもんでね」
「おーっほっほっほ! 賢くなられたものですなぁ!」
「そうだよ。俺も成長――」
軽口を返そうとすると、遮られた。
「だが、残念」
その一言に、猫影は嫌な予感を覚えた。
「私は、心優しいので教えてあげましょう。ここに三好家はいません。すでに全兵を石山に向かわせているのです!」
「な、!?」
想定外の情報が出てきた。
石山となると、炎楽がいるところだ。
マズい。
マズいマズいマズい。
「汗が出てますが、冷や汗ですかねぇ?」
「チッ!」
「おーほっほっほ! うーん、あなたはやはりまだまだですねぇ……」
原口は笑いながら、猫影を見つめる。
「あなたは――『また何も守れない』」
その言葉が、猫影の逆鱗に触れた。
「死ねぇ!!!」
考えるより先に、刀を相手へ振り下ろす。
「おほほ! 当たらない、当たらない」
悔しい。
もっとちゃんと運動しておけばよかった。
「ではでは、私はこれにて。またお会いしましょう? 猫影殿。おーほっほっほっ!!」
そう言い、原口は近くの窓から笑いながら出ていった。
「っ! こんなことしてる場合じゃねぇ!! 真鱈を呼んでくれ!!」
「うむ!」
「今度は守ってみせるんだよ。何もかも! アイツとの約束も!」
そう心に誓い、決意を固めた。
その後、猫影は先ほど原口の言っていたことを炎楽にも伝えるよう、真鱈さんを伝言係に指名した。
「鶴賀と一緒に行ってくれ」
「わかったが、いいのか?」
「? ……なにがです?」
「そんな簡単に敵の言ったことを信じて」
確かにそうだ。
だが、これが本当なら犠牲者は後を絶たない。
たとえ嘘でも、このことを伝えるのが吉と見た。
「大丈夫、だと思いたい」
「ワシも同意見ですな」
「そうかい。まぁ俺はどっちでもいいんだがな。んじゃ、行ってくるわ」
「頼んだ。あ、それと鶴賀」
「む?」
「俺らも後でそっちに合流する。ちょいと遅れるだろうがな」
「御意」
伝言を任された2人は、早々に馬を走らせ、炎楽の元へ向かっていった。
「大丈夫かな」
すると、璃奈が近寄って心配の声をかけた。
「大丈夫だろ。鶴賀もいるし」
「頼りにしてるんだね」
「まぁな」
横を見ると、まっすぐ離れていく彼らを見る彼女がいた。
—―――――――――――
その数時間後。
岸和田城に槍真倉さんらがやって来て、自分らも炎楽の方へ向かうこと。
そして、そこで三門合同会議を行うことを伝えられた。
そして、その次の日。
猫影らは今回の戦闘で受けた傷の確認や、死者の数、死体の処理などを終わらせ、愉遊開会は炎楽の元へ向かうことにするのであった。
話の在庫にまだかなりの余裕がありそうですので、今週から投稿頻度を週二から週三へ変更します
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