第95話 コアちゃん?
マリアさんに連れられて、教授と一緒に施設内を案内される。
「こちらが礼拝堂になります」
「礼拝堂……」
そう案内された場所は、和室だった。
いや。宴会場?
そんな印象のほうが近い。
広さは、およそ二十畳。
元々はLDKだった場所を、ぶち抜いて改築したのだろうか?
もっとこう、宗教的な像とか祭壇とか、そういうものが置いてあるのかと思ったが、特に見当たらない。
あるのは、床の間らしき一角くらいだ。
位置的には、あそこが上座になるのだろう。
祈るときだけ、何か置いたりするのだろうか?
掃除は行き届いているようで、畳も柱も綺麗に磨き上げられていた。
そうなると、さっきの客間は、元々は洋室か何かだったのだろうか?
キッチンは取り払って、給湯室みたいな形で一部だけ残しているのかもしれない。
「…………」
というか——他に案内するところ、あるのか?
外から見た感じ、そこまで大きな建物じゃなかったよな。
マリアさんに案内され、そのまま二階へ上がる。
「こちらが会食室です」
「へぇ……そんなものがあるんですか」
てっきり、下の礼拝堂でそのまま飲み食いするものだと思っていた。
……いや。さすがに、それは駄目か。
見た目は完全に宴会場なんだけどな。
会食室は、外から見えた大きなガラス窓のある部屋だった。
窓の向こうを見る。
うん。
住宅街だ。
怪しいものなど、特にない。
……というか、ガラス張りなのすごいな。
夏、暑くないのか?
「そろそろ、よろしいでしょうか?」
マリアさんが、次へ案内したそうに声をかけてくる。
「あ、はい」
仕方がない。
窓際を離れる。
しかし——さっきから、他の人間の気配がまるでない。
それに、事前に頭へ叩き込んできた間取りを考えれば、もう案内できる部屋なんてほとんど残っていないはずだ。
そう思いながら廊下へ出て——。
「…………?」
違和感。
あれ?
こんな作りだったかな?
確か、階段を上がってすぐの場所が会食室だったはずだ。
だが……目の前に、階段がない。
代わりに、まっすぐ廊下が続いている。
その突き当たりには、みっつの扉。
「…………」
そんなスペース……あったか?
いや。
そもそもだ。
マリアさんと教授は、どこに消えた?
恐る恐る、一歩を踏み出す。
普通の家だ。
どこにでもある、ごく普通のフローリング。
無垢材を使っているとか、そういう高級なものでもない。
一般家庭で使われているような、何の変哲もない床材。
——なのに。
この状況では、その普通さそのものが異様に見えた。
背中に、薄く汗が浮いた。
右腕の内側が、かすかに疼いた。
ここは普通の建物ではない。そう身体のどこかが告げていた。
廊下を進む。
足音だけが、やけに大きく響いた。
正面の扉の前で足を止める。
一度、息を整えてから——軽くノックした。
「入ってもいいですよ」
マリアさんの声がした。
「…………」
いるのか。
なら、この向こうか。
ドアノブへ手をかけ、扉を開けた。
「…………」
女の子の部屋。
第一印象は、それだった。
可愛らしいベッド。
カーペット。
丸いテーブル。
ビーズクッション。
女児が使うような学習机まである。
宗教施設の一室には、とても見えない。
そして。
そのベッドに腰掛けている人物を見て。
俺は、固まった。
「…………」
心当たりがある。
いや。
あるわけがない。
ここにいるはずがないのだ。
それなのに——そいつは、そこにいた。
見慣れた顔をこちらへ向け。
慣れ親しんだ笑顔を浮かべ。
そして——知らない話し方で、俺へ声をかけた。
「やぁ、新入りの人かな? はじめましてだね」
少年のような軽い口調。
癖のある長い髪が、肩の上で揺れる。
ただし、その髪は赤い。
いや、紅い。
髪の色を除けば——。
そこにいた少女は、コアちゃんと瓜二つだった。




